ナツキ・スバル達御一行がどうやらトリコの世界に迷い込んでしまったようです。 作:お餅モチモチ
異世界に飛ばされ、半日以上もさ迷い歩いた末トリコたちに出会ったスバルたち一行。トリコと小松の厚意によりこの世の肉とは思えないほどの極上のガララワニの肉を食べ終えた彼らの意識が闇夜に消えていくまでにはそう時間はかからなかった。トリコからは「安心して寝ていいぞ?猛獣なら俺の匂いを嗅いだだけで逃げちまうからな」と促され、彼らは各々眠りについた。
翌朝、日の出とともに目が覚めたスバルはまだ眠っている仲間たちを起こさないようにしながら散歩がてら周囲を散策し始めた。すると朝から大量の果物を食べているトリコと遭遇した。
「あー、トリコさん。おはようございます。昨日はガララワニの肉ごちそうさまでした。あれ、めちゃくちゃうまかったです!ところで何を食べているんですか?」
スバルに気づいたトリコは持っていた『バロンバナナ』を差し出した。
「おう!おはようさん、スバル。よく眠れたか?ほらこれ食いな。バロンバナナだ。これ一本食べれば半日分の栄養になるからな。朝飯にはうってつけだぞ」
バナナを受け取ったスバルはトリコの足元にすでにトリコによって食べられたであろうバロンバナナの皮が大量にあることを見逃していなかった。
「いやいやいや!トリコさん朝からいったい何本バナナ食ってるんすか!これ一本で半日分の栄養なんでしょ!?カロリー的に考えたらこれ一本で500キロカロリーはくだらないでしょ!」
スバルの的確なカロリー計算に感心したトリコは自分の体質について説明し始めた。
「お!スバル計算が早いな。結構いいとこの育ちだったりするのか?まあ俺は基礎代謝で10万キロカロリーあるからな。バロンバナナを100本くらい食べてちょうどいいんだよ。とはいっても食没を覚えてからはそんなこと気にしなくてもよくなったんだが…やっぱ朝飯は食べたくなっちまうからな」
耳を疑う言葉が飛び出した。『基礎代謝が10万きろかろりー?』スバルの思考は停止した。
「いや、その…マジで言ってます?10万キロカロリーなんて言ったら厚生労働省が発表している成人男性の1日の推奨摂取カロリーの大体50倍ですよ!?そんなカロリー1日に食べきれないですって!太るどころの話じゃない!」
スバルは非常に驚いた顔をしていたが、トリコは軽く笑っていた。
「スバルは面白いことを言うな。とはいっても異世界からやってきたから驚くのも無理はないな。俺の体には『グルメ細胞』っていう細胞があるんだ。こいつは超万能細胞でな、たいていの傷なら美味い飯を食うだけでふさがっちまうのさ。食った飯のエネルギーを体外に放出して武器にしたりすることもできる。さらに言えば、美味いものを食えば食った分だけ身体を強くできるのさ。いくら俺が大柄だからってあの30mの巨体を持つガララワニを素手で仕留めるなんてグルメ細胞がなきゃ無理な話だな。そんでもって、そんな超万能細胞であるグルメ細胞は飯を食うことにも特化していてな、修行次第ではあるが比喩でもなんでもなく『どれだけでも』食べることができるようになるってもんよ」
トリコの話を聞いていたスバルは自分がとんでもないファンタジーの世界に飛ばされてしまったことをしみじみと実感するのであった。
トリコとの朝食を終えみんなの場所まで戻るとそこでは小松が朝ごはんの用意をしていた。
「トリコさん、スバル君。おはようございます。昨日のガララワニの骨からとった出汁と、ラムさんの作ってくれたポイズンポテトのふかし芋をペースト状にしたものを合わせて、バロン諸島原産の『バロンペッパー』を散らしたポタージュスープです。冷めないうちに食べてください!」
先ほどまでバナナを100本以上食べていたトリコは即座にスープに飛びつき美味しそうに飲んでいる。そう、すでに5万キロカロリーは食べているのに、だ。
「はぁ~。ガララワニの骨からとった濃厚な出汁に、ポイズンポテトの旨みを120%引き出したあのふかし芋の味わい。さらにバロンペッパー特有のピリリとしびれる辛さがたまんねぇ~!」
いや、あんたさっき100本バナナ食ってただろ。俺はさっきもらった1本で腹いっぱいなんだが?というツッコミをしたかったスバルであったが、それよりも先にツッコミたい出来事に気が付いてしまった。
「小松さん!あんたの鼻、なんかシュッとしてない!?昨日はペチャってたよね!?一日で成形手術でもしたの?それともさっきトリコさんが言ってたグルメ細胞のせい!?」
その言葉を聞いて小松は驚いた顔をして頭を搔いていた。
「スバル君グルメ細胞についての話も聞いていたんですね。いやあ、お恥ずかしながらその通りでして、グルメ細胞の影響なのか時々鼻の形がつぶれてしまうんですよね。すぐに元には戻るんですけど、我ながら不思議な体質になったものです~」
朝から異世界特有の訳のわからない話を聞きつつも、おいしい朝食も食べ、おなか一杯になった一行。しかし、バロン諸島からの脱出はどうするのかと考えていたところ、トリコが誰かと電話をしているのが聞こえてきた。
「おう、そんなわけで迷子を保護したんだ。え?怪しいやつらかって?俺の鼻に誓ってそんな奴らじゃねえよ。ああ、時間は前伝えたとおりの時間で頼むぜ。え?大丈夫だって人数が増えた分チップは弾むからよ。俺のことそんなにケチくせえ奴だと思ってたのか?冗談だよ、それじゃあな」
どうやらトリコはバロン諸島から脱出する方法を知っているようだ。
「じゃあ、飯も食ったことだし、合流地点まで歩くぞ。そこまで大体半日くらいだ。ちゃんとついて来いよ?ついて来れなきゃ置いてくからな~」
置いて行かれるのは流石にまずいと思ったスバルたちは急いで支度を済ませトリコたちについていく。あと半日歩けばひとまずこのジャングルを抜けることができる。ルグニカへの帰還に一歩近づく。そんな期待を胸にまずは慣れない足場のこのジャングルをどうやって歩くべきかを考えるスバルたちなのであった。
朝ごはんを食べ終え、半日ほどぬかるみに足を取られつつもトリコのスピードになんとか食らいついて歩いた一行はトリコがバロン諸島に上陸してきた沿岸まで移動してきた。ここまで案内してきたトリコであったが、1時間ほど前に「すまん!ちょっと野暮用があってな。時間までには戻るから、ここで待っていてくれ!」と言ってどこかに行ってしまっていた。
すると、どこからともなく船のエンジン音がしてきて沿岸に接岸した。船の中から顔をのぞかせたのはこの船の持ち主であり、バロン諸島へ接岸できる唯一のルートを知っている卸売商人の十夢であった。
「トリコから話は聞いていたが、10人増えるってのは聞いてないな。というか、肝心なトリコの姿が見えねえじゃねえか。どこに行きやがった?あいつ」
するとすかさずエミリアがフォローに入る。
「あ、あの。私はルグニカ王国王選候補者の一人、エミリアと言います。十夢さん?ですよね。トリコさんなら1時間ほど前にどこかに行ってしまって、『時間までには戻る』って言ってたんですけど…ごめんなさい!」
「いや、何でエミリアたんが謝ってるの!?悪いのは全面的に遅れてるトリコさんだからね?」
そんな会話をしていたらどこからかトリコが戻ってきていた。
「おっ?十夢来てたのか。ちょっと遅れちまったか?すまなかったな」
すると十夢はけらけらと笑って返す。
「大丈夫さトリコ。お前は時間ピッタリさ。俺のほうがちょいと早く到着したもんでね。何せ迷子を拾ったんだろ?何人くらいのせればいいのかを早めに知りたかったのさ。ってかトリコ、お前10人いるなら先に言えよな!これじゃあ腹いっぱい食べたお前を乗せたらあと5人しか乗れないぞ?いくら小型艇だからって、重量オーバーじゃ岩礁地帯を抜けるときに船底をこすっちまう」
するとトリコは得意そうな顔をして言った。
「心配すんなよ十夢。さっき出すもんは出してきたからな。あと二人か三人くらいなら乗れるんじゃねーか?それに、このピエロ顔の奴が空飛んでるのを昨日見たから、岩礁地帯を越えるまでは飛んでもらえばいいだろ」
スバルは妙な予感が働いてトリコに恐る恐る尋ねてみた。
「あの~トリコさん?さっきの野暮用って、二、三人分は軽くなったって、まさか…」
トリコは不思議そうな顔をしてスバルに答えた。
「スバル。なに当たり前のことを聞いているんだ?そりゃ生き物なんだから出るもんは出るだろ」
「やっぱりーー!!っていうか二、三人分の体重のある○○○が出たってどんな体の構造してるんだよ!」
騒ぎ立てるスバルの背後から容赦のないげんこつがスバルを襲う。
「バルス。ここにはラムを筆頭に超絶美少女たちがいるのよ。それだというのに下品な話をして。恥を知りなさい。それともこの場で昨日のオオトカゲのようになりたいの?」
明らかに怒りのこもった声だった。確かにこれに関しては一切のデリカシーを考えなかったスバルが悪いとみんなが納得し、頷いた。
「やめてください。ラム姉さま。昨日のガララワニのように真っ黒の炭にはなりたくないです」
情けないスバルの謝罪の声はラムの怒りの炎に油を注いでしまった。
「あ゛?バルスにはお仕置きが足りないようね。申し訳ありませんロズワール様。岩礁地帯を越えるまで船を追うようにして飛行をお願いいたします。そして、船に乗れないバルスとオットーをよろしくお願いします」
てっきり自分は船に乗ると思っていたオットーの顔が一気に青ざめた。
「ラムさん!?ナツキさんが罰としてロズワール殿に担がれて一緒に飛行するのは分かりますけど、何で僕も一緒なんですか!これじゃあまるで僕まで罰ゲームじゃないですか!」
その言葉を聞いたロズワールはいつものにこにこした表情を崩さないまま若干語気を強めて言った。
「ラムのアイディアはと~ってもないすだあ~ね。デリカシーのないス~バル君にお仕置きとしてちょ~っとだけスリリングな飛行体験をしてもらうのはよいとして、内政官殿もど~やら飛びたいみたいだ~あね。ま~さか罰ゲームな~んて言わないよね~え」
オットーはこの世の終わりかのような顔をしてすべてを受け入れた。そしてスバル、オットー、ロズワールを除いた面々は十夢の船に乗り帰路に就いた。
一方スバルとオットーはロズワールの魔法によって
「ちょちょちょ、ロズッチ?なんか楽しんでない?そもそも簀巻きにされるなんて聞いてないんですけど?こーいうときの相場はお姫様抱っこじゃないの!?ってギャー!!!落ちる落ちる落ちる!!!はあ、はあ、はあ…俺たちのこといたぶるのも大概にしろよ!このドSピエロ!」
「何で僕まで簀巻きにされているんですかー!ナツキさんはラムさんへの失言に対するお仕置きだからまだわかりますけど、僕は船に乗れないから仕方なく飛んでいるだけなんですよ!なのに…ウップ...!オロロロロ…」
「ス~バル君と内政官殿がな~にを言っているのか聞こえないけれども、あ~んなにはしゃいでるようなら、どうやら楽しんでくれているようだ~あね。昨日のガララワニの肉を食べたせいか体に力がみなぎっているようだ~あね。岩礁地帯と言わずにこ~のまま港まで飛んでいこうか~あな」
有言実行、岩礁地帯を越えた後もロズワールは飛び続け、なんと港まで到着してしまった。ご機嫌そうなロズワールとは裏腹に地獄のようなフライトを経験したスバルとオットーの顔は完全に死んでいた。