ナツキ・スバル達御一行がどうやらトリコの世界に迷い込んでしまったようです。 作:お餅モチモチ
スバルたちの目の前に現れたのはトリコからもらったメモとほぼ同じ(毒液は垂れ流してはいないが)長身の優男、ココであった。いきなり現れたココに驚きつつスバルたちは自己紹介をする。
「あ、初めまして。俺の名前はナツキ・スバルと言います。トリコさんからのメモ通り…いや毒液は、垂れてないような?」
スバルからの「毒液」というワードにココが若干反応する。エミリアはその反応を見逃さなかった。
「初めまして。私の名前はエミリアです。スバルがすごーく失礼なことを言ったようだからあとで叱っておきますね」
「エミリアたん!?あれはトリコさんのメモをただ読んだだけで、決して悪意は…」
スバルの頭の上にパックがどしんと乗っかり、自己紹介を始める。
「スーバール?今は僕の番だよ?僕の名前はパックだよ。エミリアの保護者的な立ち位置の火の大精霊さ。よろしくね。それにしても、僕ですら気配に気が付けないなんて君、結構手練れだね?エミリアのことを守る騎士は何人いてもいいからね~」
オットーはスバルたちの様子を見て冷や汗をかきつつ自己紹介をする。
「初めましてココさん。僕の名前はオットー・スーウェン。商人…を目指している最中のものです。以後お見知りおきください」
全員の自己紹介が済み、目的のブレイングレープのもとへと向かいながらスバルたちとココは会話に花を咲かせていた。
「いや、本当に申し訳ないですココさん。毒液を滴らせる人物なんて今まで見たことも聞いたこともなくて、つい気になってしまいまして…ココさんも美食屋なんですよね?どういった方法で狩りをするんですか?」
スバルからの質問にココはにこにことしながら答える。
「ふふっ。トリコのことだからおそらく君たちのことをからかったんだろう。スバル君は気にしなくていいからね。ただ、僕自身が毒人間であり、危険な性質を持っているということは間違ってないよ。僕自身のグルメ細胞の悪魔…あー特性のようなものと言えばいいかな?僕の特性は異常なまでの毒耐性と、毒の生成能力にある。今ではこの地球上にあるほぼすべての毒に耐性を持ち、同じくらいの種類の毒を体内で生成することができる。だからある意味『触るな危険』という意味合いでトリコが大げさに書いたんだろうね。ただ、毒を垂れ流しにするほど僕は未熟じゃないんだけどなあ。あとでトリコに問い詰めないと。ああ、僕の狩りの方法だったかな?想像のとおり毒を使って相手を動けなくさせたりするのがメインの戦い方になるかな。そういえば、君たちは今回の捕獲対象である『ブレイングレープ』について詳しく聞いているのかな?」
ココからの質問にエミリアが食いつくように答えた。
「いいえ。トリコさんからはとーってもおいしいブドウだってことしか聞いてないの。『あいつのほうが俺以上に知っているから』ってそれ以上教えてくれなかったから」
頬を膨らませて不満をあらわにするエミリアに対してココは笑顔で説明を始めた。
「確かにブレイングレープはトリコよりも僕のほうがなじみある食材だね。今回の捕獲対象であるブレイングレープは一粒がソフトボールくらいのサイズにまで大きくなるブドウで、その実には新種のブドウ糖が含まれているんだ。その新種のブドウ糖というのが従来のブドウ糖以上に脳疲労を解消する効力を持つのさ。だから、ブレイングレープの実をひとつ食べれば勉強の疲れは吹っ飛ぶ。それどころか勉強に対する意欲も能率も格段に上昇する効果があるんだ。今回スバル君たちは何でも勉強疲れをリフレッシュさせるために来たんだって?となればうってつけの食材だね」
ココの説明を聞いていたオットーはすでによだれが垂れそうになっている自分の口元を拭いていた。
「うわぁ...!じゅるり…それは今の僕たちにぴったりの食材じゃないですか!勉強の疲れも吹っ飛んで、能率まで上がるだなんて!...あれ?だとすると何でトリコさんや、先に勉強を終えていたレムさんたちは市場でブレイングレープを買ってきてくれなかったんだろう?普段から底意地の悪いロズワール殿ならともかく、レムさんたちなら買ってきてくれてもいいと思うんですがねえ?」
オットーからの疑問にココは的確にこたえる。
「それはおそらく、ブレイングレープがめったに市場に出回らない高級食材であるにも関わらず需要がとてもある食材で、市場に出た瞬間完売してしまうからだろうね。ブレイングレープは一般的なブドウの10倍の味の濃さを持ちつつも決してくどくない。生で食べても、ジュースにしても、お菓子作りに使ったりしてもおいしくなる。そのうえ、食べれば勉強の能率も上がるとなれば、世界中から買い手が殺到するのも無理はないさ。ついでに言えば調理をしてもブドウ糖の性質は変わらないから、アイスキャンディーなんかにすれば日持ちもするから是が非でも手に入れたい人がたくさんいるのさ」
スバルはその話を聞いて一つ疑問が浮かんだ。
「ん?需要があるなら何で俺たちみたいに収穫にいかないんだ?高級食材って言うなら取ってくるほどに儲かりそうなもんだけどなあ」
「確かにスバル君の言うとおりだ。ブレイングレープを収穫して市場に卸せば相当なお金になる。ただ、ブレイングレープの捕獲レベルは32。人間界の中ではそこそこ捕獲するのに難儀する食材の一つだから、需要に対して供給が全く追い付いていないのさ。そして、ブレイングレープの捕獲難易度をあげている張本人たちがあそこにいるよ」
ココが指をさした先には一面のブドウ畑と、その目の前に鎮座している猿の群れがいた。幸い、猿たちはまだこちらには気が付いていない様子である。
「あの猿の名前は『クレバーエイプ』。捕獲レベルは32。ブレイングレープを主食とするため、あのようにブレイングレープ畑を中心に縄張りを作り、外敵に取られないように守っているのさ。彼らは非常に知能が高く、簡単な武器なら手作りしてしまうんだ。そのうえ、瞬間的とはいえ100km/hで走る脚力と、自身の50倍もの重さの岩を持ち上げるほどの怪力を持つ。単体でもかなり厄介なのに100頭以上の群れを作るからブレイングレープを捕獲するのは大変なのさ。プロの美食屋でも単独で挑めばまず返り討ちに合うね」
ココはすました顔で淡々と説明しているが、割と普通にやばい相手である。その話を聞いていたオットーは不意に心の声が漏れてしまった
「ナツキさんよりトリコさんのほうが鬼畜だったりします?あんなの無理ですよー!おいしいブドウが食べられると思ってやってきたのに、とんでもなく素早くて、とんでもなく怪力な猿をどうにかしないといけないなんて聞いてないですよー!」
聞き捨てならないオットーからの言葉を受けたスバルはオットーへツッコミをする。それと同時にスバルはある違和感について口にした。
「おいオットー!誰が鬼畜教師だコノヤロー!つーか、大声を出すんじゃねえよ!俺たち見張られてるかもしれねえんだぞ」
スバルの言葉を聞いてエミリアは首をかしげる。
「スバル?何言ってるの?お猿さんたちはずっと遠くにいるじゃない。あっちにいるお猿さんたちは私たちには気が付いていないみたいだよ?誰に見張られてるって言うの?」
スバルは遠くにいる群れとは違う方向にある木を指さして「あの辺から妙な視線を感じる。偵察隊みたいなのがいるかもしれない」と小声でつぶやいた。その言葉を聞いたココは感心した様子を見せた。
「ほお。スバル君はなかなかの察知能力を持っているようだね。その通りだ。あの木の上から僕らは監視されている。プロのハンターでも気づかない人は結構いるのに、ヒントもなしにクレバーエイプの隠密に気が付くなんてなかなかやるじゃないか。スバル君」
ココから褒められてどや顔になったスバルにパックは一つ質問した。
「ねえスバル。スバルはいつからあの視線に気が付いていたの?」
スバルはどや顔を一切崩すことなく「10分くらい前には気づいていたぜ」と言い放つ。
「なるほどねえ。なかなかスバルの鼻も利くね。でも、違和感に気が付いたのならすぐに言うべきだよ?僕ら全員が生き残るためには気が付いた人から言わなきゃ。あ、あの猿たちは僕たちが第4ビオトープに入ってすぐ監視をしていたってこと言い忘れていたや。敵意がないからついうっかり。てへへ」
「な゛!」
パックからの鋭い指摘を受けてスバルは鼻っ柱を叩き折られて開いた口がふさがらなくなってしまった。ココはそんなスバルを優しく慰める。
「まあまあスバル君。ヒントもなしにあの隠密を見破ったことはすごいことなんだからそう自信を無くさなくても大丈夫だからね?それにしてもパック君は大精霊と言うだけあるね。最初から隠密に気が付いたうえで、彼らに敵意がないことまで見抜いているなんてね」
クレバーエイプの偵察隊は自分たちの隠密行動に気が付かれたことを察知して、あえてゆっくりと何か声をあげながらスバルたちを観察するように近寄ってきた。
『○×▽※☆!』
スバルたちもそれに気づき、警戒を強めていたのだが、オットーが不思議なことを言い出した。
「うん?あのー。変なことを言うようですが、クレバーエイプたちは僕たちと遊びたいみたいですよ?」
「「え?」」
一同はその言葉に困惑せざるをえなかった。そう、世界最高峰の美食屋のココでさえ。
「え!?オットー君。君はクレバーエイプの言葉が分かるのかい?彼らの使用する言語は200種類を超えるうえに、ほぼ毎週のように使用する言語が変わる。だから、言語学者たちでさえ彼らとの意思の疎通に関しては完全にお手上げ状態だというのに」
オットーは頭を掻きつつ自分の持つ加護について説明し始めた。
「お褒めにあずかり光栄です。あ、そういえばココさんには僕の持つ加護…特殊能力について説明していませんでしたよね。僕は『言霊の加護』というものを持っていまして、どんな生き物とでも会話をすることができるんです。言語がどうとかはあまり関係なくて、互いに何を言いたいのかが直接伝わるといいますか。まあ、すごく興奮状態にある獣とか、そもそも話の通じない魔獣なんかには意味をなしませんが…あと、『言霊の加護』は常に発動しておくと頭が痛くなってしまうので普段は発動していないのですが、今回は発動したことが功を奏したようです」
オットーが「言霊の加護」を用いてクレバーエイプの言葉を理解したことに最も驚いていたのはクレバーエイプたちであった。
「○☆▽□♢!(おい、あの緑帽子の男、俺たちの言葉が分かるらしいぞ!)」
「※□○●☆!(マジかよ!今までの人間は俺たちとちっとも話ができなかったのに!)」
「×+♢○%!(もしかしてよ、あいつら俺たちと遊んでくれたりしないかな!)」
クレバーエイプたちの会話を聞いたオットーは改めてスバルたちに提案をする。
「どうやら僕が言葉が分かるということにとても驚いているみたいです。でも、遊びたいというのは変わらないらしくて。どうしますか?もし、遊びで彼らを満足させることができたらブレイングレープを譲ってくれるかもしれませんよ!」
遊びと聞いてスバルは黙っていられなくなってしまった。
「なーっはっはっは!遊びと聞いちゃあ、遊びの天才ことこのスバル様が黙ってられねえってもんよ!オットー!通訳は任せた!日ごろから村の子どもたちとどーやって遊んでやろうか考えていた俺の実力を見せてやんよ!」
オットーの通訳のおかげでスバルたち一行はすんなりとクレバーエイプたちの群れに入ることができた。そして、かつて日本において自宅警備員だったスバルの遊びに対する天才っぷりが発揮される。
「さあて、ナレーションに小ばかにされたような気がするが、まずは鬼ごっこにかくれんぼ!ドッジボールに騎馬戦だ!」
最初は体を使って遊ぶ遊びを提案してみたが、あまり反応は良くなかった。
「×#△☆○!(体を使って遊ぶ遊びは子供達にはいいけど、俺たち大人には物足りないよ。もっと頭を使う遊びはないのかい?)」
どうやら大人のクレバーエイプたちは頭脳戦を好むようである。さあスバルよ、君の脳みその中には彼らを満足させるだけの遊びはあるのかい?
「あたぼうよ!なんでナレーションと会話してんのか意味わかんねーけどな!頭脳戦なら五目並べにオセロ、将棋にチェスなんてのはどうだ!」
スバルからの指示をオットーが通訳し、必要な道具(将棋の駒やチェス、オセロの駒など)はクレバーエイプたちが木材を自作の石斧などを使ってすぐに作成した。自分たちで道具を自作できる器用さと、その手際の良さにココすらも驚いていたのだが、驚いている暇はない。五目並べ、オセロ、将棋、チェスのルールをクレバーエイプたちに教え、一緒になって遊ぶ。ルールを理解したクレバーエイプたちは夢中になって対局をし始めた。なお、ルールを教えた直後から2~3戦はスバルが勝てていたのだが、その後はぐうの音も出ないほどぼっこぼこにやられてしまった。ちなみにココは持ち前の頭脳でクレバーエイプたちともいい勝負をしていた。ドンマイ!スバル!
「うるせえ!ナレーションに慰められたかないわ!てかシンプルに俺と会話しようとすんな!」
エミリアやオットーはついていくのがやっととはいえクレバーエイプの子供たちと体を使って遊び、スバルとココは大人たちとの頭脳戦に興じる。遊び始めたころはまだ午前中だったというのにあっという間に日が傾いて夕方になってしまった。
「○□△☆※!(今日は俺たちと遊んでくれてありがとうな!教えてくれた新しい遊び、すっごく面白いよ!)」
「□♢#☆※!(もうお前さんたちはワシらの友達じゃ。いつでも遊びに来ると良い。もしよければこのブドウをお前さんたちの持てる限り持って帰るとええ。これはうんまいぞ?)」
クレバーエイプの長老から認められたスバルたちは両手にいっぱいのブレイングレープを抱えて帰途についた。スバルは6個、オットーも6個、エミリアは4個、パックが1個。みな疲れてはいるものの満足した表情をしている。
「いやあ大量大量!これだけあればエミリアたんもオットーも文字の勉強がはかどりそうだな」
「もう、スバルったら。今日くらい先生でなくてもいいのに。でもこのブドウ、とーってもおいしそうなあまーい香りがするわ。帰って食べるのが楽しみね!」
「いやあ、本当に今日は疲れましたよ。いいリフレッシュになったとはいえ、加護をつけっぱなしにするのは結構しんどいんですからね?あれ?でも、ルグニカにいたときは半日も加護をつけっぱなしにするなんて絶対できなかったのになあ。パック殿、何か心当たりがあったりしませんか?」
「う~ん、そうだねえ。僕がこうやってずっと顕現体を維持できているのは、この世界にマナと互換性のあるエネルギーが異常と言えるほど満ち満ちているからなんだけど、もしかしたら加護もその影響を受けているかもしれないね。まあ、僕としてはリアが今日一日楽しそうに遊んでいてよかったよ。なにせここ最近のスバルの厳しーい授業のせいでリアのかわいいかわいいお顔がずーっとしかめっ面だったからね」
パックからの言葉に苦笑いを浮かべつつスバルはふと気になったことを口にする。
「そういえば、このブレイングレープって市場じゃめったに出回らないほどの高級食材なんだろ?今回収穫した分はエミリアたんたちの食べる分だから売ったりしねえけど、もしここにある分を全部売ったらいくらくらいになるんだろうな」
その質問にはココが答える。
「そうだね。ブレイングレープの市場における卸売価格、つまり収穫したブレイングレープを売った時に手に入る金額は1粒で10万円はくだらないね。もし、1房15粒が完全な状態であるならば、さらに値が上がって200万円くらいかな。あと、ついでに言うと、ブレイングレープの末端価格は1粒20万円くらいだね。それでも即座に完売してしまうほど人気があるフルーツだよ」
1粒10万円で売れると聞いたオットーは目を輝かせている。
「こここ、これ、1粒10万円もするんですか!てことは、僕の持っている分だけで60万円!まだこちらの世界のことを勉強中とはいえ、60万円もあれば3か月くらいは生活できちゃいますよね!?またここにきてクレバーエイプたちから分けてもらおうかなあ。そうすればすぐに大金持ちに…ぐふふ...!」
気持ち悪い笑みを浮かべるオットーにココは笑顔のまま冷静に現実を伝える。
「ふふっ。確かにブレイングレープの番人であるクレバーエイプたちと仲良くなった君たちならブレイングレープを収穫することは難しくないだろうね。でも、おそらく持って帰ることを許されるのは両手に持てる程度だろうね。それ以上となると、さすがにクレバーエイプたちもいい顔はしないだろうからね。となると、君たちはおそらく赤字だよ?」
スバルは「何で赤字なんですか?」と質問をする。
「ああ、君たちは知らされていないのか。このIGO第4ビオトープに『狩猟目的』で関係者以外が立ち入るときは、入場料として一人当たり100万円必要だよ?今回はトリコからのお願いと言うことで『関係者』として立ち入りつつ、僕が採りすぎないかを見張っていたから入場料が免除されたのさ。ちなみに僕は『スバル君たちを守り、採りすぎないか見張る』という条件だから今回は無料で入れたけどね」
「本来は入場料だけで100万円」この言葉を聞いて現実はこのブレイングレープのようには甘くないことを実感するスバルたちなのであった。
帰宅し、ブレイングレープをさっそく食べたエミリアとオットーはそのおいしさに驚愕する。
「このぶどう、とーってもおいしいわ!今まで食べたぶどうの中でもいっちばんあまーくて、香りも良くて!それに、雨雲が晴れて、お日様が見えてきたみたいに頭の中のもやもやが晴れていくみたい!今なら漢字もすぐに覚えられそうね!」
「なんなんですか!この果物は!砂糖をそのまま食べたときよりも甘く感じるのに、ぜんっぜんくどくないなんて!これは魔法か、何かですか!それに、一口かじれば口いっぱいに果汁があふれて溺れるかと思いましたよ!こんなに美味しいうえに、勉強まではかどってしまうなんて、これは世界中の人たちがこぞって欲しがるわけですね。よーっし!ブレイングレープを食べたせいか、やる気が湧いてきましたよ!今ならどんな問題でもどんとこいです!」
ブレイングレープの持つ新種のブドウ糖は瞬く間にエミリアとオットーの疲れを吹き飛ばし、勉強の能率は飛躍的に高まった。それにより、なんと1週間でスバル先生のもとを卒業してしまった。ブレイングレープはジュースにして凍らせてアイスキャンディーにしてもそのブドウ糖の効力が弱まらない。おいしさも、効力もかなり日持ちのするフルーツということでエミリアとオットーはほぼ毎日ブレイングレープのアイスキャンディーを食べていた。そのおかげで驚異的なスピードで言語を習得できたのである。しかし、その代償を彼らは忘れていた。
「あのねえ、エミリアたんにオットー。あの時にココさんから言われていたでしょ。『ブレイングレープに含まれているブドウ糖はとても虫歯になりやすいから必ず歯を磨くように』って…君たち歯を磨くの怠っていただろ!怠惰ですねえ!」
そこには虫歯によって頬がパンパンに腫れ、治療魔法で虫歯治療を受けているエミリアとオットーがいた。
「ふゃって、ふぉのふどう、ほーってもほいひはっはんはほん!(だって、このぶどう、とーってもおいしかったんだもん!)」
「ふぇんほーほひふぎへわふれへまひは…(勉強のしすぎでわすれてました…)」
しかし、さすがはベアトリスとレム、ガーフィールの治療魔法。本来なら『癒しの国ライフ』にでも行かなければ完治できないはずの虫歯も見る見るうちに治っていくところを見てスバルはほっと一息つく。
「はあ。とりあえず、エミリアたんたちの虫歯はなんとかなりそうで良かったぜ。それにしてもロズッチ?なーんか変な噂を耳にしたんだけど?」
目線だけでロズワールのほうを見たスバルに対してロズワールは上機嫌に答えた。
「ど~おやら、ス~バル君の耳にも入っていたようで。その噂は本当だ~あよ。エミリア様と内政官殿がス~バル君学校を卒業するのを首を長~くして待っていたのだ~あよ」
ロズワールが机の引き出しから取り出した計画書、もといチラシにはこう書いてある。
【ロズワール服飾店近日OPEN】
オリジナル食材&猛獣紹介コーナー
『ブレイングレープ』
捕獲レベル:32
一粒がソフトボールサイズにまで大きくなるブドウ。その実には新種のブドウ糖が蓄えられており、一粒食べれば脳疲労が吹っ飛び、勉強の意欲と能率が非常にあがる。
味は一般的な巨峰を10倍も味を濃くしたような味わいでありつつも決してくどくない味わい。しかし、新種のブドウ糖はカロリーが非常に高く、虫歯になりやすいため食べ過ぎると虫歯や糖尿病などになる可能性があるため注意。ブレイングレープ自体は単に自生しているだけのため収穫は簡単だが、後述する「クレバーエイプ」の縄張りにのみ自生している(というかクレバーエイプがブレイングレープの群生地を縄張りにしている)ため、クレバーエイプを攻略しなければ収穫することは困難である。
『クレバーエイプ』
捕獲レベル:32
体長1mほどの猿。非常に頭が良く、独自の言語体系を持っている。また、その言語は1週間程度でコロコロ入れ替わるためクレバーエイプ以外の存在が仲間として迎えられることは稀。賢いため木や石、火を道具として使うだけでなく、槍や石斧、棍棒、弓矢を武器として作り、使いこなすほど知能が高い。また、瞬間的とはいえ100km/hで走行する脚力と体重の50倍もの巨岩を持ち上げて投げ飛ばすほどの腕力を持つ。なお、かつて実験として戦車を放置したところ燃料切れで動かなくなるまで使いこなしていた。
しかし、性格自体は比較的温厚で、争いを好まない。基本的には群れの仲間と知恵比べをして遊んでいる。
主食はブレイングレープであり、ほぼそれしか食べないため、ブレイングレープの木の周りに群れを築き、ブレイングレープの木の世話や受粉、植林をしつつブレイングレープを守っている。
ブレイングレープに近づくものには容赦しないが、賢そうな動物であることに気づくと知恵比べをしようとしてくる。しかし、独自の言語で話しかけてくるためクレバーエイプが他の生物との知恵比べで満足した様子はない。