SPIDER-MAN:Earth『ZZZ』   作:糸吐く不審者

15 / 15
ちょっと今週VOL.2終わらせるために調整します。


7『それでも、』

「開発品の実証実験ですか? オクターブさん。精が出ますね」

「キミの目に、本当にそう映っているのであれば――――街を守る『親愛なる隣人』の名が聞いて呆れるよ。スパイダーマンくん」

 

 ……正直、わかってた。白祇重工の廃材置き場で、ホログラムを建材に重ねたあの瞬間から。

 ジニー自身はホログラムで生み出した『T.E.T.R.A.』に、若干の誤差はあるかもしれない、と。そう言ってた。

 

 でもジニーが生み出したホログラムは実物とほとんど差がなかった。……本当に、残酷なまでに精巧だった。

 

 身体に刻まれた、アームに掴まれた時の感覚と――――間近で観察したあの時の記憶がそう叫んでいたからこそ。建材に残された爪痕とホログラムを重ねた時に、わかってしまった。

 

「どういった情報網かは知らないが、私がここに『何をしに来たのか』は理解しているんだろう? でなければ、こんなに蜘蛛の糸を張り巡らせたりはしないだろうに」

「……ッ!」

 

 反応が遅れた。アームの一本が手近な――――僕が身体を乗せている糸に伸び、三本の爪が引っ掴む。そのまま糸を巻き取るように高速で回転し、組み上げた蜘蛛の巣が引き裂かれる音が背後から聞こえてきた。

 

 手を離すタイミングも逃した。足場代わりにしていた糸ごと、僕の身体は眼下のオクターブさんを目掛けてグン、と引き寄せられ、慣性は完全にオクターブさんへと――――

 

「大したモノじゃないか」

 

 咄嗟に右手を地面に伸ばし、手のひらのボタンをダブルタップ。伸びた糸は地面に貼り付き、手繰り寄せることで地面に転がるように着地する。

 

「先程の発言は撤回しよう。街の平和を守ってきたのは事実のようだ。しかしまるで戦意が感じられないね? このままでは私に殺されてしまうよ」

「――――当たり前じゃないですか。僕は別に、貴方を殺しに来たわけじゃない」

 

 確か、アーム一本につき車一台持ち上げられるほどの性能があるはず――――それなら、

 

「僕は貴方を止めに来ただけですから、ね!!」

 

 アームの一本を目掛けて両手を伸ばし、糸を射出。シングルタップで、リリース――――!! 二本の糸を束ねて引っ掴んで駆け出し、手近なエーテル結晶に貼り付けた。

 このまま、もう一本、

 

「――――『T.E.T.R.A.』の性能を知っているような立ち回りだね。だが、」

 

 ミシ、と何かが軋むような音。咄嗟に背後を振り向いたその瞬間に、エーテル結晶が、根元から、

 

「ぁ、づ!!」

「糸が保っても貼(・)り(・)付(・)け(・)た(・)方(・)はどうかな!!」

 

 背中に衝撃が走る。アームによって引き寄せられたエーテル結晶ごと身体が吹き飛び、視界が凄まじい速度で過ぎ去っていく。ムズ、と後頭部が擽られるような感覚があって、

 

『あるじ!!』

「わかってる!!」

 

 アームが眼前に迫る。咄嗟に頭を傾けて、寸でのところで刺突を躱し、両手を地面について真上へと高く跳躍――――見えてない。見えてないけど、わかってる。もう一本が迫ってきてる。

 

『九時の方向、廃墟!』

 

 左手から糸を伸ばして身体を引き寄せ、そのまま壁に両手足で貼り付いた。

 呼吸、呼吸。呼吸を整えろ。わかってるだろ、この人の発明はすごい。気を抜くな。気を抜けば、会話すらもままならない――――!

 

「話を聞いてください、オクターブさん!!」

「キミと話すことは何もないよ、スパイダーマン!!」

 

 声。声は――――真下! アームの先を壁に突き刺し、僕を目掛けてよじ登ってきてる!!

 

「私はこのままキミを殺し、白祇重工の社員を全員殺す――――」

 

 跳躍……は、間に合わない。アームの一本が迫り、僕の身体を壁に磔に、

 

「――――エーテリアスに襲われて起こってしまった、不幸な事故としてね!!」

 

 壁が軋む音。息が、上手くできない。押し付けられた身体は壁をぶち抜き、廃墟の内部へと転がり出る。

 

「ッ、ッ……それは本当に、貴方の本心ですか!? 貴方のやりたいことなんですか、オクターブさん!!」

 

 受け身を取る。立ち上がる。視界に入った廃材に糸を伸ばして括り付け、頭上で大きく振り回して投げつけた。

 

「――――、ッ」

 

 一瞬。ほんの一瞬の、動揺の色。オクターブさんの体スレスレを目掛けて放った廃材はアームによって弾かれ、鈍い音をたてながら床を転がった。

 

「違うでしょう!? ホロウ災害でこれ以上、誰かを失わないために――――誰かがこれ以上涙を流さないように……ッ!! それが貴方の、願いなんじゃないですか!?」

「ッ、知ったような口をきくな!!」

 

 床に転がった廃材が投げ返される。狙いすら定めず、僕の身体を捉えることもなく――――ガラン、と虚しい音だけが辺りに響き渡る。

 

「今私が、どんな気持ちでここに立っているか知らないくせに!!」

「知りませんよ。何も知らない!! だから今、貴方の口から聞くために、僕はここにいる!!」

「愛する妻と子供すら守れない私が、ホロウ災害から人々を救うなど――――」

 

 ――――まるで仮面が崩れていくように、口からまろび出たその本音を、聞き逃さない。

 

「奥さんと子供が人質に取られているんですか? だから仕方なくこんなことをしてる。そうですよね!?」

 

 廃材の痕と、ホログラムの爪を重ねた時点から――――オクターブさんによる犯行だとわかってた。

 それでも彼を信じたくて。もっと、確かな証拠が欲しくて……H.A.N.D.の監視施設のメインコンピュータから吸い出したカメラの映像。

 

 ……その映像には、『T.E.T.R.A.』のアームの先が映り込んでしまっていた。

 

 何度も何度も、ジニーと照合を繰り返したよ。

 それでも間違いなくて。無情な現実だけが、突きつけられて。

 それでも『なんで』と『どうして』の心が捨てきれなかったのは。何か理由があるはずだと、オクターブさんについて調べて――――色んな要因を、原因を、考え続けたのは、

 

「……あんなに悲しそうな顔で旧都陥落のことを語って……それでも努力を繰り返し、開発をやめないような人が……何の理由もなしに人を殺そうとするなんて、僕は思いたくない」

「……ッ、…………」

「何よりその子は……『T.E.T.R.A.』は、そんなことの為に作ったわけじゃないでしょう……?」

 

 ……僕が凄いと思ったのは、思わず目を輝かせて見入ってしまったのは――――彼が生み出した兵器では無い。

 

 彼が生み出した、人を救うための発明品だから。

 

「貴方がその子を発明したその時に思い浮かべていたのは、無数の死体の山でしたか?」

 

 一歩、歩み寄る。

 

「その子にねじ伏せられ、踠き苦しむ『誰か』でしたか?」

 

 もう一歩、一歩と。

 

「違うでしょ。……貴方が守りたい『誰か(家族)』の笑顔だった。違いますか?」

 

 手を伸ばせば届く距離。それでも、俯いた彼の表情は読み取れない。

 

「さっき言った通り、貴方が今――――どんな気持ちで、なんでここに立っているのかはわからないです。でも僕は、貴方がどんな気持ちで開発を繰り返してきたかはわかります。だって――――、」

 

 指先で自分の首元に触れる。マスクの端を親指と人差し指で掴んで、ゆっくりと持ち上げて、

 

「ピー、ター……?」

「僕も、貴方の同類だから」

 

 マスクを額まで持ち上げたところで……ようやく、オクターブさんと目が合った。

 

「……あの日、貴方の開発物の数々に胸を打たれたんです。講演にだって、『T.E.T.R.A.』にだって。心の底から凄いって思いました。徹夜でこのスーツを仕上げて、眠くて眠くて仕方なかったのに――――帰ってからまた、少しだけ……いや、だいぶスーツを弄り直すくらいに」

「――――、」

「目の前にいる僕は『親愛なる隣人』じゃない。ピーター・パーカーです。それでも、僕には話してくれませんか?」

 

 ……しばらくの沈黙がある。オクターブさんは僕の目と、マスクに添えられた手を交互に見て、口元を歪めた。

 

「……なるほど。『T.E.T.R.A.(この子)』と私に対して、親身になってくれるわけだ」

 

 吐き出されたのは震えた声。堪えきれなかった涙が頰を伝い、床に一滴、また一滴と落ちていく。

 

「キミの推測通り。私は家族を人質に取られ、今ここに居る。しかし……一時の嫉妬と焦りに耐えきれず、悪魔の手を取ってしまったのは事実だよ。こればかりは変わらない」

「でも――――」

「でも、ではないんだよ。ピーター。私は生み出した技術の使い方を間違えた。誰かを救うための力を、誰かを傷つける為に使ってしまった。それは変えようのない事実なんだ」

 

 喉元まで迫り上がった言葉が落ちていく。僕の口はただ、掠れた呼吸を繰り返すだけで。僕に向けられたオクターブさんの笑顔が痛くて痛くて、仕方なかった。

 

 ……でも。それでも、僕は。

 

「でも、」

 

 吐き出しかけた言葉が、背筋を駆け抜けた寒気に遮られる。

 窓が震えるほどの何かの雄叫びが響き渡り――――思わず僕は、廃墟の窓に駆け寄り広場を見下ろした。

 

「なんだ、あれ」

 

 地面に落ちたモニュメントの一部。それを取り囲む、白祇重工の社員たちと――――モニュメントの内部から這い出てくる、エーテリアスのような人型の何か。

 

「ジニー、状況は!?」

『……白祇重工の面々が、モニュメントを支えていた重機を回収。重機が支えていたパーツが地面へと落下し――――モニュメントの内部からあの生命体が現れ……』

「アレは何!?」

『わたくしもわかりません。ただ、エーテリアスのような何か、としか……』

 

 状況は芳しくない。肩越しに視線をやれば、オクターブさんは壁の穴から広場の生物を眺めて目を見開いていた。……ああもう、話だってまだ終わってないのに!!

 

「と、とりあえずオクターブさんはここに居てください!! まだ話は終わってないですからね。全部終わらせたら戻ってくるんで。絶対に!!」

 

 窓を開け放ち、マスクを被り直して飛び出す。僕の『ムズムズ』が、あの生物は良くないものだと主張してやまない。旧都陥落のあの時に感じた、頭痛を伴う程度には。

 

 片膝をついて、白祇重工の人たちの目の前へと着地。あちこちから「どうしてこんなところに」とか困惑の声が聞こえてくるけど、この際それは一旦無視で良くて……。

 

「と、とりあえずみんなホロウの中に入ってきてるってことは、この中にプロキシがいるって認識で良いよね!?」

 

 いやパッと見渡した感じ、白祇重工の人たちしか見えないけども! あっ、グウェンもいる。じゃなくて、

 

「このエーテリアス絶対ヤバいから! プロキシの指示に従って、みんなは避難で――――」

『この場から避難、は私も同意するよ。でもこの怪物はどうするっていうの?』

「いや一旦僕が残ることは確定……いや誰!?」

 

 焦りながらも周りに指示を飛ばす僕に、割り込む声がイヤホンから聞こえてきた。

 ……ジニーの声じゃない。音声加工された声だ。

 

『ああ、ごめんね不審だよね……一応私、グ(・)レ(・)ー(・)側(・)の人間だから音声加工させてもらってるよ。私は、白祇重工の人たちをここまで連れてきたプロキシ。あんたからすれば不審者すぎるかもしれないけど……腕は信用してくれて良いよ、スパイダーマン!』

 

 よかった、見当たらなかったけどプロキシは居るみたい。なら、避難は任せても良いかな。

 

「よし、わかった! じゃあプロキシさんは白祇重工の人たちの避難を!! あとごめん、追加でひとつだけ頼みたいことがあって――――」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ゼンゼロ世界に来た元MSF兵さん(作者:何処にでもいるエセBIGBOSS)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

その日、国境なき軍隊ことMSFは壊滅した。▼MSFの兵士達はBIGBOSS不在の中、決死の抵抗を試みるも抵抗空しくマザーベースは崩壊、多くの兵士達が犠牲となる。▼その犠牲の中にはコヨーテと呼ばれたMSFの兵士がいた。▼本来ならば戦死として扱われる筈だったその兵士は何の因果かホロウと呼ばれる災害が存在する世界へと渡り、多くの思惑が蔓延る陰謀に巻き込まれていく。…


総合評価:508/評価:8.78/連載:11話/更新日時:2026年10月26日(月) 01:00 小説情報

虚狩る戎具「約束された勝利の剣」(作者:ナゴン)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

エクスカリバーとプーサー擬きを出したかった。▼※本作品はAI利用をしております。


総合評価:1375/評価:8.1/連載:13話/更新日時:2026年08月19日(水) 13:00 小説情報

新エリー都で宇宙キターッ!(作者:一般天高生徒)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

散歩中にホロウ災害へ巻き込まれ、気づけば月面基地《ラビットハッチ》。▼そこで前世の記憶を取り戻した主人公は、先代の遺したフォーゼシステムを受け継ぐことに。▼これは、仮面ライダーフォーゼとなった転生者が、新エリー都でなんやかんや頑張る物語。


総合評価:613/評価:9.09/連載:4話/更新日時:2026年09月13日(日) 23:00 小説情報

臆病者だから鉄を着ます(作者:三世)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼ 『アイアンマン』に憧れた一人の少年は、気がつけば『ホロウ』と呼ばれる災害が存在する世界へ転生していた。▼ 工学の才能に恵まれ、平穏に生きようとしていた彼だったが、ある日突発性ホロウに巻き込まれてしまう。▼ 死にたくない──その一心で作り上げたのは、小さな太陽『アーク・リアクター』と鋼鉄の鎧。▼ これは鉄人に憧れた少年が、自らもまた『アイアンマン』となって…


総合評価:6895/評価:8.71/連載:14話/更新日時:2026年10月26日(月) 22:06 小説情報

終末世界のラーメン屋台の店長さん(作者:一反木綿豆腐)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼ ▼ いつ壊れ、跡形もなく崩れ去ってもおかしくない終末世界。▼ 人類最後の砦となった街、新エリー都は今日も危ういながらも何とか繁栄を謳歌する。▼ そんな街を転々とする、ラーメン屋台が一軒。▼ 何やら謎の多い店主と相棒の超々高性能ボンプは、今日も今日とて店を出す。▼  ▼ 「パエトーン」の家族として、エージェントの知人友人として生きていく。▼


総合評価:3611/評価:8.88/連載:33話/更新日時:2026年10月26日(月) 03:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>