DS 〈デジタライズ・ストラトス〉リ・デジタイズVer. 作:LAST ALLIANCE
そして早くも(?)敵勢力登場! 次回からクラス代表戦に突入します。
1年3組のクラス代表決定戦が行われた次の日。重厚な城塞。それはヴィスコンティ財団の本拠地、ヴィスコンティ城塞。一見昔ながらのお城に見えるが、実際は米軍もびっくりな軍事基地もとい要塞となっている。その地下深くには無機質なIS格納庫が存在している。
優雅な調度品が並ぶ執務室。優雅にモーニングティーのカップを傾けながら、ヴィクトーリアは届いたばかりの国際紙に目を落とす。
『韓国IS協会およびハンボ財閥、違法買収・脅迫疑惑で大暴落——大統領自らが特別捜査官の投入を発表』
紙面に躍る文字を見つめているヴィクトーリアはふっと不敵な笑みを漏らした。
「……相変わらず容赦のない動きね、千冬」
織斑千冬。公式試合で負けたことがなく、大会で総合優勝を果たした事からも誰もが認める世界最強の元IS操縦者。現役を引退した今でも、ヴィクトーリア財団にとっても“可能な限り正面から争うのは避けるべき規格外の脅威”と認定されている。
その千冬が、まるで準備していたかのように寸分の狂いもなく韓国の利権構造を叩き潰した。その事実が記された紙面を指で軽くなぞりながら、ヴィクトーリアはふっと細い目を更に深めた。
(……それにしても、手際が良すぎるわね)
告発がなされてから国際IS委員会が動き、大統領が捜査を命じるまでのスピード。あまりにも無駄がなく、韓国側が一一切の弁明も捏造もできないほど“詰み”の状態に追い込まれている。
(千冬が迅速に動いたのは間違いないけれど……これほどの包囲網を即座に敷けたのは、提出された“証拠”があまりにも決定的で逃げ場がなかったからとみて良い。……例えば、言い逃れのできない音声の記録、ボイスレコーダーが最初から完璧な形で用意されていたとしたら?)
そこまで思考を巡らせていると、ヴィクトーリアの唇に艶やかな笑みが浮かんだ。
「(あの完璧主義の千冬に、これほど隙のない後手を打たせた……恐らく御宅正義が関わっている。ただ泥臭い試合を見せただけではなく、今回の裏での容赦ない手回しといい、ただの高校生の動きではないわね。一体どんな“秘密”や“過去”を隠しているのかしら?)ふふ……面白いわ。あの千冬も目をかけて利用し、そして守ろうとしている少年。どうやら私が思っている以上に凄いポテンシャルを持っているわね……」
どちらにしても、千冬の手によって国際IS委員会へ提出された“一本のボイスレコーダー”。そこに記録されていた泥臭い真実が、韓国の政財界を揺るがす巨大な激震となって駆け巡っている。これは変わらない。
(それに……あの織斑千冬が容赦なく動けたのは、背後にオメガモン……八神カズマがいるからこそね)
今 の世界を織斑千冬が表、ヴィクトーリアが裏を繋ぎ止めている存在だとすれば、八神カズマはヴィスコンティ財団が“絶対不干渉”を選択せざるを得ない絶対的な特異点。
IS学園とヴィスコンティ財団がお互いに刃を交えず、冷戦という名の静寂を保っている理由の根幹となっている。
(あの男が学園の影に控えている限り、私達も迂闊な手出しはしない。だが……その均衡の隙間で、御宅正義という少年がどう動くのか……)
「養母様! 私に一つ、お許しをいただきたい儀がございます」
ヴィクトーリアが新聞を綴じると、執務室のドアをノックしている音が聞こえて来た。入室が許可されると、エレーナが凛とした佇まいで進み出で、深く一礼する。
「私を、日本のIS学園へ編入させてください」
ヴィクトーリアは少しだけ眉を上げると、楽し気にティーカップを皿に戻した。
「IS学園へ? あそこにはあの織斑千冬がいるのよ? いくら協定があるとはいえ、財団の人間が入れば警戒されるのは目に見えているけれど?」
「承知の上です。ですが、温室の中でデータを眺めているだけでは、真に財団を背負う者にはなれません。見聞を広げ、本場の技術とパイロット達の空気を肌で知る必要があります。……そして何より」
「あの御宅正義という少年の可能性を、この目で見極めたいのです。彼のあの泥臭く異質な戦術……机上の計算を裏切る“何か”を直に味わい、できればこの手で刃を交えてみたい」
エレーナの瞳に静かだが鋭い闘志の火が宿り、そんな彼女の言葉を聞いたヴィクトーリアはくすくすと嬉しそうに胸を揺らして笑った。
「ふふ……ふははっ! ええ、素晴らしいわ、エレーナ。虎の穴へ飛び込み、その異物を喰らって肥やしにしようというのね。よろしい、特別編入の手配をさせましょう。あの千冬や正義君を驚かせていらっしゃい」
「感謝いたします、養母様!」
不敵な笑みを浮かべるヴィクトーリアと、決意に満ちた表情で礼を執るエレーナ。財団の未来を担う少女が静かに情熱を燃やしている一方、IS学園では報道されている韓国の大スキャンダルで少なからず衝撃が走っていた。
「……マジかよ」
IS学園の食堂。モーニングセットのトーストを口にくわえたまま、正義は食堂の大型モニターに映し出された海外ニュースを見上げて固まっていた。
画面の向こうでは、大混乱に陥った韓国の報道陣と、頭を抱える関係者たちの姿が映し出されている。これほどの韓国のスキャンダルは前世の記憶がある正義すら初めて見るレベルだった。
『チョ・ハンジン会長らの拘束および、ソヒョン選手の解放と権利回復』
(織斑先生が本気で叩き潰しに行ってくれたおかげで、完全に国家レベルの大炎上になってる……! でもこれで、ソヒョンさんは本当の意味で救われたんだ……)
「……なあ、正義。これ……もしかしてお前が何か仕掛けたのか?」
「あはは……」
隣で納豆ごはんをかきこんでいた純一が、食堂のニュース映像を指差しながら低い声で囁いてくる。
正義は箸を止めると、肩をすくめながら苦笑いを返した。言葉には出さず、ただ“察してくれ”と視線で告げる。大人の処世術だ。
その意図に気付いた純一は納得したように頷き、ニヤリと笑いながら親指を立てた。サムズアップに正義も応える
「正義! おはよう! 昨日の試合、本当にお疲れ様!」
「おはよう一夏! 君もお疲れ様!
そこへトレーを持った一夏達がやってきて、正義の健闘を口々に称える。ソヒョンが本国での事情聴取の為に早朝から一時帰国した事を話しつつ、一同の視線は再びニュースへと向かった。
「それにしても……すげぇ大事になったな。ソヒョンのところの協会、ほぼ全滅じゃないか……?」
一夏が複雑そうな顔で呟くと、向かいに座ったマドカが冷めた手つきでトーストにジャムを塗りながら鼻で笑う。
「当たり前だ。トップの汚職に企業買収、おまけに他国の代表への不当な圧力まで暴露されている。今後の調査次第ではまだまだ出て来てもおかしくない。これから利権の奪い合いと捜査で、向こうの政界とIS界は暫く血の雨が降るだろうな。自業自得だが……」
「ええ、マドカさんの言う通りですわ。失墜した信頼と崩壊した組織の再編には、相当な血と時間が流れることになりますわね……」
「これは立て直しに相当な時間がかかるな。かつての強豪に返り咲けるかどうか……」
(織斑先生、本当に手加減なしで叩き潰しに行ったんだな……もしかして韓国は今回だけじゃなくて過去に色々やらかしていたのでは?)
セシリアも紅茶のカップを傾けながら、優雅かつ現実的なトーンで同意する一方、純一は一般人目線で韓国のこれからが前途多難になる事を予言する。
大騒ぎになるニュース画面を見上げながら、正義は心の中で冷や汗を流しつつ、千冬の苦労を思い知るのだった。
「静かにしなさーい。騒ぐんじゃないの!」
それから数日後。ホームルームの時間。1年3組の教室。スコールのな声が教室に響き、ガタガタと騒ぎ立てていた生徒達が一斉に口を閉ざす。 壇上に立ったソヒョンは、どこかすっきりした、だが覚悟を決めた面持ちで静かに一礼した。
「……皆さんに、ご報告があります。私はこの度韓国代表候補生の資格を返上し、辞任することになりました」
『ッ!?』
ソヒョンの報告にざわつく教室。その後にソヒョンの口から淡々と語られるのは、ニュースの裏側にあった韓国協会と財閥の生々しすぎる脅迫や汚職のドロドロした内情。
聞いていた女子生徒達が引きつった顔でどん引いていく中、正義も人知れず冷や汗を流しながらドン引きしていた。
「……えげつな」
「政治怖……」
(うわぁ……僕が握ってた録音データ以外にも、そんなヤバい裏工作まで横行してたのかよ……韓国のIS協会どんだけ腐ってたんだ……)
「……これからは、一人の普通の生徒として、この学園で学び直したいと思っています。今までご迷惑をおかけしました」
再び深く頭を下げるソヒョン。拍手が起きる中、スコールが次の話題に移った。
「と言う訳で今後も韓国は大変な時期になるとは思います。ソヒョンさんと仲良くするように。そして次のクラス代表はナタリアさんになるわけだけど……」
「先生、待ってください」
ナタリアがすっと手を挙げ、力強い足取りで前へ出ると、教室中を見渡してから言葉を発する。
「私はその権利を辞退します。代わりに正義君を3組のクラス代表に推薦します。……あの試合で、ボロボロになりながらも最後まで勝利を諦めず、私に一撃を叩き込んだのは正義君。彼こそが、泥を啜ってでも勝ちを掴み取れる“真のファイター”であり、この3組の代表にふさわしいと考えました」
「……えっ?(ちょっと待って!? なんでそうなるの!? 僕そういう目立つポジション一番嫌なんだけど!?)」
突然指名された正義は、ガバッと顔を上げて思いきり頭を抱えながら内心で絶叫する。 そんな正義をよそに、ナタリアは満足そうに頷くと、教室全体に向かって拳を突き上げた。
「皆、これからは正義を中心に3組を最高に盛り上げていきましょう! 私も副代表として彼を全力でサポートするわ!」
『ウオオォォォォォッ!!!!!』
「……僕の平和な学園生活が……どうしてこうなった……」
クラス中から湧き起こる歓声と拍手。完全に逃げ場を失った正義は、机に突っ伏しながらと小さく呻く事しか出来なかった。
「はぁ……何で僕がクラス代表なんて目立つ羽目になってるんだよ……」
「まあまあ、正義。そう落ち込むなって。ナタリアさんにあれだけ熱弁されたら断れないだろ。諦めて腹くくれって」
「……正義、似合わないけど……頑張って」
チャイムが鳴り、スコールが教室を出て行った直後。正義は廊下で純一と簪にクラス代表就任について話をした。
ガックリと落胆する正義の肩を叩く純一が苦笑いを浮かべる一方、隣の簪もとボソッとフォローを入れる。
「正義さん。私のせいでこのような事になってしまい、本当にすみません……」
「いや、気にするなって。ただ、僕の静かな学園生活が遠のいただけだから……」
「よっ、正義! なんか3組、朝からめちゃくちゃ盛り上がってたな!」
「ちょっと一夏、勝手に先に行かないでよ!」
正義がげっそりした顔で顔を上げたその時、彼らの所に一夏と、ツーサイドアップの髪を揺らした小柄な少女―
「君は……」
「初めまして。アタシは凰鈴音。中国の代表候補生。アンタの事はナタリアから聞いているわ」
「そっか。……おかげで僕は3組のクラス代表になっちゃったけどね」
「ふふん、実は私も今日、正式に2組のクラス代表に就任したのよ! 次のクラス代表決定戦……お互い代表として、正々堂々良い試合にしましょう!」
「……ああ。引き受けたからには手は抜かないよ。よろしく頼むよ、静さん」
肩をすくめる正義に対し、えっへんと胸を張る鈴。まっすぐで誇り高い鈴の視線を受け止め、正義は苦笑を消しながら静かに頷いた。
そして鈴はまっすぐソヒョンの元へ歩み寄ると、真剣な眼差しで声をかけた。
「ソヒョン……大変だったわね。話は聞かせて目を通したわ」
「……鈴。ありがとう。でもそっちも大変でしょう?」
「まあね……韓国のドロドロも大変そうだけど、うちの国だって表面上派手にやってるだけで、中はガラガラよ」
突然の言葉に驚くソヒョンに、鈴は少し困ったように肩をすくめると、中国のIS事情を話し始めた。
「IS産業ができた時は“これで新しい雇用が何百万規模で生まれる”なんて大見栄切ってたけどさ。蓋を開けてみれば必要なのは超ハイテクな技術者か適性者だけ。大学を出た若い子たちがIS関連の工場や整備企業の面接に殺到して、結果ほとんどが路頭に迷ってるのが現状よ」
「……中国でも、若者の失業問題は解決していないのですね」
「解決どころか、逆に悪化していると言える状況よ」
ソヒョンが静かに相槌を打つと、鈴は苦々しい顔で肩をすくめながら話を続ける
「それどころか不況のせいで、専用機の次世代機開発プランだって予算凍結の危機なんだから。国家代表なんて言っても、裏じゃ“早く結果を出して予算を引っ張ってこい”って軍や党の上層部からツツかれまくりよ。まったく、やってられないわね」
(大国は大国で……背負ってる闇が重すぎるだろ……と言うか中国も中国で大変だな……)
横で二人の会話を聞いていた正義は、思わず心のなかで胃を痛めながら頭を抱えるのだった。
「主席だか上層部だか知らないけどさ! 自分の周りにイエスマンしか置かないから、下々の現実がこれっぽっちも見えてないのよ! “我が国のIS産業は順調である”とか大威張りしてるけど、現場は予算削られてカツカツだっての!」
「やはり過去の粛清が足を引っ張っていますね」
「そうよ! それに不況で開発が滞ってるなら、素直に他国と技術協力すればいいじゃない? なのに“大国のプライド”とか言って意地でも自前主義を崩さないの! そのしわ寄せが全部現場や予算に来るんだから、たまったもんじゃないわよ!」
「どこも……上層部の考えることは同じなのですね」
「ホントよね! 上の連中を一回全員現場でしばいてやりたいわ!」
(……成る程なぁ。鈴さんも相当ドロドロした大人の事情を背負わされてるんだな……どこも大変だ……でも実力以前にメンタルがたくましすぎるだろ……))
苦笑いを浮かべるとソヒョンと意気投合しながら会話に話を咲かせる鈴を見て、正義は彼女の言葉の端々に滲む苦労を感じ取り、心の中でしみじみと同情した。
午前中の授業が終わって昼休みの時間となった。食堂へ向かって廊下を歩いていた正義の前に、ひらひらと手を振る人物が立ちはだかった。
「やあやあ、正義君! ちょっといいかな?」
「更識先輩!? お疲れ様です!」
扇子をパチリと閉じるのは更識刀奈。正義がお辞儀をすると、刀奈はお辞儀を返してからニッコリと艶やかな笑みを浮かべる。
「ふふっ、お疲れ様。実はね、お知らせをしに来たよ。今日の放課後から、私が正義君の“専属コーチ”を務めることになりました〜!」
「えっ!? 専属コーチですか!? ありがとうございます! こんな僕の為にわざわざ……!」
「そんなにかしこまらないで。実はね、この前のクラス代表決定戦私も見ていたの。その時の正義君、実力と経験差、機体の相性を戦い方や泥臭さでカバーして戦っていたでしょ? その時に感じたの。“実力や技術はまだまだだけど、自分の機体の特性を把握し、相手を観察して戦い方を組み立てられる洞察力……これは間違いなく伸びる”って」
「そんな事はないです。あれは全て簪さんのおかげなので……」
「ふふ。聞いたわよ全部。でもね正義君。人から教えられた戦い方を吸収し、それを実行出来る事は決して簡単な事じゃない。それに、ショットガンと言う保険も用意するその用意周到さ……間違いなくIS操縦者として化けるわ」
「ありがとうございます! しかし、よく引き受けてくれましたね。あれからまだ数日しか経っていないのに……更識先輩は生徒会長ですよね? もしかして生徒会の権限使いました?」
「違うわ。八神先生が私を適任と認めたのよ」
意外な人物の登場に首を傾げる正義に、刀奈は補足説明として話を続けた。
1年3組のクラス代表決定戦が終わった翌日。刀奈は千冬に直談判し、そこからカズマに話が繋がった。
千冬から話を聞いたカズマは正義の専属コーチを考えた所、最初は簪を指名しようと考えていた。彼の戦術的思考と整備知識を伸ばすつもりでいたからだ。
しかし、クラス代表決定戦の試合を直接観た事でカズマの考え方が変わった。今の正義に必要なのは実戦で専用機の戦い方を覚える事。それには刀奈の方が適任と思い、刀奈に依頼して今に至る。
「そういう事だったんですね……」
「まぁ、八神先生が去年私の担任を受け持ったから出来た話なんだけどね」
「そうだったんですか!? え、ちなみに八神先生ってどんな人なんですか? 僕のイメージでは凄いデジモンの事を分かりやすく、熱く語る印象が強いんですけど」
「うん。そのイメージは正しいわ。ただね、八神先生は“皆の頼れるお父さん”と言う認識が強いの」
「“皆の頼れるお父さん”……?」
刀奈は人差し指を唇に当てると、どこか柔らかい眼差しで正義を見つめながら説明を続ける。
「専用機持ちや代表候補生になれるなんて、この学園でもほんの一握りだからね。残りの皆はIS企業に就職し、整備士やオペレーターになったり、一般の大学に進学して別の道を歩むの。織斑先生は実績のあるトップ選手を鍛えるのが専門だけど……それ以外の大部分の子たちの進路やメンタルを支えているのが、八神先生なの」
刀奈はふふっと鼻歌を混じえながら、どこか誇らしげに胸を張る。それは1年間カズマの事を見ていたからこそ分かる“何か”があった。
「あの人、生徒の悩みを自分の事みたいに聞いてくれるの。勉強に行き詰まった子には夜遅くまで付き合うし、進路で親と揉めてる子の間に入って一緒に頭を下げてくれるの。そのおかげで難関大学に合格し、就職活動で一流のISメーカーに内定をもらえた先輩も何人もいるんだから」
「それは凄い……! と言う事は2学期に入ってからが八神先生にとって本当の戦いが始まるって事ですか?」
「そうね。夏~秋から始まるこの時期は、3年生で一般生徒にとっての“勝負の時期”だからね。進路指導室は八神先生の独壇場なのよ。噂では八神先生専用スペースがあるとかないとか」
「そこまでやりますか普通!?」
「先輩から前に聞いた話なんだけど、夜通しで生徒の面接練習に付き合ったり、小論文の添削を寝る間も惜しんでやっているみたい。織斑先生からも“頼むから寝ろ”と毎日怒られているけど、何故か分からないけど毎日元気でやっているのよね~それで、生徒が無事に合格や内定が決まった時は自分のことみたいにはしゃいで、生徒と一緒に抱き合って喜ぶの。……ふふ、素敵な先生よね」
カズマは男性である事からISを動かす事が出来ない。しかし、だからこそ何もしない訳ではない。IS学園のいる大多数の一般生徒の事を第一に考え、自分の命を削る覚悟で毎日の業務に挑んでいる。
「そんな八神先生だけど……実は文化祭の時期になると人格変わるの」
「文化祭? ……あぁ~! 思い出した! 去年行った時にうどん屋さんやっていましたよね? 思わず二度見しましたよ!」
「あ、去年行ってたんだ! あのうどんは世界各国の首脳の胃袋を鷲掴みにしたし、夜の野外ステージでDJやって皆を楽しませたんだよ!」
「DJしてたんですか!? それは知らなかった……!」
想像を絶する教官の宴会部長ぶりに正義は呆れと困惑で開いた口が塞がらない中、刀奈はニコリと笑いながら正義に告げた。
「というわけで! 今日の放課後はアリーナに集合ね。クラス代表戦に向けて、み〜っちり絞り込んであげるから覚悟しておいてね、正義君♪」
「はい! 手加減せずによろしくお願いします!」
こうして今日の放課後から専属コーチに就任した刀奈との特訓が始まった。正義は特訓を頑張ろうと心に決め、食堂に向かっていった。
「ふむふむ、基本操作はバッチリだね! さすが簪ちゃんにしごかれただけはあるよ。……じゃあ次は、正義君の専用機、『流星零式』の最大の武器になる“機動力”の使い方の話をしよっか」
「お願いします!」
授業が終わった放課後。正義は『流星零式』を身に纏い、刀奈との特訓に挑んでいた。先ずは一通り基本動作の確認。これはシミュレーターで戦術を覚えると共に、訓練機を用いて簪からみっちり叩き込まれた。
「正面から打ち合わない“いなしの戦術”を成立させるにはね、ただ回避するだけじゃ駄目。相手の視界から一瞬で消える“緩急をつけた高速移動”が必要なの」
「……瞬間移動みたいな感じでしょうか?」
「そうそう。最初からトップスピードを出すこと自体より、最高速から一気にゼロに落として間合いを狂わせる……この“制動”が肝だよ」
「最高速から一気にゼロに……う~ん……難しいなぁ……でもやってみせます!」
刀奈の実演交じりの説明を受け、早速実践し始める正義。その動きは何処かぎこちなさはあるものの、少しでも上手に出来るようになろうとしている意志が伝わって来る。
まだ入学して日が浅く、授業もあまり進んでいない中でここまで出来るのはむしろ上出来だ。そう確信した刀奈は満足げな笑みを浮かべた。
「ここで一歩踏み込んで相手の懐に入る! ほら、今! 今入らないと! 相手に付け入る隙を与えるわよ!」
「クッ……すみません! 判断に迷った……」
その後は実戦練習。刀奈の専用機―『蒼龍』との実戦を通じて戦術パターンを徹底的に体と脳に刻み付けていく。
『蒼龍』が振り抜いた蛇腹剣―
(あれ? 僕のうろ覚えな原作知識でもおかしいとしか思えない。刀奈さんの専用機、
自分の原作知識との相違に再び困惑している正義は刀奈との特訓を終えた。特訓を終えた後、廊下を歩きながら食堂に向かう。
普段だったら自炊している為冷蔵庫にある残り物を食べるのだが、この日は残り物が余らずに食堂を使う羽目になっていた。
「刀奈さん、今日はありがとうございました。僕はまだまだなので今後もよろしくお願いします!」
「ふふ。私も沢山学んだわ。明日もよろしくね」
「よろしくお願いします!……あ、そうだ。刀奈さんの専用機……何か前に見た時と大幅に変わりましたね。前はもう少し装甲が少なくて、水のヴェールで身を包んでいたような……」
「あはは、バレちゃった? さすが正義君、目ざといね。実はね、ヴィスコンティ財団の技術提供を受けたの」
「ヴィスコンティ財団が……?」
正義が首を傾げながら怪訝そうな表情になると、刀奈は正義が財団を疑っていると気付き、それを否定するように話し始める。
「大丈夫。これは私が頼んだ事なの。実は元々の機体も良かったけど、何だか出力や防御面に限界があったの。これをどう改善しようか色々やったけど、実家の会社に頼んでもどうにも駄目で……」
「そこを助けられたんですか?」
「うん。八神先生の依頼で財団から“特別なデータ”を提供してもらってね。大気中の水分を攻防一体で操れるようになったし、何より防御力が桁違いになったの。データと言っても怪しい物じゃないから安心して。……ちなみにランスは変形してランチャー砲として使えるけど、ISバトルで使用不可ときつく言われているの」
「えっ!? じゃあ何の為に搭載しているんですか? ISバトルで使えないなら搭載する意味ないじゃないですか」?
正義の尤もらしい指摘。それを聞いた刀奈は苦笑いを浮かべながら答える。
「正義君。私はIS学園の生徒会長。IS学園最強として、有事の際は教員部隊と共に敵に立ち向かわなければならない。だからこそあの武器を持つように八神先生が財団に依頼したの」
「えっ!? 八神先生が!?」
「あまり大声を出さないの。実は財団の総帥と技術顧問の2人は最初大反対したの。個人が持つには過剰火力過ぎると。アラスカ条約に違反する可能性があると。それでも先生は頭を下げて依頼したの。いざと言う時の為に必要となる物だから……と」
屈託のない笑顔で語る刀奈だったが、その言葉には一真への深い尊敬と強大な力を正しく使いこなして見せると言う強い思いが宿っていた。
「そこまで八神先生は学園を思ってくれているんですね……」
「そうそう。でもねぇ~そんな八神先生の頑張りを理解しない人達もいるのよ。一部の女尊男卑思考が抜けない頭の固い教師や生徒が“八神先生はISも動かせない給料泥棒だ”なんて陰口を叩いてたりするし」
「そう言えば、廊下とかでたまに心無い言葉を言われてるのを聞いたことがあります。八神先生は気にしてなさそうでしたけど」
正義が苦々しい顔で頷くと、刀奈は可笑しそうに笑い飛ばした。
「ほんと、何も知らないって幸せだよねぇ。あの人達が“給料泥棒”って馬鹿にしてる八神先生、本当はIS学園教員部隊の総隊長で、私たちが束になっても勝てない“影の守護神”なのにさ」
「……え? はい……!?」
「織斑先生でしょ、山田先生でしょ、ナターシャ先生でしょ……ついでに生徒会長のこの私。あの先生、私達全員を生身の戦術と戦闘技術で叩きのめしているんだよ?」
「は、はいぃぃ!?」
正義は驚きで目を丸くし、あまりの規格外すぎる裏事実に開いた口が塞がらない。
原作アニメではIS学園における教師最強が織斑千冬、生徒最強は更識楯無。この認識を抱いていたからだ。
(ま、マジかよ……! 織斑先生や刀奈先輩……あの怪物達を素手で叩きのめしたのか!? あの人こそ本当の化け物だ!)
その瞬間、正義の頭の中でバラバラだったピースが完璧に噛み合った。
(……あ、そうか! だから八神先生は、あの“財団”の総帥たちや篠ノ之束と対等……いや、それ以上に圧倒的な威圧感で交渉できてたんだ。あの人たちからすれば、八神先生は“手を出したら返り討ちに遭う真の化け物”だったんだ……!)
「だからね、正義くん。その先生が直接見込んで“自分の持ち味を活かせ”ってアドバイスをくれたんだから、自分に自信を持ちなよ。正義君に教えを授けたのは、世界で一番強くて格好いい教師なんだからさ♪」
刀奈のウィンクに微笑みながら頷く正義だったが、その次の話題で早速カズマのイメージを木っ端微塵に破壊された。
「あ、でもね。そんな八神先生も榊原先生にだけは絶対頭が上がらないんだよ」
「榊原先生に……? どうしてですか?」
「新人教師だった頃にお世話になっていたんだって。まだまだ未熟な所を何度も助けられたから頼みを断れないみたい」
「あぁ~八神先生は義理堅いですからね……納得です」
正義は苦笑しつつも、そんな人間味あふれるカズマの姿を思い描き、肩の力がすーっと抜けていくのを感じていた。
「それとナターシャ先生にはタジタジになっているみたい。これは簪ちゃんから聞いたけど……」
「それですか……何か毎日のように求婚されているとか何とか」
「うんうん♪ しかも榊原先生もだって。私、前にその光景見た事あるの。先生は毎回“自分にはそんな資格はありません”とか言って真面目に断ってるんだけど、二人とも全然諦めてなくてねぇ……私に愚痴る事もあるくらいよ」
「何か、ナターシャ先生は八神先生を尊敬していると聞きました。それが高まって恋愛になったのかも……」
「ふふ。八神先生も罪な男ね♪」
同じ頃。何処かの世界。暗海に浮かぶ孤高の人工島。その中心にそびえ立つ巨大な建造物の最上階には、月明かりすら届かない冷徹な部屋があった。
室内に広がる無数のモニター。その青白い光に照らされているのは、一人の少年の横顔だった。モニターを見つめる彼の表情は、一言では言い表せないほど険しく、その瞳の奥には昏い炎が揺らめいている。
「う~ん……どうしようかな?」
少年の名前は佐藤拓海。かつて世界で2人しか存在しない“男性のIS操縦者”だった。しかし、その希少性が彼にもたらしたのは栄光ではなく、底なしの地獄だった。
IS学園という歪んだ檻の中で受けた、執拗な差別、侮蔑、そして人間の尊厳を徹底的に踏みにじる過酷な日々。精神を病み、自らの命を絶とうとさえした。だが、死ぬことすら許されなかった彼を拾い上げたのが、この暗闇の住人達だった。
かつて、この場所で儀式は行われた。旧IS学園跡地。今は少年の本拠地であり、彼のいる世界を統治・管理する為の本部となっている。
世界そのものを生贄に捧げる“蝕”のごとく、ISとそれに関わった者たちを例外なく“データ”へと変換し、根こそぎ喰らい尽くす。その莫大なデータを吸収したことで、少年は究極のデジタル生命体“アルカディモン”へと転生を果たしたのだ。
しかし、真の地獄はそこからだった。規格外の存在であるアルカディモンの肉体を維持するためのコスト。それは尋常な量ではなかった。常に膨大なデータを消費し続けなければ、その存在自体が崩壊してしまう。
ならばこの世界に残っている膨大なデータを吸収すれば良い。普通ならばその考えに至るのだが、拓海にはまだ人間としての良心が残っていた。
―――僕が憎んでいるのはISとそれに関わっている連中だけだ。無関係な人々を巻き込みたくない。
その一心で、拓海は世界各地に自らエネルギー施設を開発し、必死に運用することで必要データを賄おうとしていた。転生の際に吸収したISのデータを使い、無人作業用ISを作成して実体化した上で。
しかし、現実は甘くなかった。モニターに映し出される供給効率は劣悪の一言。消費に追いつくはずもなく、根本的な解決には程遠い限界の状況だった。
「相変わらずそう険しい顔をするな、我が友よ」
「バルバモン……」
背後の闇がぐにゃりと歪み、老いた、しかし圧倒的な威厳を孕んだ声が響いた。
現れたのは、七大魔王の一角、強欲を司るバルバモン。そしてその傍らには、特徴的な巨大な漆黒の翼をした死神、デスヘルモンが音もなく控えていた。
「これ以上、お前がその優しさで身を削る必要はない。アルカディモンの維持コストの件……我に名案がある。お前の手を汚さず、莫大なデータを一気に手に入れる方法だ」
「名案って……どこからそんなデータを確保するの?」
拓海が静かに振り返りながら尋ねると、バルバモンは邪悪な笑みを深めながら、手元のモニターを操作して一つの座標を示した。
「無関係な人間を巻き込みたくないのだろう? ならば、巻き込むべき“有罪の人間”から奪えばいい。……我らの準備は整った。全ては、お前のために異世界を侵略する」
「異世界か……でも僕が侵略してもいいと思える世界? それって何処?」
拓海による掠れた声で、しかし確かな緊張を込めた問いかけ。それに応えるべく、バルバモンは杖をコツンと床に打ち鳴らし、確信に満ちた声で答えた。
「決まっている。お前をそこまでの絶望へ追いやり、地獄の底へと突き落とした……あの憎き“IS”の存在する世界だ。あそこのデータなら、お前も拒まぬだろう?」
「……ッ!」
拓海の胸の奥で、蓋をしていた復讐心が爆発するように燃え上がる。これなら無関係な人は傷つかない。自分を地獄に落とした奴らから、自分の命を繋ぐ糧を奪うだけだ。彼は拳を強く握り締め、力強く頷いた。
「ああ……分かった。それなら、僕も了承する」
少年の言葉を受けたバルバモンは隣のデスヘルモンへと視線を移すと、デスヘルモンに命令を告げる。
「デスヘルモンよ。手始めに、あの世界の“IS学園”を急襲せよ。敵の戦力を測ると同時に、女達が絶望し、恐怖する負のエネルギーを限界まで吸い上げ、この少年に捧げるのだ。お前の力と
少年のためにそこまで手を回していたバルバモンと、それを受け入れるデスヘルモン。少年はデスヘルモンに向かって深く頭を下げた。
「……デスヘルモン、お願いします。僕の為に、あいつらを蹂躙してきてください」
すると、デスヘルモンは肩をすくめ、その禍々しい外見からは想像もつかないほど、軽やかで不敵な笑い声をあげた。
「へっ、任せときな! 根暗な魔王様の命令だけじゃ気乗りしねえが……相棒の頼みとあっちゃあ、死神も張り切らざるを得ないねえ!」
「お主……もう少し我の扱いをだな……」
「気にするんなって! 特上の
デスヘルモンは空間を切り裂くようにして闇の中へと消え去り、異世界へと旅立っていった。静まり返った部屋に残されたのは、少年とバルバモン。
そして明滅するモニターの画面には、先ほどまで赤色だったエネルギーの警告灯が、不気味に点滅している。
「アルカディモンの維持コストは大変だが、心配するな。何も心配はいらん」
バルバモンは少年の肩に冷たくもどこか慈愛すら感じさせる手を置くと、少年をまるで我が子のように慈しむ視線で見ながら励ます。
「あの世界の人間どもをすべてデータに変えれば、そんな問題はすぐに解決する。お前の受けた苦しみ、すべて晴らしてやろうぞ」
魔王の励ましを受けながら、少年はモニターの光の向こうにある、かつて自分を虐げた世界へと思いを馳せ、静かに狂気の笑みを浮かべるのだった。
LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編の裏話を記します。
・主人公のイメージ
あくまでベルセルクのガッツをモチーフにしていますが、気が付けば『幼女戦記』の主人公のターニャみたいになっている件について。
・中国の代表候補生事情
今回は鈴の中国について掘り下げてみました。中国の抱える問題を踏まえつつ考えましたが、如何ですか? 意外と原作世界でもそうなってそうです。
・八神カズマ
前作の主人公で今回は裏主人公。八神カズマことオメガモン。オメガモンが学校の先生で進路指導したり、文化祭でうどん作ったり、DJやったり。割とシュールに思えます。
でも生徒思いで有事は指揮官になって対応。え? 織斑千冬がいるから大丈夫? 実はカズマが派遣されたのには理由がちゃんとあります。これは後程。
・敵勢力について。
ここまでアンチ・ヘイトタグの回収。以前凍結した小説の主人公の設定を敵の背景に使いつつ、ベルセルクのグリフィスモチーフにしました。
もし皆さんの希望があれば、少年の過去を詳細に記します。ただ作者の負担がエグいのでその時はアンケートを取ろうかな?と思います。
所属する敵デジモンや専用機持ちは後程登場しますが、各々強くてストーリーがあり、一癖も二癖もあります。
裏話はここまでになります。
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