勇者になりたくなくて一行のパトロンになった。金だけ出すから放置してほしいのに、束縛強めな勇者たちが俺を放っておかない 作:ぎゃん
カンカンカン、と。鐘の音が鳴り響く街を、複数の騎士に導かれ進む馬車がある。
すなわち。
護衛を連れて冒険者ギルドへと向かう僕だ。
僕は馬車の中から見える街の様子に眉をしかめる。
「なぜみんな逃げないんだ。鐘を鳴らしたら即座に家へ帰りじっとする。そう通告していたろう?」
全員が全員いつも通りってわけではないが、それでも半分以上の者が平気そうにしているじゃないか。魔族の脅威が街に迫っているというのに。
そんな焦りが混じった疑問に答えを返したのは、馬車の中で僕を護衛していた一の騎士、クラークだった。
「平和ボケ……でしょうな」
「なに? 平和ボケだと?」
「ええ。確かにこの街の者もみな、世界が魔王の脅威に晒されていることは知っておるでしょう。しかし、それに実感が伴っていない」
信じられない気持ちでいる僕にクラークは言うのだ。
「勇者ハーレが優秀過ぎたのです」
なッ。
それはつまりあれか? ハーレが勇者として非の打ち所がない実力を備えているがゆえに、この街が魔族の被害を受けたことが一度もないからだ、と。
確かに、幸いにもうちの領地が大きな被害を受けたことはないが、それでもみな知っているだろう! 他の領地では、街一つが丸ごと滅んだようなことだって――
「分かっておりませんな、テイラー様。それでも自分ごとと捉えられぬのが民衆なのです」
「そんな、悲観的な」
「領主としての経験がお浅いテイラー様には、やはりまだまだこの私がついておりませんと……。今もテイラー様が強くおっしゃるのでギルドに向かっておるものの、本来であれば陣頭に立って指揮されるべき状況なのですぞ」
ぐぬぬ。確かに領主としての未熟なことは否定しないが、クラークときたらすぐに小言を。
前線に出ることも一瞬考えはしたが…………やはり、
であれば、そのほかに少しでも戦いの勝率を上げなければならない。
それが領主としての仕事と、クラークの小言を受け流しながら胸中で反論していると。
「ふむ。着いたようですな。冒険者ギルドに」
窓の外を隙なく窺っていたクラークがそう言うと、馬車がゆっくりと動きを止める。少しして外からドアが開いたので、僕はクラークに寄り添われながら外に出た。
「む。ずいぶんと野次馬が多いな」
「あの格好、低位の冒険者たちでしょう。本来ここはテイラー様が来られるような場所ではないですからな」
ちょっと、クラーク。本人たちの前でそういう言い方はないだろう。一気にこちらを窺う視線が厳しくなったぞ。
仕方ないな……。
僕は辺りを囲む冒険者たちをぐるりと見渡し、微笑みを浮かべながら口を開く。
「勇猛な冒険者諸兄に――――花のように可憐な諸姉よ。この街の緊急事態に馳せ参じてくれたこと、ありがたく思う!」
普段ギルドに詰めている人数より多いのは明らかだからな。これから話を持っていこうとしていることの頭出しを兼ねて、ひとまずな。
ついでに、目につく女性冒険者に手を振ったり、ウインクを投げかけてやる。
「きゃー! 素敵、テイラー様!」
「相変わらずキザねえ。……でも格好いいわ!」
「何度も見てるとだんだん癖になってくるんだ、アレ。私この間ファンクラブ入っちゃった」
ああ、女性たちの歓声が聞こえる。罪深い僕を許してくれ。
「はぁ、テイラー様……。これさえ無ければ、経験不足など私が補うというに。ほら行きますぞ! 早く用事を済ませるのです!」
なんだなんだ、クラークめ。先ほどまで僕がギルドに来ることに納得していなかったくせに。
まあいい、確かに急ぎではあるのだ。それにこれくらい人を集めて騒ぎになれば。
「なんだ。何事だ?」
ほら、来た。
ギルド前の人垣が割れていく。そしてギルドから出てきたらしき大男が見えると、僕は彼に向かって手を上げた。
「ご無沙汰している、ギルドマスター」
「ふん、フォルンの小僧か。このタイミングでとは嫌な予感しかせんな。女の一人は二人なら貸し出すが、それで満足はせんか?」
「ハハハ、それは魅力的だ。ではひとまず中へ入れてくれないか? 選りすぐりの女性を教えてくれ」
そう、女にだらしない領主のフリをしながら。僕はギルドマスターに向かって、周囲に知られぬよう口の動きだけで伝えるのだ。
――――教会に人類の裏切り者がいる。背後から討たれる前に、この機会で膿を出しきる。
そう口を動かした直後に僕を見る、嫌そうに歪んだギルドマスターの顔。
しかし、彼は一度の舌打ちで感情を飲み込み、ついてこいと顎でしゃくる。
そうして。
僕はクラークと二人、ざわつく冒険者たちの間を抜けて、ギルドの中へと進んでいくのだった。