CLANNAD ~Sequel of After Story~   作:gachamuk

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エピローグ

 朋也が退院してから、数ヶ月が過ぎた。

 三月に入ってしばらくして、汐が生まれて六年目になるその日。

 岡崎家では、汐の誕生日を祝うために秋生と早苗が駆けつけ、ささやかながらも賑やかな誕生日パーティーが催されていた。

 早苗が焼いてきた誕生日ケーキにろうそくを立て、部屋を暗くしてからろうそくに火を着ける。暗闇の中で、ろうそくの炎でぼんやりと照らされる光景は、どこか幻想的なものを感じる。

 朋也、渚、秋生、早苗の四人は誰からともなく頷くと、静かに歌いだした。

『ハッピ~バ~スデ~トゥ~ユ~♪ ハッピ~バ~スデ~ディア汐(しおちゃん)~♪』

 歌い終ったと同時に沸き起こる拍手。

『お誕生日おめでとう! 汐(しおちゃん)!』

 汐はそれに対して満面の笑みを浮かべて「ありがとう!」と返すと、大きく息を吸い込んで、ろうそくを吹き消した。

 再度拍手が沸き起こり、朋也が部屋の電気を付けた。テーブルに所狭しと並べられた料理に汐が目を奪われる中、「よし、食べるか!」という朋也の合図で一斉に食事に手を伸ばしはじめた。

「しかし、汐ももう六歳か……、早ぇもんだな……」

 大口を開けて好物のハンバーグにかぶりつく汐を見て、秋生は目を細めながらつぶやいた。

「俺も早苗も歳を取ったもんだよな……」

「そうですねぇ。私もおばあちゃんですからねぇ……」

 祖父母を名乗るには、彼らの見た目が若すぎると朋也は思った。何せ、彼らは出会った当時から全く更けていないように見えるのだ。

 そんなことを思いつつ、ちらりと渚の方に視線を向けて、朋也はふと気づいた。

「(そういえば、渚も高校時代から全然老けてないよな……。高校時代と違うところといえば、せいぜい髪が伸びたくらいか……)」

 まさかこの一族には不老の遺伝子でもあるんじゃないかと疑いたくなった朋也だった。

 そんな中、早苗が何かを思い出したようにポンと手を打つと、鞄を漁っていくつかのパンを取りだした。

「うっかりしてました。ケーキを焼いたついでに、新作のパンも焼いてみたんです」

 その瞬間、早苗以外の全員の顔が曇る。だが、それに気付かない早苗は、にこにことほほ笑む。

「今回の新作パンは自信作なんです。食べてみてください」

 早苗が悪意のない笑顔を向ける中、秋生が頬を引きつらせながら早苗に言う。

「早苗、せっかくの汐の誕生日にこれはまずい。こんなめでてぇ日にこれを喰ったら最悪の思い出に……」

 口が滑ったのだろう。秋生は途中で言葉をとぎらせて、しまったという顔をし、朋也と渚は何とも言えない表情を浮かべていた。そして早苗はというと、目に溢れんばかりの涙を浮かべると、

「私のパンは……、私のパンは…………、最悪の思い出なんですねぇ~~~~~っ!!」

 徐に立ち上がり、叫びながら玄関から走り去っていった。

 秋生は舌打ちをした後、早苗のパンを朋也たちから奪い、口にくわえると、

「おふぇふぁふぁふぃふふぃふぁ(俺は大好きだ)~~~~~~っ!」

 猛然と早苗を追いかけはじめた。

 朋也はそれを見送ってから軽くため息をついた。

「まったく……、ホント、あの二人はぶれないよな」

 渚が困ったように笑いながら頷く。

「そうですね。お父さんとお母さんはいつまでも仲良しです」

 その言葉に羨望を感じ取った朋也が、渚に訊ねる。

「羨ましい……のか?」

「いえ……、そう言うわけではありません。私だって、朋也君といつもラブラブですし…………って私恥ずかしいこと言ってます!」

 自分で言っておいて自分で照れるな、と朋也は声に出さずにツッコんだ。

「パパとママはラブラブ?」

 それまで黙っていた汐がことりと首を傾げながらそう言って、朋也と渚はついつい照れてしまった。

 と、そこへ、ひとしきり走って満足したのか、息一つ乱さない早苗と、ぜぇぜぇと肩で息をしながら汗を掻いている秋生が戻ってきた。

「そうそう、汐。私と秋生さんから、お誕生日プレゼントがありますので、渡しておきますね」

 何事もなかったかのようにそう言った早苗は、どこからか大きめの箱を取りだして、汐に手渡した。

「ありがとうございます!」

 丁寧にお礼を言って箱を受け取った汐は、早苗の「開けてみてください」という言葉に従って、嬉々としてプレゼントを開け始めた。がさがさと包装を破り、箱から中身を取りだした汐は、「お~」と感嘆の声を上げる。

「俺と早苗からは野球セットだ!」

「お友達と一杯遊んでくださいね」

 朋也は女の子に野球セットはどうなんだと思いながらも、まぁこれはこれでおっさんや早苗さんらしいかと思い直し、渚に視線を向ける。

 渚がこくりと頷き返し、朋也は「今度は俺たちからだな」と立ち上がって、庭に面する窓に汐を呼び寄せると、渚と呼吸を合わせて勢いよくカーテンを開いた。

 そこにあったのは一台の補助輪付の自転車。買ったばかりで、まだ傷一つ着いていないピカピカの自転車を見て、汐は目を輝かせた。

 そんな汐に渚が言う。

「しおちゃん、早速乗ってみてください」

「うん!」

 満面の笑みを浮かべた汐は、早速玄関から靴を履いて庭に回ると、いそいそと自転車に跨った。そして、ゆっくりとペダルに足を乗せると、緊張した面持ちでそっとこぎだした。

 ゆっくりと進み始める自転車に最初は戸惑っていたが、次第に慣れてきたのだろう、少しすると、笑顔を浮かべながら庭をぐるぐると走り始めた。

「わ~い!」

 実に楽しそうな汐の笑顔を、秋生がいつの間にか用意していたデジカメでパシャパシャと撮影をしていた。

 それからしばらくして、一通り満足した汐がゆっくりと自転車を降りて家に上がると、満面の笑顔を浮かべた。

 

 その後、残った料理とケーキを食べ、片づけも終えて一息ついた頃、はしゃぎ疲れたのだろう、汐がうとうとし始めた。それをきっかけにささやかな誕生日パーティーはお開きになり、秋生と早苗は満足そうに帰っていった。

 先ほどまでとは打って変わって、静かな部屋の中で、月の光を浴びながら傍らで眠る汐をそっと撫でながら、朋也がぽつりと呟く。

「汐……、喜んでたな」

「はい。来年のプレゼントを聞いたときにはさすがに驚きましたけど……」

 その時のことを思い出した渚がおかしそうにくすくす笑い、朋也は苦笑いをした。

「ああ、あれは流石にビビったな……」

 彼らが驚いたのは、来年のプレゼントは何がいいかと気の早いことを秋生が汐に訊いたことに端を発する。

 その時、汐は少し考えた後、こう答えたのだ。

「ん~……、おねえちゃんになりたい」

 一瞬、汐の答えを聞いた大人たちが首を傾げる中、汐は無邪気な顔で繰り返した。

「うしお、おねえちゃんになりたい。おとーととかいもーとのめんどーみたい!」

 つまりは弟か妹が欲しいということであると理解した朋也が、口に含んでいたお茶を思いっきり秋生の顔に吹きかけてしまった。その後、てんやわんやの騒ぎになって、この事はうやむやになってしまったのだが。

 ともあれ、汐の発言を思い出した朋也が、何とも言えない顔でぽりぽりと頬を掻いた。

「し……、しかし、お姉ちゃんになりたい……か……」

 朋也が気まずそうな目を渚に向けると、渚は顔を真っ赤にしながら俯いていた。

「わ、私は……どちらでも構いませんが……」

 その言葉に、朋也はドキリとして、慌てて立ち上がった。

「ま、まぁ、そのことはまた後で考えようぜ!」

「そ、そうですね!」

「じゃ、じゃあ俺、汐を運んでくる」

 そう言って汐を抱え上げた朋也は、顔を赤くしながら汐の部屋に向かい、渚も顔を赤くしながらそれを見送った。

 その後、この夫婦がどうしたのかは、二人だけの秘密である。ただ言えることは、岡崎家はこの後も幸せな毎日を変わらず過ごすということである。

 

 

 

 

 

~十年後~

「行って来ま~す!」

「気を付けるんだぞ?」

「行ってらっしゃい、しおちゃん!」

 〈私立光坂高等学校〉の真新しい制服に身を包んだ汐が、両親に見送られて元気よく家から飛び出していった。

 朋也は、仕事の準備をしながら嘆息する。

「全くあいつは……。高校生になったんだから少しは落ち着けばいいのに……」

「元気があっていいじゃないですか」

「ま、それもそうか……。それにしても、あいつももう高校生なんだな……」

「はい……」

「あいつにも……」

「……?」

「あいつにも、俺達みたいな出会いがあるのかな?」

 朋也の問いに、渚はそっと目を細める。

「そうですね……、あるかもしれませんね……。お父さんが聞いたら怒りそうですけど」

 最後につけたされた言葉に、朋也は違いないと笑った。

 

 そんなことを言われているとはまったく知らない汐は、足取りも軽く、学校へ続く道を歩いていた。

 そして学校へ続く満開の桜並木の坂道を登ろうとしたところで、足を止め、大きく息を吸い込む。

「今日から私も高校生か……。頑張るぞ!」

 一人で気合を入れた汐は、長い長い坂道を登り始める。




あとがき
作者のgachamukです。
この度は拙作「CLANNAD ~Sequel of After Story~」を
読んでいただきありがとうございます。
本編はこれをもちまして終わりとなります。
初めての二次創作ということで、拙いところも多々あったとは思いますが、
それでも最後まで読んでいただいた方々には、感謝してもしきれません。
本当にありがとうございます。
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