いつか、あの車窓の片隅で。 作:scarlet crocodile
それでは開幕!
『不滅の軌跡、車窓の片隅で』
――視界が、青緑色の圧倒的な光に爆ぜた。
「くっ……そ、れでも……ッ!」
穹は、割れるような悲鳴を上げる両腕に力を込め、自らの武器を固く握り直した。
足元のガラスの床には、幾筋もの亀裂が走り、
虚空から吹き付ける冷徹な暴風が衣服を激しく引き裂いていく。
目の前に立ちはだかるのは、一つの「概念」そのものと化した存在。
かつて開拓の星神アキヴィリや、愉悦のアッハと共に星穹列車に乗っていたという、伝説のナナシビト。
絶望の底にさらされようとも何度も這い上がり、
ただ一つの誓いのために【不屈・不滅・不動】の前進を続けて【抗命】の星神へと昇格した、
かつての「ナナシビト」――俺たちの、偉大すぎる先達だった……
「いい眼だ、今のナナシビトたちよ」
先達の口から漏れた声は、世界の法(ルール)そのもののように重く、空間を震わせる。
その背後には、かつての黄金時代を走っていた「初代・星穹列車」の不滅の幻影が、
オーラとなって具現化し、神々しいまでの威厳を放っていた。
「だが……アキヴィリですら私を止めることはできなかった。
そんな私を止める覚悟が、お前たちにはあるのか?」
星神の領域に達した人間の技が、天災となって列車組を蹂躙する。
「穹、危ないッ!」
三月なのかの叫び声と同時に、無数の氷の矢が先達へ向けて放たれる。
しかし、先達はその場から一歩も退かない。
あらゆる攻撃をその強固な意志(不動のバリア)で無効化し、
ただ静かに、鋭く武器を一振りした。
それだけで、なのかの氷は粉々に砕け散り、彼女の身体が激しく吹き飛ぶ。
「なのか……っ! 丹恒、合わせろ!」
ヴェルト・ヨウが擬似ブラックホールを展開し、先達の動きを縛ろうとする。
その隙を見逃さず、丹恒が『撃雲』を構えて疾走し、
風を裂く猛攻を繰り出した。
だが、先達の瞳は一切の揺らぎを見せない。
「私の歩みは、億千の絶望を経てもなお一歩も揺らがなかった。
お前たちのその程度の覚悟で、私の誓いを動かせると思うな」
鋭く研ぎ澄まされた先達の一撃が、
丹恒の槍を弾き飛ばし、ヴェルトの重力空間を力任せに切り裂いた。
圧倒的な、絶望的なまでの実力差。
今の列車がどれほど進もうと、すべての始まりの道はここにあるのだと、その背中が語っていた。
「はぁ……はぁ……」
一人、また一人と仲間たちが倒れ伏していく。
穹は膝を突きそうになる身体を、根性だけで踏み留まらせた。
胸の奥で、かつてない激しい感情が燃え盛っている。
先達の背負う歴史の重さは理解している。彼が愛した女性のために、「人は運命が無くても生きてゆける」と証明したくて、自らが最強の『壁』としてここに立っていることも分かっている。
――だけど。
「……あなたの過去の誓いだけで、俺たちの未来を縛らせるわけにはいかないんだ……!」
穹は顔を上げ、先達を真っ直ぐに見据えた。
その瞳には、迷いは一切なかった。
「俺たちの意志は……あなたの『不動』の誓いを打ち破れるほどに、重い!!」
穹の全身から、銀河の星々をも巻き込むような開拓のオーラが噴き出す。
その姿を見た先達は、一瞬だけ、本当に一瞬だけ、
かつての旅仲間たちを見たかのように目をごくわずかに見開いた。
そして、その口元に小さな、安らかな笑みを浮かべる。
「……来い、ナナシビト。お前たちの意志を、私に刻んでみせろ」
「おおおおおおおッ!!」
穹は地面を強く蹴り、跳躍した。
背後の仲間たちの想いを、
これまでの旅の軌跡のすべてをその武器に宿し、
神の座へと君臨する先達へ向けて、
真っ直ぐに全力を叩きつける。
閃光が世界を包み込んだ。 激闘の果て。
先達の強固な「不動の意志」が、穹たちの限界を超え、『開拓』の力によって、ついに撃ち破られた。
星神の領域にあった先達の身体から、不滅のオーラが静かに霧散していく。
先達は倒れ伏すのではなく、ただ真っ直ぐに立ち尽くしたまま、己を打ち破った穹の姿を見つめていた。
その表情にあるのは、敗北の悔しさではない。
永い旅路の果てにようやく救われたような、深い安らぎと確信の微笑みだった。
「……見事だ、ナナシビト。
お前たちは今、星神の定めた運命だけでなく、星神そのものすらも……人の意志で打倒してみせた」
みずからが最強の壁となることで、それを超えた今の列車組こそが、
彼女の遺した願いの生きた証明となったのだ。
光となって消えゆく身体の中で、先達は目の前の穹に向かって、先達としての最後の祝福を遺す。
「進むがいい、ナナシビト。この先、どんな星神が、どんな絶望がお前たちの前に立ち塞がろうとも…… 恐れるな。
お前たちの意志は、すでに一つの運命を終わらせたのだから。……良い旅を」
その言葉を最後に、伝説のナナシビトの身体は、柔らかな光の粒子となって宇宙の暗闇へと溶けていった。
戦いの余波が静まり返る中、光の粒子が完全に消え去る直前、宙にぽつんと取り残された小さな影が、重力に引かれるように静かに地面へと落ちていく。
カラン、と微かな音を立てて転がったのは、
古びた、けれど丁寧に磨かれたアイビー(ツタ)の形をした髪飾りだった。
「……これが、あなたの戦い続けた理由」
穹は静かに歩み寄り、膝をついて、その髪飾りをそっと掌に拾い上げた。
金属の冷たさの中に、先ほどまでぶつかり合っていた先達の、
あの燃えるような、けれどどこか温かい「不屈の意志」の残熱が、今も確かに宿っている。
髪飾りをギュッと握りしめ、胸に当てた瞬間――穹の身体の奥底で、まだ見ぬ未知の運命の力が、
静かに、けれど力強く脈打ち始めるのを、彼は確かに感じていた。
アッハからのシステムメッセージ:
「はい、神殺し一丁あがりー!
自分で最強の壁になって人間に自分を殺させるなんて、あいつマジで最高のエンターテイナーじゃん?
お前もそのアイビーのチート髪飾りで、宇宙のバグになって楽しませてよね! ハハハハハハ!」