ナツキ・スバル達御一行がどうやらトリコの世界に迷い込んでしまったようです。 作:お餅モチモチ
【ロズワール服飾店近日OPEN】
どうやらロズワールはスバル日本語学校を爆速で卒業した後、この世界でどのように生きるべきかを模索していたようだ。
「んで?ロズッチよ。俺たちの人員的に言えば何をやってもそれなりのことはできると思うんだが、何でまた『服飾店』なんだ?」
スバルからの疑問にロズワールは嬉々として答える。
「そ~れはね、この世界におけるニッチな需要を満たしたほうが、面白いと思ったか~らだよ。ス~バル君の日本語学校を卒業してから今に至るまでの3か月、この世界のあちこちを回って見てきた結果あ~ることに気が付いてね、それは…」
ロズワールが答え終わる前に部屋の扉が開いた。
「よう!歯の調子はどうだい?お?虫歯が治ってるな。魔法ってのは便利なものなんだな。それで?何やら気になる言葉が聞こえちまったんだが、『あること』ってのはどんなことだい?長年この世界で生きてきた俺たちじゃあ気づけないこともあるかもしれねえな」
そこには差し入れを持ってきていたトリコとリンの姿があった。
「お~やおや。これはこれはトリコご夫妻じゃあないですか。そ~うですね、この世界における新参者であるわたくしから見たら、この世界は『食に溢れすぎている』と言うのが正直な意見で~すね。すべての中心に『食による喜び』が存在しているように感じたのだ~あよ。もちろん、そのことを否定したいわけじゃあない。むしろ、私の生きてきた歳月と照らし合わせてみても、ここまで食を中心にしていながら文明が発達してきたというのは素晴らしいと思っているのだ~あよ。ただ、食のためにすべてが発達してきたが故に、服飾に関してはまだまだ開拓の余地があると思ってね、そ~こで、IGOやト~リコさんとつながりがある我々が市場ではめったに手に入らない素材を使ったラグジュアリーな服飾店をすれば、新たなる風をこの世界にもたらせるのではないかと思ったのだ~あよ」
その言葉を聞いたリンが全力で首を縦に振りながら肯定する。
「ウチもそう思うし!この世界ってどーしてもグルメ食材中心で動いてるから、かわいい小物が少なすぎるし。それに、この世界の生き物って大概人間より強いから、素材を採ってくるだけでも一苦労するし」
リンの言葉を聞いたスバルは腕を組みつつ先日の出来事を思い返していた。
「確かに、この前のクレバーエイプだって100km/hで走るとかいうわけ分からん脚力だろ?人間じゃあとてもじゃないけどそんな速さで走れないしなあ。しかも、それがこの世界基準で見たらそこまで強くはないときた。これじゃあ確かに素材を採ってきて、何かに加工するなんてのは一筋縄じゃいかねえよな」
スバルの言葉を聞いたリンは首を傾げつつスバルに言った。
「うん?この世界だと100km/hで走ることのできる人間は多くはないけど存在するし?てか、トリコとか、お兄ちゃんもたぶんそんくらいできると思うし」
「いや、あんたのお兄ちゃんバケモンかよ!トリコさんもそんだけの速さで走れるとか、この世界のトップクラスってのは人間やめてんね!てか、リンさんのお兄さんもトリコさん並みにすごい人なんですか?」
リンはやや複雑そうな顔をしながらもスバルからの質問に答える。
「あーそうね、ウチのお兄ちゃんもトリコと同じ『美食屋四天王』って呼ばれてるし。ま、トリコのほうが何倍も強いし、素敵だし、圧勝だと思うし。あ!そうだ、ロズワール服飾店にウチから依頼をしてもいい?ちょうど、IGOからの依頼もあったから、お兄ちゃんにもそのことは伝えるし!」
話の流れで仕事の依頼を受けたロズワール服飾店。IGOからの正式な依頼と言うことで今回もビオトープへの入場料は免除された。ロズワール服飾店への最初の依頼と言うこともあり、社長のロズワール自らが現地に赴くことになった。抜擢されたメンバーは、秘書のラム、服飾職人(候補)のレム、素材捕獲担当(候補)のスバルとベアトリス。彼らはIGO第4ビオトープのブレイングレープの時とは違う入り口にてリンの兄と合流することになっていた。
「ええっと?リンさんの話によれば、お兄さんの特徴は『長い髪』を自在に操る男性?髪を操るってのは一体どういうことだ?」
そんな話をしていると突然スバルの体がふわりと上空5mほどに浮かび上がった。
「ちょちょちょ!エーッ!何で俺の体浮いてんの!?俺ってば気が付かないうちに浮遊魔術でも習得してた?いや~だとするなら自分の才能が怖いぜ~...ってどわー!」
空中に浮いていたスバルが突然顔面から落下した。…のだが、5m上空から顔面を下に落下したにしてはダメージが少ない。と言うかほぼない。さらに言えば、スバルの体勢は空中で足を持たれているかのようにぶらんとしているのだ。
「はあ。あんなのとはいえ一応妹の頼みだから来てみたが、なんなんだ?この美しくねえガキは。自分の力で浮かび上がったと錯覚しやがる。自分の力量もわきまえられねえとはな。後ろにいる妙な顔のピエロも気になるが、こいつらと今回依頼をこなさなくちゃいけねえのかよ。はあ、全く、俺の美しさが曇っちまうぜ」
スバルたちの正面から現れた長髪の男は明らかに不機嫌そうな顔をしていた。
「おい。お前ら。今回はIGOからの正式な依頼だからつきあってやるけど、美しい俺の足をひっぱんじゃねえぞ」
スバルに対する侮辱と仕打ちに誰よりも早く反応したのはレムであった。レムは即座に鬼人化し、どこからともなく取り出したモーニングスターで長髪の男に殴り掛かる。
「レムの英雄を侮辱するなあ!」
激昂するレムと長髪の男の間に割って入ったのはロズワールであった。魔術によりレムの動きを止めると同時に長髪男へのけん制もした。
「待ちなさい。レム。この人が今回同行してくださるサニー殿だ。スバル君への仕打ちに思うところがあるのは分かるが、彼は仲間だ。とはいえ、サニー殿。スバル君を下ろしてはもらえないだろうか?その極細の髪の毛で彼のことを吊っているんだろう?」
目に見えないほど細い髪の毛によるからくりを瞬時に見破られたサニーは感心して、スバルを下ろし、地面に立たせる。
「ほう?ピエロ顔のあんた、確かロズワールとか言ったか?俺の髪の毛を見破るとはなかなかやるじゃねえか。この中では一番の手練れだな。俺の髪の毛でも触れないところを見るに、体全体をエネルギーか何かで覆っている。その警戒心は褒めておこう。あと、青髪の...レムとか言ったか?仲間を侮辱されてわが身を顧みずに突っ込んでくるその心意気、実に美しいじゃないか!だが、相手のこともよくわかっていなのに突っ込んでくることは美しくねえ。お前の大切な仲間…スバルだったか?スバルにとってお前はどういう存在だ?少しは仲間の気持ちのことも考えたほうがいい。ロズワールがいなかったら、お前は死んでたかもしれねえんだぜ?」
ひとまず地面におろされたスバルにレムとベアトリスが駆け寄りつつ、二人ともサニーのことをキッとにらみつける。スバルは二人のことをなだめつつひとまずは互いの自己紹介に入ろうとしたのだが…
「あ?自己紹介?んな[[rb:美 > つく]]しくねえことやるわけねえだろ。ビューティーな美食屋ってのは仕事相手のことはあらかじめ調べつくしておいて、自分の頭の中に叩き込んでおくものだ。そこのガキはナツキスバル、ピエロ男はロズワール、赤髪の女はラム、青髪はレム、金髪のちみっこはベアトリスだろ?トリコから大概の話は聞いてんだよ。さあ、さっさと依頼を達成しに行くぞ。もうすぐ俺のヘアサロンの時間なんだ」
少しでも歩み寄ろうとしたスバルは目に見える形で不満をあらわにする。
「むきーっ!感じわる!互いのことを知るためには顔と顔とを向かい合わせて自己紹介すんのは当たり前だろ!何なんだよ『仕事相手のことは調べつくしてある』って!ちょっとでも歩み寄ろうとした俺が馬鹿みたいじゃねえか!」
その言葉を聞いていたサニーは一切振り返ることなくこう言った。
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだ?自分が浮かび上がった仕組みを理解できず、調子に乗ってるガキンチョにちょっとばかしお灸をすえてやっただけだよ。は~!俺ってば[[rb:美 > つく]]し~!」
サニーからの挑発的な言葉を受け、再びレムがブチ切れそうになった時、ラムがレムのことを制してサニーの横に立って言い放つ。
「そうね。バルスが馬鹿なのは何も反論しないわ。だって馬鹿だもの。」
「なっ!姉さままでそっち側立っちまうのかよ!さすがに…」
即座にツッコミを入れようとするスバルであったが、続くラムの言葉を聞いて言葉を飲み込んだ。
「でもね、そんなバルスでも私たちの仲間よ。これ以上私の仲間を馬鹿にしてみなさい。あなただってただじゃ済まさないわよ」
ラムから鬼神のごときオーラが揺らめき立ち、サニーのことを威嚇する。その威嚇のオーラを見たサニーは少しだけ考えを改める。
(ほう?トリコから聞いた話じゃこのラムとかいう女はポイズンポテトのふかし芋だけは完璧に行うが、それ以外のこと、特に戦闘においては仲間に頼り切りということだったが…このオーラ、ただものじゃないな。もしかすると、ラム以外のほかの奴らもトリコに見せていない何かがあるかもしれねえな…)
ラムからの威嚇を受け、スバルたちに向き直ったサニーは簡素な自己紹介を始める。
「ったく、一度しか言わねーからちゃんと聞いとけよ。俺の名前はサニー。世界で一番美しい美食屋だ。この髪の毛であらゆるものを捕獲する世界一美しい美食屋だ。よーく覚えておけよ」
ひとまずはサニーが自己紹介をしたことで留飲の下がったスバルたちも自己紹介を始めた。
「俺の名前はナツキスバルだ。と言っても、ほとんどのことは知られてるっぽいから、これ以上の自己紹介はいるか?」
「レムです」
「ラムよ」
「ベティなのよ」
「ロズワールだ~あよ」
めちゃくちゃ雑な自己紹介をされたサニーはついツッコミをしてしまう。
「おいー!んだよその自己紹介は!ぜんっぜん[[rb:美 > つく]]しくねえ!少しは自分のことを相手に知らせてみたらどうだ!特にロズワール!その語尾の時は割と機嫌がいいって聞いてっぞ!?何でそんなにおめーまで雑な自己紹介してんだよ!一応社長だろ!?」
サニーのツッコミを聞いたスバルは反射的にツッコミ返しをしてしまった。
「おめーが自己紹介は要らねえつったんだろ!てか、ロズッチはぜってー悪乗りしてんだろ!ほら!プルプル震えて笑いこらえてるよ!この性悪ピエロ!ちったあ社長としての責任とやらを持ってみたらどうだ!」
ロズワールに対するツッコミでなぜか意見が一致してしまったスバルとサニーはふと目が合うと互いに大爆笑してしまう。
「だっはっはっは!おいガキンチョ!おめー俺へのツッコミとピエロへのツッコミが渋滞してんぞ?その割にはピエロが笑いこらえているところとか、よく見てるんだな。なんというかお前の仲間内での立ち位置が分かった気がするぜ。いわゆる苦労人ポジションってやつだろ?泥臭い役回りだが、仲間のことを一番見てねーとそのポジションに収まり続けることはできねえ。レムやラムに金髪ちみっこ、それにあのピエロからの信頼具合を見ると、しっかりその役割果たせてるじゃねーか。そういうやつ、嫌いじゃねえぜ?」
「俺はガキンチョじゃねえっつうの!俺の名前はナツキスバル。ロン毛こそ、さすがはプロの美食屋なだけあって観察眼はすごいんだな。俺の苦労人ポジのことを見抜いた上に、全員から信頼されてることまで見抜くなんてな。トリコさんやココさんから『超一流のナルシストってのはほかの人の目を気にしているからこそ成り立つんだよ』って言われているだけあるな!」
「あ゛あ゛ん!?トリコとココのことは『さん』付けしやがるのに俺のことをロン毛呼びだあ!?サニー様と呼べガキンチョ!もっかい吊り上げて落っことしてやろうか!今度は寸止めしてやらねえぞ!ま、『超一流のナルシスト』ってところは否定しねえけど?」
「誰がガキンチョじゃ!せめてスバルと呼びやがれってんだい!もっかい落っことしても今度は誰かが助けてくれるからいいもんねー!それに、俺のこと馬鹿にしたらラム姉さまがぎったんぎったんにするってよ!ってか、ナルシストであることは否定しないのかよ!それ、結構な悪口で言ったつもりなんですけど!」
「ナルシストであることのどこが悪いんだよガキンチョ!あ、そうか。お前、俺の美しさに気づいてねえな?」
「だーかーらー、俺はガキンチョじゃねえ!そもそも、初対面のサニーのことを『美しい』だなんて目で見れるか!このナルシスト!」
スバルとサニーの子どもみたいな言い争いを遠目で見ていたほかの面々も、ついくすっと笑ってしまうのであった。
「バルス、調子に乗らないこと。あんたが吊り落されてもラムは助けないし、ラムはサニーのことを八つ裂きになんてしないから。むしろ、今回に関しては馬鹿バルスが挑発してるから、むしろラムが八つ裂きにすべきはバルスのほうよ」
「レムは、今度こそスバル君のこと受け止めますからね!」
「ベティにスバルのことを受け止められるだけの力があると思ってるのかしら。無理なのよ。自分で何とかするかしら。それにしてもロズワール?あんた、この状況になるってわかってやったかしら?」
ニコリと笑いつつもどこか達観しているようなロズワールはいつもの調子で答えた。
「ん~?な~んのことかな?ぼ~くはただ単に面白そうだからあおってみただけだ~あよ」
ぎゃあぎゃあと言い争いつつも一行は依頼されているなめし[[rb:牛 > うし]]の生息域に着々と近づいているのであった。