SPIDER-MAN:Earth『ZZZ』 作:糸吐く不審者
さて、何処から話したものかな。
日数にすれば、ほんの数日の出来事。でも僕からすれば、かなり濃い数日間。オクターブさんの研究発表会に始まり――――あ、御託は良い? そうだよね。前フリは極力短い方がいい。僕も、そう思うよ。
まず、重機を取り込んだ……エーテリアスとも言いづらいあの化け物。アイツはしっかり倒せてたよ。しばらく警戒しつつ、体をつついたりとかしてみたけどダンマリだった。いやあ、よかったよかった。
なんでモニュメントの中にあんな化け物が居たのか、とか。白祇重工の重機、プロトタイプ――クレタさんのお父さんが作ったものなんだって。よく見せてもらったけど、すごいかっこよかった!――が、何故あの化け物を封印していたのか。
……そもそも、あの化け物は何者なのか。
わからないことは沢山あるけど、それを考えるのは僕の仕事じゃないし。餅は餅屋、ということでね。……最近これよく言う気がするな。口癖になってきてるのかも。気をつけよう。
そして。
「……この数週間に渡り、キミたちの作業を妨害していたのは私だ。本当に、すまなかった」
件のプロトタイプの回収のために、白祇重工の面々が戻ってきたのを見計らって――――オクターブさんはしっかりと、罪の告白をした。
まあ、けどね。
「あ〜……何、んなこと気にしてたのかよ」
クレタさんの反応は、思ったものとは違ってて。
「正直あたしは全然気にしてないっつーか……いやほら。こちとら、エーテリアスがいつ出てくるかもわかんねーような現場で仕事してるからさ。あんなの序の口っつーか……」
「いやしかし、」
「それに。あたしはアンタの犯行現場は見てねーし。あたしが知ってんのは、その四本腕を使ってあたしらのことを助けてくれたアンタだけだ」
恥ずかしそうに周囲に、同意を求める目を向けるクレタさん。グレースさんが「ヒュウ〜♡」なんて態とらしい口笛で茶化して、アンドーさんも「そりゃカッコよすぎっすよ、社長!」とか言い始めて。顔を真っ赤にさせてたのを、今でも覚えてる。
「う、うるせえな! それに。アンタのその『妨害行為』とやらで、ウチは怪我人は出てねーし。別にいいと、あたしは思う」
まぁ僕としては、奥さんとお子さんを人質にとられてたのを知ってしまったしね。
悪いことをした。そこは変えようのない事実だ。……それでも、オクターブさんはオクターブさんで、また被害者だと思うわけで。
……あ、僕はちゃんと黙って聞いてたよ? そこんとこは弁えてますとも。一応部外者なわけですし?
で、次にオクターブさんの視線が向けられたのは、グウェンだった。
「……キミにも、悪いことをしたね。本当にすまない」
再度頭を下げるオクターブさんと、それを見つめるグウェン。周囲の人たちはみんな頭の上にハテナを浮かべるばかりで、その中でグウェンはゆっくりと口を開く。
「……あの日、わたしの問いに否定も肯定もしなかったのは何でですか?」
ほんの少しの沈黙。誰もがオクターブさんを見つめる中で。グウェンから決して、視線を離すことはなく。
「……あの場で認めれば、研究者として終わってしまう。全てを失うことになる。かと言って否定すれば――――全ての罪から目を逸らし、逃げることになる。私はそのどちらも出来なかったし、したくなかったんだ。……本当にすまない」
そんなオクターブさんの答えに、グウェンは小さくため息を吐き出して、
「そうですか。……そっか。まあわたしは……気にしてないと言えば嘘になりますけど。もう、大丈夫です」
小さく、笑みを浮かべた。
「それに……わたし、正直貴方の発明に胸を打たれたんです。とてもすごいと、心の底から思った。カッコつけた言い方するんであれば――――貴方のような技術者を失うのは惜しい。同じ畑の人間として。わたしも貴方に助けられたのは事実ですし」
ま、これで大団円ってことで。一旦はね。
オクターブさんの研究発表会に顔を出して、グウェンが講演でガン詰めしたって話を聞いて、クレタさんがめちゃめちゃに怒ってたけど――――まあ、そこは横に置いといて、だ。
……結局、オクターブさんの奥さんとお子さんがどうなったのか。気になる? 気になるよね。
「よし、わかった! じゃあプロキシさんは白祇重工の人たちの避難を!! あとごめん、追加でひとつだけ頼みたいことがあって――――」
実は、あの時ね。
「――――オクターブさんの奥さんとお子さんを助けに行ってほしいんだ。位置情報、送った方がいい!?」
『な、なんか訳アリみたいだねスパイダーマン……わかった、任されたよ!! 位置情報はこっちで調べられるから大丈夫。フェア……』
前もってプロキシさんに頼んでおいたのでした。
凄腕のプロキシってことだったからね、それなりの信用はしてたんだけど……白祇重工の社員の人たちと上手いことやってくれたみたい。大勢のクマのシリオンが動けばね、まあそりゃあ。余程のことがなければ、大丈夫でしょう。
結果として、無事保護出来たって連絡は受けました。……にしても、ジニー曰くあのプロキシさん、ホロウの内外で連絡とってたっぽいし……今回のホロウの中に居なかったっぽいんだよね。どういう技術……?
まあ良いか、その辺は。はい。深入りしない、深入りしない。僕も色々追及されたら困りますからね。
結果として、奥さんとお子さんは治安局の保護下に。そして、オクターブさん自身も保護・監視下に置かれることになった。
やったことはまるっきり無かったことにはならないし、いつかオクターブさんを脅していた連中が彼を処分しに来る可能性だってあるからね。逆にこれで良かったのかもしれない。
……件の化け物の死体は然るべき機関の手に渡って。そして、夕陽は沈んで――――新エリー都には、いつも通りの夜がやって来る。
正直疲労困憊で仕方ないけど。日課のパトロールを済ませて、僕の足はバレエツインズへ。
……銅像広場に降りる階段の壁。色とりどりの花が活けられた花瓶を背負った、ボンプのグラフィティアート。
「RIGHT UNDER YOUR NOSE……」
灯台下暗し、と彼女が訳した言葉。僕がオクターブさんを最後まで信じたのは、この言葉が胸のどこかに引っ掛かっていたから――――というのもあったと思う。
世の中には上っ面を見る奴らばかり。ストレイは、このイラストを見ながらそう語った。
証拠は揃ってた。でも、だとしても。最後までオクターブさん自身を見ることを、諦めたくなかった。
「そう考えると消しづらくなっちゃったなあ……」
思わずため息が漏れ出す。そんな情けない声を漏らす中で、
「やっぱり。ここに来れば会えると思った。……まあ、一日目で会えたのはちょっと予想外だけど」
階段の上から、カラカラとスプレー缶を振る音が聞こえてきた。
「……げ、ストレイ」
「はぁい、スパイディ。開口一番『げっ』とは随分ご挨拶じゃん」
……なんかあの日僕がとってた『渾身のセクシーポーズ』してるし。何だよ、見えてて無視してたのかよ。視野広いね、キミね!
「お、ちゃんと消してないね。感心感心。約束守ってくれてるみたいで良かったよ」
「今消すかどうか迷ってたトコだけどね!」
「こら、まだダメだよ。……っていうか『消す』といえばさ、せっかくわたしが『タグ』貼ったのに、すぐに新スーツにしちゃってるんだもん。驚いたよね。わたしのシール、無駄にしてない?」
「ちゃんと僕の『極秘! 新装備研究ノート!!』に貼り付けました〜無駄にはしてません〜」
「ふふ、何それ」
とか言いながら、ちゃっかりまた僕の太ももの所に名札シール貼ってるし。何なんだよ。剥がしづらいじゃん。
仮面の向こうから、青い瞳が僕の新スーツを見つめてるのがわかる。……ちょっとポーズとってみた。無視された。新スーツへの感想は無しですか。別に良いですけど。
「……まあ、わたしはそんな軽口を叩きに来たわけじゃなくて、さ」
とか何とか思ってたら、急にしおらしくなるんだから驚きだ。ボンプのイラストが描かれた壁に背中を預けて、彼女の視線は地面に向けられている。
「最初に会ったあの時、言えてなかったことがあって」
「……? 何?」
「いやあ、その。アンタは覚えてるか、わかんないんだけどさ。その〜……いや、またお礼言わなくちゃいけないことは増えたんだけど……」
「なに、なになに。歯切れ悪いじゃん。良いよ、ちゃんと聞」
「わかってる、わかってるって。三月。今年の三月ごろにね?」
……おっ、と? 待った。なんかこの話、聞き覚えがある。
「いや、アンタは覚えてないかもしれないんだけど。ホントに。わたしさ、アンタに助けてもらってて。わたしっていうか、わたしのウチのボンプって感じなんだけど」
「――――、」
視界に映り込むカーソル。ストレイに向けられたカーソルの横に、何かのメーターが表示されて、
「あの時、アンタにとっては何でもないようなことだったかもしれないけどさ。わたしは、アンタに人生を変えてもらったんだ。アンタのおかげで今のわたしはここに居る。……だから、アリガト。最初に会った時、それを言えてなかったからさ」
グウェン・マーサー/StRaY。一致率100%と――――。
「RIGHT UNDER YOUR NOSE……」
「えっ、何?」
あまりにも情けないから、映画らしいカッコいいオチの付け方をするのであれば。
僕のノートの一番最後のページだけは、最初から答えを知っていたようだ……なんて、ね。……えぇ…………?
主演【ピーター・パーカー】
映像編集【超ゆーのーな親愛なる隣人の助手】
撮影協力【白祇重工の皆様、オットー・オクターブ】
スペシャルサンクス【新エリー都の皆様】
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日が沈んだ室内。ルミナスクエア、治安局駐在所の一室にて。
ホワイトボードに書かれた文字列を、口元に手を添えながら眺めている男がいた。
オールバックに綺麗に整えられた金色の髪と、意志の強そうな青色の瞳。ソレが数度の瞬きを繰り返した後で、部屋に乾いたノックの音が響き渡る。
「失礼します」
扉が開かれ顔を覗かせたのは、赤毛のメッシュが入った黒髪の女性。彼女は数歩部屋に足を踏み入れると、後ろ手に扉をゆっくりと閉める。
「すまんな、
「いえ、私もその……マーサー監察官と同じことを考えていると思うので」
ホワイトボードに貼り付けられているのは、『ブラック・スティング』のマクシム・ガーラン。そして、白祇重工の現場に投げ込まれたとされる――――爪痕が刻まれた機材、建材の写真。
「……キミもそう思うか?」
「そうですね。今の治安局は、何かがおかしい」
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THE END
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