SPIDER-MAN:Earth『ZZZ』 作:糸吐く不審者
プロローグ
おっけ、じゃあ最初から説明するね〜!! 僕の名前は、ピーター・パーカー。六分街のレンタルビデオ屋、『Random Play』の現役アルバイト。
顔を合わせた相手には『なかなか特徴的だから一度会えば忘れないよ』とよく言われるんだけど……最近、『おまえめちゃくちゃ変なやつだよな』と言いづらくてオブラートに包んでもらってる説が浮上したんだよね。悲しいね。
あー、そうそう。それから、
「見て……ふ、ふふ。見てピーターさん、また回ってきたよ」
「ちょっと。やめてってばリンちゃん……もう良いから」
今僕は一躍時の人。ちょっとインターノットで晒し者にされてます。
いやその。アレ。オクターブさんの研究発表会のこと、覚えてる? 壇上に上がった時にさ。僕、彼の手伝いをしたと思うんだけど。『T.E.T.R.A.』に持ち上げられた時に、すごい保持力だな〜とか思ったりしたんだけどさ。
「いやにしても……何度見ても面白い動きだなとは思うよ。何を思って、こんな動きをしていたんだい?」
「どれくらいの保持力があるのかなとか思ってたの!!」
動画投稿サイトに講演の様子がアップされて、どうやら電子の海の住人は真顔で手足をウネウネさせてる僕の様子がツボに入ったらしく、何故かミーム化してしまったのでした。
なんだよ……『オットー講演会の謎の協力者』『吊られながら解説を始めるオタク』『助けを求めてるようで全然求めてない人』『死にかけの蜘蛛の動き』とか好き勝手言いやがって……。
講演会から約四日。もはやその勢いは止まることを知らず、様々なバリエーションのネタが生み出されつつあるのでした。増える度に騒々しい相棒から報告を受けているからね。把握はしてますけども。
別に良いんですけどね! 楽しんでくれてる分には。いつか飽きるでしょうし。飽きられるのは、なんかそれはそれで寂しいけどもさ。
ちなみに講演会の動画は質疑応答に入ったシーンで終了してたよ。あのまま最後まで映っているようなら、今頃僕じゃなくてグウェンの方が騒がれていただろうからそれはそれで良かったかな。
『あるじ、通知が届きました』
そして、そんな冴えないフリーター……そして現役『インターノットのおもちゃ』の僕にも、もうひとつの顔がある。
それは、
『あるじ、また通知が』
この新エリー都を守る、親愛なる隣人。スパイダーマンだ。
スーツを着て、マスクを被って顔を隠し、暗躍する悪い奴らをドーンとぶっ飛ばす、正義のヒーロー。最近はちょっとグレーな方法にも手を出し始めてしまったけど……そこはご愛嬌、ということで。
『あるじ、また通知です』
本人が知らないウチになんかグッズとかも出ててさ。最近テーマ曲も出来たみたい。今じゃ、勝手に僕の着信音にされてる。
『あるじ、』
ちなみにさっきから僕の耳元でずっと呼びかけているのは、自称『超有能助手』のポンコツダウナーおちゃらけAI、『Jinni』……基本的に有能なんだけど、余計なことをするのも玉に瑕。
『あるじ通知が――――』
「……ねえ。そのキミが作ったファンサイトのメールボックス、廃止にしない……?」
まあ、こんな風にね。
『わたくしとしましては、グウェン・マーサー氏にあるじが咄嗟についた嘘を本当にすべく……』
「い、いやそれはありがとうなんだけどもさ……」
インターノットに突然現れた、スパイダーマンの完全公認公式ファンサイト。そこには『スパイディ本人に直接届く!』なんて誰にも信じられないような、胡散臭い文言が添えられたメールフォームがあって……そこに送られたメールは、僕の元に届いています。そりゃあもう、なんか。大量に。
イタズラや批判メールはジニーが選別して削除してくれてるから良いものの、ジニーからの受信報告が最近は輪をかけて凄まじい。やっぱりメールのお返しに、スパイダーマンの自撮りを送ったのは悪手だったって。何してくれてるのさ。
……ああ、ちなみにさっき言った『テーマ曲』はメールで届いたやつね。動画サイトにもアップされてるみたい。はぁ。
胡蝶の夢、とは旧文明の人間もよく言ったものでして。気持ちよく飛ぶ蝶の夢を見て目が覚めた時、蝶の方が自分の現実なのか……はたまた、今こうしてぼやいている人間の僕の方が現実なのか。確か、そんな話だった気がする。
マスクを被ってヒーローをしている自分が本当の僕なのか。冴えないフリーターが本当の僕なのか。時たまわからなくなる時があるよ。
「胡蜘蛛の夢、ってね――――」
『あ。あるじ、またメールが届いたみたいです。自撮りを送付しておきますね』
「……今格好つけてるんだけど」
……少しカッコつけすぎたかな。良いじゃんか、現状はこんなにも情けないんだから。
ああ、ちなみに。マスクを被った僕も、被っていない僕も。どちらも僕自身だと思ってるよ。本当に。
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SPIDER-MAN:Earth『ZZZ』
VOL.3『
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オクターブさんの研究発表会の時に飲んで以来、なんだかんだティーミルクにもハマってる僕がいるんだよね。
だからこうしてバイトを終えた後にルミナスクエアに赴いているわけです。六分街にもリチャード・ティーミルクのチェーン店とか出来ないかな、と思いつつある今日この頃。
『今日はティーミルクの気分なんですね、あるじ』
「ん〜……COFF CAFEのブレンドコーヒーとすごく迷ったけどね」
どっちも捨てがたい。それぞれの良さがあるから余計に。明日は珈琲にしよう……そんな選べる贅沢があるのも、僕を雇ってくれたアキラくんとリンちゃんのおかげだからね。感謝しないと。
なんて傍から見れば不審な独り言でしかない会話を繰り返しながら、駅の改札を通る。そのままルミナスクエアの大通りに出たところで、横断歩道を挟んで向かい側の道路に人だかりが出来てるのが見えた。
「……? なんだろ」
いやー、ちょうど信号が青に変わったところだったからさ。渡って見に行っちゃったよね……。
「だから、俺は何も――――」
「しらばっくれんなよ。俺ァ見たぞ!!」
数人の通行人が囲んでいるその中央で、何やら言い合ってる二人の男性。顔を真っ赤にしながら捲し立ててる方の男性の横には、地面に泣き崩れてる女性の姿も見える。
……あー、あー……痴情のもつれ、とかかな? なんか最近多い気がするんだよなあ。
周りを囲んでる人たちは誰も止めようとしない。面白がってカメラを向けてるだけだ。仕方ない、ここはいっちょスーツに着替え
「あいた」
……ようと思ったんだけど、通行人の肘が僕の背中に当たって、不幸なことに件の二人の目の前へと、つんのめる形で躍り出てしまった。あ、視線が僕に向いてる。困ったな。え、いや困った。
「えー、あ〜……っと、その〜」
「なんだ、おまえ」
「みんなすっごい見てるし、ここら辺でやめにしておかない? ほら。治安局の駐在所も近いしさ。騒ぎを聞きつけたら誰かしら来るんじゃないかな〜とか思ったりするわけでして……」
あ、ムズっときた。顔を真っ赤にしてる男が、拳を振り上げるのが見える。
僕はズボンのポケットからスマホを取り出すと、(わざと)地面に落としてしまって、それを(振り抜かれた拳を躱す形で)身を屈めて拾い上げる。
「えっと〜治安局って番号なんだっけ? 110?」
「テメ――――」
「おっとごめんよ。急に動くのは良くないね」
勢いよく頭を上げたから僕の後頭部が顔に激突しちゃった。鼻高いね。
「バカにすんのも大概に」
「あ、待って! そこ僕のリュックから溢れたボールペンが、」
あーあ。足元よく見ないから。お尻から見事にすっ転んでるじゃん……。
「気をつけなよー? ほら、靴紐解けてる。良い靴だね」
とりあえず結び直しておきました。左右の靴の紐で蝶々結びに。
「ジニー。周りの連中のスマホの映像、消しといて」
『サイエ』
「……、…………???」
あ、これサー・イエッサーか。ああなるほどね。
とりあえず治安局に連絡しないと〜、っと。改めてスマホを擡げる。いち、いち、ぜろ、と入力したあたりで僕が呼ぶまでもなく、治安官の二人組が横断歩道を渡って歩いてきているのが見えた。
「おー、こりゃあ……なんの騒ぎだ?」
その二人組の、治安官の片方。明らかにガタイのいい、青い瞳のオールバックの男性が戸惑いがちに口を開く。
声音は穏やかではあった。けれど、その視線は――――一瞬でことの全てを理解したように見えた。
「助かりました、治安官さん。今ちょうど通報しようとしてたところなんですよ」
「へぇ、自首とは感心じゃないか。俺も昔はヤンチャしたもんだが……」
「違いますって〜、僕は巻き込まれた側です。本当ですよ?」
あー……明らかに僕にだけ向ける視線の色が違うもんな。どうしよ。とりあえず、地面に(意図的に)ばら撒いたボールペンだけ回収しておこう。
「ま、何はともあれ、だ。事情聴取だな。おい、ライアン。そこの三人は任せた」
あのお兄さんはライアンって言うらしい。綺麗な敬礼をしたと思ったら、なんかちょっと特徴的な歩き方してるな……内腿に怪我でもしてる? ではなくて。
「あ〜……じゃあもしかして、僕の事情聴取はお兄さんが……?」
「よしてくれ、もうお兄さんって歳じゃねえよ」
「いやいやあ、ご謙遜を〜」
事実かなり若々しいと思う。なんでだろ。上手く言語化は出来ないけど。
さー……て。どうしたもんかな。元々揉めてた男女の三人組と僕は上手いこと隔離されてしまった。僕は壁際に追いやられ、その目の前にはガタイのいいお兄さ――――おじさん? が、立っている形だ。懐からメモ帳とボールペンを取り出すその最中も、僕から視線を外すことはない。
「兄ちゃんには黙秘権があるが、嘘はつかないほうがいい。俺はそういった後ろめたい感情には敏感でな」
なんかどっかで聞いたような言い回しだなぁ……何処で聞いたんだっけ。
ジニーに削除を頼むの、ちょっと早まったかも。なんて後悔の念を抱き始めたのと、ほぼ同時だった。
「あー、待って待って。その人、本当に巻き込まれた側だよ。わたし暫く見てたけど」
聞き覚えのある声が割って入る。声の方向に目を向ければ、あちこちに散り始めた野次馬の合間を縫うように歩いてくる、金髪の女の子が――――。
「グウェン!」
「おお、グウェン」
「……え?」
「うん? 知り合いか?」
同時にその子の名前を呼ぶものだから、思わずおじさんと視線を合わせて指をさしあう。その動きまでタイミングがピッタリだった。ヤケに揃った動きを見て、視界の隅でグウェンが小さく笑うのが見える。
「パパ、紹介するね。彼はピーター・パーカー。わたしの友達」
「パパ……パパ!?」
「ピーター、紹介するね。この人はわたしの父。ジョージ・マーサー上級監察官」
は、はぇ〜……言われてみれば確かに面影ある……目元とかそっくりだ。そういえばグウェンのお父さん、治安官の監察官って言ってたっけ……。
「この人、そういう悪いことするタイプじゃないよ。最近パパがピリついてるのは、わたしもまあ……知ってるけどさ。だからって、わたしの友人に先入観マシマシで食ってかかるのやめて」
腰に両手を当てながらの、グウェンのため息混じりの言葉を受けて、おじさん……グウェンパパ……ジョージさんは、僕の顔を真っ直ぐに見つめた。
しばらく沈黙がある。数度の瞬きを繰り返した後で、
「……わかった。父さんもグウェンの人を見る目は信用してるからな。悪かったよ」
大きく首を横に振る。けれどすぐに笑顔を浮かべて、強く僕と肩を組むと口を耳元に寄せてきた。
「……しかしピーター。おまえ、かなり鍛えてるな?」
「え? あ、やぁ……あはは……」
「路頭に迷ったら治安局に来るといい。悪いようにはしねぇからよ」
「か、考エテオキマス……」
やっぱりなんか。ちょっと怖い。
章を跨いだので、読者の知識区分アンケートです。良ければご協力ください。
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ゼンゼロだけ知ってる
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スパイダーマンだけ知ってる
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どっちも知ってる
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どちらも知らない