DS 〈デジタライズ・ストラトス〉リ・デジタイズVer.   作:LAST ALLIANCE

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今回はクラス代表決定戦の2試合目です。
どうしても入れたかった台詞があったので捻じ込んでしまいました。


第4話 猛り狂う闘牛と、決死の一撃

 1年3組のクラス代表決定戦。御宅正義とパク・ソヒョンの第1試合は御宅正義の勝利に終わった。戦いを終えた両者がピットに戻って10分間のインターバルを迎えている中、観戦席の中にある特等席ではカズマとヴィスコンティ財団の面々が笑顔を浮かべていた。

 彼らの目的は正義の試合を観る事。入学初日にバグとしか思えないシミュレーターの数字を叩き出し、それから今日に至るまで特訓を続けて戦い方を刻み付けて来た真の戦士。第1試合ではその真価が遺憾なく発揮されていた。

 

「素晴らしい試合だった。正義君は自分の機体特性を完璧に把握した上で上手く立ち回っていた。脱帽だよこれは」

 

「ええ。単なるスペックや力でのごり押しではなく、戦況や相手を冷静に分析し、最小限の行動でで最適解を導き出していたわ。……素晴らしい! 実に素晴らしいわ! 彼は是非、我々ヴィスコンティ財団に迎え入れたいくらいの戦士よ。申し分のない戦いぶりだったわ」

 

 カズマが何度も頷きながら正義の立ち回りを絶賛し、ヴィクトーリアはその戦い方に上機嫌な様子。それを見ながら養子のエレーナは胸の前で静かに手を握り締めている。

 

「凄かったです。あんなに厳しい状況の中、少しも迷いがなかった。正義さんの強さは、我々財団が追い求める真の強さです!」

 

「う~ん、良いね! 良いよ! あの機体はポテンシャルもさることながら、マサ君の戦い方が非常に興味深いよ! 『御宅工業』は良いISを開発したね。束さんが専用機を開発してあげたくなっちゃうけど……それは不要な気遣いってものだね♪」

 

「あら、あの束博士にそこまで言わせるなんて、彼にとって光栄ね。……ちなみに、仮に貴女が作るとしたら、彼にはどんな機体が合うと思うのかしら?」

 

 ヴィクトーリアが興味深そうに尋ねると、束は少し考えてから手元のモニターに情報を打ち込み、専用機の簡単なデータを映し出した。

 

「ん〜? そうだね……私なら過剰な火力も特殊兵装もつけず、どこまでもタフで、限界までレスポンスを高めた骨太骨格(フレーム)が特徴な機体を開発するよ」

 

「ほぉ、その理由は?」

 

「見た感じ、彼は機体の性能に頼るんじゃなくて、実力差や性能差を戦い方や根性で補うタイプに思う。下手に下駄を履かせたら、かえって強みを殺しちゃうんじゃないかな?」

 

「成る程。束博士らしい鋭い指摘だ。あ、……そういえば、今日の1時間目に行われた1組の試合……一夏君が出たそうだ。手元にデータがある。どうぞ」

 

 カズマは手元のモニターに1年1組のクラス代表決定戦、一夏とセシリアの試合のダイジェスト映像を映した。

 結果はセシリアの勝利。一夏は健闘したものの、シールドバリアのエネルギーがゼロになって敗北した。

 

「一通り映像を見させてもらったけれど、実に豪快だけど……経験不足もあって危うい戦いぶりだったわ」

 

「あぁ。だが彼も正義君とは違う輝きがある。彼の場合、戦術や計算といったものを嘲笑うかのような、直感と野生の閃きが特徴に見える。相手の射撃をスラスターで躱し、最短距離で懐に飛び込んで一撃で決める。まるで織斑先生を見ているみたいだったよ」

 

「あはは! いっ君はねぇ、難しく考えるのが苦手なだけだよ〜♪ でもね、あの思い切りの良さと『自分が斬ると決めたら迷わない強さ』は、理論じゃ説明がつかない本物の才能なんだよねぇ。……まあ、束さんが作った機体だから当然なんだけどさ!」

 

束はクスクスと笑いながらカズマの言葉に頷く。

一夏の専用機こと『白式(びゃくしき)』。元々は日本のIS企業・倉持技研が設計開発していた代物だが、開発が頓挫して欠陥機として凍結されていた物を束がもらい受け、ヴィスコンティ財団の支援を使わずに単独で完成させた機体。

 

「ふふ、自慢気ね。流石は親友の弟だからと言う事かしら。……エレーナ、同じ近接主体の機体を使う操縦者として、貴方からはどう見えたかしら?」

 

「流石に……エレガント過ぎます。私には到底真似できません……射撃兵装を持たず、圧倒的な間合いの詰めと剣一本で相手を倒すなんて……あれは織斑先生のような絶対的な実力や、一夏君のような規格外のセンスがあって初めて成立する戦い方です。私のような凡人は、ちゃんとライフルや牽制用の射撃武器を積んでおかないと不安で夜も眠れませんよ……」

 

「ハハハ、随分と謙虚だなエレーナ殿。だが、一夏君の戦い方が“天賦の才による無双”なら、正義君や君の戦い方は“泥臭い計算と備えによる勝利”だ。どちらが優れているかは一概に言えないが、生き残るのは後者の方だ」

 

 困ったように眉を下げ、苦笑いを浮かべるエレーナに笑顔を見せながら話しかけるカズマ達の近くで、刀奈と布仏姉妹がアリーナに目を向けている。

 

「面白い試合だったわね。力任せの攻撃に頼らない戦い方……間合いの使い方や相手の機体の特性を利用した立ち振る舞い……相当のポテンシャルの持ち主ね」

 

「マサ君凄かった~! でも次の相手は……」

 

「次の相手はナタリアさん。間違いなくタフな試合になるでしょう。次の試合が彼にとって本番になります」

 

 こうして10分間のインターバルを終えると、1年3組のクラス代表決定戦の第2試合が始まろうとしていた。対戦カードは御宅正義とナタリア・スアレス=ナバーロ。

 

 

 

 

 

 ナタリアの専用機の名前は『闘牛(エル・マタドール)』。第3世代機。深みのある真紅と漆黒、そして要所に配された金のラインが特徴。

 頭に闘牛の角を模した2本の高精度センサーアンテナが設置され、肩部には多重積層ウェーブ・シールドが腕を覆う形で装備されている。これは闘牛士のマントことカポーテのように機能する仕組みになっている。

 背部には直線加速に特化した高出力ベクタード・スラスターが設置され、背部ウェポンラックに大型レーザー・ライフルが2丁、両腕のシールド裏には取り回しの良い小ぶりのISブレードが2本装備されている。

 

「……ナタリアさん。君の戦い方はシミュレーターで何度も見させてもらったよ。正面からの突進と、あの圧倒的なライフルとブレードの連撃は恐ろしい……正直、真っ向勝負で勝ち目があるとは思えないよ」

 

「ふふ、謙遜することはないわ、マサヨシ。貴方の第1試合……観させてもらったけど見事だった。才能や実力、経験の差を、泥を舐めるような鍛錬と精密な計算で覆してみせた。私はね、そういう泥臭く戦う“本物の戦士”が大好きなの。ううん、私だけじゃない。スペイン人は貴方のような操縦者を愛するの」

 

 これから始まる試合への不安と緊張をかき消すように苦笑いを浮かべる正義を、ナタリアは荒々しくもどこか優雅な笑みを浮かべ、真っ直ぐ見据えてる。

 

「マジか……そりゃどうも。光栄だよ」

 

「でも、だからこそ……私は容赦しないし、ソヒョンみたいに甘くはないわよ。私は貴方の努力や工夫を認め、リスペクトしている。だからこそ、私は持てる全ての力であなたを完膚なまでに叩き潰す。……覚悟しなさい。『闘牛士(マタドール)』ってのはね、目の前の獲物を確実に仕留める為に、いつだって全力で戦うのよ!」

 

「……最高のリスペクトをありがとう……! こっちだって全力で戦うだけだ!」

 

『其れでは! 御宅正義VSナタリア・スアレス=ナバーロの試合を開始します。……試合開始!』

 

 試合開始のアナウンスが告げられると共に、1年3組のクラス代表決定戦の第2試合が始まった。

 

 

 

 

 

 開始のアナウンスが終わると共に、ナタリアの『闘牛(エル・マタドール)』の両腕にマウントされた兵装が展開された。

 しかし、そこに現れたのは2丁の大型レーザー・ライフルではない。肩部の多重積層ウェーブ・シールドにマウントされているコンパクトな2丁のレーザー・ピストルだった。

 

(何だと!? シミュレーターで見た映像と全然違う! レーザー・ライフルじゃなくてレーザー・ピストルだと!?……そういえば、第1試合を見たと言っていたな……対策してきたと言う事か!)

 

「なっ!? お、おかしいですわ! あのナタリアが……装備を換装している!? 彼女は本来、レーザー・ライフルとブレードのスタイルに強い誇りと拘りを持っているはず……それをどうしてピストルに?」

 

「恐らく、プライドを捨てたのだろう。正義に勝つ為に」

 

「え……?」

 

「普段のライフルだと、さっき正義が見せた不規則かつ素早い回避行動に照準が追い付かない。そう判断して武器を替えたんだろう。だが……自分のこだわりを捨ててまで選ぶとは、それだけ正義の事を強敵と認めたんだな」

 

 目を見開き、信じられない様子で立ち上がりかけるセシリアを制止しつつ、マドカは目の前で繰り広げられている試合に目をやる。

 正義はナタリアとの距離を取り、横に移動しながら特訓パターンを発動させようとするが、それをナタリアのレーザー・ピストルが阻止した。

 レーザー・ピストルの初速の速さと連射速度。その一発一発が正義が移動する方向に悉く放たれ、正義のパターン発動を妨害していく。

 

(駄目だ! パターンを発動するどころじゃない!)

 

(今よ! 闘牛(エル・マタドール)』の力を見せてやるわ!)

 

 回避行動を取っていてもじり貧になると思った正義は、両腕のバックラーを展開して防御態勢を取る。しかし、それがナタリアの狙いだった。

 彼女は真紅の多重シールドを前面に展開し、『闘牛(エル・マタドール)』を文字通り闘牛の姿に変形させると共に高出力ベクタード・スラスターを噴射。

 それと同時に『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を発動。凄まじい直線加速に勢いを上乗せし、圧倒的な質量とスラスター推力で正面から正義に突進した。

 

「グワァッ!!」

 

 ボールのように吹き飛ばされた正義に空中で体勢を立て直す隙など与えないと言わんばかりに、ナタリアは追撃の手を一切休めない。レーザー・ピストルによる正確無比で情け無用な連続射撃を叩き込む。

 無防備な所に次々とレーザー・ピストルによる一撃が叩き込まれる中、正義のシールドエネルギーがゴリゴリと削れ始めていった。

 

 

 

 

「容赦ないな、ナタリアさん。正義君の戦い方を完全に封じている」

 

「えぇ。レーザー・ピストルによる連射で回避方向をあらかじめ制限しながら防御に追い込み、多重シールドと高出力スラスターによる突進を叩き込む。そして今は再びレーザー・ピストルによる連射で反撃の隙を与えない。攻撃の起点となる“パターン”を作らせないつもりね」

 

「まさかあのナタリアさんが自分のスタイルを曲げるなんて……考えてもいませんでした」

 

「そうだね~マサ君の事を強敵と認めたんだ。しかもただの強敵じゃない。自分のこだわり、プライドを捨ててでも全力で相手するに相応しいと」

 

 両腕を組み、冷徹な眼光でナタリアの挙動を追うカズマと、彼女の猛攻の意図を察するヴィクトーリア。目を細めながら驚きを隠せないエレーナと面白そうな笑みを浮かべる束。

 

「な、なんなんだよあの鬼気迫る攻めは!? 確か、ナタリアさんって国内の代表選考でもあんな装備なんて使ってなかったんだろう!? なんでそこまでして自分のスタイルを捨てんだ!?」

 

「それは違う。彼女はスタイルを“捨てた”んじゃない。正義を確実に倒す為に、あえて崩した」

 

「どういう意味だよ……!?」

 

「今のスペインは黄金期と言える状態。怪物級の選手が次々と生まれてくる超強豪国になった。ナタリアさんはそんな挑戦者たちを全員、持ち前のスピードと猛攻でことごとく返り討ちにしながら代表候補生に君臨し続けてきた」

 

 ナタリアの怒涛の猛攻を目の当たりにした純一が呆然となる中、簪は硬い表情を浮かべて試合から目を離さず、純一の言葉に答える。

 

「何だって!? 今のスペインには代表候補生級の化け物達がうじゃうじゃいるのかよ!?しかも、そんな相手達に一度も武器や戦い方を変える必要が無かったって事か!?」

 

「そう。本来、彼女にとってこの試合でもスタイルを変える理由なんて何処にもなかった。……でも今、正義相手に、彼女は“絶対に崩さなかった矜持とやり方”を自分から解き放ってまで勝ちに来ている。それだけ、今の正義が彼女にとって脅威と言う事」

 

「……そういう事なのかよ。ん? 待てよ? 簪さん。ナタリアさんは国内にいる化け物達を返り討ちにしながらトップに君臨しているって言ったよね? “そこまで強い選手でも代表候補生止まり”なのか……?」

 

 スペインの代表候補生事情を知って愕然となりつつも、純一が簪に質問をすると、簪は視線を目の前の攻防に向けたまま、静かに首を横に振ってから答える。

 

「……今の所は。と言うのも、今のスペインは国家代表チームすら層が厚すぎる状態。ナタリアさんが入る隙がない。でも、次の世代の国家代表の座を射止めるのが彼女なのは、誰の目にも確実視されている」

 

「マジかよ……(ナタリアさん程の圧倒的な強者ですら、今の所まだ候補生止まりなんて……スペインはどれだけ層が厚いんだよ……!!)」

 

(こ、これが原作キャラが認める強さ……! 理屈やパターンが通じる相手じゃない! 僕の事を本気で殺しに来ている!

 

 同じ頃。正義はナタリアが繰り出す怒涛のビーム・ピストルによる猛攻を両腕のバックラーで必死に防いでいた。

 

(シールドエネルギーの残量は……ヤバい! 後少ししかない! やっぱりさっきの突進と今の弾幕で持ってかれたんだ! でも……それにしても減る速度が速くないか……?)

 

 正義は『流星零式』のシールドエネルギーの残量を確認する。残り後僅か。完全な詰み状態に追いやられている。それに加え、シールドエネルギーの減るスピードが速すぎる。

 試合時間はそこまで経過していない。にも関わらず、ここまで一気にシールドエネルギーが減る事は普通であればおかしい。その理由を知ろうと、『流星零式』の機体情報を確認した。

 

(あぁ~そういう事か……!この機体は元々教員部隊用に開発された機体。つまり教員達によって各々カスタマイズされる前提で開発されたんだった。実戦で動かす為の最低限の装甲とフレームをしているけど、一次移行(ファーストシフト)で軽量化されて機動力に振った機体になってしまったのか……? う~ん……これはまずい! 逃げようにも退路を塞がれているし、仕掛けようにも圧倒的な質量とスピードで押し潰される未来しか見えない! これは完全に“詰まされている”!)

 

 正義は頭を抱える事しか出来ない。この試合は実力差と経験差もあるが、それ以上に機体の相性が悪過ぎる。今だかつてここまで嚙み合い過ぎた試合は無かった。

 『流星零式』は軽量タイプで機動性重視。『闘牛(エル・マタドール)』は重量タイプで防御重視。相性の勝負で負けている所か、実力差と経験差もあってここから試合をひっくり返す事は限りなく難しい。

 

 

 

 

 

「これは酷いわ。完全に詰まされている」

 

 観戦席にいるナターシャは静かに口を開いた。彼女の目の前にはナタリアの必勝パターンに完全に陥り、じわじわと嬲り殺されていくだけの『流星零式』の姿があった。

 

「正義君の『流星零式』……データを見させてもらったけど、あれは教員部隊向けに開発されている機体。無駄を削ぎ落とした高い機動力が特徴で、素晴らしい基本設計だけど、実戦での最低限の防護性能しか残していない。ナタリアさんのように“圧倒的な質量と手数による攻撃で押し潰す”タイプの相手とは、あまりにも相性が悪すぎる」

 

「はい……正義君も必死に反撃の隙を見つけようとしていますけど、ナタリアさんの射撃がそれを許しませんし、その上回避ルートを狭めるための罠になっています。逃げ場を失ったところにあの多重シールドの突進……これは実力差以前に、戦術の噛み合わせで手も足も出ませんよ……」

 

 ナターシャの隣に座っている真耶。彼女は胃の痛むような表情でモニターを見つめつつ、痛ましそうに息を吐く。

 

「機体のポテンシャルを引き出せるかどうかは操縦者次第……でも、相手は数多の修羅場を潜り抜けてきた『闘牛士(マタドール)』。経験の差があからさまに出てしまっているわね……」

 

 二人の言葉を、千冬は腕を組んだまま無言で聞いていた。その鋭い眼光は、目の前でボロボロになりながらも、最後まで足掻こうとしている正義の瞳を捉え続けている。

 

「確かに相性が最悪なのも、経験不足なのも正義にとっては百も承知だ。だがな、あいつは土壇場になって真価を発揮するタイプ。このまま終わるようなタマじゃない」

 

「あら、千冬。貴女が彼を買っているなんて。ふふっ、でも本当ね。彼はまだ……諦めていない。最後の反撃に打って出ようとしている」

 

 ナターシャが困ったように頬に手を当てつつも柔らかく目を細める中、正義は最後の反撃に打って出ようとしていた。

 

 

 

 

 

「そろそろ終わりにしましょう、マサヨシ」

 

「まだ……終わりにするには早いぞナタリアさん!」

 

 最後の攻撃を繰り出し、試合を終わらせようとするナタリア。対する正義は声を上げると、正義は両腕を交差させた状態のままスラスターを噴かし、同時に『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を発動させ、ナタリアとの間合いを詰めていく。

 

「なっ!?(噓でしょ!? シールドエネルギーも残り少ない状態で突っ込むなんて一体何を考えているの!? 回避ルートを潰した。防御も無意味。なのにどうして突っ込んで来るの!?)」

 

(回避すれば弾幕に遭い、防いだら突進で圧し潰される。こうなったら……僕が取るべき行動はただ1つ! 前進あるのみ! 決められたパターンが封じられたなら、新しくパターンを作るだけだ! 機体の特徴と武器を最大限に使い、勝機を無理やりにでも手繰り寄せてやる!!)

 

 突然の行動が予想外だったのか、ナタリアの動きが止まった。その瞬間。その僅かな時間を見逃さず、正義は横滑りしながら腰にマウントしていたレーザー・ライフルを掴み、右肩のレーザー・キャノンを展開。

 2種類の射撃兵装の設定を連射モードにしてナタリア目掛けて砲撃を撃ち込む。威力は落ちるものの、初速は通常時より上回る。完全に先程までやられていた事の倍返しだった。

 

「クッ……照準が追いつかない……!」

 

 『流星零式』の高い機動力を活かし、正義はレーザー・ライフルとレーザー・キャノンの砲撃を叩き込んでいく。

 防戦一方になり、シールドエネルギーを削られていくナタリア。彼女はレーザー・ピストルで反撃を試みるも、正義の不規則で予測不可能な移動に対応出来ない。

 そうしている間に、正義は左肩の6連増ミサイルポッドから一斉にミサイルを発射。あらゆる方向から一斉にミサイルがナタリア目掛けて襲い掛かり、次々と直撃していく。

 

(どうして!? どうして諦めない!? こんな状況から私を押し返そうとするなんて……!)

 

 普通ならば詰んでいる。絶対に逃げられない。勝負を捨てていてもおかしくない状況なのに、御宅正義は覚悟を決めて自分の持てる力を最大限に使い、反撃を試みようと突っ込んできた。

 数分前まで完璧だった思考回路と戦況が一瞬の混乱と焦燥で崩壊した。相手を“詰ませた”はずの盤面が、泥臭い執念と狂気によって力任せにひっくり返されていった。

 

「ハアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

「ッ!」

 

 裂帛の気合と共に、右腕のバックラーからレーザー・ブレードを抜刀した正義。勢いと共に左手に握りしめたブレードでナタリアに斬りかかる。

 それを両腕のシールド裏に装備されているISブレードを引き抜き、紙一重の差で受け止めるナタリア。しかし、これによって生じた僅かな間合いが正義の本命だった。

 

「……この距離なら外す事はないな」

 

「……えっ?」

 

「ナタリアさん。…… Hasta la vista, baby!(さっさと失せろよ、この野郎!)」

 

 正義は空いている右手に何時の間にか持っていたショットガンの銃口を『闘牛(エル・マタドール)』の装甲に押し付けると、ニヤリと笑みを浮かべながら発砲。

 狂気じみた執念と闘志と共にゼロ距離から放たれたスラグ弾。その一撃は『闘牛士(マタドール)』を吹き飛ばすには十分すぎる威力を持っていた。

 

 

 

 

 

「なっ!? 今、何が起きたの……!?」

 

 目の前を覆い尽くす程の激しい閃光と爆煙。それらを見た刀奈は言葉を失い、立ち尽くしていた。日本国家代表の彼女もナタリアの強さを理解している。

 状況は誰がどう見ても完璧な詰みだった。相手の逃げ場を封じるナタリアの突進と弾幕攻撃。誰もが正義の敗北を確信していた。

 

「シールドの隙間に……何か、筒のような物を当てていたような……」

 

「有り得ません。ナタリアさんの防御を打ち破るなんて……しかもあの至近距離で爆発が……!?」

 

 布仏姉妹が目を見開いたまま戦慄の声を漏らすように、ISバトルの理論を超越した正義の捨て身の奇襲に、同世代の少女達の頭脳は完全にフリーズしていた。只一人を除いて。

 

「おいおいおい!今の爆発は一体何だ!? 正義の機体、あんな勢いで放たれる兵装なんて積んでなかったよな!?」

 

 純一が隣に座る簪へ詰め寄るように視線を向けると、簪は少しだけ誇らしげに、しかし呆れたように小さく息を吐いた。

 

「……ショットガン」

 

「は? えっ……それって、あの狩猟とかで使う奴か!? 背中のウェポンラックにそんな物あったか……?」

 

「……正義がどうしてもって言うから。シールドの隙間に直接ねじ込んで、密着状態で叩き込むだけに……私が特別に仕込んだの。機密扱いだから、内緒だけど」

 

「内緒だけど、じゃないでしょ! あいつの頭の中のISバトルのセオリーは一体どうなってんだよ!」

 

 純一は盛大に悪態を付きながら、目の中で構えを取り直している『流星零式』を見つめて戦慄する。

 

「あの野郎……最初から綺麗に勝つ気なんてサラサラなかったって事か。ハメ殺されるくらいなら、いっその事泥に塗れても相打ちに持ち込むつもりだったんだな……ハァ~マジで頭のネジ数本飛んでるだろ……」

 

「……でも、正義らしい」

 

 ポツリと呟いた簪の瞳には呆れと共に、自分の作ったパターンと仕込みを100%信用して命懸けで使い切った正義への、深い信頼と感謝が宿っていた。その一方、特等席では全く異なる空気が満ちている。

 

「アハハハハッ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 実に見事だ正義君!」

 

 カズマは響くような高笑いをしながら立ち上がり、惜しみない拍手を正義に送っていた。その瞳に狂おしいほどの歓喜と敬意を宿している。

 

「パターンを破られ、詰まされても、己の身を武器に変えて盤面ごと叩き割る! 防御と回避も捨て、敵の懐へ飛び込んで切り札を叩き込む! 最高だ! これぞ泥を舐めてでも勝利を掴み取らんと足掻く、“本物の戦士”の戦い方だ! 我が主君が見ていたら大喜びだ!」

 

「ええ……今もは完璧な一手でしたわ」

 

 ヴィクトーリアもまた惜しみない拍手を正義に送っていた。それと共に優雅に脚を組み直し、心底満足そうに目を細めている。

 

「自分の機体の性能と特性、そして武装を理解した上で、ナタリアさんの“シールドを一瞬開く瞬間”を完全に誘い出した。己を限界まで追い込んだ者にしか会得できない、恐ろしいほどの勝負勘と執念……あの子、本当に最高ね。あぁ……ますます財団に招き入れたくなったわ」

 

 聖騎士と財団の総帥が大絶賛を贈る横で、エレーナはポカーンと口を半開きにしたまま開け、開いた口が塞がらない様子で『流星零式』を見つめていた。

 

「あの~……彼、正気ですか……? 普通、あの状況で自分から突っ込みます……? シールドエネルギーの残量ギリギリですよ……? 頭のネジが飛んでるとしか思えません……」

 

「……えぇ~……何あれ。束さんの作ったISの概念、何か凄く泥臭い方法でゴリ押されてる気がするけど……あの子ってほんとにただの高校生……? 何だか狂ってない……?」

 

 ドン引くレベルで絶句するエレーナの隣では、あの篠ノ之束すらも呆然と目の前の後継を凝視していた。ISの生みの親たる天才の口から漏れ出たのは、称賛を通り越した“呆れと困惑”だった。

 

 

 

 

 

「このまま押し切る!」

 

 ゼロ距離でショットガンを叩き込まれ、爆炎とともに吹き飛んでいくナタリア。それを見ても正義は追撃の手を緩めない。

 ここで猛攻を加えないと試合に勝てない。それを誰よりも理解しているのだから。しかし、流石に超至近距離でのショットガンの発砲は応えたのか、その反動で軋んでいる右腕を気合で抑えつけ、再び鬼気迫る表情で、崩れたナタリアの懐目掛けて肉迫する。

 

(何て執念なの……!)

 

 一方のナタリアは爆煙と衝撃に視界を明滅させながらも、スペインが誇る次期国家代表候補生筆頭として、『闘牛士(マタドール)』としての意地と本能を発動させた。

 吹き飛ばされている状態のまま、背部のウェポン・ラックに右手を伸ばし、大型レーザー・ライフルを正義の胸元に向けて照準を合わせる。

 

「今度こそこれで幕引きです、マサヨシ!」

 

「なっ……!(大型レーザー・ライフルだと!?)」

 

 大型レーザー・ライフルを見た瞬間に回避行動を行う正義だが、ナタリアのトリガーを引くタイミングが1秒だけ早かった。至近距離から放たれた緑色の極太の光が『流星零式』を呑み込んでいく。

 光が収まった瞬間、正義の機体のシールドエネルギーが尽きた。それはつまり、試合終了と言う合図に他ならない。

 

「試合終了! 勝者、ナタリア・スアレス=ナバロ!!」

 

 アリーナに虚しく響き渡る勝者コール。歓声とどよめきが入り混じるアリーナの真っ只中で、ナタリアは手元の震えを抑え込めずにいた。

 

 

 

 

 

(……試合には勝った。ルール上、シールドエネルギーを残したのは私……でも……)

 

 試合後。ピットに戻って来たナタリアの胸を満たしていたのは、勝利の喜びでは断じてなかった。それは敗北した時の悔しさに似ている別の何かだった。

 

(それでも……私は“勝負”に負けた)

 

 ナタリアは完璧な勝ち筋を組み上げた。相手をハメ殺していた。その筈だった。しかし、それを正義は乗り越えて来た。自分が誇る猛攻と防御を今持ちうる全ての武器を使って真っ向から打ち砕いてみせた。

 もしもこれがISバトルと言うスポーツではなく、ISを使ってお互いの命を奪い合う戦争だったならば、間違いなく負けていた。例え泥まみれになろうと最後まで諦めない相手だったから。

 

「……見事でした、マサヨシ(私は……貴方に負けたわ)」

 

 敗者となった少年へ、控室に戻っていった彼に向けてスペイン流の最も深い敬意(サルート)を捧げながら、ナタリアは噛み締めるように呟く。

 

 

 

 

 

 その頃。ガックリと肩を落としながら控室に戻った。ガチャリ、とドアが閉まり、静寂が部屋を支配する中、正義は壁にドンッと拳を打ち付け、そのまま崩れ落ちるようにベンチへ腰掛けた。

 

「……くそっ!」

 

 両膝に肘をつき、大きく肩を落として床を凝視した。ポタポタと、汗混じりの滴が拳から床へと零れ落ちた。

 全力を尽くした。やれるだけの事はやった。『闘牛士(マタドール)』の猛攻に一度は挫けそうになるも、覚悟を決めてゼロ距離でショットガンを叩き込み、ナタリアの絶対防御を粉砕した。しかし、結果は敗北。後一歩届かなかった。

 

「(後一歩! 後一歩だったんだよ!……後一歩僕の判断が早ければ! 後一歩僕が反撃を繰り出していれば! 勝てたかもしれないのに……!)上には上がいるって事か……!」

 

 悔しさが頭の中を駆け巡ると共に、視界がじんわりと熱く滲む。頭では分かっていた。相手はスペインが誇る代表候補生だと。あの状況から一矢報いただけでも上出来だったと。

 それでも敗北の冷酷な現実と、己の無力さが重くのしかかって離れない。正義は敗北の重圧に顔を伏せ、悔しさを一人噛み締める事しか出来なかった。

 

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編の裏話を記します。

・スペインの代表候補生事情

元ネタはスペインの男子テニス界とバルセロナのラ・マシアをミックスさせた物です。

・Hasta la vista, baby!

ターミネーター2の名台詞です。これがやりたかった!


 早速主人公が負けました。でも作品のモチーフの1つにしている『激闘!クラッシュギアTURBO』では主人公が頻繁に挫折し苦悩する展開が多かった為、負けたり悩んだりする展開を増やす事を念頭にしています。
 それでも泥臭く頑張る主人公の活躍を書いていければと思います。

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