勇者になりたくなくて一行のパトロンになった。金だけ出すから放置してほしいのに、束縛強めな勇者たちが俺を放っておかない 作:ぎゃん
突如正体を現した――――それも、よりによって対魔族の専門家たる教会騎士に扮していた魔族に、僕たちが呆気に取られていると。
漆黒の長髪が風に揺れ、その場に置き去りになったと錯覚――――直後。
再び首筋に感じる硬い感触。
「釣リ餌ハ確保……ツギハ勇者ヲ」
く……!? ま、まったく見えなかった。情けない……。
「テイラーくん……! 動かないでください、すぐに――」
「攻撃スレバ男ヲコロス」
「く、卑怯な! っすみません、私のせいで……!」
ハーレは歯噛みする。
……しかし大丈夫だ、やってくれハーレ。さっきの魔術なら魔族の行動を許さず仕留められるだろう。万が一無理でもその時は自分でなんとかする。
それよりも、よりにもよってこの場所に魔族が存在していることを……ッとても許容できない。
ここにはいるんだ。もうたった一人しか残っていない僕の家族――――最愛の、妹が。
でも当然、この場のみんなはそんな僕の思いを知ってはいない。
「――なん……ま、魔族だと? なぜ我が教会の騎士が魔族に……ッ!」
「由々しき事態、ですね。魔族から人々を守るのがわたくしたちの救世。だというのに、ご領主様の邸宅へ魔族を連れてきてしまうなんて」
「責任逃れはまず状況をどうにかしてからでしょ……! アレ、だいぶ高位の魔族だよ。まともな知性がある……」
勇者パーティの面々も、司教たちも、そして僕の部下たる領兵たちも。みんな大きく動揺しつつ次の一手を出しかねている。
僕が人質になってしまっているから。だから、きちんと伝えないと。
僕の身の安全が保証されないことは覚悟の上で口を開いた。
「――みんな、どうか僕のことは気にしないで! いまはとにかく魔族の脅威を無くすことが先決だ!」
「……それは、そうですが! それでテイラーくんが怪我をしたり……っ最悪なことが起きてしまっては……!」
ハーレ……。僕のことを気にしてくれるのはありがたいが、でもそれで魔族を好きにさせるわけにはいかないだろう。
ぐい……ときつく首に押し当てられる褐色の腕。魔力をまとっていて、もうすこし力を込めれば僕の首なんてひとたまりもない。
だがしかし、それでも。
「それでも……構うものか! 誰もやってくれないのなら僕が一人ででも。こんなところで暴れられるわけにはいかないんだ!」
「テイラーくん……! わたしがなにか方法を考えます、どうか落ち着いて!」
「ダメだ、余計なリスクは取れない! 魔族は殺す、今すぐに!」
「っどうしてそこまで……!?」
どうして? そんなの妹のために決まっている。ハーレだって知って……――いや、もしかして詳しくは知らないのか?
彼女は幼馴染といえど、貴族ではない商家の娘。僕ともたまにこの庭園で遊ぶくらいだった。だから、ほとんど表にも出ない体の弱いあの子のことは……。
なら。教えて、慮ってもらわねば。覚えておいてくれ。ここには――
「ッ大事な人がいるんだ! 僕の、もうただ一人になった――」
家族、と。そう言いたかったのに。
ちゃんと口にする前に、ハーレはギョッと大きく見開いた目を僕に向けて言うのだ。
「――――ま、まさか…………女……っですか?」
……………………んん? いやまあ……妹だから、女の子ではあるけど。
「……そうだけど。別に男女の関係じゃない! 僕のいもう――」
「――ぁ。ええ、えええ? それはダメでしょう? その辺の女を口説くくらいなら、テイラーくんは王子様キャラなので仕方ないですが。そんな、ほんとうに大事な
いや、ダメと言われても。話を最後まで聞いてほしい。
「いいから、ちゃんと聞いてくれッ。僕が守らなければいけないのは――」
そう、もう一度ちゃんと伝えようとした瞬間だった。
僕のすぐ後ろで、魔族の女が言った。
「勇者、コロス。勇者ノ
「ッ!」
その言葉を聞いて…………覚悟は一瞬で決まった。
そうだ。魔族、魔王という存在の邪悪さは元から知っていたじゃないか。
だいたいの魔族に大した知性もない割に、天敵たる勇者に対して凄まじい憎悪、敵意。奇襲、人質と手段を問わず、また本人やその血族もろともに危害を加える。
その結果がどうだ。立派な勇者であるハーレの家族は……もう、誰一人残っていない。
そうだ。だから、都市に入り込んだ高位の魔族など早々に消し去らねばならない。……まだ、気づかれていないうちにだ。
――――僕にも、わずかな勇者の力があることに。
「……正体に気づかれる隙なんて晒さない。この距離なら、単なる魔力の爆発で十分」
幸い魔族の注意はハーレ一人に向いている。それでも、できうる限り静かに魔力を練り上げろ。
勇者の力は関係ない、ただの汎用技術。圧縮した魔力に小さな魔力を足して、また圧縮、これを繰り返すだけ。
ハーレはまだ混乱しつつも、警戒を保ったままゆっくりこちらに近づいてくる。司教はくだらない体面のことでわめいている。
もう時間はないぞ。さあ……僕のような半端者でも魔族へ痛打を与えてやる。
そうして、ひそやかに練り上げた魔力が……燃えるような熱を持ち始めたところで。
「ハーレ。後のことは頼んだ」
「……え?」
殺せはしないだろうが、隙を作れれば十分。そうすれば後はハーレがきっとどうにかしてくれる。
だから僕は――――小さな声で、唱えるのだ。
「
直後。
僕の中で蠢いていた圧縮魔力が、急激な膨張によって強力な閃光を放ちながら。
――――僕もろとも、大規模な爆発を引き起こした。
強烈な痛み、遠のく意識。そんな中で僅かに聞こえる声は。
「あああああーーー!? テイラーくんっっっ!??」