勇者になりたくなくて一行のパトロンになった。金だけ出すから放置してほしいのに、束縛強めな勇者たちが俺を放っておかない   作:ぎゃん

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第7話

 

 そうして、ハーレの心中を暴くという密かな目的を胸に。

 

 ……けれどそれはそれとして、フルーチェが滅多にない機会を楽しむことも大事にせねばと、そう心に誓った僕はいま――

 

 

 

「いやしかし、本当に美しい工芸品だよ。まるで――街角でひっそりと咲き誇るレディ、あなたのようにね?」

 

 

 

「ご、ご領主様……! そんなっ、お戯れを……」

 

 そばかすの浮いたチャーミングな頬を朱に染めたのは、僕よりいくらか年上に見える雑貨店の若き店主だ。

 

 恥ずかしげに上目遣いで僕を見て、すぐに顔を伏せる。

 

「ははは、戯れなんかじゃないさ。この細やかな装飾、作り手の繊細な美意識が透けて見えるようじゃないか。これを拵える職人が美しくないわけないと思ったけれど、想像通りさ」

 

 なんで僕、朝っぱらから女性を口説いているんだろう……。

 

 あっちで楽しげにアクセサリーを見ているフルーチェとハーレに混ざりた――ウワッ、ハーレがすごい目で僕を見ている……!

 

 きょ、今日はほどほどにしておこうかな。

 

「それではレディ? 僕は向こうの小さなレディたちに、君の美しい作品を合わせてくるよ」

 

「あ、は、はいっ。ぜひ!」

 

 よし、よし。ちゃんとハーレにも聞こえるように言ったけど、うまく行ったみたいだ。表情はあまり変わらないけど、満足げに鼻を鳴らして頷いている。

 

 それじゃあ――

 

「――レディ。また今度、僕が一人で来た時には…………とても良くしてくれると嬉しいな?」

 

「! っはい、ももも、もちろんでしゅ……!」

 

 こうして粉をかけておくことは忘れない。

 

 ……権力をかさにきたとんでもないクズだな、僕は。でも許してほしい、これもフルーチェを、ひいては領民みんなを守るため。

 

 ――僕が持つなけなしの勇者の力、それを僅かなりとも増大させるために。

 

 ということで。僕としても不本意な行動にひとまずの区切りをつけて、愛しのフルーチェのもとへと向かった結果が――

 

「――おにいちゃんさあ。……妹の前で女の人口説くの、ほんとに気持ち悪いからヤメテ?」

 

 ッぐぅ! ふ、フルーチェ!?

 

「なにショック受けてるの、当たり前じゃん。あのねえ、フルーチェの気持ち考えたことある〜?」

 

 フルーチェの気持ち、だと?

 

「やれご領主様はご立派で、王子様みたいにカッコよくて…………みたいなことをね? メスの顔したメイドたちが言ってくるのよいっつも! も〜〜〜フルーチェうんざりなんだけど! というか、兄が女好きとかイヤなのー!」

 

「……フルーチェちゃん? その話、詳しく聞かせてもらってもいいですか」

 

「あ、ハーレさんからも言ってくれるって? いいよーなんでも教えちゃうから、一緒にちゃらんぽらんなおにいちゃんを叱っちゃお!」

 

 ちゃ、ちゃらんぽらん……? 大事に大切に、小さな頃から面倒を見てきた可愛いフルーチェが、僕のことをそんな……ッ。

 

「……ぅうッ。あんなに素直で良い子だったフルーチェが……!」

 

「も〜〜! だから泣かないでって、キモいから!」

 

 ひどい。僕はこんなにもフルーチェのことを想っているのに、最近はすごくツンツンして、キモいなんて言うようになってしまって。

 

 おにいちゃんは悲しいよフルーチェ……!

 

 …………なんて、悲しんで見せながら。僕たちはそれから、フルーチェとハーレの二人にそれぞれ髪飾りを買ってあげた。

 

 そうして度々フルーチェに罵られながらも、数少ない営業中のお店を巡っては、アクセサリーや雑貨、それに屋台の食事をつまんだり。

 

 気がつけば、時刻はすっかり昼下がりだ。

 

「――どうかな、フルーチェ。今日は朝からいろんな場所を巡ったから疲れたろう。そろそろ屋敷へ帰るかい?」

 

 僕は人通りの少ない大通りを歩きながら、少しだけ顔が青くなってきたフルーチェに問いかけた。

 

 ……久しぶりの妹とのお出かけではしゃぎ過ぎてしまったな。外に行きたいと言い出したのが、最近反抗期なのか素っ気なかったフルーチェの方というのも、僕のおにいちゃん魂に火をつけてしまった……。

 

 でも、ハーレという一級の護衛がいる機会なんて滅多にないんだ。たまの機会にくらい、フルーチェにはこうして普通の女の子のように楽しんで欲しかった。

 

 フルーチェのほうに意識を割きすぎて、結局ハーレに引退騒動の真意は聞けていないけど、今日はもうそろそろ、と。そう思ったのだけれど。

 

「えっ…………ぁ、もう……?」

 

 一瞬驚いたように目を見開くフルーチェ。

 

 やっぱり遊び足りないか? でも、体のためだから。また来ればいいのだから、今日はこのあたりで。

 

「……っでも! まだぜんぜん、日も沈んでないし! お店だっていろいろ行きたかったのに……!」

 

「そうは言ってもだよ、フルーチェ。疲労も溜まってきてるだろう? 街に来れる機会なんてまだこれからたくさんあるんだ、今日はこれくらいで辛抱しなさい」

 

「で、でも……っ!」

 

 それでもフルーチェは食い下がろうとする。そんなに楽しかったなら兄冥利に尽きるけれど、これ以上は。

 

 ほら。今日一日で仲良くなったみたいだし、ハーレからもなにか言ってやってくれ――

 

「――フーちゃん。っめ、ですよ」

 

 ふ、フーちゃん? 僕でもフルーチェのことをあだ名でなんて呼んだことないのに……!

 

 しかも、フルーチェはハーレの言葉にもまったく納得する感じがない。いつもはもっと、反抗期とはいえ聞き分けがいいのに……。

 

 イヤイヤと首を振って動かなくなったフルーチェに、僕とハーレは顔を見合わせる。

 

「どうしたんだろう? 普段はもっと良い子なんだけれど……」

 

「これはこれでいいですね。ワガママな娘に手を焼く夫婦のようで」

 

 真面目に考えてくれ……。誰と誰が夫婦だって?

 

 あぁ、それよりもフルーチェのことだ。

 

 僕は服の裾をギュッと握って俯く彼女のそばに寄ると、できる限り優しく問いかけた。

 

「どうしたんだい、フルーチェ? さっきも言ったけれど、これが最後というわけじゃないんだよ。……今は少し、魔族の件で時期が悪いけれど、それが解決すればまたいつだって――」

 

 その時だった。

 

 ガバッと顔を上げたフルーチェは、少し潤んだ瞳で僕を睨んで言ったのだ。

 

 

 

「いつだって? それ、本気で言ってるのっ? ――――フルーチェがいつまで生きられるかも分かんないのに!?」

 

 

 

「ッ!? ッそ、そんなこと誰に――」

 

「誰でもいいでしょそんなの! それよりも…………否定、しないんだ……っ」

 

「ちがッ、フルーチェそれは……あっ!」

 

 走って逃げた!? どこに魔族が潜んでいるかも分からない状況で、それはまずい……!

 

「追いかけようハーレ! 頼む、先に行ってあの子を保護してくれないか……!」

 

「それは、でも、テイラーくんの護衛が」

 

「僕のことよりフルーチェを――」

 

 そう言いかけて気づく。

 

 大通りの端、僕たちから数歩離れたくらいのところに佇む教会の小姓。

 

 表情もなく不気味にこちらを見つめて…………ッ目と、肌と髪の色が変わって!

 

 あれは、魔族!? この間のやつとも違う新手が、また教会に……どうなっているんだ!

 

 それよりも、ますますフルーチェが危ないッ。

 

「ハーレお願いだ! あの魔族をなんとか抑えてほしい! その間に僕は、フルーチェをッ」

 

「あ、テイラーくん……! 待ってくださ――」

 

 もういてもたってもいられない。

 

 僕は一方的にハーレへ頼むと、なけなしの魔力を循環させて身体強化を発動させて。

 

 フルーチェが去っていった方角へと、全速力で駆け出すのであった。

 

 

 

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