ナツキ・スバル達御一行がどうやらトリコの世界に迷い込んでしまったようです。 作:お餅モチモチ
バロン諸島から無事に(?)脱出し、港に戻ってきたスバルたち一行。元の世界に戻るための情報集めとしてIGOの本部に向かうことになったのだが…
「うおっぷ…。あぁ…俺はまだ空を飛んでいるのか?それにしては足元がやけにしっかりしているんだが…ここが天国ってやつか?」
「ナツキさん…。もう到着しましたよ…。僕たちは地面にいます。あの簀巻き空中ブランコ~乱高下を添えて~の時間は終了しました…」
ラム考案、ロズワールによるスバルへのお仕置き飛行(とそれに巻き込まれるオットー)によりスバルとオットーはすでに死にかけていた。
「その様子じゃあIGO本部まで向かう道中で完全にダウンしちまうな。まあもっとも今から向かったんじゃ日が暮れちまう。俺の家で一晩泊まって行けよ。なかなか面白いもんが見れると思うぜ?」
トリコの提案によってトリコ宅にて一晩を過ごすことになったスバルたち。グロッキーになっているスバルとオットーを引きずって一行はトリコの自宅へと行くのであった。
「え…!」「嘘…!」「うわぁー!」「こ、これは現実ですか!?それともやはり天国…」
スバルたちは自分の目を疑った。何せトリコの自宅と言われていた家が「お菓子でできた豪邸」だったのだ。彼らが驚いていると家の中から一人の女性がものすごい勢いで飛び出して、トリコに抱きついてきた。
「や~んお帰りだしートリコー♡宇宙の旅から帰ってきてすぐに『ガララワニの肉が食いてえ』なんて言って新妻をほっとくなんて信じられないしー。でも、そんなところがトリコっぽくてウチは大好きだしー♡って、あれ?トリコ、後ろにいる人たちはお客さん?」
どうやら彼女の眼にはスバルたちのことは映っていなかったようである。いや、10人いるはずなんだけどなぁ。
「おい、リンいくら寂しかったからっていきなり抱きつくなんてはしたないぞ?(咳払い)紹介するよ。彼女はリン。俺の妻だ。」
トリコからの紹介でリンに衝撃が走る。
「妻……っ!トリコが、ウチのことを妻って…!もう耐えられないし、トリコ…今すぐどう?」
リンはトリコを自宅へといざなうように親指を立ててクイっとジェスチャーをした。
「おいおいリン。客人が見えてないのか?そういう話はやめてくれって。(小声で耳打ち)今夜寝室でな。」
トリコから耳打ちされたリンは目をハートマークにし、鼻血を垂れさせながらその場でぶっ倒れて気絶してしまった。幸いなことにトリコが耳打ちした言葉はスバルたち一行には聞こえていなかったようである。
「すまんな、みんな。なんかいきなりめまいがしちまったらしいからちょっとリンを休ませてくるよ。リビングで待っていてくれないか?」
リンを抱きかかえるトリコに言われてスバルたちはお菓子でできた豪邸に入り、リビングでくつろいでいた。
「いや~まさか本物のお菓子の家に入ることができるなんてなぁ。小さいころに絵本で読んだことはあったが…」
スバルは隅から隅まで見渡してもすべてがお菓子でできているこの空間にただただ驚いていた。
「スバルスバル!このおうち、ぜーんぶお菓子でできてるの?すごいねー!おいしそーだね!食べてもいいかな?」
人一倍目をキラキラと輝かせていたのはペトラだ。やはりこの手のメルヘンチックなものには心を惹かれるのだろう。
「ペトラ、いくらたくさんあるように見えても、人様のものを勝手に食べることは立派なレディとしてよろしくありませんよ?」
フレデリカが優しくさとす。
「そ、そうよねぇ。いくらたくさんあるからといっても、トリコさんのおうちだもんね!すこーしだけ食べたくなっちゃったなんて、お、思ってないんだからね!」
ペトラよりも先になぜかエミリアが言い訳をしている。
「いや、エミリアたん。お口の周りにチョコレートつけてるのにその言い訳は苦しいんじゃないかなぁ?」
ニヤニヤしながらスバルが返す。
「え!?うそっ!?ちゃんと拭いたはずなのに!」
口元をぬぐいながらエミリアが焦る。
「いやエミリアたんマジで食べちゃってたの!?ジョークのつもりで言ったんですけど!?俺」
冗談のつもりがマジで当ててしまったスバルはエミリア以上にあたふたしている。
「もう!スバルのオタンコナス!」
そんな会話をしているとトリコが二階から降りてきた。
「わっはっはっは!楽しそうな会話が聞こえたと思ったらそんな話をしてたのか。思う存分食べてもいいぜ?そのためにお菓子の家にしたんだからよ。でも、もう少しで夕飯の時間だ。ほどほどにしておかねえと飯が入らなくなっちまうぞ?」
と言いつつもトリコはチョコレートの柱を右手の《ナイフ》で切り取ってほおばっている。そのチョコレート目方だけでも1kgはありそうなんだが、食事前だって言ったのはあんただろうが。
その後はリンの作ってくれたごちそうに舌鼓を打ちつつみんなで夕食の時を過ごした。夕食後は各々好きな場所で過ごしている。デザートとしてクッションのプリンやマシュマロ、ゼリーなんかを爆食する女性陣、蛇口から酒が出ると聞いて爆速で飲みに行ったラムとロズワールとオットー、ペットとして飼われている(?)オブサウルスと力比べをしているガーフィール、ベランダに出て星を眺めつつトリコと身の上話をしているスバル、みな一様にリラックスして過ごしていた。
「へぇ~じゃあトリコさんはその『人生のフルコース』ってやつを探すために美食屋になったんですか?」
スバルはトリコから様々な話を聞いて質問をしていた。
「ああ!人生のフルコースとなる食材を探して、決める。そしてそれを食べることってのは美食屋としての大きな目標だな。あと、美食屋にとって人生のフルコースってのは一種のステータスにもなるから、そういった意味でも美食屋たちは血眼になってフルコースを探すのさ。というか、この世界の住民なら美食屋に限らず『自分だけのフルコースの完成』を人生の目標としている奴は少なくないぜ?お前らももし長くこっちにいられるんなら『お前たちのフルコース』なんてのを作ってみてもいいかもな」
トリコからの提案にスバルはまんざらでもない様子だった。
「へへっ。そうかもしれませんね。こっちの世界で食べるもの全部めちゃくちゃ美味いですもん。みんなでフルコースを作るってのはありかもしれませんね。まあ、ルグニカに帰るための情報探しが先ではありますけどね」
一方でトリコもまたスバルのたどってきて数奇な運命に興味を示していた。
「というか、スバルもなかなか大変な人生を歩んできたんだな。聞けばそもそも生まれた場所はニッポンとかいうルグニカとも違う世界だって?そして気が付けばルグニカに文無しで飛ばされたと。そこから身一つでよくここまで信頼できる仲間を得たもんだ。ほかの連中と違って魔法とかもあんまり得意じゃないんだろ?そのど根性精神、若いのにやるなぁ」
そんな話をしている中廊下をダダだーっと走る音が聞こえた。
「トーリコっ!もう夜だし!そろそろ、うへっ、うへへへへへ…」
ピンク色のフリルのついたパジャマを着て、だらしない顔で笑みを浮かべ、よだれを垂らしながら『YES』と書かれた枕を抱きかかえたリンが登場した。
「うおっ!リン!だーかーらー客人の前だっての!あーもーしょうがねえな…」
トリコは頭を掻きながらリンをひょいっと抱き上げ寝室へと向かって行った。
「あー、まあ俺たちはもう寝るからよ。スバルたちもほどほどの時間になったら寝るんだぞ?明日の出発も早いからな」
抱きかかえられているリンは超興奮状態で…
「キャーッ!今からトリコと、トリコと…!」
その様子を見ていた一行はあきれた顔を隠すことができなかった。
「いや、リンさん隠す気ゼロかよ…。いくらトリコさんのことが好きだからって積極的すぎだぜ。それに、あの枕って…」
スバルは日本にいたときにさんざんネットをあさっていたベテラン自宅警備員(通称引きこもり)である。あの枕が「ナニ」を意味するのか、その後「ナニ」が起こるのかは知らないはずもなかったのだが…
「ねえスバル、あの枕すっごくかわいくなかった?ピンク色で、ハートのマークまであって!何が書いてあるのかは読めなかったから分からなかったけど、とーっても寝心地がよさそうだったわ!トリコさんに抱きかかえられていったということは、これから二人で仲良く寝るのね!」
純粋すぎるエミリアにはあの枕の真実とその後起きるであろうことを伝えることはスバルにはできなかった。
「ああ、うん、そうだねエミリアたん。かわいい枕だったね~アハハ…」
静かなる夜が更けていく。この静けさがいつまでも続くことを願って一行は眠りについた。