勇者になりたくなくて一行のパトロンになった。金だけ出すから放置してほしいのに、束縛強めな勇者たちが俺を放っておかない 作:ぎゃん
む……! 実力行使だって? 僕の領地内でそんなことは――
「――戦時の人類守護における自治特権だ!」
……そういえばそんなものもあったな。救世教会は魔族への対抗に不可欠な戦力を複数保有するからと、そんな理由で諸国連合間で可決された……。
つまり、僕はいま明確に人類敵だと指定されたのか。とんだとばっちりだ……!
「お前たち! 教会の連中はいつもの如く乱心だ! ご領主様を守るのだ!」
「わたしたちもテイラーくんを守ります。ウル、シエラっ!」
「大丈夫これー? また獣人の立場が…………まあ、しかたないか」
「僭越ながらわたくしも、今回の教会の暴挙には抗議しないとですねぇ」
即座に展開した教会戦力と向かい合う、うちの領兵、ハーレ、ウルさんにシエラさん。
僕は
そう思って、盾になってくれるみんなの後ろに下がって、その直後だった。
背後から聞こえた小さな声。
「――――大魚ノタメノ、釣リ餌……」
「え――?」
首筋に冷たい殺意。ひたりと当てられた剣の腹が僕の命を握る感覚。
驚いて視線を向けると、背後から僕の首に剣を沿わせる女性騎士が。身にまとう鎧は、ハーレたちが対峙する教会騎士と同じだった。
「ッいつの間に後ろに!」
忍び寄った敵に人質に取られたのか。目的はもちろんハーレの奪還だな……!
その騎士は感情のない瞳を僕ではなく、もっと前のハーレへと向けているように見える。
「……ぉ、おお!? でかしたぞ、そこのお前! そのまま辺境伯を捕えておけ!」
「……」
ほ、ほんとに感情がないみたいだ。上司であろう司教の言葉を無視だし。このまま無感情に首を掻き切られそうで怖い。
……………………情けないが、僕はここで死ぬわけにいかないんだ。
効果がありそうなら口説いてみても良いが……。試しに――
「――ごめんよ、その白い手を僕から離してくれないかい? 君のように美しい人がこんな悪事に手を染めちゃいけないよ。なにか悩みがあるなら聞かせて欲しい。どうだい? 今から一緒に僕の部屋へ……」
……あっ、ぜんぜんダメだ。女性なら案外これでなんとかなることも多いのになんのリアクションもない。聞いているかすら怪しいぞ。
「……テイラーくんの部屋? 部屋、部屋…………っなんて、破廉恥な! いけません、許しません! テイラーくんが部屋で二人きりになっていいのは、ワイルドで押しが強い男友達か、幼馴染だけ……っ!」
ハーレは逆によく釣れる。破廉恥なものか、こちらは命懸けなんだ……!
しかし女騎士の釣れない様子を見るに、今回は周りに助けを求めるしかなさそうだ。
……ああほら、僕をより強く拘束するよう、剣を持つ手を伸ばしてグルッと首に回された。もはや僅かな身じろぎですら首が詰まる……。
僕は何もできず人に頼る自分への嫌悪感をなんとか抑えつける。そうして、前線の味方へ呼びかけようとして。
「みんな……ッハーレ……! 本当にすまない、どうか僕を助け――」
――ほぼ、同時だった。視線の先、教会勢力と睨み合う前線で。
眩い光と大きな力が立ち昇った。
その源は――
「許せません。……――――テイラーくんへのお触りは厳禁ッッ!!!」
カッと目を見開いたハーレが、僕を取り押さえる女騎士を睨む。とんでもない眼力だ!
そして、その頭上で輝く二重の光輪。勇者の証……!
というか。
「……お触りとか以前に、命の危機なんだが……!」
首筋に剣を添えられているんだぞ! いくらでも触っていいから頼む、助けて欲しい……!
そんな僕の視線はしかし、教会騎士をなんとか抑える領兵たちには届かず。こっちを気にする余裕のある勇者パーティの面々は、妙に落ち着いていて(ハーレ以外)。
ちょっと絶望したところで、ウルさんとシエラさんの会話が耳に入った。
「よし。ハーレがこうなったらもう終わりでしょ」
「あとはおまかせで大丈夫ですねえ。今のおにいさんも、『囚われの姫』のようでそそるものがありますけど……」
……? まるで、もうすでにハーレの勝利を確信しているかのような。
確かに僕はハーレが戦っているところを見たことはないが、この距離を挟んだ人質を怪我なく助け出せると?
……そんな疑問の答えはすぐに出た。こちらを血走った目で無表情に見るハーレが、おもむろに片手を上げたのだ。
そして微かに聞こえた呟き。
「――……【
瞬間的に高まった魔力は、ギュッと圧縮されて僕の感知外へ。再び感じ取れるようになったのは……僕のすぐ背後、女騎士がいる場所。
猛烈な熱を感じて振り返ってみれば。
「……銀色の炎!?」
女騎士が炎上している! 声も出さずに。
む、むごい。
そうすこし引いた僕の顔を見てどう思ったか、どこか慌てた様子でハーレが言う。
「殺してはいないですから……! きちんとコントロールしています。死なないけれど戦闘不能になる、そんな加減で焼いているんです!」
めちゃくちゃ轟々と火柱が立っているけれど。……まあ勇者様が言うならそうなのかな。
でも、おかげで首元から剣は離れた。ハーレの魔術を目の前で見たのは初めてだけれど、遠隔でほぼ予兆なくこんな攻撃ができるなら、確かにみんなが勝利を確信するのも無理ない。
ただし、当のハーレ本人はと言えば。
「……消毒です。お触りなんて、マナーの悪いファンでしたから」
もしかしてそれが理由で僕の背中も熱かったのだろうか? 危ないからやめて欲しい。たぶん燃えてる騎士はファンでもないし。
まあ、助けてもらった立場で文句は言うまい。
僕は唖然とする教会勢力を尻目に、炎上する騎士から離れ、不覚を取らないようハーレに守ってもらおうとして…………その直後だった。
再び背後から声が聞こえたのは。
「――――脅威判定ヲ上方修正。再ビ釣リ餌を確保」
!? 燃えた手がまた僕の首に伸びて、僕に燃え移って――あ、消えた…………けど。
僕はまた背後に立つその人影へ視線を向ける。
火が消え、鎧には煤が付いたその姿。髪も肌も焦げて黒く染まった…………――というわけではない! 黒髪、浅黒い肌、赤い瞳、そして尖った耳。
これは……!
「――魔族が、都市の中にッ!?」