CLANNAD ~Sequel of After Story~ 作:gachamuk
岡崎汐の入園式からしばらく時間が経ったころ。
汐は大分幼稚園にも慣れ、友達もたくさんできたと喜んでいた。毎日の夕食のときに、その日に幼稚園であったことを、両親に楽しげに話して聞かせている。
また、汐が幼稚園に行き始めたことを契機に、渚もパートに復帰するようになった。
朋也は当初、別に自分の稼ぎだけで十分家計を賄えているから、無理をしないでいいと諭そうとしたが、渚は、頑として譲らなかった。曰く、
「朋也君は働いていて、しおちゃんは幼稚園に行ってるんです。私だけ家でのんびりしてるわけには行きません」
とのことらしい。
その後、結局朋也が頑固な渚に折れる形でパートの復帰を認めたのだった。
ともあれ、渚も職場に復帰したということで、それ以降、時々ではあるが、汐を幼稚園へ迎えに行く役目を古河家が担うことになる。
そんな日々が続いたある日のこと。親子三人で夕食をとっているときのことだった。
「パパ、ママ。あした、よーちえんのおともだちがうしおのいえにあそびにいきたいって……。…………いい?」
恐る恐るといった様子で伺う汐に、朋也と渚は同時に微笑んだ。
「ああ、もちろんだ」「じゃあ、明日はおやつを用意しておきますね」
両親から許可を得られたことで、汐の顔がぱっと華やいだ。
「わ~い!」
諸手を挙げて喜ぶ汐を、朋也と渚は微笑ましく見ていた。
翌日。朋也が仕事を終えて帰宅すると、部屋の中には汐の友達なのだろう、小さな子供達が何人かいた。ちなみになぎさはというと、キッチンでおやつを用意していた。
「ただいま~」
朋也が玄関から声を掛けると、汐が嬉しそうに笑って飛びついてくる。
「パパ~おかえりなさい」
汐を抱きかかえていると、キッチンからひょっこりと渚も顔を出して微笑んだ。
「朋也君。お帰りなさい」
「ああ、ただいま渚」
そう返事を返していると、子供達がわらわらと朋也の周りに集まってくる。
「このひとがうしおちゃんのパパ?」
女の子の一人が朋也を指差して訊くと、汐がうんと頷いた。途端。
「かっこいい~!」「うちのおとーさんよりかっこういい」「いいな~うしおちゃん」
女の子達がきゃーきゃーと騒ぎ始め、朋也はちょっと気をよくする。すると、今度は男の子達が騒ぎ始める。曰く、
「うわ、ロリコンだ」「へんたいだ」「はんざいしゃだ」
「待て待て待て待て! 誰がロリコンで変態で犯罪者だ!」
思わずツッコむ朋也に、男の子たちは揃って朋也を指差した。途端、朋也がほほを引きつらせる。
「お前ら……俺にケンカ売ってるのか!」
怒鳴り声を上げながら、がーっと威嚇すると、子供達(女の子含む)は「きゃ~!」とどこか嬉しそうに悲鳴を上げて逃げ回った。
その後、渚のおやつを堪能してからは近くの公園に移動して、今は子供達だけで遊んでいる。どうやら、物まねごっこをしているらしく、汐が両手の握りこぶしをバットを握るように構え、すっと腰を落として「こまだ」と言っていた。
それをみて、渚がくすくすと笑う。
「あれ、お父さんがしおちゃんに教えたんですよ」
それを聞いた朋也は思わず苦笑してしまった。
「おっさん、女の子の汐に何を教えてるんだよ」
「でも、しおちゃんもお友達もとっても楽しそうです」
「……ああ、そうだな」
そのまま、二人で子供達を見守っていると、汐が大きく手を振りながら朋也を呼び始めた。
「パパ~! いっしょにあそぼ~!」
「おう! すぐ行く!」
そう叫んでから、立ち上がった朋也に、渚が声を掛ける。
「行ってらっしゃい、パパ」
「ああ、行ってくるよ、ママ」
二人で笑いあった後、朋也は子供達の下へと駆け寄って、子供達の話に混じった。
それから数日後。
珍しく早く仕事が終わった朋也と、ちょうど仕事が終わった渚が、二人そろって幼稚園の汐を迎えに行った帰りのことだった。
とある公園の前を通りがかったところで、突然声を掛けられた。
「岡崎さん、渚さん」
朋也と渚が振り向くと、そこにはかつての渚の師であり、朋也の上司の妻、芳野公子がいて二人に向かって手を振っていた。
朋也と渚が汐の手を引きながら、公子に軽く頭を下げた。
「お久しぶりです。公子さん……」
「先生、お久しぶりです」
「はい。お二人とも、お久しぶりです……」
そう言ってにっこりと笑った公子が、朋也と汐の間できょとんとしている汐に目を留めた。
「その子が……」
「はい。娘の汐です。ほら、汐、自己紹介しなさい」
朋也が応じながら汐の背中を軽く叩くと、汐はぺこりと頭を下げた。
「おかざきうしおです。よろしくおねがいします」
「はい。芳野公子です。よろしくお願いしますね」
にこにこ微笑む公子に、渚が訊ねた。
「先生は、今日はお一人なんですか?」
「いえ。今日は妹と一緒なんです。今もその辺で遊んでるはずですが……。風ちゃん!」
辺りをきょろきょろ見回しながら公子がそう呼ぶと、すぐ近くの茂みの中から、一人の少女が駆け寄ってきた。
「何ですか、お姉ちゃん? 風子は今、ヒトデの彫り物の材料探しに夢中になっていたところです……。…………この方たちは?」
「お姉ちゃんのお友達の岡崎朋也さんと、渚さん。それに二人の娘さんの汐ちゃんだよ」
「そうですか。初めまして。私は伊吹風子です。よろしくお願いします」
「岡崎朋也だ」
「渚です」
「おかざきうしおです。よろしくおねがいします」
そうして、それぞれが自己紹介を済ませたところで、風子が汐を見て目を輝かせた。
「汐ちゃんですか。可愛らしいですね! 風子の妹にします! お持ち帰りです!」
いきなりそんなことを言い出して、汐を抱きしめてどこかへ連れて行こうとするのを、朋也と公子があわてて引き止めた。
「待て待て待て待て! 人の娘を持ち帰ろうとするな!」
「風ちゃん!」
引き止められた風子はしぶしぶといった様子で汐を解放する。
「お姉ちゃんも岡崎さんもケチです。こんな可愛らしい子なのですから、風子がお持ち帰りしてもいいはずです」
「いいわけあるか!」
「むぅ……。それじゃあ、今回は汐ちゃんと遊ぶだけにしておきます。汐ちゃん、風子と一緒に遊びましょう!」
誘われた汐が一瞬両親に目を向ける。朋也と渚が揃って頷くと、汐は満面の笑みを浮かべて「うん!」と返事をして、風子と一緒に走り去って言った。
それを見送った公子が、朋也と渚に申し訳なさそうな顔を向ける。
「お二人とも、ごめんなさい。後であの子には言って聞かせておきますので……」
「いえ。気にしないでください。しおちゃんも、楽しそうですから……」
渚がそういうと、公子はもう一度走り去っていった風子に目を向けてため息をついた。
「もう……、風ちゃんったら……」
朋也も同じ方向に目を向けながら、呟いた。
「……変わった妹さんですね……」
その言葉に、公子は苦笑いを返す。
「ええ。あの子、本当は岡崎さんと同じ年齢なんですけどね……」
「「えっ!?」」
朋也と同じ年齢という言葉に、思わず朋也と渚が驚いた。
「マジですか!? 俺はてっきり高校生くらいかと……」
「私も……、高校生くらいかな? と……」
二人は改めて、汐とはしゃぐ風子に視線を向ける。
汐と風子が楽しそうに遊ぶ姿が、仲のいい姉妹なのか、同年代の友達なのか、どちらに見えていたかは当人達野溝知るところである。
それからしばらくして、日も大分落ちてきたところで、岡崎家の三人は公子たちと分かれて家路を歩いていた。
「だんご♪ だんご♪ だんご♪」
汐が大好きな歌を歌いながらスキップする。そんな汐を見て、朋也が訊く。
「汐、風子と遊んで楽しかったか?」
「うん! ふーこおねーちゃん、おもしろい!」
「そっか」
「新しいお友達ができて、よかったですね。しおちゃん!」
「うん! またあそびたい!」
そうして三人は、夕暮れの仲を我が家の道を仲良く歩いていった。
その日以降、岡崎家にちょくちょく風子が遊びに来るようになった。
そしてそれと同時に、遊びに来るたびに汐をつれて帰ろうとする風子を、朋也があわててて止めるという光景もおなじみになっていくのであった。