CLANNAD ~Sequel of After Story~   作:gachamuk

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第2章 第4話 引っ越し祝い

 岡崎家が新しい家(朋也の元実家)に引っ越してから一週間後。

 岡崎家の手入れされた庭にバーベキューのコンロが置かれ、肉や野菜が香ばしい匂いを漂わせながら、美味しそうな音を奏でている。

 その中で。

「それでは、朋也たちの引越しを祝って…………、乾杯!」

 藤林杏の音頭にあわせるように、バーベキューの参加者全員がグラスを掲げ、

『かんぱ~い!』

 一斉にグラスをぶつけた。それから、おのおのバーベキューを楽しんでいく。

 肉をひたすら確保しようとして杏やことみに片端から奪われていく陽平とそれを笑う芽衣、ビールを飲みながら談笑する古河夫妻と芳野夫妻。どさくさにまぎれて、汐を連れ去ろうとする風子。皆から一歩はなれたところでいちゃいちゃしだす柊勝平とその妻の柊椋(旧姓藤林)。智代は喧騒に我関せずと言った様子で黙々と食べており、縁側では、朋也と渚が高校時代にお世話になった幸村先生が、のんびりとお茶を啜っていた。

 朋也は渚と一緒にそれらを眺めながら、なぜこうなったのかを思い返した。

 

 事の起こりは、引っ越しが終わって二日後のことだった。

 仕事が早く片付いて、渚と一緒に幼稚園へ汐を迎えに行った朋也に、杏が声を掛けてきた。

「あ、そうだ朋也、渚。あんたたち、引っ越したんだって? 汐ちゃんに聞いたわよ」

「ん? ああ。引っ越したと言っても、俺の元実家だけどな」

「何で、それを早く言わないのよ」

「いや、何でって言われても、ついこの間引っ越したばっかで、バタバタしてたし……」

「そうじゃなくて。引っ越したなら、引っ越し祝いをするのが当然でしょ」

「引っ越し祝い?」

 朋也と渚がきょとんとしながら顔を見合わせ、慌てて首を横に振る。

「いやいや、別にそんなことやらなくていいって!」

「そ、そうですよ。別に大したことじゃないですし!」

 遠慮する朋也と渚に、杏が深くため息をついた。

「あんたたち、全然わかってないわね」

「何がですか?」

 首を傾げる渚に、杏はびしりと指を突きつける。

「いい? 引っ越し祝いはただの名目なの。本当は皆で集まって騒げるきっかけが欲しいの」

「名目かよ!」

「何よ。何か文句でもあるわけ?」

「いえ、何でもございません」

 ツッコミをした朋也は杏にぎろりと睨み付けられ、即座に謝った。

「そんなわけだから、あんたたち、次の日曜日開けておくのよ? ああ、心配しないでも人集めも材料もあんたたちに出させはしないわよ。あ、呼びたい人がいたら呼んでおいてね」

 強引に話を進めた杏は、汐に目線を合わせるとにっこり笑って、

「それじゃ、汐ちゃん。気を付けて帰るのよ」

 そう言って、ひらひらと手を振るのだった。

 こうして、あれよあれよという間に岡崎家で引っ越し祝いという名のバーベキューをやることになり、杏に声を掛けられたり、朋也や渚が誘ったりした結果、岡崎家の庭に、多くの人が集まることになったわけである。

 

「朋也君? どうかしたんですか?」

 渚に呼ばれて朋也は我に返ると、何でもないと首を振った。

「いや、ただ単に、皆よく集まったなと思ってさ」

 朋也がそう言うと、渚がくすりと笑った。

「そうですね。私、まさか幸村先生まで来てくれるとは思いませんでした」

「ああ、俺もだ」

 ちなみに、幸村がなぜこの場にいるのかを説明すると、杏から岡崎家でバーベキューをやると聞いた朋也たちが、前日に材料の買い出しに行った帰りに偶然、幸村と出会ったからである。その際に、幸村に二人の結婚と娘の誕生を祝われ、その話の流れで朋也がバーベキューに誘ったからである。

 なお、汐に幸村を紹介したところ、汐が「おじーちゃんせんせー」と呼んで、幸村が微笑ましく目を細めたりしたことを追記しておく。

 それはさておき、騒がしくも楽しい時間に朋也たちが微笑んでいるとき、事件は起こった。

「杏も智代もことみちゃんも、いい加減彼氏できたの~?」

 相当に酔っぱらっているのだろう、陽平が顔を真っ赤にしながら訊ねる。

「お兄ちゃん!」

 妹の芽衣が慌てて窘めると、陽平は今度は芽衣に矛先を向けた。

「お前もだぞ、芽衣。お前も早く彼氏を作らないと、こいつらみたいに行き遅れに……」

 そこまで言ったところで、杏と智代にがっしと肩を掴まれる陽平。

「陽平……あんた、今なんて言った?」

「春原……、お前という奴は……」

「春原君、とってもとっても失礼なの」

 杏と智代の指がぎりぎりと食い込んだことで、ようやく陽平は酔いからさめて、自分の湿原に気付いた。しかし、時すでに遅し。

「陽平……、あんた……、覚悟はできてるわよね?」

「お前をしばらく地上の人じゃないようにしてやろう」

「ひぃっ!?」

 万力のような力で肩を掴まれている陽平が、主に女性二人の殺気に情けない声を出した瞬間。

 

 ――ドカバキグショメキドゴガツ!

 

 智代の強力な蹴りを連撃で叩き込まれ、陽平の身体が浮かび上がる。そして、とどめとばかりに叩き込まれた、体重、遠心力、スピード、その全てが乗った綺麗な回し蹴りが、陽平の身体を思いっきり吹き飛ばした。

「ほげぇっ!」

 筆舌に尽くしがたい叫び声を上げながら吹き飛んだ陽平が、渚目掛けて落下してくる。

「渚! 危ない!」

 咄嗟に朋也が庇うように前に出ると、飛んできた陽平の身体を蹴り返した。

 

 ――コンボがつながった!

 

 返ってきた陽平の身体に再び蹴りの嵐を叩き込む智代。そして、今度こそとばかりに回し蹴りを叩き込むと、次は汐目掛けて陽平が落下する。

「汐ちゃん! 危ないです!」

 風子が汐を背中に庇うと、どこからともなく木彫りのヒトデを取り出し、陽平の顔面に思いっきり叩きつける。

 

 ――コンボがつながった!

 

「またか!」

 再び自分の方へと飛んで行く陽平に、智代は躊躇なく蹴りを叩き込んだ。そして、最後に回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。と、次に飛んで行ったのは肉を食べて幸せそうな顔をする杏のところだった。当然、杏は辞書を取りだして顔面に投げつける。

「こっち来るな!」

 

 ――コンボがつながった!

 

「しつこい!」

 またまた返ってきた陽平に、更に蹴りの嵐を見舞った智代は怒気を発散させながら、回し蹴りで吹き飛ばす。その先にいたのは、勝平と椋夫婦。

「椋さん! 下がって! この気持ち悪い!」

 見た目は女の子のような勝平が椋を庇って、陽平を蹴り返した

 

 ――コンボがつながった!

 

「いい加減に……」

 何度も帰ってくる陽平にさらに蹴りを叩き込み、どこかへ吹き飛ばす智代。今度の陽平の落下地点いたのはことみと芽衣のいるところ。ちょうど、芽衣にヴァイオリンを聞かせようとしていたことみは、ヴァイオリンを構えると、そっと弓を引いた。途端、ヴァイオリンからこの世の物とは思えない音波が発生し、陽平の身体を押し返した。

 

 ――コンボがつながった!

 

「死にたいのか!?」

 何度も戻ってくる陽平に、更に蹴りを叩き込んで、思いっきりどこかへ蹴り飛ばす智代。次に陽平が飛んで行った場所は、秋生と早苗のところだった。

「この野郎!」

 秋生が叫びながら背中からバットを取り出し、思いっきりフルスイング。

 

 ――コンボがつながった!

 

「まだ来るか!」

 そろそろ蹴り足が疲れてきたので、左右の足をスイッチさせた智代に蹴り飛ばされた陽平が飛んで行ったのは、無駄に格好つけて臭いセリフを吐く祐介とそれを困った顔で見つめる公子のところ。

「むっ!?」

 妻の危険を察知した祐介が懐からスパナを取り出し、飛んでくる陽平の顔面目掛けて思いっきり叩きつけた。

 

 ――コンボがつながった!

 

「っ!?」

 何度でも戻ってくる陽平に辟易した顔をしながらも蹴りを叩き込んだ智代が、

「はぁぁああっ!」

 裂帛の気合と共に蹴り飛ばす。そろそろ顔が表現しづらい造形になってきた陽平が飛んで行った場所は、縁側でのんびりとお茶を啜っていた幸村のところ。

「爺さん!」

 さすがに危ないと思った朋也が慌てて駆け寄ろうとした途端、幸村はきらりと目を光らせながら素早く立ち上がり、

「ほわちゃっ!」

 そんな気合の声と共に、陽平に鋭い拳を当てた。

 

 ――コンボがつながった!

 

「これで! 終わりだ!」

 返ってきた陽平に向かって思いっきり飛び上がった智代が、空中で何度も蹴りを叩き込み、最後にサッカーのオーバーヘッドキックの要領で、上から下に、陽平に蹴りを叩き込んだ。

 ずしん! と音が聞こえてきそうなほどの勢いで地面に叩きつけられた陽平は、そのまましばらくぴくぴくと痙攣した後、がばりと立ち上がって子供には見せられないような顔のまま、全員に向かって叫んだ。

「あんたら、ひどすぎますよねぇ!?」

 そして陽平はそのまま涙を流しながらどこかへ走り去っていった。

 それを見送った汐が一言。

「すのはらのおじちゃん、かわいそう……」

 純真無垢な子供が放った一言が、陽平が走り去ることになった原因の人物たちの胸に突き刺さった。

「確かに……少しやりすぎたかもしれない……」

「さすがに可愛そうだったかしら……」

「椋さんが危なかったからで、僕は悪くない」

「俺は知らないぞ?」

「これも〈愛〉だ!」

「ほっほっほ……」

「あそこまで行くと春原が哀れだな……」

 一部反省の色が見られない者もいるが、それ以外は流石にやりすぎたと反省したらしく、陽平を連れ戻しに出かけた。

 そうして、連れ戻された陽平に反省したと謝ったところ、陽平が調子に乗り出してあれこれと地雷を踏んで、また空を飛ぶ羽目になったのは別の話である。

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