勇者になりたくなくて一行のパトロンになった。金だけ出すから放置してほしいのに、束縛強めな勇者たちが俺を放っておかない   作:ぎゃん

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第6話

 

 …………。

 

 体が熱くて、痛い……。真っ暗だ。

 

 なにも見えないのに浮遊感だけが――

 

「イ、痛イぃ……コレ、ヤダ……ッ」

 

 ん……? すぐ側で聞こえた今のは……あの魔族? ぼんやりした感覚ではあるけど、声が遠ざかっていった気がする。

 

「――……いで……さい! ……ーレさん! おにいさんを早く!!」

 

「あ、あ、あ、あ! 血が! あ、足が、飛んで……!」

 

「呆けている暇はないですよ……!」

 

 ハーレに、シエラさんの声……。焦って、泣きそうで、痛ましい。

 

 なんと言っているかはよく分からない。まるで水の中にいるみたいで。

 

 ……なんて、微睡じみたぼやけた思考の果てだった。

 

 

 

「――【白光】! 無瑕の神光(オブリビエイト)……!」

 

 

 

 ハッキリと聞こえたのはシエラさんの声。

 

 直後。体を包む温かさが、痛みや熱を綺麗さっぱり取り払って。

 

 重く沈んでいた体がふわりと浮いて、徐々に光が戻ってくる。そうして、帰ってきた視界へ一番に飛び込んできたのは――

 

「――っテイラーくん!? テイラーくん!!!」

 

 至近距離で、潤んだ真紅の瞳が僕を見据える。直後、凄まじい力で抱きしめられた。

 

「ぐえっ……」

 

 ぐぐ、苦しい……。これが勇者パーティ以外の女性なら喜ぶ演技でもするところだけど、こんなの普通に攻撃だ。

 

「は、ハーレ……痛い……!」

 

「!! す、すみません、つい感極まって……。わたしからお触りなんて、テイラークラスタのみんなに顔向けできないことを……っ」

 

 テイラークラスタ? なんだそれ。……下手に藪を突くのはやめておこう。

 

 あぁ、それより……――あの、ッ魔族の女は。

 

 そう問いかけようとしたその時。

 

「――おにいさん……! 間に合ってよかった! もう、こんなに心配させるなんて……っ悪い子ですねぇ」

 

「シエラがいなかったら死んでたよ、領主様。感謝するんだね」

 

「…………あぁ。もちろん、シエラさんには最大限の感謝を。フォルン辺境伯家当主として正式な謝礼もさせてもらうよ。ただそれよりも今は……あの魔族の女は……!」

 

 お触りがなんとかでハーレの支えがなくなったから、ふらつく体そのままに起き上がる。そうして素早く周囲を見渡した。

 

 …………僕が爆発したあたりに血が飛び散っているけど、魔族の姿はどこにも見えない。まさか――

 

「――すみ、ません……。テイラーくんのことで頭がいっぱいになって、魔族には逃げられてしまいました」

 

 やはり……! うちの兵は……高位魔族相手に厳しいのは、さすがに僕でも分かる。でもそれなら、この件に一番必死にならないといけなかったのは――

 

「――――司教。逃げた魔族は貴方が責任を持って捕え…………いえ。殺してくれますね?」

 

「! ぐ、ぬぬ、ぬぅ……! 誰に命令して、いや、むうう――――ッも、もちろんですともぉ!」

 

 当然だ。あの魔族は教会騎士の格好をして、司教の手の者として紛れていた。さすがに司教の手引きとまでは思わないけど、彼の失態であることは間違いない。

 

 教会が独占する、魔族を検知し退けるいくつもの術。それがあるから彼らを優遇しているし、家族や民のため多少の横暴にも目を瞑ってきた。

 

 にも関わらずこの事態に至ったのは、司教たちの怠慢に他ならない……!

 

「…………あなた方の役割を全うしてくれるとのこと、重畳です。では……ッ」

 

 僕はつい、ギリリと奥歯を鳴らしながら。ついつい恨みのこもった視線を向けて。

 

 

 

「とっとと――――その贅肉すべてを落とすつもりで、必死に街を浚うんだ……! いま、すぐに!」

 

 

 

 そう強く言い放った相手、マクシミラン司教は。

 

 ぐっと激情を堪えるように唇を噛んで……濁った瞳で僕を睨み返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 そんな荒事が起きた、たった一日後のことだ。

 

 すでに教会からは魔族出現の注意喚起がなされ、いつもよりずいぶん閑散としている街中で。

 

 大通りを歩く僕は、左右を女の子に挟まれている。

 

「テイラーくん。けしてわたしから離れないでください」

 

 そう、ピンと張り詰めた気配を漂わせるのは、赤毛の勇者ハーレだ。ほとんど触れるかどうかという位置まで近づいて、周囲の数少ない通行人を威嚇しながら歩いている。

 

 そして、もう一人の女の子というのが――

 

「はぁ〜あ。ひさしぶりのお出かけなのに、ぜんぜんお店開いてないんだけど? ねえ――――おにいちゃん」

 

 僕の胸あたりにある、小さな金色の頭。両側で可愛らしく髪を縛って、瞳と同色の緑色をしたリボンをつけて。

 

 ――うん。いつ見ても可愛い。世界一だ。それに今日は、体の調子も本当に良さそうで……。

 

「グスッ…………そうだなぁ、でも、開いている店も中にはあるから。好きなものを買ってあげようね」

 

「えっ、なに泣いてるの? キモっ!」

 

「うんうん……そうして元気でいてくれ。お兄ちゃんはそれだけで幸せだから」

 

「だからキーモーい〜!」

 

 僕の妹――フルーチェ・フォルンは、そのあまりに可愛らしい顔を、これまた可憐に顰めて見せるのだ。

 

 ついつい笑顔が溢れて止まらない……!

 

 そして。そんな僕たちを隣からじぃっと穴が開くほど見つめるハーレ――

 

「――テイラーくんの、い、妹さんですか。ぜひお近づきに……」

 

「ねえ〜〜! 無表情なのに、なんかこっちも気持ち悪い〜! 視線がネチャネチャしてる!」

 

 ははは。元気いっぱいだなあフルーチェ。こんなに体調が良さそうなところを見たのは久しぶりだ……。

 

 でも。

 

 今日はそんなフルーチェにたくさん楽しんでもらうのと同時に、もう一つ大きな目的があるんだ。

 

 ……つい昨日この街に現れ、そして姿を消した魔族。いまも教会が追ってはいるけど、高位魔族に対してどこまでやれるか。

 

 そんな状況の中…………昨日あの後、なにやら投げやりに教会から寄越された「勇者ハーレの休暇を認める」旨の伝言。

 

 そう! 今まさに僕たち領都の人間は――人魔大戦の前線にも近しい危機にいるわけだ。

 

 であれば僕がしなくてはならないこと、それすなわち。

 

 ――ハーレが勇者を辞めたい理由を聞き出し、引き留めること……だ!

 

 

 

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