使い続けると死ぬシステムを使って戦う女の子達の戦う理由を消しちゃったチート転生者の話 作:POTROT
「少し、時間が欲しい」
項垂れたオルガ長官殿が力なくその一言を発したのを聞き、俺は椅子から立ち上がった。
そうしてそのまま、部屋に戻り始める。
現状がいかに詰んでいるかはきちんと伝えきった。
後は、彼女が上手く判断してくれることだろう。
「あの!」
廊下を少し歩いたあたりで、背後から声がかかった。
背後を振り返ると、そこに居たのは、二人いた少女の内の片割れ。
スラブ系の顔立ちに、日本人のそれと比べて幾らか高い身長。
それと、目立ち過ぎる深紅の髪色が目立つ。
「……失礼、名前は」
「スコグルです」
「それは……ヴァルキューレとしてのコードネームのようなものじゃ?」
スコグル。確か意味は、斧の時代、だったか。
「はい。ですが、その、こっちで呼ばれるのに慣れてしまったので」
「ではスコグルさんと呼ばせてもらう。それで、一体何が?」
「お話を、聞きたいと思いまして」
「……まぁ、構わないが……そちらの方は?」
俺が視線で示すのは、半開きになった扉の隙間から、心配そうにスコグルさんを見つめるもう一人の子だった。
しかし、俺が彼女を見つめていることに気付くと、バタンと扉を閉めて俺の視界を遮った。
「えーと……大丈夫です。私が、個人的に、質問をしたいだけですから」
「じゃあ、特に気にしない事にしよう。それで、質問とは?」
彼女に質問を促すと、彼女は一度目を閉じ、深呼吸をしてから、再び口を開いた。
「私たちは、今後、どうなるのでしょうか?」
「……あぁ、成程」
それは確かに、死活問題、というヤツだな。
文字通り、生きるか死ぬかが、彼女たちにはかかっている。
「言ってましたよね、私たちの身柄は、狙われるって」
「十中八九、な。戦力として使われるか、研究材料にされるか……どちらにせよ、君たちの体に組み込まれたV-システムをどうにか手に入れようと躍起になるだろう」
「……この、欠陥品を、ですか」
……彼女達自身にさえ欠陥品と言わせるか。
否、命を削られることを強いられていた彼女達だからこそ、か。
「欠陥品でも、だ。その能力の高さは君自身が知っているだろうし……権力者にしてみれば、自分以外の誰かが安い命一つを消費するだけで莫大な戦果を手に入れられる代物、だからな」
命という代償を支払う事で出鱈目な出力を誇るV-システムは強力無比な反面、起動者を選ぶ。
そしてその条件は、若い事、女性である事、特殊な適正の持ち主である事。
少なくとも、偉そうな顔で書類にサインをするような立場にあるような人間が使用者となる事は、無い。
「……そんなことが、赦されるのでしょうか」
「赦される赦されないの問題じゃない。それ一つ手に入った時点で自国が豊かになるのなら、何が何でも手に入れなきゃいけないのが政治家とか軍人とか、そういう連中だ」
「だから、手段を選ばず狙われる……」
「その通り。最悪軍事力を投入してくる可能性もあるぞ。そうなったらお前達に残される未来は、捕まって検体になるか、死体になって検体になるか、消し炭になって死ぬかだ」
死体だろうと、V-システムは残る。
生きていてくれた方が好都合である事に変わりは無いが、絶対に殺してはいけない、何て理由は無い。
「ただまぁ、その辺は長官殿次第だ。彼女が何かが起こる前から無条件降伏みたいなのを国際社会に宣伝すれば、少なくとも、軍事衝突が起こることは無い……と、思いたいが」
V-システムは13基しかない。
だが、欲しがる国は確実にそれ以上ある。というか欲しがらない国なんて無いだろう。
そうである以上は、揉めるのは確実だ。
このヴァルハラが新たな世界戦争の中心地点になる可能性だって、否定しきれるわけではない。
馬鹿なことをやらかしそうな国が、俺の思いつくだけで幾つもあるのだから。
仮に。俺の想像よりも何倍も事が穏便に進んで、ヴァルキューレ達の出身国に引き取られる、という形になる可能性も……無いな。
出身国が偏り過ぎている。
絶対に何処の国も納得しない結果になる。
「……しかしまぁ、どんな状況になっても、まず人間扱いはされないだろうがな」
兵器か、バケモノか、実験動物か。
何にせよ、絶対に普通の人間と同等の扱いはされないし、当然ながら人権も無視されることだろう。
得られるかも知れない益が、余りにも大きすぎるわけだから、躊躇する理由も無い。
「そうならない方法は、無いんですか?」
「ある。というか、そのために俺はここに来た」
「どうやって」
「元々、この組織が存在しなかったことにする」
「……出来るんですか、そんなことが?」
「それがな、やってみたら意外と出来そうでな」
ヴァルキューレ関連の情報は極秘中の極秘である。
それこそ国のトップ層だとかフィクサーだとか、そう呼ばれるような連中しか、まずそもそもその存在自体を把握しておらず、情報統制は極めて厳格に行われている。
当然の対応だ。絶対に知られてはならない情報、知られたら都合が悪すぎる情報が多すぎる。
特に外宇宙的侵略者ヘルズの存在など、知られた時点で大混乱が起こるに決まっているのだ。
だから、情報は徹底的に封じ込められている。
人類の守護という大義名分の下、知った人間が不幸な交通事故に遭う事さえあったそうだ。
それ程までに徹底されて、情報が制限されている。
つまりそれは、まだ何とかできる状況にあると言える。
「未だ誰にも知られていないうちに、情報を徹底的に封殺して、揉み消す」
元々誰も知らなかった組織が、誰にも知られることも無く、ひっそりと消える。
それだけの話だ。
それだけの話に、する。
「あなたなら、出来るんですね。そんなことが」
「そうでもしないと、色々と面倒なことに発展しそうなんでな。全力でやらせてもらう」
「わかりました」
小さくうなずいた彼女の深紅の瞳が、力強く俺を見据える。
「私にも、協力させてもらえませんか?」
■
なりたくてヴァルキューレに何てなったわけじゃない。
危ないことはしたくないし。体が改造されるのは嫌だし。家族や友人と二度と会えないのも、勿論嫌。
よくわからない怪物の因子を埋め込まれて人間じゃなくなるとか、最悪も最悪。
空を飛んでみたいと願ったことはあるけど、代償に命を削ってもいいなんて思ってない。
ここに連れてこられたのも無理矢理だし。
気絶させられている間に手術とか全部終わらせられてたし。
断る選択肢なんて無かったから、戦った。
勿論、怪我をしたこともある。
死にかけたことだって一度や二度じゃない。
戦いに出るたびに聞こえる命を削れる音が怖くて怖くて、眠れない夜もあった。
死にたくないって心の中で何度も叫んで。
けど、戦わなきゃ皆が死ぬのなら、戦わなきゃいけないって自分を奮い立たせながら。
その先に確実な死が待っていると理解しながら、皆で互いを励まし合って、戦い続けて来た。
そうしなきゃいけない、理由があった。
だというのに。
彼は、その理由を、無かったことにした。
「もう戦う必要はないぞ」
希望が降って来た気分だった。
もしかしたら皆、戦い続けて、命をすり減らして死ななくてもいいのかも知れない。
長生き……は、出来ないかも知れないけど。
穏やかな生活が、望めるのかも知れない。
私はそのことが嬉しくて、皆もきっと同じ気持ちだろうと振り返って。
そうでないことを、知った。
「わたしたち、これから、どうすればいいの?」
皆、顔が暗かった。
泣きそうな顔をしていた。
嬉し涙じゃない。
迷子になった子供が、どうしようもない状況に途方に暮れてるみたいな、そんな印象だった。
「どうして今なの?」
「私は私の失敗をどう詫びればいいの?」
「誰かの役に立って死にたかったのに!」
多分、皆、生きることを諦めていたんだと思う。
生きることを諦めて、死ぬことに意味を見つけようとしていたんだと思う。
それで、漸く見つけた死ぬことの意味を、彼は否定してしまった。
塞ぎこんでしまった子もいれば、自傷行為を始めた子もいた。
洒落にならない行動を起こし始めた子は、比較的平気だった私と、フリスト姉さんと、ミストちゃんで眠らせなければならなかった。
「あの人は、一体何者なんでしょう……?」
私はそんなことをずっと考えていた。
どうしてこんなことをしたのだろう。
どうしてこんなことが出来たのだろう。
私たちを助けたいのか、壊したいのか、分からない。
それが気になって気になって、仕方がなかった。
だから長官が、私を取り調べに同席させると言った時、いい機会だと思った。
間近で彼の言動を見て、彼がどんな人物なのか、どんな思惑なのか、測ろうと思った。
「現状が全てだ」
分かったのは。
彼が、私たちの個人の事なんて微塵も興味が無い、真正の怪物で。
ただ降りかかる火の粉を払ったと思ったら、新たな火の粉が噴き出しそうだったからわざわざ足を運んだだけだという事だった。
「だ、黙れ、黙れッ、悪魔め!」
長官の放ったその表現を、私は正しいものだとは思わなかった。
彼はきっと、何処までも人間なんだと思う。
彼が欲しいのは私たちの魂でも、苦しみもがく姿でもない。
ただ単純な、平穏な日常を手に入れるのに、この組織とV-システムを巡る問題が邪魔なだけ。
だからこそ、気になった。
「ねぇ、ミストちゃん」
「何、グル姉」
「私……今から、あの人に話を聞きに行ってきます」
「え、ちょっ!?」
だから私は彼に直接聞いてみることにした。
私たちは今後、どうなるのか、と。
平穏な暮らしという希望はあるのか、それとも絶望しかないのか。
そこだけは、ハッキリさせなきゃならなかった。
そうして、彼からその言葉を引き出した。
「そのために俺はここに来た」
この瞬間に、私の心は決まった。
彼に協力すれば、全てが丸く収まるのなら。
悲しみと苦しみが僅かでも少ない結果になるのなら。
「私にも、協力させてもらえませんか?」
彼にそう伝えると、彼は少し困った顔をしながら、言った。
「…………まぁ、うん。それじゃあ、頼む。内部に味方がいてくれれば、幾らか事も円滑に進みそうだしな」
ミストちゃんや、あそこの部屋で項垂れている長官には、裏切り者と罵られるかも知れない。
でも、きっと、これが一番いい方法なんだと思う。