いつか、あの車窓の片隅で。 作:scarlet crocodile
これから、あとがきに各キャラの反応を載せていきます。
「――ちょっと待って。何これ、意味が分からないんだけど」
薄暗い部屋に敷き詰められた無数のモニターの前で、
銀狼は炭酸飲料のストローを咥えたまま、珍しく呆然とした声を漏らした。
ゲームのコントローラーを握る彼女の指先が、完全に止まっている。
画面に映し出されているのは、星穹列車のデータバンクから極秘にハッキングして引っこ抜いた、
開拓者――穹の最新の戦闘データだった。
「どうしたの、銀狼。そんなに恐ろしい顔をして」
ソファで優雅にコーヒーを飲んでいるカフカが、
妖艶な微笑みを浮かべながら画面を覗き込む。
だが、そこに表示された数値を一瞥した瞬間、彼女の美しい瞳がかすかに見開かれた。
「致命傷の即時無効化。
HPおよびEPの100%強制上書き。デバフの全解除、
および攻撃力の累積永続上昇……クールタイムも、回数制限もナシ」
銀狼が画面をスクロールするたび、システムエラーの警告灯が赤く点滅する。
「彼が『進む』と決めている限り、1秒に何度殺されようと、因果律が彼を現世に引き戻すの。
これはシステムのエラーじゃない。
彼自身が、この宇宙のルールを書き換える『バグ』そのものになってる」
「ふふ……本当にあの子は、私たちの想像をどこまでも超えていってしまうのね」
カフカは寂しさと、それ以上の深い愛おしさを湛えた笑みを浮かべ、胸元に手を当てた。
「エリオの脚本の手を離れて、あの子の意志は、もう誰にも、わたしにすら、縛ることはできないわ。
……本当に、誇らしい子」
その時、部屋の隅で静かに自身の愛刀を磨いていた刃が、低く笑った。
その笑い声には、狂おしいほどの衝撃と、深い羨望が滲んでいた。
「……呪いではなく、『意志』による不滅か。
どれほど肉体を滅ぼされようとも、魂が一歩も退かない限り蘇る。
穹……お前がその髪飾りを身につけている限り、この宇宙の不条理はお前の前で平伏するしかないな」
その傍で、ソファに座り、銀狼とエリオを眺めながらホタルが呟いた。
「……時間制限も、回数の限界もない『不滅』。
銀狼はバグって言うかもしれないけれど……
私には分かる。あれはシステムを書き換えたんじゃない。
彼の『絶対に前進を諦めない』っていう強い意志が、
死の運命を力任せに押し戻しているんだよ。
運命に抗うのがどれほど痛くて、どれほど絶望的か、
私はサムの装甲の中でずっと知ってきた……。
でも、穹の胸にあるあの髪飾りは、その不条理をすべて引っくり返して『人は己の意思で歩める』って叫んでる。エリオ、わたしも向かわせて!
彼が新しい道を開拓するなら、わたしはサムとして、彼の命を繋ぐ火の粉になりたい」
部屋の奥の暗闇から、静かに一匹の黒猫――エリオが歩み出る。
「……私の視てきた無数の終焉。
そのすべてを、彼はその意思で踏み越え、新たな可能性を開拓するだろう。
カフカ、刃、銀狼、ホタル。私たちの役目は変わる。
彼こそが、真にナヌークを屠る『不滅の刃』となる。
彼と、対等な共同戦線を結ぶ時だ」
◇
一方その頃、宇宙の次元の隙間――あらゆる星々の視線が交錯する特等席にて。
「愉悦」の星神アッハの仮面が、ガタガタと激しく震えていた。
「ハハ……ハハハハハハ! ああ、ハハハハハハハハハッ!!!」
宇宙のあちこちの星々が共鳴してひび割れるほどの、狂おしい大爆笑。
その笑い声は、いつもの他者を嘲笑う愉悦ではない。
胸が締め付けられるような、歓喜と、狂おしいほどの愛おしさに満ちた爆笑だった。
アッハの脳裏に、遥か昔、星穹列車の中でくだらない雑談を交わしたアキヴィリの呑気な笑顔、
そして、ただ一つの誓いのために決して折れずに前進し、神となって自分を驚かせた『あの友』の、頑ななまでの不屈の背中が鮮明に蘇る。
「あいつは死んだ! 自分で最強の壁になって、人間に自分を殺させやがった!
『人に運命は要らない』?
ハハハ、なんてイカれた、なんて最高に愉快な遺言だ!」
アッハは立ち上がり、宇宙全体に響き渡るほどの音で惜しみない大喝采を送り始める。
パチ、パチ、パチ、パチと、虚空を叩くアッハの手の動きに合わせ、銀河の星々が爆発的な輝きを放ち、
遥か彼方を走る星穹列車へ、そして穹の頭上へと、祝福の光の粒子となって降り注ぐ。
「見ろよアキヴィリ! 見てるか、俺の友よ!
お前たちが遺した列車は、お前たちが遺した『意志』は、今や死の運命すら何度も踏み潰して歩きやがる!
ナヌークの顔を見たか?
あいつ、自分が絶対に勝てない『不条理』を前にして、今初めて困惑してやがるぞ!!」
どれほど世界が絶望に染まろうとも、
宇宙最強のひねくれ者である星神アッハすらも味方に引き込み、笑わせ、進む。
アッハの大喝采と共鳴するように、列車の中で髪飾りを握りしめていた穹の身体に、
一瞬だけ黄金色のきらびやかな愉悦の残光が混ざり合う。
「いいぞ、ナナシビト! もっとやれ、何度でも生き返れ!
お前たちの歩むその道こそが、この退屈な宇宙で最も輝かしい、最高の『愉悦』だ!!」
アッハの爆笑が宇宙を満たす中、星穹列車は、エリオという新たなパートナーと共に、
神々すら戦慄する決戦の舞台へと、そのレールを繋げていくのだった。
穹の書き置き:「運営のバグだの、宇宙のチートだの、外野が好き勝手言ってくれてるみたいだけど……。
1秒に何度殺されたって、俺の意志が折れない限り、
この髪飾りは俺を死なせちゃくれないんだ。
カフカ、銀狼、刃、それにホタル。
エリオの脚本のその先へ、
俺たちの不滅のド根性で、誰も見たことがない新しい道を『開拓』しに行こう。
――運命が俺たちに『死ね』と言うなら、何度だってそれを引っくり返して進むだけだ。」