蝶屋敷の離れに作られた地下空間は、深夜ともなれば地上以上の静寂と冷気に包まれる。
微かに駆動音を立てる換気扇と、机の上で頼りなく揺れるランプの火だけが、この部屋で動いているもののすべてだった。
その日、カナエとしのぶは「柱としての仕事がある」と告げ、早々に屋敷を出ていた。
客間では甘露寺蜜璃が、長旅と特訓の疲れからカナヲと共に深い眠りについている。
つまり、この夜の地下施設には、マヤと珠世の二人しかいなかった。
「マヤ……」
資料を整理していた珠世が、不意に静かな声で呼びかけた。
「少し、お話をしませんか?」
壁に寄りかかっていたマヤは、珠世の声音に混じる微かな震えと、いつになく真剣な横顔を見て、何かを察したようにゆっくりと頷いた。
「ん? どうした改まって。いつでも聞くぜ」
マヤは丸椅子を引き寄せ、珠世の向かいに腰を下ろした。
「分かった。話をしよう。あんたも少し、椅子に座りながらな」
「……ありがとう」
珠世は静かに椅子に腰掛けると、手の中で白衣の裾をきつく握りしめ、ぽつりと語り始めた。
「私の、昔の話です……。私は、数百年を鬼として生きています。けれど、それまでは……ごく普通の家庭に生まれ、愛する夫と結婚をし、子供もいました」
「……」
マヤは黙って頷く。(そうか、人妻だったな……大変だったろうに)と心の中で思いながら、珠世の言葉を急かすことなく待った。
「そして……私は不治の病に冒され、余命わずかとなりました。私は、夫と子供を深く愛しておりました」
珠世の大きな瞳に、切実な痛みを伴った涙が浮かぶ。
地下室の空気が、彼女の背負う数百年の重圧によって、さらに冷え込んだように感じられた。
「その時です。あいつが現れたんです」
珠世の声に、確かな憎悪が混じる。
「まるで、すぐに私の病の治療ができるような顔をして……。私は、藁をも掴む思いでした。どうしても、子供が大人になるのを見届けたい。ただ、そんな親心からでした。そしてあいつは、『これを飲めばその夢は叶う』と、自身の血を差し出したんです。……でも、鬼になるなんて、私は知らなかった」
珠世の肩が、激しく震え始めた。
「そして、その直後です。鬼になった直後は、酷い飢餓状態になるんです。理性が完全に飛び……私は、私は……! 私は……ッ!!」
珠世は両手で顔を覆い、絞り出すような声で咽び泣いた。
「私が鬼になると知っていれば……!! 理性がなくなり、愛する夫と息子を喰い殺してしまうなんて……こんな、人喰いの化け物になると知っていれば……!!」
ポタポタと、ランプの光を反射した涙が床に落ちる。
「私は、無惨に『夫と子供を返せ』と言いました。するとあいつは、こう言い放ちました。『お前が自分で喰い殺したのだろう』と……。そんなのって……あんまりじゃないですか……っ」
その言葉を最後に、珠世は耐えきれずに泣き崩れた。
数百年間、己を化け物だと呪い、絶望の底を這いずり回ってきた悲痛な魂の叫び。
ガタッ、と。
マヤが椅子から立ち上がる音がした。
マヤは泣き崩れる珠世の腕を引き、ゆっくりと立ち上がらせると、その分厚く大きな腕で、彼女の細い体をそっと包み込むように抱きしめた。
「……えっ?」
珠世が驚きに息を呑む。
マヤは何も言わず、ただ温かい大きな手で、珠世の背中をゆっくりと、何度もさすった。人間としての確かな体温と、力強い鼓動が、珠世の冷え切った体を包み込んでいく。
「……そんなことがあって、私は人間に戻る薬を作る事を決意したんです」
マヤの腕の中で、珠世は憑かれたように言葉を紡ぎ続けた。
「そしてある時、転機が訪れたんです。無惨の力が弱くなり、支配が少し解けると感じた瞬間がありました。私は、自力で医療の知識を使い、自身の体を組み替え、無惨の支配を解いたんです。その後、自らの肉体を改造し、『少量の血液だけで生きられる』ようになりました……」
珠世は、懺悔するようにすべてを吐き出した。
マヤは、彼女が語り終えるのを待ち、それから静かに口を開いた。
「ありがとう、話をしてくれて。珠代、その数百年の苦しみ、しかと受け取った」
マヤの声は、どこまでも深く、優しかった。
「確かに、始まりの状況は最悪だった。お前の絶望と悲しみは、俺には計り知れねえだろう。……でもよ、珠世が今、生きててくれて、俺は本当に嬉しいんだ」
「え……?」
「薬ができるどうこうの話じゃない。お前という、気高い魂を持った女がいたという事実が、俺にはたまらなく嬉しいんだよ」
マヤは、珠世の肩を抱いたまま、力強く告げた。
「そして、お前の体の中にはよ、愛した夫と子供が確かに生きている。辛い記憶だけじゃない、共に過ごした楽しい記憶も持っている。……そんな存在になったお前を、俺は肯定する。鬼なんかじゃない。その魂こそが、お前を『人』たらしめているじゃないか。珠世、よく話をしてくれたな」
「っ……ぁ……」
珠世の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
数百年間、誰にも許されず、自分自身すら許せなかった大罪。それを、この男は「魂が人を人たらしめている」「すべてを肯定する」と、真正面から受け止めてくれたのだ。
「ありがとう……ありがとう……。私を受け入れてくれて、居場所を与えてくれて、感謝しきれません……っ」
珠世は、マヤの陣羽織をギュッと握りしめ、子供のように声を上げて泣いた。
(私は、この方を……もう……ここの女性たちと同じように、愛してしまっているのかしら……)
「珠世。俺は、お前のすべてを肯定するよ。道に誤らない限りな。それは俺もそうだ」
マヤはぽんぽんと背中を撫で続ける。
「過去、愛した夫がいた。子供がいた。それはとても素晴らしい思い出だ。だが、今はもう『未来』が作れる状態になった。……生きてくれ、珠世」
「……一緒に、生きてくれますか?」
珠世が、涙に濡れた瞳で見上げる。
「もちろんだよ。一緒に生きていこう。どんな奴からも、俺がお前を守ってやるさ」
「ありがとうございます……っ」
珠世は、マヤを抱きしめ返す力を強めた。
(私の過去も、夫と子供ごと、すべてを包み込んでくれる……。許してくださいね。この出会いに……)
「珠代」
不意に、マヤが口を開いた。
「そうだな。俺の血、飲むか?」
「……え?」
「その話を聞いたら、お前の血の欲求を、俺が補ってやりたいと思ったんだ」
珠世は絶句した。
自らの最も凄惨な罪を聞いた直後に、血を飲めと言う。そのあまりにも底抜けの優しさと、この男との出会いに、珠世はただただ涙を流しながら頷くことしかできなかった。
「だけどよ」
マヤは少し困ったように頬を掻いた。
「俺のような得体の知れない奴の血を飲んだらどうなるのか、正直分からねえんだ。珠世……実は、俺にも秘密がある。そして、俺の血を飲んだらお前に何が起こるか、俺にも分からない」
「え? 秘密、ですか? マヤの……その異常な強さについてですか?」
「ああ、そうだ。俺はよ……たぶん、この時代の人間じゃないんだ」
「……え?」
「記憶がその辺、曖昧なんだけどな。俺は俺なんだが、違う時代の記憶もある。…んだよ、」
「転生……のようなものかしら? 古来より、輪廻転生という概念はありますし」
珠世が真剣な顔で考察する。
「それなのかもな? 分からないんだ。俺はよ、カナエと出会った瞬間に生まれたような感覚なんだ。いきなり森の中に落ちてきて、少し離れた所でカナエと上弦の弐がやり合ってて……気がついたら、助けに入ってた」
「このお話は、他の方には……?」
「いや、お前が初めてだよ。今度、しのぶとカナエにも話をするつもりだけどな。お前が過去を話す勇気をくれたから、俺も話そうと思ったんだ」
「嬉しいです。そんな大切なお話を聞けて……」
珠世は、マヤの広い胸に再び顔を埋めた。
「存在がいきなり世界に落ちた……。それって、まるで救世主みたいですね」
「え? いや、そんな大層なもんじゃ……」
「私にはそう見えます。今こうして抱きしめてもらって、心の底から安堵させてもらっていますよ? マヤ」
「あ! その……すまん。なんていうかよ、急に抱きしめたくなって、つい」
マヤが照れくさそうに少しだけ体を離そうとする。
「ふふっ。そういうところですよ、マヤ。みんな、貴方にドキドキさせられています。でも……それも含めて、貴方なんですよ」
珠世が大人の女性らしい艶やかな微笑みを向けると、マヤは耳を赤くして視線を逸らした。
「今度、血が必要になったら、ぜひ飲ませてください」
「今、飲んでみるか?」
「えっ、あ、えと……」
さすがの珠世も、顔を真っ赤にして口ごもった。
――その時だった。
「……どうしましょう。とんでもない場面に出くわしてしまったわ……」
「……本当に。マヤさんのとんでもない秘密まで聞いちゃいましたよ」
「よし、入りましょう」
「えっ? 姉さん!?」
ガラッ!!
地下室の隠し扉が、勢いよく開け放たれた。
「え……二人とも……? あ、いや、これは……」
抱きしめ合っていたマヤと珠世が、揃って入り口を振り向く。
そこには、仕事に行ったはずのカナエとしのぶが、仁王立ちで立っていた。
「ごめんなさいね、盗み聞きするつもりはなかったの。マヤさんが珠世さんから何か真剣な話を聞いているみたいだったから……。その、あの、『救世主』? みたいな秘密は聞いてしまったけれど」
「私も、聞いてしまいました……」
しのぶがジト目でマヤを睨む。
「そ、そっか……。あの、そういうことで、なんか俺、転生してるっぽいんだわ。だから少し強いのかもな」
マヤが誤魔化すように笑う。
すると、カナエがパァッと顔を輝かせた。
「つまりそれって……私を助けにきてくれたってことですよね!!! 私が運命の一番ってことですよね!」
「はぁ〜〜〜っ!? 何を言ってるんですか姉さんは!!」
しのぶがツッコミを入れるが、珠世が涼しい顔で微笑んだ。
「ふふふ。でも、今抱きしめてもらっているのは、私なんですけれど……」
「あああああ! そうですね! では、順番ということで私から労ってください!」
カナエがダダダッと駆け寄り、マヤに飛びついた。
「えっ、ちょ……たまよ……? えと……」
マヤが慌てて珠世から手を離そうとするが、珠世はマヤの陣羽織をギュッと掴んで離さない。
「駄目です。今は、こうしていたいです」
「あの〜〜〜、もしもーし! それは、ないんじゃないんですか!?」
しのぶも黙っていられず、カナエの反対側からマヤの腕にギュッと抱きついた。
「えっ……と、え?」
三人の美女に四方八方から抱きつかれ、マヤは完全に困惑した。
「マヤ……意外と初心ですよね……こういうところ」
しのぶがマヤの赤い耳を見てクスッと笑う。
「本当にそうですね。蜜璃ちゃんを見習うのもありですね」
「ふふふっ」
「え……なんのことを言ってるんだ? ……でも、みんなありがとうな。俺を受け入れてくれて」
マヤがぽつりと言うと、三人は声を揃えた。
「「「当たり前です」」」
(蜜璃ちゃんが聞いてたら、とんでもないことになってたわね……あぶないあぶない)
カナエが密かに安堵の息を吐く。
「このお話は、蜜璃ちゃんにも話すんですか? マヤさん」
「いずれは、話さないとなのかな?」
「それは、少し待ってくださると……」
珠世が遠慮がちに言うと、カナエも深く頷いた。
「そうそう。今はね、もう少し私たちだけで、というかね」
「そうでしたね。蜜璃ちゃんに話すのはまだ早いかもですね。薬の事でやっと内情を知ったばかりですし」
「そういうもんか。おいおいって感じだな」
マヤが納得すると、姉妹(+珠世)は心の中で(((危なかった……!)))とガッツポーズをした。
少し落ち着き、三人がマヤから順番に離れる。
「で、血を飲ませるってことなんだけど」
マヤが腕をまくり上げる。
「少し、飲むところをお見せするのは恥ずかしいのですけれど……」
珠世が頬を染める。
「その、腕にかぶりつく感じなのかね?」
マヤの言葉に、しのぶが深いため息を吐いた。
「……その言い方ってなんか、どうなんですか? デリカシーがないというか……はぁ〜」
「私もそう思います……。かぶりつくって……私も噛んでみましょうかね?」
「姉さんは何を言ってるんですか!」
「では、その……腕に少しだけ……」
「おう、少し待ってろ」
マヤが太く屈強な腕を差し出す。珠世は、その血管が浮き出た腕に釘付けになった。鬼としての本能か、少しだけ口内に唾液が分泌される。
「いいぞ。噛んだ瞬間に、そこが傷つくように力を抜くから」
「では……」
珠世が、そっとマヤの腕に顔を寄せ、小さな牙を立ててカプッと噛みついた。
――瞬間。
珠世の大きな瞳が、極限まで見開かれた。
「……っ!?」
「え……もしや、稀血?」
驚く珠世を見て、カナエが推測する。
「そうかもしれませんけど……それ以上の反応に見えますよ?」
珠世は、マヤの腕から口を離すどころか、とろ〜んとした恍惚の表情になり、血を吸う力は弱いまま、まるで極上の何かを味わうように、ちろちろと傷口を舐め続けていた。
「あれ? 思ってたのと違う感じか? 珠世?」
「……(ちろっ、ちろっ)」
珠世は答えず、ひたすらに舐め続けている。
「しのぶ、マヤさんの血、調べてみる?」
「いえ、これは調べない方がいいと思います。私たちだけの秘密ということで……」
「そうね……。その方が安全ね」
やがて、名残惜しそうにマヤの腕から口を離した珠世は、熱に浮かされたように潤んだ瞳でマヤを見上げた。
「あ、あ、あの……もう大丈夫です……。ですが……えと、なんでしょう。これは、稀血より危険です……」
「え? 毒ってこと? 大丈夫か!?」
マヤが慌てる。
「そういう事じゃないと思いますよ? そうか、マヤさんは稀血が何かも分からないですもんね」
「おう……なんだそれ」
「酔ったりして理性を失うような感じより、なんていうんでしょう……」
珠世は頬を手で包み込みながら、必死に言葉を探した。
「もう、この血じゃないと、他の血が不味く感じるような危険な感覚です。ガツガツと吸って食べてはいけないって感じになりました」
「貴重すぎて、食べるのをためらう感じってことですか!? それって、鬼にとっては『ごちそう過ぎて食べたくない、大事に保存したい』っていう、人間の感覚では?」
しのぶが驚きの声を上げる。
「そうですね……。ごちそうをたまに、大事に舐めるくらいがいい、みたいな感覚です……。だから、栄養価も凄まじく高いです……なんかもうしばらく、この余韻を大事にしないとって感じに……はぁぁ……」
珠世は両手を組んで、完全にうっとりとしていた。
「???」
状況が読めないマヤが首を傾げる。
「その『大事に味わう』って感覚……完全に人間みたいですね」
しのぶが感心して頷く。
「たぶん、医術的根拠は出ないと思います。鬼の感覚なので……。稀血のように、匂いでは分かりませんでしたし」
「つまり、人間でいえば……なんか『普通のお菓子だと思って食べたら凄く美味しすぎて、もうこれ一個しかないから大事に大事に舐める、とっておきの飴玉』みたいなものってことですね!」
しのぶの完璧な例えに、珠世がパァッと顔を輝かせた。
「あ! それが正しいです! まさにそれです!」
「また、舐めさせてくださいね……お腹が空いたのとは別の、別腹みたいです」
うっとりと微笑む珠世。
「おう……俺は、お菓子(飴玉)なのか……?」
マヤの間の抜けた呟きに、三人の女性がクスクスと笑い合った。
そして、珠世はススッとマヤに近づき、その耳元で熱い吐息と共に囁いた。
「マヤ。色々ありがとう。血も含めて……お慕いしております」
「!!!」
「聞こえてますよ!!」
しのぶとカナエが激しく反応する。
「おう、ありがとうな」
マヤが照れくさそうに笑うと、しのぶが勢いよく一歩踏み出した。
「私も、好きです!!」
「あ! 私が一番です! 好きです!」
カナエも負けじと声を張る。
「えっ!? あ、ありがとう……」
「(勢いで言っちゃいました……っ!!)」
しのぶが顔を真っ赤にして両手で口元を覆う。
「ふふふ。みんな、同じなんですよ。マヤ。よろしくお願いしますね、色々と」
珠世が妖艶に笑う。
マヤはポリポリと頭を掻きながら、「おう……」とタジタジになっていた。
「順番に、今度ちゅーを……」
「姉さん!! 少し蜜璃ちゃんに影響されすぎてますよ!! 順番が、って、もう〜っ!」
しのぶがカナエをポカポカと叩く。
「それは、その、おいおいな……」
マヤが苦笑いすると、珠世がふわりと微笑んだ。
「そうですよ。『おいおい』ってやつですね」
ちゅっ。
言葉と共に、珠世が背伸びをして、マヤの頬に柔らかく口付けた。
「あああああ!!! そんなことを!!! しますか!?」
しのぶが悲鳴を上げる。
「私が言い出したのに!!」
カナエが地団駄を踏む。
「ふふふっ」
余裕の笑みを浮かべる珠世に対抗するように、カナエもマヤの反対側の頬に背伸びをした。
ちゅっ。
「私もです!」
「私はいきおいで、そこまでは……っ、あ!」
しのぶは真っ赤な顔で躊躇していたが、意を決したようにマヤの正面に立ち、その分厚い両頬を小さな手でグッと挟み込んだ。
そして、マヤの唇に、直接自分の唇を押し当てた。
ちゅっ。
「……えっ!?」
マヤの目が、これ以上ないほど見開かれる。
「ええええええええええええ!? 嘘でしょ……しのぶが!?」
カナエが絶叫する。
「……っ!!」
しのぶは、頭から沸騰するような湯気を出し、羞恥で爆発しそうになりながらも、マヤを見上げて震える声で言った。
「わ、私も、もう十六ですし……っ!」
(私の中の理想のキスの仕方があったのに……勢いでやっちゃいました……っ!!)
「姉の私を差し置いて何を!!」
カナエも完全に理性が飛び、しのぶを退かしてマヤの唇に直接キスをした。
ちゅっ。
「マヤ、大好きです!!」
「私もお慕いしてます」
珠世が優しく微笑みかける。
四方八方からの一斉射撃と、人生初のキスの連発に、歴戦の強者であるマヤは完全にショートし、為されるがままに放心状態となっていた。
ただの初心な大男と化したマヤを見て、三人は満足げに顔を見合わせた。
「……蜜璃ちゃんにバレたら、大変ねこれ」
カナエがクスッと笑うと、しのぶと珠世も深く頷いた。
蝶屋敷の地下深く。
魂の救済という最も重い夜は、乙女たちの秘密のキスの嵐と共に、かつてなく甘く、騒がしい夜へと溶けていくのであった。