勇者になりたくなくて一行のパトロンになった。金だけ出すから放置してほしいのに、束縛強めな勇者たちが俺を放っておかない 作:ぎゃん
そうして……場所は変わって、領主邸にある応接室にて。僕は三人の人物とローテーブルを囲んでソファに座っていた。
重苦しい。誰も口を開かないし。
僕は隣に座る女性、再開早々とんでもないことをぬかしたハーレを見る。しかし、返ってくるのはいつも通りの真面目くさった無表情……あっ、いまウインクをした!? なぜ? 喧嘩を売っているのかな――?
さすがに少しこめかみがピキリと来た。ふだん真面目な娘だからこそ、こういう煽り(?)が非常に効くんだ……。
ただ。そんな僕の内心を察したらしく、声を上げる女性がひとり。
「――あのさ。領主様には悪いけど……ハーレはこれまでだいぶ頑張ってたよ。引退、するかどうかはともかくとして、しばらく休ませるくらいはいいでしょ?」
これも久しぶりに聞いたクールな声。僕の対面に座る二人の片割れである勇者パーティの賢者――ウルさんだ。
銀狼の獣人である彼女は、頭の片側でくくった艶のある銀髪をいじりながら、じっとりとした視線を僕に向ける。
「あのさあ、分かってないようだから教えてあげる。ハーレがこんなに頑張ってるの、もともと責任感が強い娘だからっていうのもあるけど。なにより――故郷のこの街と…………あたしたちがいない間も女遊びの余念がないあんたを守るためだから」
「……ッぐ。それは…………分かっているとも。だからこそ僕も君たち勇者パーティには――」
「援助を惜しまない、ですかぁ? おにいさん」
「シエラさん…………あぁ、そうだとも」
今度は聖女様、か。救世教会から派遣された、勇者パーティの回復役。パーティで一番歳下で、ピンクゴールドの長髪を法衣に垂らすお人形のような少女。
彼女、いまだに掴みどころがないというか、なにを考えているか分からないところが……。ハーレの仲間で何度も命だって救ってくれてるはずだけれど、どうも僕は教会のことを信用できない。
今だってほら。こんな重い空気の中、感情の読めない穏やかな笑みを僕に向けて口を開く。
「それではぁ……援助してくれると言うなら、今回も大きな戦果をあげたわたくしたちに、ご褒美なんていかがでしょう?」
「褒美?」
「ええ。わたくしたちだって、意思のない人形ではありませんもの。きちんと報いてもらわねば、拗ねて言うことを聞きたくなくなってしまうかも――――うふ」
「ッ」
拗ねて? 君は、自分たちが対魔族においてどれだけ重要な戦力か分かっているのか? 子どもじみた感情の結果が、取り返しのつかない――それこそ、人類滅亡に繋がったっておかしくは……!
と、そこまで考えて。僕は自分のバカさ加減に死にたくなる。
そうだ。いまシエラさんが言った通りだ。彼女たちには別に人類を守る義務なんてないんだ。
僕のように力がない者を守ってくれているのは、ただ勇者パーティの面々が善人であったというだけ。それをさも当然と享受し、あまつさえ見当違いの怒りを抱くなんて。
まさに、一人の人間として恥ずべき……!
「――ッ僕は、バカな自分が心の底から恥ずかしい……!」
「えっ。なに領主様、あたし別にそこまで言ってないけど……」
「あらあらあら。生真面目さんがもう一人ここにいましたねぇ、おにいさん」
そうだ……。ハーレだって本来は僕が守るべき領民の一人じゃないか。ウルさんとシエラさんも、領民ではないが本来は守られるべき女性。
それを僕は……ッなんて思い上がったバカ……!
そう、自らの言動や考えを心の底から後悔した僕は。せめて少しでも恩を返すべく、先ほどのシエラさんの問いへ答えを返すのだ。
順繰りに三人を見て、最後にハーレへ視線を固定して。そして言った。
「――――ご褒美……褒章、もちろんだ! 僕の財産と権限でできる範囲であれば、なんだって願いを叶えると約束しようじゃないか……!」
僕を見つめ返すハーレの目が、僅かに見開かれた。そして開いた口から出てきた言葉は――
「なら。――わたしが勇者業を引退することを、教会に納得させてください」
ッぐううぅ! そうだな、そう来るだろう……!
「い、引退はさすがに……ッ。その、休止で手を打ってほしいんだ! それであればなんとか、なんとかしてみせるぅ……!」
できるだろうか? あの狂信者たちを相手にッ。いや、やるしかない。それが守られている僕の義務!
「わかりました。ひとまずはそれで手を打ちましょう。もちろん、最終的な目標は引退ですが」
! 良かった、なんとかハーレも納得……ってこいつ! なんと満足げな表情をッ。まさかこの流れは彼女らの予定調和――
「あ、それじゃあたしも。そーだね、なんか珍しい魔術書でも探してくれればいいかな」
「それではわたくしは、そうですねぇ…………ではぁ――――わたくしもぜひ、百戦錬磨のおにいさんにご寵愛をいただきたく。んふ、もちろん夜の――……って、わ、ハーレさん!? 冗談、冗談ですから……!」
やめろやめろ! 歳下のヒーラーにアイアンクローは! 確かに妖しいことを言いかけていたが、お前は無表情なのが怖すぎるハーレ……!
そうして僕は、ウルさんと協力してなんとかハーレの手を引き剥がすと、みんなで「はぁ……」と大きく息をついた。
本当に無茶苦茶だ、彼女たちは。とはいえ、彼女らに頼らなければ立ち行かない僕たち人類……。
ひとまず、各々の願いを叶えるべく動くかな。シエラさんの願いは別で聞くとして。
……一番厄介なのはやはりハーレの願いだな。本当に、なんと言えばあの教会の連中にハーレの休業を認めさせられるだろう?
それとは別に、そもそも勇者を引退したいという理由も聞き出して、心苦しくてもなんとか思いとどまらせなければならないし……。
裏方としてやることは山積みだと、僕はそうため息を吐こうとして。
その時だった。
――唐突に開く応接室の扉。全員の鋭い視線が向いた先には、当家の執事の一人が。
「……どうしたんだい? 見ての通り、いまは御客人の対応中だ。このような失礼は――」
そうたしなめようとした僕に、呼吸も荒く肩を上下させる執事は言ったのだ。
「つい、今し方! 当家に救世教会の方が!――――ご領主様を人類に仇なす大罪人として連行すると!!」
……………………。
絶対に君関連だろう、ハーレ!
あっ、視線を逸らすな!