DS 〈デジタライズ・ストラトス〉リ・デジタイズVer.   作:LAST ALLIANCE

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今回はクラス代表決定戦の1試合目です。
オリジナルの専用機と組織が出ますが、どうぞお楽しみ下さい。


第3話 牙を剥く虎と駆け抜ける流星

「何このデータ……バグじゃないの?」

 

「うぅん。バグじゃない。これは昨日……正義が専用機の特訓をした時のログ。私も見た時は驚いた……」

 

 入学式があった次の日。IS学園の生徒会室。そこでは生徒会に所属している面々―更識刀奈、布仏虚、布仏本音がとあるデータを見て言葉を失っていた。

 生徒会室に入室した簪が見せたのは昨日整備室のシミュレーターを時間ギリギリまで使い、何度も撃破・リトライされながらも特訓し続けた狂気と執念の数字。

 

「簪ちゃん、これ本当に人間が一人で叩き出したリトライ数なわけ!?」

 

「……うん」

 

「すごーい! ここまで練習し続けるなんて! 凄いガッツ!」

 

 刀奈が驚き、本音が関心している中、異常としか言えない数値に目を落としていた虚は溜息をつき、本音に視線を向けた。

 

「……本音、呑気に感心している場合ではありませんよ。普通なら脳が焼き切れるか、ノイローゼになって医務室に行ってもおかしくありません。……ハッキリ言って、正気の沙汰ではありません。勝ちたいという執念は理解できますが、自分の精神を削るような無茶を平然とこなす生徒は、生徒会として見過ごす訳にはいきません」

 

「うん。でも正義はそれを分かった上でやっている。彼は言っていた。“凡人が天才に勝つには数をこなすしかない”って……」

 

 確かに虚の言う通りだった。通常であれば、脳にダメージが来たりして医務室送りになってもおかしくない程の数をこなしているのだから。

 しかし、正義はそれを分かった上で挑んでいた。自分は凡人で周りは天才。凡人が天才に勝つ為には血が滲む程の努力を積み重ね、努力で才能を補うしかないと。

 

「“凡人が天才に勝つには数をこなすしかない”、か……。ふふ、自分の身の程を知った上でそこまで腹を括れるなら、正義君はもう“凡人”の域を超えているわね。……よし、試合当日は観戦しに行くわ」

 

 刀奈が正義の狂気じみた執念を認め、彼の試合を観戦しに行くと宣言したのと同じ頃。教員室では1人の男性教師がシミュレーターのデータを見ていた。

 見た目は黒い目に黒い短髪、眼鏡をかけた中肉中背の男性。見た目は誰がどう見てお普通の男性であるにも関わらず、明らかに普通の人間とは違う“何か”を醸し出している。

 彼の名前は八神カズマ。かつて人間界とデジタルワールドを救って命を落とした人間だが、今の肉体や記憶を一体化したオメガモンが引き継いでいる。

 

(……凄い執念だ。純一から“ルームメイトが凄まじい努力で自分を追い込んでいる”と話は聞いていたが……これは予想以上だ。簪さんから渡された時は私も驚いたよ)

 

 静かに、だが鋭い眼光を見せる彼は純一と簪が所属する1年4組の担任。今日簪からデータを受け取りつつ、純一から話を聞いていた。

 実際に手が空いた時間にデータを見ているカズマだったが、その異常とも言える数字から彼の並々ならぬ執念を感じていた。

 

「何を見ているんだ、八神先生?」

 

「織斑先生。3組の正義君が昨日シミュレーターでトレーニングをした時の数字だ」

 

「これは……」

 

 カズマが見ている物が気になったのは織斑千冬。一夏・マドカ達がいる1年1組の担任で、鋭いツリ目に後ろで結んだ長い黒髪が特徴な美女。

 カズマから手渡されたデータを見て一瞬驚くも、何かに気付いたのか、直ぐに獰猛とも言える笑みを浮かべた。

 

「正気じゃないな……普通なら脳が焼き切れてもおかしくない数値だ。……だが、この短期間に実戦の勘を叩き込むなら、これ以外の方法は存在しない」

 

「あぁ。織斑君から聞いたかどうかは分からないが、私は純一君と簪さんから話を聞いている。正義君は来週のクラス代表を決める試合に出ると。何でも専用機の駆動テストも兼ねているとか……」

 

「あぁ……その話か。教員部隊に配備される例の機体か。その先行試作型を急遽手配した感じだな。あの機体ならクセも無く、扱いやすいから初心者にはおススメ出来るな」

 

 カズマと千冬が仲良さげに談笑していると、山田真耶、ナターシャ・ファイルス、スコール&オータムの3組の担任・副担任がやって来た。

 気配で気付いたカズマが見ていたデータを4人に手渡すと、彼女達はそれぞれ数字に目を落とす。

 

「な、何だこれ……ログの数字がバグっている。正義……少しは自重しろ……」

 

「アハハ。度胸と心意気は百点満点ね。でも担任としては心配になるから、後でしっかり注意しないと」

 

 3組の副担任のオータムは唖然となり、担任のスコールは心意気と努力を認めつつも注意すると言い出す一方、1組の副担任の真耶は驚嘆し、ナターシャは苦笑いを浮かべた。

 

「何度撃墜、撃破されてもリトライし続ける精神力……凄いとしか言えません。これなら実践値は跳ね上がりますね」

 

「えぇ。経験差と実力差を努力で補うその姿勢……同じIS操縦者としてリスペクトしか出来ないわ」

 

「正義君はただのIS操縦者じゃない。“1人の戦士”として戦おうとしている……その心意気と覚悟を見届けたい。……決めた。私も観戦しに行こう」

 

「……なら私も行こう。その“執念”が本物かどうか、この目で見届ける為にな」

 

 教員や生徒会の面々に興味を抱かれているとは知らず、正義は簪の付き添いの下、ひたすらシミュレーターで特訓を積み重ねていった。

 

 

 

 

 

 数日後。試合当日のお昼休み。ピットで正義の専用機の駆動テストが行われた。運び込まれたコンテナの中から現れたのは正義の専用機―『流星零式』。そこで簪立ち合いの下、初期化(フィッティング)と最適化(パーソナライズ)が行われた。

 ISは初期化(フィッティング)こと搭乗者のデータ入力、それに伴う機能を整理する最適化(パーソナライズ)を行うことで搭乗者に最もふさわしい形態にする。最初の設定が完了するのに大体30分前後掛かると言われている。

 実際、正義の専用機―『流星零式』も初期化(フィッティング)と最適化(パーソナライズ)が行われ、武骨で真っ白いフォルムの全身装甲型のISとなった。

 その時に起きた最初の形態移行は一次移行(ファーストシフト)と呼ばれる。そこで装甲の形状等も若干変化し、それによって初めてISは“搭乗者の専用機”となる。

 

「御宅、お疲れ様」

 

「箒さんもお疲れ。いや~もう少しだよ……」

 

「あぁ。純一からお前の覚悟と、そこに至るまでの血の滲むような鍛錬は聞いていた。だが相手も簡単じゃない。それでも勝ってこいよ」

 

「純一、頼むから怪我だけはするなよ。無茶するな」

 

 無事に駆動テストを終えた正義の所に一夏達がやって来た。一夏と箒が激励すると、正義は困ったように苦笑いを浮かべる。

 

「兄さん、正義に無茶をするなと言っても無駄だ。相手は代表候補生。無茶をしないと勝てない相手ではない」

 

「そ、それもそうか……」

 

「まぁね。マドカさんの言う通り、本当は無茶したくないけど……無茶しないと勝てないんだよなぁ……」

 

「だが良い目をしているな。お前の力を存分にぶつけて来い」

 

 苦笑いを浮かべる正義にニヤリと笑いかけると、マドカは肩を叩きながら激励する。

 

「……短期間の落とし込みで代表候補生との試合に挑むのは無謀ですが、私達の前で不甲斐ない負け方なんて許しませんよ? 貴方のその底力、見せてみなさい!」

 

「応! 見せて来るよ!」

 

 お昼休みが終わって午後の授業に入った頃。カズマは会議室で会談に臨んでいた。相手はヴィスコンティ財団の総帥、養子、最高技術顧問の篠ノ之束。

 

「ヴィクトーリア総帥。貴殿から提供されたISコアと技術のおかげで、純一のDSの調整と運用は完璧と言えるレベルになった。本当にありがとうございます」

 

「フフッ。お褒めに預かれて光栄よ。彼に宿る力と可能性なら……十二分に力を引き出せるでしょう」

 

「仰る通りだ。これまでのISとはスペックが段違いだ。使い方を一つでも間違えたら最後、自分を滅ぼしかねない牙となる」

 

「だからこそ……貴方が教師として、同じデジモンとして導いている、と」

 

 ヴィスコンティ財団の総帥―ヴィクトーリア・ヴィスコンティ。彼女が提供したISコアと技術が純一の『DS(デジタライズ・ストラトス)』の開発と運用の大きな助けになっている。

 この『DS(デジタライズ・ストラトス)』はヴィスコンティ財団と“電脳現象調査保安局”が共同開発した対デジモン用戦略機動兵器。純一はバイオデジモンであり、その適正値をクリアしている為、テストパイロットとなった。

 

「そのスタンスは正しいわ、八神先生。世界各国が貴方のような考え方をしていれば……」

 

「何か思う所があるのか?」

 

「そうよ……相変わらず各国はISの利権争いと次世代機の開発に躍起になっている。表向きはIS競技やISの更なる発展を謳いながら、裏では覇権を握ろうと必死な国ばかりよ。特に、アメリカのドランプ大統領……彼の“アメリカ・ファースト”は正直目に余る物があるわ」

 

「はい。彼は“人類の主権を異物に委ねてはならない”と声高に叫び、秘密裏に自動運用型の軍用ISプロジェクトを進めていると聞いています。……八神先生、彼は貴方の……オメガモンとしての功績と強さには最大の敬意を払っているようです。ですが……」

 

 ヴィクトーリアの養子、エレーナ・ヴィスコンティの言葉にカズマは表情を曇らせながら頷いた。

 

「……“だからこそデジモンに世界の平和を任せるわけにはいかない”、“この世界は人間自身の手で守るべきだ”と言っている。言っている事は正しいが……手段がな……」

 

「本当だよ~人間だけでこの世界を守る、なんて威勢だけはいいけど、機械を暴走させたら元も子もないのにねぇ……あのおじさん、焦りすぎてて正直見苦しいんだよ~」

 

「束博士。ドランプ大統領が必死になるのも仕方ないです。“白騎士事件”の際、米軍単独で脅威を排除できなかったことは、彼と軍上層部にとって最大の屈辱だったのでしょう。現在、再選をかけた大統領予備選でも軍事的失策を突かれ、相当に追い詰められているようですし」

 

「追い詰められた猛獣ほど危険なものはない。選挙戦の巻き返しと“強いアメリカ”の証明の為なら、あの男は完成していない兵器、それこそ自動運用型ISの投入すらいとわないでしょうね……」

 

「……だが、彼らがどう思おうと関係ない。私はこの世界を守り抜くと決めた。……教え子達の未来の為にも、そして……かつて私と共に戦い、生き、そして死んでいった我が主君……一真殿の為にも」

 

「……オメガモン。貴方のその高潔さは誇り高くもあるけれど……同時に痛々しいわ。亡き主君の残像を追い、己の身を焼き切り続けるのはおやめなさい。貴方が倒れれば、誰があの子供たちを守るというの?」

 

 カズマが静かに決意を口にすると、それを咎めるようにヴィクトーリアが口を挟んだ。横に座るエレーナと束も同意するように力強く頷く。

 

「ヴィクトーリア殿……済まない。だが大丈夫だ。かつての主君、一真殿から遺言を頂いている。“絶対に幸せになれ”と。これは我が主君からの最後の命令。それを守り続ける事が亡き主君に捧げる最後の使命の1つだ」

 

 カズマが目を伏せると、彼の脳裏には一真と共に過ごした日々と乗り越えた戦い、そして死ぬ間際に浮かべていた笑顔が蘇った。

 

「だが……ありがとう。あまり一人で抱え込まないようにするよ」

 

 少しだけ肩の力を抜くと、カズマは3人を落ち着かせようと笑顔を浮かべた。しかし、その笑顔には自嘲と後悔の色があり、それを見つめる束の表情には切なくも複雑な色が浮かんでいた。

 言葉ではそう言いつつも、結局全てを背負って戦い続ける運命を抱えるカズマの不器用さと危うさ。それを誰よりも技術者・観察者として理解していた。

 

「……まぁ良いわ。重い話はここまでにして……」

 

「お三方、ちょっと待ってくれ。実は今日の放課後、2人目の男性IS操縦者の専用機の実戦テスト……もといクラス代表を決める試合が行われる。一緒に観戦でも如何か?」

 

「2人目の男性IS操縦者……中々話に出てこないから気になってはいたけど、どういう人物なのかしら?」

 

「これを見たら驚くぞ?」

 

 カズマが3人に手渡したのはここ1週間のシミュレーターのデータ。それは正義が積み重ねて来た特訓の証。

 

「……凄まじい数ね。勝利を掴む為に、自らの精神を削りながら、何度失敗しようと立ち上がる闘志。養母様、この人は……間違いなく……」

 

「ええ。我が財団が求める“真の戦士”の芽が見えるわ。彼はスペックや才能が無くても、最後まで諦めずに前に進み続ける者、その可能性を秘めているわ」

 

「あはは!総帥とカズ君も気に入ったんだ。私も気に入ったよ。ここまで無茶するのはイカしているし」

 

「ふふ、誘いに乗るわ、八神先生。その“真の戦士”がどんな煌めきを見せるのか……この目で確かめましょう」

 

 こうしてヴィスコンティ財団の主要人物達も3組のクラス代表決定戦を観戦する事を決めた。特に総帥のヴィクトーリアは財団が求める物を見出したのか、何処か楽しそうにしている。

 ヴィスコンティ財団は表向きこそ世界的巨大複合企業だが、ISの登場によって一変した世界の裏側を支配している。

 噂によると、米軍やIS学園にすら匹敵・凌駕する武力を有する“影の軍団”を保有し、その頂点に君臨する千冬の武力と束の頭脳を兼ね揃えたカリスマーヴィクトーリア・ヴィスコンティによって、世界を守護する軍勢とさえ謳われている。

 

 

 

 

 

 午後の授業が終わって放課後となった時間。練習用アリーナ。ついに1年3組のクラス代表決定戦が始まろうとしていた。

 練習用アリーナの観客席は既に大勢の生徒で埋め尽くされ、気が付けば満員御礼状態となっていた。

 あれから1年3組がクラス代表決定戦をやると言う話は色々な生徒に伝わり、いつしか3組の生徒だけではなく一夏達同級生、2年生や3年生の上級生まで観戦に来ている。

 更に言うと、千冬やナターシャといった教員やヴィクトーリア達外部の人間も特等席に座り、試合の開始を楽しみにしながら待っている。

 それだけ世界で2番目の男性操縦者が注目されている証だろうが、それを知らない正義は1番ピットのカタパルトで待機している。

 専用機の『流星零式』を纏い、集中しながらこれまで特訓してきた基本パターンを思い描き、口に出しながら最後の復習をしていた。

 

「御宅正義……『流星零式』、行きます」

 

 時間になった事に気付いた正義はカタパルトから発進し、アリーナへと飛び出した。彼の目の前には一足先にアリーナに降り立ったソヒョンがいた。

 お互いにまじまじと相手のISを見合う2人。ソヒョンのISは『黑虎(ヘッコ)』。正義の『流星零式』と同じく武骨な装甲だが、肩部・背部・脚部に無理やり角張ったシルエット大型高出力スラスターが取り付けられている。漆黒(正確に言えばマットブラック)に、財閥の紋章と警告色のダークオレンジラインが基調。

 

(あれが正義君の専用機……? 最新の機体のような華美さはない。けれど……全体のシルエットに一切の無駄がなく、武装の配置にも隙がない。……でも嫌な予感がする。ここまでシンプルで完成された機体は見たことがないわ……)

 

(……あれって確か第2世代のISだよな。にしても肩と背中のスラスターがやたらデカいのが気になる。それに武装! 両腕のダブルガトリングに、あの脚部のアタッチメント……! 第2世代機に無理やり高出力と重火器を積み込んでるのか。……速いだろうけど、あんな無理な改修じゃ操縦性が劣悪すぎるんじゃないかな?)

 

 ぎり、と奥歯を噛み締め、プレッシャーを振り払うように気合を入れるソヒョンに対し、正義は目を細めながら闘志を燃やす。

 

「……君の機体、中々扱いづらそうだな。見た感じ、かなりの過剰装甲と大出力をしているだろう。まともに動かすのも大変そうだよ……それを動かせるあたり流石は代表候補生、と言った所か」

 

「ッ……! 余計なお世話よ! 私達には後がないの……! 機体の扱いづらさくらい、私の腕でねじ伏せてみせる!この『黑虎(ヘッコ)』と私の足技があれば、どんな相手だろうと叩き潰せる!」

 

「……後がないのは僕も同じだよ。特訓で叩き込まれた通りに……やらせてもらおうか!」

 

 一瞬痛い所を突かれたソヒョンは、プレッシャーを押し潰すように両腕のガトリングを構えると、正義は右手に握るレーザー・ライフルを構える。

 

『其れではこれより! 御宅正義VSパク・ソヒョンの試合を開始します。……試合開始!』

 

 試合開始のアナウンスが告げられると共に、第1試合の正義とソヒョンの試合のゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

 開始早々に仕掛けたのはソヒョン。両腕に備えられた大型の2連装ガトリングガンから弾幕を展開し始めた。

 凄まじい掃射音と共に空間を埋め尽くすような実体弾の濁流に対し、正義は両腕に装備されているバックラーを展開させ、両腕を交差させながら防御態勢を取る。直撃を最低限に抑えながらシールドエネルギーの減少を最小限に抑える意図。

 同時に徹底した軽量化が施された機体を操作して斜め後ろへと跳び、大きく旋回しながら回避行動に徹する。

 

「す、すげえ弾幕……! あんなの、近寄るどころかかいくぐる事すらできないぞ!」

 

「だが……おかしくはないか? 今のISは第3世代が主流。なのにあのような実体弾をあれほどの高密度でばら撒くなど、エネルギー効率も重量バランスも悪すぎるのではないか……?」

 

「当然だ。あれは第2世代初期の量産型フレームをベースに、無理やり最新の重火器と高出力スラスターを増設したんだからな」

 

 マドカの推測は的中していた。『黑虎(ヘッコ)』は第2世代に該当する機体の量産型を限界まで改修し、ソヒョン用にカスタムした機体。

 本来ならば、財閥の令嬢で代表候補生と言う立場にいると、第3世代機を受け取る事が出来る。しかし、ソヒョンの場合はそうではない。と言うのも、ソヒョンの実家である財閥はIS開発において後れを取っているからだ。

 自前で第3世代の機体を手配出来ない為、何とか第2世代初期の量産型を手配し、それを限界までカスタムして運用しているのが現状だった。

 

「えぇ、マドカさんの言う通りですわ。ですけれど……ソヒョンさんの本当に恐ろしいところは、あんなアンバランスな機体を力でねじ伏せている点です」

 

「あぁ。あのスラスターの配置を見てみろ。旋回する度に操縦者には凄まじい負担がかかっているはずだ。普通ならまともに狙いすら定められない。それをあそこまでの精度で弾幕を張り続けるなんて……どれほどの訓練と執念を重ねてきたか……私には想像出来ない」

 

 一夏達が見ている中、必死で回避・防御行動を取り続ける正義。シールドエネルギーを確実に削っていく中、ソヒョンは今がチャンスと捉えると、ダブルガトリングガンを下げて構えを取り直す。

 

(今ならいける!)

 

 背部と肩部に増設された大型スラスターを駆使し、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を発動。ソヒョンは一気に間合いを詰める。

 『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』とはIS運用における加速機動技術の1つ。スラスターから放出したエネルギーを再び取り込み、都合2回分のエネルギーで直線加速を行う物。『黑虎(ヘッコ)』の場合、背部と肩部に増設された大型スラスターを駆使している為、爆発的な加速を実現している。

 彼女の狙いは渾身の右ハイキック。脚部アタッチメントに仕込まれたパイルバンカーの杭が、カチリと破砕音を鳴らした。

 

「これで終わりよ!」

 

「ッ……!」

 

 空間を穿つ勢いで放たれた一撃。正義は特訓で叩き込まれた身のこなしで、まさに“紙一枚”の差でその右足をすれ違いざまに躱した。

 空を切ったパイルバンカーの作動音が、正義の鼓膜を激しく揺らす中、彼の背中を冷や汗が吹き荒れる。

 

(うわぁ! 危なかった……今の直撃してたらシールドエネルギーが一気に持ってかれて試合終了だったぞ……!)

 

 しかし、正義の目は逃さなかった。大技を繰り出して空振った後のソヒョンの『黑虎(ヘッコ)』が、過剰なスラスターの推進反動を殺しきれず、一瞬だけ姿勢を大きく崩して滞空しているのを。

 

「(やっぱりな~! あのスラスターの配置じゃ、大振りの後に強引な姿勢制御が効かないだろうよ……!)反撃させてもらおう!」

 

 昂る心と焦りを即座に抑え込み、正義は右手に握ったレーザー・ライフルを構えると、隙だらけになった『黑虎(ヘッコ)』の装甲に向けて、精密なレーザーの連続射撃を叩き込んでいく。

 

 

 

 少し時間を巻き戻す事を許して欲しい。渾身のパイルバンカー蹴りが空を切った瞬間、ソヒョンの瞳が驚愕に見開かれた。まさか自分が繰り出した決死の一撃が不発に終わるとは考えてもみなかったのだろう。

 

(躱された……!? 嘘、あの体勢から……!?)

 

 過剰な推進力の反動で『黑虎(ヘッコ)』の体勢が大きく流れ、硬直する一瞬。その僅かな隙を逃さず、『流星零式』のレーザー・ライフルから放たれた光線が『黑虎(ヘッコ)』の装甲を連続で穿つ。

 ハイパーセンサーの音に気付いたソヒョンだったが、気付くのが僅かに遅れた。反撃の狼煙を告げる攻撃をただ全身に受ける事しか出来なかった。

 

「な、何が起きたんだ一体!? 何でさっきまであんなに押されてたのに、何時の間にか攻守が入れ替わったんだ!?」

 

「……当然の事。あの機体、『黑虎(ヘッコ)』は直線的な推進力の強化と引き換えに大振り後の姿勢制御を犠牲にしている。……正義はそれを見抜いて、最初から”相手が大技を放ち、硬直する瞬間”に狙いを絞っていたのよ」

 

「何と……!? えっ、まさか今までの特訓でその練習をしていたのか!?」

 

「それだけじゃないけど、その練習がメインの1つだったかな?」

 

「道理で……」

 

 観客席で試合を観戦している純一。彼はいきなり攻守が入れ替わった事に混乱していたが、簪の説明を聞いて納得していた。

 

「くっ……調子に乗るな!」

 

 その頃。レーザー・ライフルによる連続射撃を喰らいながらも、ソヒョンは体勢を立て直しながら両腕のダブルガトリングガンを構え直し、強引に連射を再開する。しかし、正義はこの時既にダブルガトリングガンによる弾幕を攻略していた。

 上へ行ったと思えば下に。と思ったら今度は斜め後方に。シュミレーターによる特訓で脳と身体に刻み込んだ回避行動を不規則に繰り出し、弾幕の隙間を搔い潜りながらレーザー・ライフルを撃ち込んでいく。

 

(捉えられない! 上!? 下!? 狙いが定まらない!)

 

 ジグザクな回避行動により、ソヒョンはダブルガトリングガンの照準を合わせる事が出来なくなっていった。弾幕は空を切り、着実に『黑虎(ヘッコ)』のシールドエネルギーだけが削られていく展開となった。

 

「……凄いですね。相手の弾幕に焦る事なく、機体の構造欠陥から生まれる一瞬の隙を冷静に待って、完璧なタイミングで反撃に転じるなんて……並大抵じゃ出来る事じゃありません」

 

「えぇ。機体性能に頼らず、相手の弱点を突いて着実に詰めていく。……完全に“戦士”の立ち回り。シミュレーターでどれだけ鍛錬を積んだかが分かるわ」

 

「……フッ、あれだけの数の特訓を死に物狂いでこなしてきたんだ、これくらい出来て当然だ。……いや、それ以上に正義は自分の“凡人さ”を理解している。だからこそ、自分の機体と相手の機体を完璧に計算し、一番安全で確実な勝利手順を迷わず選択できる。奴は……間違いなく伸びるぞ」

 

 真耶、ナターシャ、千冬が観戦席から見守る中、そろそろ試合が終わろうとしていた。

 レーザー・ライフルによる連続射撃にシールドエネルギーが削られ、気が付けば残り後僅かになっていた。

 

「負けられない! 私たちの国が、財閥が……私が、ここで折れるわけにはいかないのよ!」

 

(来たぞ! 簪さんが教えてくれたパターンをやる時が!)

 

 ソヒョンは血が滲むほど奥歯を噛み締めながら雄たけびを上げると、再度『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を発動。

 退路を断った『黑虎(ヘッコ)』が特攻上等の覚悟で直進的に正義に突進する中、正義も表情を引き締めて右手に握るレーザー・ライフルの照準を合わせる。

 簪が発案して毎日特訓し、何度も何度も繰り返し覚えて身体に刻み付けた攻撃パターンが発動した。先ずは横に滑りながらレーザー・ライフルから砲撃を連射。

 『黑虎(ヘッコ)』の突進を止めながらシールドエネルギーを削ると共に、左肩に装備している6連装ミサイルポッドからミサイルを発射。一斉に放たれたミサイルがあらゆる方向から襲い掛かり、次々と直撃していく。

 最後は右肩のレーザー・キャノンの一撃。動きが止まり、ミサイルの直撃から立ち直っていない『黑虎(ヘッコ)』に直撃。ソヒョンのシールドエネルギーを大きく削った。

 

(よし、相手のシールドエネルギーは残り後僅か。最後はレーザー・ブレードで仕留めるだけだ!)

 

 『黑虎(ヘッコ)』のシールドエネルギーは残り後僅か。後1回攻撃を当てれば試合に勝つ所まで来た。

 正義は左腕のバックラーに収納されているレーザー・ブレードを抜刀。『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』で間合いを詰める。

 しかし、正義にとって計算外だった事があった。それはソヒョンがまだ諦めておらず、最後の反撃を繰り出そうとしていた事。

 

「まだよぉぉぉ!!!!」

 

「何だと!?」

 

 先程の攻防から右足蹴りを繰り出して来ると警戒していた正義の裏をかき、ソヒョンは軸足を切り替えて左足を構えていた。

 間合いに入ったその瞬間、先程正義を旋律させたあのパイルバンカーの破砕音が鳴り響いた。

 

(しかも今度は左足かよ!? 冗談だろう!?)

 

 再び背筋に強烈な悪寒が走ったものの、正義はシミュレーターの特訓で鍛え上げられた反射神経で身体を捻った。

 ズンっ、と空気を穿つ杭の衝撃波が、正義をかすめて吹き抜けていった。直撃まで数ミリの紙一重。直撃していたらどうなっていた事か。

 

「あっ……」

 

(今だ!)

 

 決死の反撃が不発に終わって絶望するソヒョン。左足を振り抜き、完全に体勢の崩れた『黑虎(ヘッコ)』。

 正義はその瞬間を見逃さず、右腕にも装備されているバックラーからレーザー・ブレードを引き抜き、青色の光刃を交差させて十文字斬りを放った。

 

「いっ、けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

『パク・ソヒョン、シールドエネルギーエンプティ! 勝者、御宅正義!』

 

 正義の雄たけびと共に交差する2機のIS。その直後、『黑虎(ヘッコ)』のシールドエネルギーが完全にゼロとなった。

 1年3組のクラス代表決定戦。御宅正義とパク・ソヒョンの第1試合。勝者は正義。この後10分間のインターバルを挟んで第2試合が行われる。対戦カードは御宅正義とナタリア・スアレス=ナバーロ。

 

 

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編の裏話を記します。

・ヴィスコンティ財団

 この小説のオリジナル組織。元ネタは『ACVD』の財団。目的とかは違いますが。


・アメリカの政治情勢

 これは後々のイベントに大きく関わります。原作を読んだ方なら分かるでしょう。


裏話はここまでになります。
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