ナツキ・スバル達御一行がどうやらトリコの世界に迷い込んでしまったようです。 作:お餅モチモチ
一晩トリコの家に宿泊し、英気を養ったスバルたち。本日彼らが向かっていたのはIGOの本部であった。トリコ曰く「あそこなら人間界の情報は大体手に入る」とのことだった。
IGOの本部に向かう道中、車内ではルグニカに帰る情報が見つかるかもしれない高揚感からか話に花が咲いていた。
「いや~、それにしても昨日はトリコさんの豪邸に泊めてもらって命拾いしたわ。何せ俺とオットーは“あれ”のおかげでもう頭ぐわんぐわんだったからなあ。それに、ふっかふかのベッドで寝れたんだ。もう体力は100%を超えて120%回復したぜ!ただ、トリコさんの家がまさか全部お菓子でできた家だとは思わなかったなぁ」
とんでもなくメルヘンチックな経験をしたペトラは今でもそのことを思い出しては目を輝かせていた。
「ねえねえ、スバルスバル!ルグニカに帰った後もあんなふうなお菓子でできたおうち作れないかなぁ?村のみんなにも食べさせてあげたい!それに、と~ってもかわいいんだもん!」
うんうんと頷きつつもスバルはペトラに現実を教えてあげる。
「そうだなぁ。作れるもんなら作って、村のみんなに自慢したいくらいだけど、ルグニカじゃああんなに大量のお菓子を作ろうと思ったらすんごいお金が必要になるぞ?砂糖だって安くないからな。こっちの世界じゃなんでも『お菓子でできた森』があるらしいからトリコさんの家みたいなお菓子の家を作れるんじゃないかな?」
現実に気づいたペトラは少しだけしょげた顔になりつつも、やはり昨日の出来事が忘れられないらしく、にこにこしながら「トリコさんのおうちにまた泊まりたいね!」と言っている。
「確かに、『お菓子の家』なんてあったらルグニカ王国中の話題になりますよ。それこそ、見物料だけで結構なお金を取れそうなほどに。まあ僕としてはトリコさんの奥さんのあの熱烈な歓迎のほうが印象的でしたね。僕、当てられっぱなしで胃が痛くなりましたよ」
昨日のトリコ宅への訪問時、トリコの妻であるリンからの(トリコに対する)熱烈な歓迎はなかなか印象深かったとスバルも感じていた。
「あー、あのバカップルな(笑)トリコさんが耳打ちした瞬間に気絶した時はどうしようかと思ったぜ。あと、夜の…あ~この話はここまでにしようか、あはは…それにしても今から向かっているIGOの本部って…」
IGO、
「なあ、トリコさん。いくらあんたが腕利きの美食屋だからと言っても、そんな巨大組織の本部に入れるのか?それに十夢さんの時と違って連絡を入れた様子もなかったし」
その言葉に被せるようにガーフィールが話す。
「大将の言うとおりだぜ。このまま『あいじーおーほんぶ?』とかいう場所に行って門前払い食らったらそれこそ『ルンダフンダの恥さらし』ってやつだぜ?トリコさんよお」
みんなの心配をよそにトリコは自信満々な顔をしている。
「心配すんなって。IGOを設立したのは俺の親父、と言っても育ててくれた親父なんだが、まあ息子特権ってやつを乱用してるだけさ。今は…まあ…あっちの世界に旅立っちまったが、それでも現会長とは顔見知りだからな。まあ何とかなるだろ。少なくとも入れてくれないってことはないと思うぜ?」
トリコの予想は的中した。IGOの本部の敷地に入るや否や厳重な装備をした護衛たちが敬礼しながら「ごちそうさまです!」と謎のあいさつをしてくる。そして、すんなりと会長の部屋まで通された。その部屋にいたのはトリコ以上に大柄な筋肉だるまのタンクトップのおっさんがいた。
「ばっはっはっは!よく来たな!トリコ、それにお客人方。私はIGO会長マンサム。よろしくお願いするよ」
各々マンサムに対して自己紹介をする。
「初めまして。私はエミリア。ルグニカ王国というところの王選候補者…だったのですが、今はこの世界に来てしまっているので。ただのエミリアです」
「初めまして。マンサム会長。わたくしはロズワール・L・メイザース。ルグニカ王国において辺境伯を命じられておりますメイザース家当主でございます。以後お見知りおきを」
「初めまして。私はラム。ロズワール様のメイドを務めさせていただいております」
「初めまして。私はレム。姉と同じく同じくロズワール様のメイドをさせていただいております」
「初めましてマンサム会長。わたくしの名前はフレデリカ・バウマン。この二人と同じくロズワール様の下でメイドをしております」
「は、初めまして。ペトラ・レイテと申します。私はロズワール様のお屋敷でメイド見習いをしています」
「初めましてマンサム会長。俺の名前はナツキ・スバル。ロズワール邸にて執事をやりつつ、エミリア様の騎士として日々精進しております。よろしくお願いします」
「ベティはベティなのよ。スバルと契約している偉大なる大精霊なのかしら」
「おう!オレ様の名前はガーフィール・ティンゼル。たいしょ、じゃなかったスバルに弟子入りしたような感じでロズワール邸の護衛を任されてる。よろしくな!おっさん!」
「(小声)ガーフィール君もう少しきちんと自己紹介してくださいよ。(咳払い)初めまして。マンサム会長。私の名前はオットー・スーウェン。ロズワール殿のお屋敷にて内政官として働きつつ、商人としても働かせていただいています。以後、お見知りおきください」
全員の自己紹介が終わったと思った矢先、エミリアが首から下げている魔法石がまぶしく光り輝いた。
「そして、僕の名前はパックだよ。リアと契約していた火をつかさどる大精霊さ。名前だけでも覚えていってね」
その場にいるスバルたち一行が目を見開いて驚いた。
「パック!一体どこに行ってたの?もう!心配したんだから!」
いの一番にエミリアが涙を浮かべながらパックに抱き着く。
「ごめんねリア。今まで会えなくて。ちょっといろいろあってさ。でも、この世界はマナ?みたいなエネルギーがあふれているから出てこれるようになったんだよ。ベアトリスも、今まで会えなくてごめんね」
ベアトリスは目に大粒の涙を浮かべている。
「にーちゃ!ぐすっ」
和気あいあいとしたスバルたちの様子を見ていたマンサムはにこやかな笑顔であった。
「ばっはっはっは!何やらうれしいサプライズがあったようだね?さてトリコ、またどうしていきなりここに顔を出したんだ?ところで今ハンサムって言った?」
マンサムに尋ねられたトリコは食って掛かるような勢いでツッコミしつつ説明した。
「誰もハンサムなんて言ってねーよ!そういや何でここに来たのか話してなかったな。スバルたちの身なりや話している内容を聞けばなんとなくわかるかもしれねえが、彼らはこの世界ではない別の世界からやってきたらしいんだ。そして、迷子になっていたところを俺が保護した。どうやら元の世界に帰りたいらしくてな。何か知らないか?ほら、異世界につながるゲートのようなもののありかをさ」
マンサムは顎に手を当てて考えている。すると何かを思い出したように語り始めた。
「そういえば一龍会長からこんな話を聞いたことがある。数十年に一度、グルメ界と人間界の境界に当たる『バミューダ群島』から奇妙なものが流れ着くと。以前調べてみたところ、この世界の生き物ではないと思われる頭蓋骨が見つかったそうだ。どれだけDNAなどを調べてみてもこの世界の生き物と一致しないどころか、どんな文献を調べてもその頭蓋骨と一致する生き物は過去をさかのぼってもいなかったことが判明したそうだ。その頭蓋骨にはグルメ細胞が含まれていなかったからグルメ界の新種とも考えにくい。つまるところ『別の世界からやってきた生き物の残骸』ではないかと結論付けられている」
トリコの目が光る。
「ほう?それはかなり気になる情報だな」
マンサムが続ける。
「大体は四獣が人間界にやってくるときに合わせてその現象が起きるそうだが、今回は四獣の発生とは重ならなかった。それどころか少し前に起きたグルメ日食のせいで『バミューダ群島』付近に異常なエネルギーが溜まっているということが最近の調査で分かったんだ。もしかしたら、スバル君たちがこの世界にやってきたのと何か因果関係があるかもしれん。トリコ、調査の傍らスバル君たちを送って行ってくれんか?飛行艇ならこちらで手配しよう」
その言葉を待ってましたと言わんばかりにトリコは頷く。
「ああ!もちろんだぜ!さすがはIGOの会長だ!」
もとの世界、ルグニカに戻る希望が見えたスバルたちの顔が一気に明るくなる。
「「「ありがとうございます!マンサム会長!」」」
マンサムはその言葉を聞いてがははと大きく笑って見せた。
「礼には及ばんよ。それより今ハンサムって言った?」
すかさずスバルが答える。
「ええ!もちろん!マンサム会長はハンサム以外の何物でもありませんよ!帰る可能性も見つけてくれた上に、移動手段まで用意してくれるなんて!神様、仏様、ハンサムなマンサム様!」
あふれんばかりの賛辞の声を聴き上機嫌になったマンサムはスバルたち一行を見送り、自身の業務に戻った。
IGO本部から西に6万8200km。グルメ界と隣接しながらも決してグルメ界に入ることのできないそびえたつ崖が眼前に迫るバミューダ群島に一行は到着した。1週間ほどのサバイバルをしながらバミューダ群島の最奥部までやってくると一行は奇妙な光景を目にする。空間が歪み、ひびが入っていたのだ。明らかに普通じゃない状況。そのうえ、そのひびは人が入れるほどの大きさをしていた。
スバルたちは確信した。「これでルグニカに帰れるぞ!」と。そしてそのひびに触れた瞬間、スバルたちの脳内にはっきりと声が聞こえた。
『ありうべからざる今を見よ』
――それは、かつて彼らが乗り越えたはずの、試練の始まりを告げる声だった。