ナツキ・スバル達御一行がどうやらトリコの世界に迷い込んでしまったようです。 作:お餅モチモチ
激闘の末、スバルが勝利を収めた。誰よりも早くスバルに駆け寄ったのはほかでもないレムであった。
「...っ!スバル君は、スバル君は、レムの英雄です!スバル君…ありがとうございます!」
大粒の涙をぽろぽろとこぼしながらレムはスバルに抱き着く。
「ああ、レム。勝ったぞ。ってイッテててて、ちょ、レムさん!?ちょっと離してもらえませんか!?クリーンヒットじゃないにしてもオットーからの拳をこれでもかと受けてまして…イッテー!」
スバルに抱き着いたまま離れないレムを何とか引き離し、スバルのけがの手当てをするエミリアとベアトリス。その時ロズワールから意外な提案が飛んできた。
「ス~バル君と内政官殿との決着が、ス~バル君の勝ちで決まったということは、我々は『ルグニカに帰らない』という決断をしたということで間違いないよ~おね。ならば、ポータルの向こうにいる自分に向かって、それぞれ一言ずつ声をかけてはどうだろうか?決意を言葉にすることでこそ整理できる気持ちもあるんじゃないか〜な」
その意見には意識を取り戻したオットーも含め、皆が賛成していた。パックとベアトリス、ロズワールは全神経を集中させ、ポータルに映る向こう側のルグニカの映像を切り替え始めた。
「あ、私が映ってる!(咳払い)ねえエミリア!絶対ルグニカで王様になってよね!そうじゃないと許さないんだから!私の思いも、ぜったい、ぜーったいに未来に届けてよね!」
「オウ!ガーフィール!お前、母ちゃんのこと絶対探し出せよ?あと、やりたいこと全部やって、大将のことを支えてやれよ!約束だ!守れないなら、オレ様が世界の壁をぶっ壊してお前のことをぶっ飛ばすからな!元気でやれよ!」
「フレデリカ!あなたも、ロズワール様やエミリア様のことを精一杯支えるのよ!それがメイドである私たちの使命なんだから!」
「ペトラー!立派なレディになって、立派なメイドになって、おとーさんと、おかーさんのことを幸せにするんだよー!ぐすっ!わ、私はもう、二人には会えないから、泣きたいぐらい寂しいけど、ずっと会えるあなたにおとーさんとおかーさんのことを任せるからねー!う、うわぁん!!!」
「ラム、ここから先、ロズワール様の手となり足となり仕えることをここで誓いなさい。それに、レムのことを絶対に思い出すの。いい?これは命令だからね。絶対よ」
「ロズワールよ。今の私の悲願はここにて潰える。だが、貴殿がそこにいて、私の代わりにルグニカで悲願を達成することを私は信じよう。またいずれ出会う日が来ることがあれば、ともに杯を交わそうじゃないか」
「ベアトリスー!あんた、せっかく見つけた『その人』のことを手放すんじゃないかしら!スバルが困っていたら、その時は手を貸さないとベティは許さないのよ!」
「あ!僕が映ってる!おーいパックー!こっちはリアと一緒だよー!うらやましーでしょー?僕のことをうらやましいって思うのなら、そっちでもやるべきことをやって、リアとまた再会したらいいよー!そっちにいるリアのこと任せたからねー!」
「うぅ、オットー・スーウェン!そっちの世界でのやるべきこと、やりたいこと、全部やり切ってくださいね!会いたい人にもあって、報告することはきちんと報告して、ええと、エミリア様にしっかりと仕えて、ナツキさんともずっと友達でいてくださいね!」
「おーい!ナツキスバル!お前どんだけしょぼくれた顔をしてんだよ!レムがみんなの記憶からいなくなって、レムも目を覚まさなくて、大変だとは思うけどなぁ、エミリアの騎士としての務めを忘れるんじゃねえぞコラ!そっちのこと、ルグニカのことは全部お前に任せた!なんたって俺なんだからな!エミリアのことを絶対に王にしてやってくれ!こっちはレムのことを、お前が幸せにしてやれない分まで、ぜったいに幸せにしてやるからさ!」
「レムはどこにいても、どれだけ眠っていても...レムの英雄は、世界が変わってもスバル君だけです!何があっても絶対にスバルくんのことを忘れません!―ずっと、ずっと、大好きです!」
ポータルは確かにルグニカと繋がっている。だがそのことをルグニカ側から知覚することは決してできない。しかし、ポータルの向こう側、ルグニカにいるはずのスバルが確かにこちらを振り向き、こちら側にいるスバルと目が合った。
『レ...ム...?今確かにレムの声が聞こえた気がしたんだが…気のせいだよな?だってレムは今俺の目の前で眠ってる…いや、目の前にレムはいるんだ。死んでなんかいない。だったら、俺がレムのことを目覚めさせないとな!何より俺はエミリアの騎士!エミリアを王にして、レムのことも目覚めさせて、今いる仲間たちと笑顔でいられるルグニカを目指す!ぜってー諦めるもんかよ!なあ!レム!』
決して交わることのない世界、決して聞こえることのない声、だがそこに確かにある愛という強い思いが一つの奇跡を生み出した。もしかしたらルグニカにいるスバルはこの奇跡のことを知らないかもしれない。もしかしたら、ルグニカにいるレムはこの奇跡を知っているかもしれない。たとえどちらであったとしても今この瞬間にスバルたちは『向こう側にいる』自分たちにすべてを託すことができたのだ。それに満足した一行はポータルに背を向け、この世界で生きていこうと誓った。
…ただ一人を除いて。
「えぇ!?向こう側のナツキさん、今、こっち向いて反応していましたよね!?ということは、今飛び込めば、もしかしたら、ルグニカに帰れるかもしれません!誰も僕のことを止めないでください!!!」
オットーはポータルに飛び込もうとして地面を蹴り、華麗なダイビングポーズをとる。今にもポータルに手が届きそうになった瞬間…!ポータルは時間制限を迎え消滅した。
「ずべらっ!」
ポータルという着地点を見失ったオットーは顔面から地面にダイブした。
「無様ね、オットー。決別をしたというのに醜くあがくから、たいしてかっこよくもないその顔が泥だけになってもっとぐちゃぐちゃになってしまったじゃない」
辛辣なラムの一言がオットーをえぐる。
「ラムさん!さすがにひどくないですか!?僕はただ、可能性があるなら諦めたくなかっただけですよぉ!」
しょげるオットーに対して回復魔法をかけながらガーフィールは大笑いしていた。
「だっはっは!オットー兄ぃ!顔面から地面に行ったからでこすりむいてんぞ?それに鼻血まで出して!ガッツはすげぇけど、諦め悪すぎだぜ!なあ?大将!」
ガーフィールの言葉を聞いてスバルもオットーに手を差し伸べながら声をかける。
「ガーフの言うとおりだぜ?人間諦めが肝心ってな?なぁオットー、俺たちはこの世界で生きる。そういうことだよ。ゼロからな」
スバルの手をがっちりとつかみながらオットーはやけくそのように言い放つ。
「あーもう!やってやりますよ!ゼロからね!どーせ皆さんのことですから、あーだこーだわがまま言うんでしょ?だったらそのわがままかなえられるくらいの大商人になってやりますよ!この世界で!」
オットーの言葉がバミューダ群島の空に響く。これにてスバルたち一行がルグニカに帰るすべはなくなった。つまり、この世界こそが、スバルたちの生きるべき世界となったのだ。このことに対して不安を覚える者はいない。なぜなら「全員がいる」。この事実が何よりも彼らの心を支える強い柱となっているのだ。
「えーっと、トリコさん。そんなわけで、俺たち全員でこの世界の厄介になることになりまして、なにとぞよろしくお願いします」
もともとは帰るつもりであったスバルだったため、少しばつが悪そうにしながらも、トリコに握手を求める。
「おう!いろいろと大変な選択をしたばかりだが、よくぞ選んだな!スバル!その選択はお前たち自身が選び取ったもの、お前たち自身でつかみ取った未来だ。絶対に離すんじゃねえぞ?離しちまったら『あっちにいる』お前たちに合わせる顔がないだろ?」
がっちりと握手をされたスバルはトリコの言葉を聞いてしっかりとした目で答えた。
「ああ!『あっちの世界』の俺たちが『こっちの世界』の俺たちを見ることがあっても、ぜったいに心配させねえよ!むしろ、羨ましいと思わせてやるぜ!」
その力強い言葉を聞いたトリコはにっこりと笑った。
「その通りだな!どうだ?スバル、こっちの世界に長くいることになったなら、自分たちで食材を集めて、『お前たちのフルコース』を作ってみるってのは」
スバルはもちろんのこと、その場にいた全員の顔が明るくなった。
「「「『俺(私)たちのフルコース!』」」」
新たなる目標を見つけたスバルたちはその輝かしい未来に向かって歩みだしたのである。
だがここで、トリコはニヤニヤとしながらスバルとレムに向かって投げかける。
「そういや、スバルにレム。お前さんたち、ポータルの向こうの自分たちに対してとはいえ、なかなか情熱的なことを言っていたじゃねえか。ほら、今目の前にいる本人に対してはお前らどう思っているんだ?ほら!ほら!」
いまさらながらなかなかに情熱的で恥ずかしいことを言っていたことを思い出したスバルは顔を真っ赤にしながらレムのことを見ていた。一方でレムはスバルの右腕をがっちりと離さず、スバルの顔をにこにことしながらもじーっと見ていた。
だがここで、エミリアが二人の間に割って入ってきて、スバルの右腕にしがみついた。それに困惑したスバルは思わず声を出してしまう。
「エミリアたん?どう…したの…かな?あ、はは、そんなにくっついたら歩きづらいな~なんて」
たじたじになるスバルをよそにエミリアは頬をぷくっと膨らませてプイっと向こうを向いてしまった。
「知らないもん!スバルのオタンコナス!」
どうやら拗ねてしまったようだ。エミリアをなだめようとしたスバルだったが、左腕ががっちりとつかまれたことに気づく。そこには満面の笑みを浮かべたレムがいた。
「スバル君。大好きです!」
面と向かって、目と目が合った状態でドストレートに言われた破壊力満点の言葉にスバルは言葉を失いかけた。がしかし、右腕側にいるエミリアのしがみつく力がより強力になり、スバルはそちらにも意識を向けざるを得なくなった。
「いったたた!エミリアたん!そんな力でつかんだら腕もげるって!そんでもってレムは俺の顔を満面の笑みでまだ見続けるのね!?ラムでも、オットーでも、ガーフでもいいからこの状況なんとかしてくれ!てか、この話題振ったのはトリコさんだよね!?大人として責任持てって!」
スバルの絶叫を聞いても周りの面々は動こうとしない。
「ラム『でも』?バルスのくせに生意気ね。女の子が二人も自分を取り合うなんて言う状況バルスにとっては今後一生ないかもしれないのだからせいぜい楽しんでおくことね」
ラムはスバルのことを軽蔑するような冷たい視線でキッと睨みつけひとしきり文句を言ったところでプイっとそっぽを向いてしまった。
「ナツキさん、両手に花なんて羨ましいにもほどがあるってものなのに『なんとかしてくれ』ですって!?嫌です!自分で何とかしてください!うわーん僕だって女の子にモテたいのにー!」
オットーは目を真ん丸にしてガンギマった目でスバルを見たかと思いきや大泣きしながら膝から崩れ落ち、地面をドンドンと叩き、悔しさをあらわにしている。
「大将!オレ様でもさすがにそれはなんとかできねえわ。大将なら自分で何とかできるだろ?なんて言ったってオレ様の大将なんだからな!」
ガーフィールは苦笑いをして右手を顔の前に出して謝りつつもその場から動くつもりはないようだ。
「すまんすまん!スバル、まさかそんなに愛されてるなんて知らなかったもんでな。でも、男と女のそういう甘くて酸っぱい関係は味わえる時に存分に味わうべきだぜ?なんたって、恋愛の味ってのはこのグルメ時代の食材をもってしても誰一人として再現できた奴はいないんだからな」
トリコは頭を掻きながらもスバルの置かれている状況を楽しんでいるようでニヤニヤとした笑いが止まらない様子である。
「そんなこと言ったってよー!何とかしてくれねえとフルコースどころじゃねぇって!」
スバルたちのフルコースを探す旅はこれから始まる。だがまずは、スバル自身が今の状況なんとかしないことには始まらなさそうだが…こんのリア充め!うらやましいったらありゃしない!さあ、さっさとフルコースを探しに行きな!
「ナレーションに言われなくたってそうするつもりだっての!」
スバルの声がバミューダ群島の青く広い空に響く。どこまでも、どこまでも。まるでこれから進むどこまでも広がっている未来に向かう彼らの歩みのように。
~第一章完~
「ナツキ・スバル達御一行がどうやらトリコの世界に迷い込んでしまったようです。」をご覧くださりありがとうございます!
この話にて第一章【なんかまた異世界に飛ばされたんだが…】編は完結となります。続く第8話は10月9日(金)20時投稿となり、これ以降は毎週投稿へと移行します。更新を見逃さないようにお気に入り登録をしていただけると励みになります!
スバル達によるグルメ世界での生活がどうなるのか、ぜひその眼でご確認くださいませ!お楽しみに!