SPIDER-MAN:Earth『ZZZ』 作:糸吐く不審者
「出来た――――」
『できましたね、あるじ』
「完成だ!!」
『完成です、あるじ』
「うおおおお!!!!」
『わぁ〜〜〜〜〜〜』
隣の部屋からドンッと壁を思いっきり殴るような音が聞こえてきた。ごめんねお隣さん!!
いやいや、騒ぐのも無理もない話だって。前回の『ブラック・スティング』の一件が大体一週間前。その次の日からコツコツと、ホロウ関係の依頼でお金を貰いつつ睡眠時間を削っての制作――――だいたい六日くらい!
新作スーツを机の上から持ち上げて、前後の出来具合をチェック。ほつれ、無いね。うん、蜘蛛の糸の装飾も上手いこといってる。問題は機能の方か――――。
『前回のスーツは赤をメイン色に、青色の差し色を入れているスーツでしたが……今回は赤をメインに、差し色を黒にしたんですね、あるじ』
「そうそう。せっかくの新装備だからね。見た目を変えようと思ってさ〜変わり映えしなかったらつまらないでしょ?」
『今回もSo cool。最高にイカすスーツになっております、わがあるじ。ホロウレイダーも裸足で逃げ出すカッコ良さ。このじにーも今すぐ逃げ出した〜い。……して、何かとスーツに新要素を入れたと聞いておりますが?』
んもう。白々しい。制作過程のイチから百まで付き合ってたのに、こういう時に〝そういう〟質問をしてくれるあたり、できた助手だよ本当に。百点をあげよう。
『前回のスーツに比べて、だいぶオーバーサイズに見えますね』
「おう、そうともさ。ちょっと待ってね、今服脱ぐから……」
よいしょ。うんしょ。はい、〜蜘蛛人間脱皮中〜
「そろそろ暑くなってきたからね。長袖を着てる間は、スーツの上に服を着てれば隠せてたけど……そろそろ半袖を着るようになるから、隠せなくなっちゃう。この二年の活動で、夏は着替えに苦労したんだよ……」
『ふむふむ。確かに、あるじの【正体を隠したい】という活動方針から見れば、その点はネック極まりないですね〜?』
「でしょでしょ? なので、着やすいようにオーバーサイズに。でもブカブカなままだと格好つかないからね――――」
ちゃんとスーツに手足を通して、胸元の蜘蛛のエンブレムにダブルタップ。その瞬間にスーツの中の空気が抜けて、僕の身体にシンデレラフィット……おっけ、ここまでは上出来だ。
『ですがあるじ、袖部分を独立したスーツにすれば良かったのでは?』
「んもう〜そう早まるなよ、物事には順番があるんだからサ」
『わぁ〜。あるじ、わたくしと出会ってはや一週間、その中で一番楽しそうでございますれば』
「そりゃ徹夜明けだからね……まぁ待て待て」
今度は机の上からマスクを取って、いつも通りに顔に被る。うん、装着感は前と変わらず。後頭部あたりの蜘蛛の糸の装飾――――そこから伸びる配線プラグを、スーツ本体の受け口に接続して、
「ジニー、入ってきていいよ」
『さー・いえっさー。おまちしておりました』
マスク越しに見ている外の風景に一瞬電子の波が走り、視界の隅に黄金色の眠たげなヒトツメ――――ジニーが、ひょっこりと顔を覗かせた。
「見えてる? どう?」
『ARヴィジョン、滞りなく接続完了。マスク外部の小型主観カメラ、マスク内部の小型カメラ――――動作正常、にございますれば。【スパイダーエンブレム】からの電力供給も滞りなく』
「ぃよし、よし!!」
僕と同じ景色を見たい。その希望を試すべく、色々試行錯誤した結果がこれだ。
Random Playのお隣さん……主にボンプの改造や修理を生業にしてるイケてるおじさん――――エンゾウさんにはだいぶお世話になったっけ。
予算を抑えるために、ボンプのパーツ……交換した廃棄予定のソレをいくつか貰ったりしてね。マスクの視界部分はボンプの表情パネルを色々改造して、向こう側が見えるようにしたモノ。内部と外部に仕込んだ小型カメラはボンプの視界カメラだ。いや本当に、たくさんお世話になって――――……
――――エンゾウさん? なんでこんな……違法ギリギリの交換パーツとか、持ってるの?
――――まあ、ちょっとな。
……なんて会話をしたのは記憶の奥底に封じ込めておくことにしよう。誰しも詮索されたくない部分はあるよね、人生!
にしても、電力供給も上手くいってるみたいでよかった。
ジニーと共に仕事をするうえで、ネックになったのが容量問題――――僕のスマホからソシャゲ三つを何も言わずに消されてるからね!!――――と、稼働時のバッテリーの問題。
容量に関してはパソコンに外付けディスクをつけて、パソコンをメインの住居としてもらって……パソコンからスマートフォンを経由してサポートしてもらう、という形でどうにかなった。
……まあ、ホロウに入るってなったら結局スマホに来てもらわなきゃいけないわけだけども。ソシャゲは――――いつかゲーム用のサブ端末を買う、ということで。ね。うん。
「じゃあそのまま、バイタルチェックもお願い」
『じっこーちゅう……、……はい、問題なく。心拍数が高いですね。あるじ、だいこーふん』
「そりゃあもうね。大興奮よそりゃあもう」
今回のスーツに施された、蜘蛛の糸の装飾の内部には配線が張り巡らされている。
胸のエンブレムからほぼ全身……手首や足の爪先にかけてコードは繋がっててね。ウェブの残量とかも管理してもらう手前、配線の都合で袖の部分を独立したパーツにできなかった、ってわけ。アダプタの数も節約したかったし。
ちなみに、コードを通じてジニーが僕の心拍数とかをチェックできるようにしてあるのは、彼女の希望だったりするよ。マスクの内部カメラも僕の顔色や表情を見るのと、AR機能の視線操作のためです。プログラミングはジニー作。よくできました!
「蜘蛛のエンブレム内には超小型化したバッテリーが三本……これで一度のフル充電でスマホ三回分は充電できるでしょ? それに、太陽光を電力に変換する機構もつけたし……ホロウ内では大気のエーテルを取り込んで、電力に変換する機構もつけた。これで充電切れを起こす心配はないでしょう!」
『まあ、全て【理論上正しければ】、のお話ではございますが……〝かなしきげんじつ〟』
「そうね! 理論上正しければね!!」
『あとはすまーとふぉんを継続的に充電するべく、スーツのポケットに入れなければいけない点も忘れてはいけませぬ。戦闘中に、画面パリーン、の可能性』
「そこは追々ね!!」
『……あとは依頼で受け取ったディニーが全て新作スーツに溶けた、という点も……ウェブシューターへの新機能実装もままならず……』
「まあ、まあ……」
うん。……うん。羊飼いから受け取る依頼は、軒並み単価が高かったけども。それでも、今回はスーツにお金をかけすぎた。全然残ってない。かなしきげんじつ……。
「でも良いんだよ、依頼で受け取ったお金は生活費じゃなくて……極力活動に充てたいからさ。今回は『正しい使い方』ということで」
『なるほど……〝すーぱーちゃっと〟を配信関係の機材や、配信予定のゲーム代にしか充てたくない配信者のようなモノ、でしょうか?』
「うん。……うん? うん。まあ、そういう感じ」
相変わらずよくわからない表現をする子だ。なんか大体あってるのが悔しいところだけど。
手首にウェブシューターをスーツの上から取り付けると、これも問題なく視界の隅に残量の表示がされた。シューター本体のカートリッジ挿入部を開いて照らし合わせてみたけど、誤差も特になし。大丈夫そうだね。
……一応シューターの動作確認もしておくか。掌のボタンをダブルタップで射出――――シングルタップでリリース。うん、問題なし。
『あるじ、旧型スーツは如何されるのですか? ネットオークション?』
「んなことするわけないでしょ、思い出の品だよ? 畳んで押し入れの中に入れておきますよ。いつかまた使う日が来るかもしれないし……」
『……片付けができない人の典型思考、ですね。あるじ』
「部屋は別に綺麗でしょ!?」
散らかるほど物があるわけじゃない、とも言いますが!!
隣から苦情を貰うのが怖くて、僕の叫び声は気持ち抑えめ。旧型スーツを何となく持ち上げると、お腹の部分に貼られたシールが視界に入った。
昨日の夜貼られた、名札シール。……なんかこのまま貼って押し入れの中、は勿体無いっていうか……申し訳ない気がしてくるな。剥がして、今使ってるノートの一番最後のページにでも貼り付けておこう。
「さーて、新スーツ……スパイダースーツVer2.1も完成したし、寝よっかなあ」
『あるじ、あるじあるじ。今日はオットー・オクターブ氏の研究発表会に行く予定では』
「おっと、そうだった」
いけない。予定表にもしっかり入れておいたはずなのに……ARヴィジョンを活かすためか、視界の隅っこに『オットー・オクターブの研究発表会(!)』と、ジニーの入力によって赤文字で表示された。ふふ。ゲームの画面みたいだな、これ。
まあ金銭的な問題で新装備を作るのは難しいけど、今のうちに刺激を貰っといて損はない。同じ畑の人間の制作物を見るのが、一番良い刺激になるからね。
「じゃあ研究発表会に行くついでに、Ver2.1の試運転と行きますか!」
『わぁ〜〜〜……あ、ARメガネの方もどうか忘れず。忘れた場合、このじにー……現地ではポケットの中で放置ゆえ……』
「ああそっか、そっちの方もテストしたいしね……スーツとマスク状態で内容見るわけにもいかないし」
これまたいけない。寝不足の頭ってつい色々忘れちゃうよね。
財布ヨシ。着替えヨシ。メモとペンもヨシ。ARメガネも持った。全部リュックに詰め込んだし、準備は万端。
窓を開き、マスクだけ外して顔を覗かせ周囲を確認。通行人の姿もないし、お隣さんは遮光カーテン閉めてるね。
「よし、じゃあ行きますか」
マスクを被り直して、身を乗り出す。向かいの建物に糸を貼り付け、落下の勢いを殺さず――――大きくスイング。
「どう、ジニー? 新しいカメラで見るスイングは。結構気持ちいいモンでしょ」
『あー。それがその、スマートフォンをマスクに貼り付けていた時から、言うか言うまいか迷っていたのですが……』
「なーに? 遠慮するなんて、らしくない」
『わたくし、三半規管が実装されていなくて良かったと心の底から思っております』
「……え?」
『端的に言えば、はちゃめちゃに酔う――――と言いますか。今にもこの一週間で採取したあるじの情報を電子の海におrrrrrr』
「ち、ちょっと!? 早く慣れてよ、もう!!」
◇◆◇
……まあ、結論から言えばジニーは早めにスイングの視界に慣れてくれた。目的地のルミナスクエアに着いた頃には、AR機能を全開に使いこなし、気になるものに〝注視〟のカーソルを合わせたりしてたよ。それはそれで視界が忙しくて仕方なかったんだけどね。
『アレはティーミルク屋ですね。タピオカがたんまり入っているという噂の……』
「そうだよ。そういえば、あんまり飲んだことないな……」
スマホのカメラに比べて、見える風景はだいぶ違うみたいで。そう語る彼女の声音は、幾らか楽しそうだった。
物陰に隠れてスーツを脱ぐ。そのままリュックの中に詰め込んできた私服へと着替えて、ARメガネをかけた。
マスクの時と同じように視界に電子の波が走って、スマートフォンとの接続を終えた通知が視界の隅に映り、これもまた同じくジニーが視界へと映り込むのが見える。
『こちらの動作も問題なし、ですねあるじ。今回の発明は概ね成功でございます。わー、ぱちぱち』
「みたいだね。いやあ、お金だいぶ使った甲斐があったな……」
今回の開発と改造は主に戦闘力強化ではなく、新しく仲間になったジニーと共に戦うための改修作業が殆どだったけど……それでも満足感は高い。
ジニーの演算能力や解析能力の高さはもう身に染みてわかってるからね。それが視覚情報としてダイレクトに伝わるのは助かるし、何よりここまでの道すがら、ジニーが『スイング時の最高速度』とか出してくれて楽しかった。結構速度出てたんだね僕……。
まあそれはそれとして、だ。
ルミナスクエア、治安局の駐在所の目の前。僕らの目的地はそこにある大きな建物……『ルミナモール』だ。
視界に表示されたジニーの情報――これまたゲームのタスク画面のようなそれ――によると、建物三階の展示スペースでオットー・オクターブ氏の研究発表会は開かれている。
『ちょーぜつぐっどたいみんぐ、ですあるじ。三十分後にはオットー・オクターブ氏の実演、解説が行われます。ワンチャン直接話せるかもしれません』
「ふふ、ワンチャンて。まあでも、そうなると良いなぁ〜」
情報しか知らないし、対面で会ったことは無いけども。オクターブさんは僕が尊敬する人のひとりだし。
彼は、特異空間――――ホロウの中で、人類を如何に救助するか、ってところに重点を置いて、長らく研究を続けている。
神経インターフェースの開発や、機材の中に搭載するAIとか。災害時や非常時に自動で稼働する救護ロボットとか。ボンプに搭載するアームなんかも開発してる、とか何処かで読んだ気がする。
「……そういえば、何処かの技術者とちょっと揉めてるみたいな話聞いたけど。大丈夫なのかな」
『それは半分デマです、あるじ。揉めているわけではなく、開発分野が近いせいで周りが囃し立てている形が近く……必要であれば、該当記事を表示しますか?』
「や、いーよ。もう着くし」
ピンポーン、とエレベーターのベルの音が鳴り、ゆっくりとドアが開く。僕の……いや、僕らの前に広がったその光景に、
「うわすご……うわすごい注視カーソル!?」
……僕が興奮を示そうとしたところで、それ以上の勢いでジニーが解読と保存を始めた。余韻が台無しなんだけど!?
「ごめんねジニー、記録してくれるのは嬉しいんだけど……なるべくカーソルはオフにしてもらっていいかな。僕も読みたいからさ……」
『さー・いえっさー。じにー、黙読作業に入りますれば』
「それでヨシ」
はあ、もう。視界が大惨事だったよ……まったく。
……具体的な展示物といえば、すべて実物が飾ってあるというわけではなくて。写真が添えられた解説文だとか、設計図が殆どだった。
それでも僕の頭の中には刺激が走る感覚がある。設計理念や内部構造……いやこれ、ここまで見せていいの? 色んな人とか見にくるだろうに。
「……まあ、流石に特許とか取ってるだろうし大手企業ほど丸パクリはしづらいか……僕も怒られない程度に……」
……とはいえ。
「なるほど、このシャフトがアームの力を――――」
次第に興奮が隠せなくなっていくのは、ジニーだけではなくて。
「っあ〜〜〜るほどね! そっか、エーテル変換機構はこれの方が確かに効率いいかも……帰ったらスーツいじり直さないとな……」
『あるじ、このパーツは家にありませんが……』
「いやいや、ボンプの部品で代用効くよ。確かエンゾウさんに貰ったモノの中にあったはずだし……いやでも小型化がネックかな。あっ、こっちのも良いな。転用すれば、
ブツブツとひとりで、延々と呟きを漏らすだけの不審者になってしまった僕は、資料に夢中になりすぎて……近づいてくる足音に気付けなくて。
「……ウェブ?」
不意に、背後から聞こえてきた声に肩を跳ねさせる。
「え?」
「展示物見ながら何か熱心に呟いてるなって思ったら、なぁに? スパイディの装備の話?」
ゆっくりと肩越しに視線を向けたその先に居たのは、
「もしかして……」
陽の光を受けて淡く輝く、綺麗な金髪と……青い瞳が特徴的な、女の子だった。
失礼します。不審者です。作者が結構話します……苦手な方はそっと閉じていただいて構いません。今回も読んでくださり、ありがとうございました。
はい。まずは、アンケートにお答えいただきありがとうございました。思ったより、『スパイディだけ知ってるよ』層の方が居て驚き。……大丈夫ですか??? キャロットデータ、ホロウ、エーテリアス、ホロウレイダー等々。専門用語バチクソに飛ばしてますけども……『???』ってなったら調べるなり、『おーけー。フィーリングで理解した』としていただければ。
ゼンゼロだけ知ってる~~って層はオリジナル陣営的な観点で見てくれると楽しいかもしれません。いやわかんない……わっかんないんだよな~~~!! ゼンゼロとスパイダーマン、どっちがメインの話なの? って聞かれると『さあ……?』みたいな感じがすごくて。
ともあれ、ともあれです。二章のプロローグまで読んでくれてアンケートに答えてくれてるってことは、各々折り合いをつけて、楽しんで読んでくれてるって認識で行くとします。そう思っておく。これからもよろしくお願いします。
どちらも知ってる、と答えた方々。おそらくニヤニヤできると思うので、どうぞこれからも末永くよろしくお願いします。ニヤニヤできてる……? できてるかな……ごめんなさいこれも不安です。
こういうのってエピローグのあとがきに書くべきだったんでしょうね。
予想以上の反響をいただき、正直おっかなびっくり大喜び感謝感激雨霰晴れ時々ウェブといった感じです。余裕ぶっこいてました。気づいたらこんなに読まれてて。☆評価とお気に入り登録はメールの通知が来ませんからね。『あれえ??』でした。ランキングに入ってたりしたら通知くれたりしませんか……? 運営さん。
ともあれ、皆さんの反応、反響のおかげで毎日書き溜めを出力できております。これを書いてる今はVOL.3が中盤に入ったところです。書いてて楽しくて仕方ない、というのもありますが……待っていてくれてる方が居るのはうれしいモンですね。感謝感謝。重ねて感謝。
では皆様。本当に、心の底から……三千回、愛してる。
P.S. じにー描きました。良くかけたと思っております。
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