CLANNAD ~Sequel of After Story~   作:gachamuk

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第3章 第2話 夢

 岡崎朋也は、ここ数日、同じ夢ばかりを見ていた。否、正確には毎回内容は違うが、登場人物は同じというべきか。舞台は決まって、何も終わらない、何も始まらない、終わってしまった世界。

 その夢の中では、朋也は小さな人形として存在し、傍らには一人の少女が常にいた。

 人形となった朋也は、あるときはガラクタを集めて他の人形を作り、あるときは遊具を作って遊んだりしていた。

 しかし、その夢もここ最近は、その様相を大きく変えていた。

 世界に冬が訪れ始め、少女は眠っていることが多くなったのだ。

 人形(朋也)は、少女を連れて外の世界に出て行くことを決め、二人一緒に世界の端に向かって歩き始めた。

 だけど、冬の寒さ、厳しさが容赦なく少女を襲い、ついに少女は倒れてしまう。

 そして少女の口から開かされる、少女自身と、人形の秘密。

 その秘密が明かされた瞬間、人形は突風に吹き飛ばされ、体が崩壊する。しかし、人形の魂が世界から消える瞬間、人形は強く願い、その願いをかなえられる人間を探して、光となっていろんな世界を巡り、ついに……。

 

 ――見つけた……

 

「……はっ!?」

 朋也は荒く息をしながら目を覚ました。ゆっくりと周りを見回せば、そこは見慣れた自分と渚の寝室。窓の外は、まだ薄暗く、隣では、渚と汐が静かな寝息を立てていた。

 その二人の寝顔を見てふっと微笑んだ朋也は、先ほど見た夢を思い返して、小さく頭を振った。

「ったく……、変な夢だな……」

 軽くため息をついた朋也は、

「……寝なおすか」

 もう一度布団にもぐりこむのだった。

 

 その日、朋也はどうしても今朝に見た夢のことが頭から離れず、仕事にも身が入らなかった。そのおかげで。

「こら、岡崎。しっかり集中しろ」

 かつん、とヘルメットごしに祐介にスパナで叩かれる。「あいた!」と悲鳴を上げる朋也に、祐介が懇々と説教を始めた。

「以前にも、この仕事に気を抜くことは許されないと言ったはずだ。気を抜けば、お前の大切な人が傷つくかも知れない、そうじゃなくても大切な人を傷つけられて、誰かが悲しむかもしれない。常にそう意識しろと教えたはずだ」

「……はい」

 しゅんと項垂れる朋也。祐介は軽くため息をついた後、

「分かったなら、それでいい。今日は汐ちゃんが職場見学に来るんだろう? だったら、格好悪いところを見せるな」

 そう言って踵を返す祐介の背中に、朋也は「芳野さん」と呼びかけた後、

「ありがとうございます!」

 勢いよく頭を下げた。それに対して祐介は、照れたようにヘルメットを目深にかぶった。

 それからしばらく、二人で仕事をこなしているときのことだった。

「パパ、いた!」

「本当ですね」

 汐と渚の声が下から聞こえてきた朋也は、祐介に軽く断ってから、工具をしっかりとベルトに納めて、ゆっくりと電柱から降りた。そして、ヘルメットを脱いでから汐と渚の方へと歩み寄って、汐の頭を軽く撫でながら言う。

「ごめんな、汐。パパ、もうちょっと仕事してくるからちょっと待っててな」

「うん!」

 素直に頷いた汐に満足そうな微笑みを向けた後、

「それじゃ、渚。危ないから電柱周りに汐を近づけないように気を付けてくれ」

 と言い残して、再びヘルメットをかぶって電柱にするすると昇っていった。

 それを見た汐が「お~」と感嘆の声を上げ、渚は逸れに苦笑しながら、汐の手を引いた。

「しおちゃん、パパのお仕事の邪魔になるから、もう少し離れていましょうね」

「は~い」

 そうして少し離れた場所に二人一緒に座って、朋也の仕事ぶりを観察し始めるのだった。

 一方の朋也はと言えば、妻と娘が見学していることで、何だかむず痒さを感じていた。

 左手のスパナでナットを締めながら、朋也が上司に声を掛ける。

「…………芳野さん……」

「何だ?」

「なんだか……、こう……、むずむずしません?」

「奇遇だな。俺もそう感じていた。普段、俺たちの仕事は人に見られることなんてないからな。ま、愛する嫁さんと娘さんのためだ。我慢することだ」

「それは分かってるんですけどね……」

「何よりも、渚さんや汐ちゃんに格好悪いところなど見られたくないだろう? 愛する者たちの前では、たとえどんな時でも格好悪いところは決して見せない……。これこそが……愛だ!」

「そうですね。気にしても仕方ないですし、俺、頑張ります」

 祐介の後半のセリフ(具体的には『愛だ』あたり)をスルーした朋也は、サクサクと作業を進めていった。それに対して祐介はというと、

「………………」

 せっかくいいことを言った(と本人は思っている)のに、スルーされたことで、しばらく沈黙していたが、やがて、すごすごと自分の作業に戻った。

 それからしばらくして、昼休憩の時間。

 渚が作ってきた弁当を皆で食べているときのことだった。

「しおちゃん、朋也君のお仕事はどうでしたか?」

 渚が訊くと、汐は興奮したような顔で答えた。

「すごかった! パパ、かっこよかった」

 目をキラキラさせながら答える汐に、渚はくすりと笑った。

「そうですか。パパは格好良かったですか」

 朋也は聞いていて恥ずかしくなったのか、ひたすら口に食べ物を詰め込むことに集中し、祐介はそれを微笑ましそうに見ていた。

 そして昼食を終えて渚たちが帰り、だけど、作業再開までまだ少し時間があるという時のことだった。

「くぁ……」

 朋也が大きく欠伸をする。

「何だ、岡崎? 眠いのか?」

 祐介の問いに、朋也は困ったように笑った。

「はい、すいません……。何だか思ったより緊張していた……みたいで……」

 朋也がうとうとし始めたのを見て、祐介はふっと笑った。

「昼休みが終わるまでまだしばらく時間はある。少し横になるといい。時間が来たら俺が起こしてやるよ」

「ありがとうございます……」

 祐介の言葉に甘えて横になった朋也は、そのまますぐに眠ってしまった。

 

 夢の中で、朋也は何もない真っ白な空間にいた。

「ああ、これは夢か……」

 そんなことをぼんやりと呟いていた朋也の目の前に、小さな光の玉が一つ降りてきた。

 その光の玉は、朋也の目の前で止まると、明滅を繰り返す。それが不思議と、朋也には言葉となって聞こえた。

 ――僕の声が聞こえる?

「……ああ、聞こえる」

 誰だとか、どういう状況だとか、そういう疑問は何故か浮かばなかった。

 光の玉は、明滅を繰り返して話を続ける。

 ――よかった。やっと僕の声が届いたんだね。本当に良かった……。僕は君に願いがあるんだ

「俺に願い?」

 ――そう。できれば君に、その願いを叶えてほしいんだ。それは、君にしかできないことだから

「俺だけ? どういうことだ?」

 ――それは、この世界の君だけが、唯一、僕の声を聴くことができたから……

「この世界の……? ちょっと待ってくれ。俺にはお前が何を言っているのか分からない」

 ――僕は君の……

 人形が何かを言いかけた時、朋也は身体が何かに引っ張られる感覚を覚える。

 ――ああ、君はもうすぐ目覚めてしまうんだね……

「ちょっと待ってくれ! どういうことなのか教えてくれ!」

 ――また次に君が深い眠りについたときに教えるよ。それまで少しのお別れだね……

 小さく明滅する光の玉が、朋也には寂しそうに見えた。

 

「岡崎……起きろ。時間だぞ」

「っ!?」

 祐介に身体を揺すられて、朋也は目を覚ました。

「はぁ……はぁ……、芳野……さん?」

「悪夢でも見たのか? 妙にうなされていたぞ?」

「悪夢……? ……すいません。よく覚えていません……」

「……そうか……」

 祐介はそれだけ言った後、朋也にヘルメットを投げてよこす。

「うわっ!」

 慌ててそれを受け止める朋也に背を向けながら、祐介が言った。

「何にしても、仕事を始めるぞ。早くしろ」

「あ、は、はい!」

 朋也は慌てて祐介の背中を追いかけた。

 それからしばらく、二人は黙々と作業を続け、どうにか日が暮れる前にすべての作業を終えることができた。

 その後、事務所に戻って簡単な報告と着替えを終えた朋也は、祐介に昼間のことを謝ってから事務所を出た。

 そして、家路を歩きながら昼間見た夢のことを思い出そうとした時のことだった。

「あ! パパだ!」

「朋也君!」

 道路を挟んで反対側の歩道に、買い物袋をぶら下げた渚と、朋也に向かって手をぶんぶん振る汐の姿が見えた。

「渚! 汐!」

 朋也も顔を綻ばせながら手を振り返し、横断歩道の前で立ち止まる。

 渚と汐も同じように立ち止まり、少しして信号が青になったことを確認してから、汐が朋也のところに走り寄ろうとした瞬間。朋也は、猛スピードで横断歩道に突っ込もうとしている車を見つけ、思わず叫んだ。

「汐! 危ない!」

 向かってくる車に、汐は動けずにいる。

 咄嗟に道路に飛び出した朋也は必死に手を伸ばし、渚の方へと突き飛ばす。

 感覚だけが加速する中、耳をつんざくようなブレーキ音が響き、朋也の身体が跳ね飛ばされる。

「朋也君!」

 渚の悲鳴を遠くに感じながら、朋也は意識を手放した。

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