いつか、あの車窓の片隅で。 作:scarlet crocodile
その神は、ただそこに存在するだけで、銀河のあらゆるエントロピーを破壊していた
「壊滅」の星神ナヌーク
金色の冷徹な瞳、全身を引き裂く金色の炎、そして、全てを壊滅に追い込む反物質レギオンの軍勢。
彼が司る運命とは、万物が等しく壊滅するという、絶対にして理不尽な世界の法則そのものだった。
その神の絶望を前に、
今、宇宙の歴史上あり得なかった二つの陣営が、
完全に背中を預け合っていた。
「穹くん、前方は任せて! ――『サム』、出力最大!」
ホタルが叫び、サムの緑色の火の粉が暗黒の宇宙を燃え上がらせる。
ナヌークの放つ 金色の炎の嵐を、ホタルが命を燃やすような猛攻で切り裂き、穹のための道を切り拓いた。
「ハッカーなら、神様のシステムくらい書き換えてみせなきゃね!」
銀狼が空間にホログラムのキーボードを展開し、
ナヌークの権能である空間圧殺の数式にノイズを叩き込む。
カフカの言霊が戦場を支配し、
刃の愛刀が「不滅」の穹をサポートするように
壊滅の使令たちの肉体を容赦なく引き裂いていく。
「穹、一気に行くぞ! 我々の『開拓』のレールは、星神の運命すら踏み越える!」
丹恒の『撃雲』となのかの氷の矢、そしてヴェルトの擬似ブラックホールが同時に炸裂し、
ナヌークの動きを刹那の間だけ縛り付けた。
「――っ、おおおおおおッ!」
穹は、先達から受け継いだ『アイビーの髪飾り』を胸に宿し、仲間たちが繋いでくれた光の道を真っ直ぐに突き進んでいた。
ナヌークの黄金の双眸が、初めて明確な戦慄を孕んで穹に固定される。 かつて己と同じ神の座にありながら、
「人に運命は要らない」と証明するために散っていった【あのナナシビト】の残熱が、
穹の胸元で燃え盛っているからだ。
それは、ナヌークという絶対の終焉すらも引っくり返されかねない、決定的な因果律の破綻を意味していた。
「無価値な抵抗だ。万物は壊滅に呑まれる。それがこの宇宙の終着点だ」
ナヌークの冷酷な意思が空間を押し潰す。
神の全力が解き放たれ、宇宙を焼き尽くすほど金色の炎の一撃が、穹の身体を真っ向から捉えた。
一瞬で肉体が引き裂かれ、穹の生命活動は完全に停止する。
世界の絶対のルールであれば、そこで全滅、敗北。宇宙の終わりだ。
――だが。
穹の意識が暗黒に呑まれるよりも早く、彼の胸元でアイビーの髪飾りが、あり得ないほどの純白の閃光を放った。
【不滅の意志・アンチ・デスティニー】
3時間制限も、回数の限界もない。
穹の精神(前進を諦めないド根性)が折れない限り、死の運命は彼を縛れない。
心音のカットインと共に、穹のHPとEPが強制的に100%まで全回復する。
消滅したはずの肉体が瞬時に現世に上書きされ、穹は何事もなかったかのように、さらに鋭い眼光を滾らせて光の中から歩み出てきた。
「おや……? おかしいですわね。今の一撃で、確かにその矮小な命は潰えたはずですけれど?」
絶滅大君たちが、生まれて初めての理解不能という恐怖に声を震わせる。
壊滅させるたびに、穹の背負う大剣のツタの紋様が輝きを増し、彼のオーラが累積で爆発的に跳ね上がっていく。
1度目、2度目……そして数十度目の死線を越え、穹の怒りは極限へと達していた。
これまでの穹は、どこか飄々としていたが、開拓の度に喪失を受け入れつつある少年だった。
けれど、今は違う。
「……何が壊滅だ。何が宇宙の宿命だ……ッ!!」
穹の口から、魂を震わせるような激しい咆哮が響き渡る。
「生きたい」と願う人間の意志を嘲笑い、ただ壊すことしかしない星神という理不尽。
先達が、そして彼が愛した女性が、絶望の底で命を賭けて繋いできた人間の「軌跡」を、
ただのゴミのように踏みにじろうとする神の傲慢。
そのすべてに対する、人間としての、ナナシビトとしての根源的な怒りが、穹の心の中で爆発した
「お前たち神様が、勝手に人の限界を決めるな……! 運命なんて必要ない。
俺たちは、俺たちの意志で……お前を、そのシナリオを踏み越えていくんだ!!」
穹の激しい怒りに呼応し、全身から立ち昇るオーラが、宇宙に存在しなかった未知の輝き――新たな運命の概念【抗命(こうめい)】の光へと変貌する。
神の定めた宿命に抗い、己の足で歩む人間のための運命。
それは敵のあらゆる「運命のルール」を完全に拒絶する絶対の力。
その時、穹の掌の中で眩いばかりの青緑色の光が爆発した。
光の中から現れたのは、これまでの野球バットでも、建造者の槍でもない。
先達の遺志が穹の怒りと融合して具現化した、美しくも苛烈な両手剣――『不撓の軌跡(ふとうのきせき)』だった。
漆黒の強固な刃の根元から、
青々と茂るアイビーの紋様が、まるで脈打つ血管のように刃先へと伸びている。
穹の怒りに呼応して、ツタの隙間から眩いばかりの不滅の残光が溢れ出す。
「これが、俺たちの……人間の意志だァァァッ!!」
穹は地を割り、大剣『不撓の軌跡』を構えて跳躍した。
無限の復活を経て最大100層まで累積した、銀河のすべてのナナシビトの、そして共に戦うハンターたちの不屈の想いを大剣に宿す。
壊滅の軍勢を力任せに叩き割り、ナヌークの権能さえも切り裂きながら、穹はナヌークの黄金に輝く胸に向かって、真っ直ぐに大剣を振り下ろした。
神の定めた「壊滅という運命」そのものを、物理的に真っ二つに叩き割る一撃が、ナヌークの巨躯を貫いた。
「(……お前は、宇宙の終焉すらも、その足で踏み越えるか……開拓者よ)」
ナヌークの黄金の瞳に、明確な敗北の光が走る。
神の巨像が内側から崩壊していくその瞬間、宇宙を縛り付けていたすべての不条理な宿命の檻が、ガラス細工のように一斉に音を立てて砕け散っていった。
ナヌークの身体から溢れ出た莫大な金色の光と、
世界を焼き尽くしていた壊滅の軍勢は、爆発するのではなく、まるで一本の巨大な大樹の根のように、穹の足元へと吸い込まれていく。
それは、宇宙のエントロピーすらも「人間の意志」が捩じ伏せ、新たなエネルギーへと変換した証だった。
暗黒だった宇宙の戦場に、かつてないほど清らかな「銀河の夜明け」のような、眩い光の夜明けが広がっていく。
それは雨ではなく、星々の瞬きそのものが一斉に解放されたような、
どこまでも透き通った、無限の未来へと続く夜空の解放だった。
「……やったね、穹くん」
サムの装甲を解除し、新しく生まれ変わった澄んだ星空を見上げるホタルが、涙を浮かべながら微笑んだ。
「運命に……勝ったんだね」
「ああ……」
穹は大剣を背中に背負い直し、神々のシナリオが消え去った本物の宇宙を見上げた。
その胸元にある『アイビーの髪飾り』は、役割を終えたように優しい音を立てて形を変え、小さくも力強く、純白に輝く「一輪の花」へと姿を変えていた。
時空を超えて出会った、先達とあの彼女の笑顔が、脳裏をよぎる。
「運命なんて、最初から必要なかったんだ。……行ってきます。俺たちの『開拓』の果てを、あなたたちに見せるために」
窓辺の枯れない一輪の花を列車のラウンジに飾り、
星穹列車は、明日を自分で選べるようになった銀河の人々を背に、レールのない新しい宇宙が待つ未知の銀河へと、再び汽笛を鳴らして旅立っていくのだった。
俺のナヌークに対する解釈は大丈夫だったかな……?
夢女子は怒らせても別に良いんだけども