鬼滅の薬   作:マイナーチョコ

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第21話(前編):希望の証明と、波乱の祝言

うららかな春の陽光が、蝶屋敷の縁側にぽかぽかとした陽だまりを作っていた。

祝言の日を数日後に控えたその日、屋敷の空気はどこかふんわりとした幸福感に包まれ、誰もが自然と笑みをこぼしてしまうような、穏やかな時間が流れていた。

 

縁側に面した広い居間では、お茶の心地よい香りが漂う中、胡蝶しのぶと珠世が、卓上に広げた数枚の資料を囲んで熱心に言葉を交わしていた。

「……素晴らしいですね、珠世さん。貴女の血清を媒体にした『β版』の培養ラインが、完全に安定しました。このペースで増産を続ければ、あと半年……そうですね、秋が深まる頃には、百本以上の特効薬を用意できる計算になります」

しのぶが、手元の万年筆を転がしながら、弾むような声で報告する。

 

「ええ。これなら、いざという時に多くの命を救うことができます」

珠世もまた、人間らしい柔らかな血色の宿った頬を綻ばせ、資料に目を落とした。

「それに、先日お館様から賜った莫大な研究費の増額……。これで、海外から最新の遠心分離機や顕微鏡をさらに手配できますね。マヤの言う通り、この鬼の細胞の『修復力』と『活性化』のメカニズムを完全に解き明かせば、鬼の呪いだけでなく、労咳や……いずれは不治の病とされる癌(がん)などの病理すらも、完治させる薬が作れるかもしれません」

 

「はい。私たちの研究は、もう鬼を滅ぼすためだけのものではありません。これからの時代を生きる、すべての人間の未来を救うための医療です」

しのぶの言葉に、珠世が深く頷く。

かつては鬼を殺す毒を作り、自身の体を切り刻んで呪いと向き合っていた二人の天才は、今、マヤという男がもたらした希望によって、純粋な『医者』として命を救う未来だけを見据えていた。

 

「おっ、今日も難しい話をしてるな。精が出るこった」

そこへ、大きな足音と共にマヤが居間へと顔を出した。その後ろからは、お茶請けの桜餅と三色団子を山盛りに乗せたお盆を運んでくる甘露寺蜜璃と、急須を手にした胡蝶カナエ、そしてカナエの裾をちょこんと掴んで歩く栗花落カナヲの姿があった。

 

「あ、マヤさんっ! お茶にしましょう! 今日は私が浅草で買ってきた特別なお団子なんですよ!」

蜜璃が満面の笑みでお盆を卓上に置く。

「ふふっ、蜜璃ちゃんったら、さっきからお団子を前にしてずっとそわそわしていたんですよ」

カナエがくすくすと笑いながら、全員の湯呑みに温かいお茶を注いでいく。

 

マヤは胡座をかいてどっかりと座ると、運ばれてきた茶を一啜りし、ほっと息を吐いた。

「……祝言まで、あと数日だな」

マヤがふと、窓の外の桜の木を見つめながら呟いた。

 

その言葉に、しのぶ、カナエ、蜜璃、そして珠世の四人が、ほんのりと頬を桜色に染めて視線を伏せる。

「はい。お館様が、産屋敷邸の奥座敷を貸してくださると……。本当に、夢のようです」

カナエが両手で湯呑みを包み込みながら、噛み締めるように言った。

 

「そうだな。……だから、今日はその前に、お前たちに渡しておきたいものがあるんだ」

マヤは懐に手を入れると、小さなビロード張りの小箱を卓上の中心にコトリと置いた。

 

「これは……?」

しのぶが小首を傾げる。

マヤがパチン、と箱の留め具を外して蓋を開けると、そこには、春の陽光を反射して白銀に輝く、四つの美しい指輪が並んでいた。

 

「ゆ、指輪……! しかも、これ……プラチナですか!?」

良家育ちであるしのぶが、その金属の輝きを見て目を丸くした。大正時代において、金よりもさらに希少で加工が難しく、変色しない永遠の輝きを持つプラチナ(白金)は、文字通り破格の価値を持つ宝石以上の代物であった。

 

「ああ。金や銀と違って、何百年経っても絶対に錆びねえし、色も変わらねえ。……俺たち家族の絆と同じだ」

マヤは照れくさそうに頭を掻きながら、その大きな手で指輪を一つずつ摘み上げ、四人の前へと差し出した。

「祝言の前に、俺からの気持ちだ。受け取ってくれ」

 

「マヤさん……っ」

蜜璃が両手で口元を覆い、大きな瞳からポロポロと涙を溢れさせる。

カナエも珠世も、息を呑んでその永遠の輝きを見つめていた。

 

「しのぶと珠世は、これから先も地下での研究や医療がメインになる。だから、手にはめておいてくれ」

マヤがそう言って手を差し出すと、しのぶと珠世は震える指をそっと伸ばした。マヤの大きくて温かい手が、二人の左手の薬指に、白銀の指輪を静かに通す。

 

「……ぴったりです。マヤさん……ありがとう……っ」

しのぶが、自身の薬指で輝く指輪を胸に抱きしめるようにして涙を流す。

「私にまで、こんな美しいものを……。マヤ、本当に……本当にありがとうございます」

珠世もまた、鬼としての過去を乗り越え、一人の女性としての幸せの証を薬指に感じながら、深く頭を下げた。

 

「カナエとみつりは、これから先も柱として現場に出ることがあるだろう。刀を握るのに、指輪をしてちゃあ危ねえからな。特注の革紐を通しておいた。首から下げて、肌身離さず持っていてくれ」

マヤがそう言って革紐のついた指輪を二人の首にかけると、指輪はちょうど心臓の真上の位置にコトリと収まった。

 

「はいっ……! 絶対に、絶対に外しません! 私の命に代えても大切にしますぅぅっ!」

蜜璃が指輪を両手でギュッと握りしめ、わぁぁっと声を上げて泣き出す。

「ふふっ……冷たいはずの金属なのに、マヤさんの体温みたいに、すごく温かいです……。嬉しい……」

カナエもまた、慈愛に満ちた涙を流しながら、マヤの首元へと抱きついた。

 

四人の女性たちの愛と涙が居間に満ちる中、マヤはそっと視線を横に向けた。

そこには、自分には関係のないことだと、少し寂しそうに、けれど姉たちの幸せを心から祝福するように静かに微笑んでいるカナヲの姿があった。

 

「……カナヲ。お前を忘れてるわけじゃねえぞ」

マヤの低い声に、カナヲがハッとして顔を上げる。

 

マヤは懐から、もう一つの細長い桐箱を取り出し、カナヲの小さな膝の上へと置いた。

「開けてみろ」

促されるままに、カナヲが震える手で桐箱の蓋を開ける。

そこには、最高級のべっ甲に、瑠璃色の小さな宝石でアゲハ蝶の意匠が施された、この世に二つとない美しい『簪(かんざし)』が収められていた。

 

「カナヲ」

マヤは、十五歳となった少女の頭を、大きな手で優しく撫でた。

「俺が来た日から、お前はずっと俺たちの戦いを見て、共に笑って、背中を預けてくれた。……お前はもう、ただの継子じゃねえ。俺の、そしてこの蝶屋敷の、大切な『家族』だ。親愛の証として、それを受け取ってくれ」

 

「…………っ!!」

カナヲの大きな瞳から、一瞬で大粒の涙が溢れ出した。

かつて、どうしていいか分からずに銅貨を投げていた少女の姿はもうそこにはない。姉たちと同じように、己の胸の奥底から湧き上がる強烈な感情の波に打たれ、カナヲは顔をくしゃくしゃにして嗚咽を漏らした。

 

「あ……ぁぁっ……マヤぁっ……!!」

カナヲは簪を両手で胸に抱きしめると、そのままマヤの分厚い胸板に飛び込み、子供のように声を上げて泣きじゃくった。

「ありがとう……っ、ありがとう……っ!! わたし、家族……マヤたちの、家族……っ!」

「ああ、そうだ。誰が何と言おうと、お前は俺たちの自慢の家族だ」

マヤがその小さな背中を力強く抱きしめると、しのぶやカナエ、蜜璃、珠世も皆で身を寄せ合い、カナヲを包み込むようにして抱きしめた。

 

大正の春の陽だまりの中、蝶屋敷に響き渡る温かい涙の声。

マヤという男を中心に、血の繋がりを超えた『家族』としての形が、いよいよ完全に結実した瞬間であった。

 

***

 

それから数日後。

産屋敷邸の広大な庭には、玉砂利を踏む音さえ憚られるような、極限まで張り詰めた緊張感が漂っていた。

 

白砂が敷き詰められた庭に等間隔で平伏しているのは、鬼殺隊の最高戦力たる『柱』たち。

水柱・冨岡義勇、音柱・宇髄天元、風柱・不死川実弥、岩柱・悲鳴嶼行冥、蛇柱・伊黒小芭内、そして炎柱・煉獄杏寿郎。

さらにその後方には、胡蝶しのぶ、胡蝶カナエ、甘露寺蜜璃、そしてマヤの四人も同席していた。

 

「……お館様のお成りです」

白髪の童子たちの透き通るような声が響き、奥の襖が静かに開かれた。

 

柱たちが一斉に頭を深く下げる。

しかし、次の瞬間。庭の空気が、文字通り『凍りついた』。

 

ザクッ、ザクッ、ザクッ。

 

庭に降り立つ足音。

それは、病で体を蝕まれ、妻であるあまねの支えがなければ歩くことすらままならなかったはずの、産屋敷耀哉の足音ではなかった。

しっかりとした足取りで、大地を踏みしめる力強い音。

 

思わず顔を上げた実弥の瞳孔が、極限まで収縮した。

「お、館様……!?」

 

そこに立っていたのは、あまねの支えを一切必要とせず、真っ直ぐに背筋を伸ばして歩みを進める産屋敷耀哉の姿であった。

顔の半分を覆っていた赤黒く醜い呪いの痣は、信じられないほどに薄れ、美しい肌の色がほとんどを取り戻している。両の瞳には確かな光が宿り、その姿は、病魔に冒された悲劇の当主ではなく、威厳と生命力に満ち溢れた一人の若き青年そのものであった。

 

「な……!?」

「南無阿弥陀仏……! なんという……!」

義勇が目を見開き、宇髄が言葉を失い、悲鳴嶼が大粒の涙を流して数珠を擦る。

 

「私の可愛い子供たち。急な呼び出しに応えてくれて、ありがとう」

耀哉の声は、かつての掠れたものではなく、腹の底から響くような張りと温かさを持っていた。

 

だが、柱たちがその奇跡に歓喜の声を上げようとした刹那。

耀哉の後ろの縁側に、静かに控えている『一つの影』に気づいた実弥と伊黒が、弾かれたように立ち上がり、日輪刀の柄に手をかけた。

 

「お館様ッ!! 後ろへお下がりくだァいッ!! そこに……『鬼』がァッ!!」

実弥の全身から、凄まじい殺気と血風が巻き起こる。伊黒もまた、蛇のような冷たい眼差しで珠世を睨みつけ、今にも抜刀して飛び掛からんばかりに腰を落とした。

「なぜ産屋敷邸に鬼が……! おのれ、お館様をたぶらかしたか下等生物め!」

 

一触即発。他の柱たちも混乱し、義勇や宇髄でさえ刀に手をかけようとしたその時。

 

「待て不死川!! 伊黒!! 刀を収めろォッ!!」

 

庭の空気を震わせるほどの、雷鳴のような大音声が響き渡った。

炎柱・煉獄杏寿郎である。

彼は平伏した姿勢のまま、微動だにせず、真っ直ぐに縁側のお館様とその背後の珠世を見据えていた。

 

「正気か煉獄……! 相手は人喰い鬼だぞ! 騙されているに決まっている!」

伊黒が焦燥の叫びを上げるが、煉獄は首を横に振った。

 

「見ろ! あの場には、俺の『師匠』であるマヤ殿と、俺の『姉弟子』である甘露寺殿が控えておられる! そのお二人が、そして胡蝶姉妹が動いていないのだ! お館様も含め、何か深い事情と確固たる理由があるのだろう! 俺は、抜刀する必要はないと判断する!!」

 

「姉弟子だと……? てめェ、何言ってやがる!」

実弥が苛立ちに牙を剥くが、煉獄のその「刀だけではない、柔軟な思考」の根底にある圧倒的な信頼感は、他の柱たちの動きをピタリと止めるのに十分な説得力を持っていた。

 

「……ありがとう、杏寿郎。不死川、伊黒、刀から手を離しておくれ」

耀哉が優しく微笑みかけると、実弥と伊黒はギリッと歯を食いしばりながらも、主命に従い渋々刀から手を離した。

 

「皆が驚くのも無理はない。だが、私の後ろにいる彼女……珠世は、無惨の支配を逃れた鬼であり、そして何より、私をこの病魔から救い出してくれた恩人なのだ」

耀哉の言葉に、柱たちの間にざわめきが走る。

 

「彼女と胡蝶姉妹、そしてマヤが作ってくれた特効薬によって、私の呪いは進行を止め、回復へと向かっている。そして珠世自身もまた、この薬によって人間の体に戻りつつあるのだ」

 

「お、鬼が、人間に……!?」

宇髄が信じられないというように額の汗を拭う。

だが、耀哉の表情はすぐに引き締まった。

「……しかし、これはあくまで彼女が無惨の呪いを自力で外していたからこそ定着した奇跡だ。無惨の支配下にある通常の鬼にこの薬を使えば、無惨に遠隔で察知され、細胞を自壊させられてしまう。……ゆえに、すべての鬼を救えるわけではないという残酷な現実は、変わらない」

 

そのシビアな現実に、柱たちは無言で拳を握りしめた。

 

「それでもだ」

耀哉が、深く、慈愛に満ちた瞳で柱たちを見渡す。

「彼らが成し遂げたことは、鬼殺隊千年の歴史において、誰も辿り着けなかった希望の証明だ。私の命は、彼らによって繋がれた」

 

その言葉の重みに、柱たちの間に言葉はなかった。

憎き鬼の力と技術が混ざっていようと、「お館様が健康になった」という絶対的な事実は、彼らにとって何よりも尊く、重い結果であった。

 

しかし、その沈黙を破るように、マヤがゆっくりと立ち上がり、柱たちの前へと進み出た。

 

「……結果を見てみろ。お前たちがいくら刀を振るっても、刀だけでは、親方様は治らなかったんだよ」

 

マヤの静かな、しかし場を圧する低い声。

その言葉に、柱たちの肩がビクッと跳ねる。

 

「ただ、そうだな。お前たちには何年も内緒で、親方様と相談して、裏で鬼の血を使って実験を繰り返してやってきてた。……騙すように隠してて、すまなかったな」

 

マヤは、あえて「自分が柱たちを騙し、裏で暗躍していた」という言い方をした。自分一人がすべての批判と泥を被ることで、お館様や珠世、そして妻たちへの反発を逸らそうとしたのだ。

 

(マヤさん……っ)

縁側に控える蜜璃とカナエが、その不器用すぎる優しさに涙ぐむ。

だが、煉獄だけはその言葉の真意、そして『刀だけでは』という言葉の奥底にある理を悟っていた。

(……『刀だけでは』。そうか……! 刀という武力と、拳という『いなし』、生きるための戦い……! それと同様に、鬼を斬るだけではなく、『医療』という別のアプローチによって命を救う道があるということか! よもやよもやだ、俺はまだ頭が固かった!)

煉獄は一人、己の未熟さを恥じるように深く頷いていた。

 

そして、マヤがさらに言葉を続けようとしたその時。

スッ、と。

純白の白衣を翻し、胡蝶しのぶが一歩前に出た。

 

「……いいえ、違います。私たちは、誰一人騙してなどいません」

 

しのぶの凛とした声が、庭に響き渡った。

彼女はマヤの隣に並び立ち、真っ直ぐに柱たちを見据えた。その姿は、ただマヤに守られるだけの少女ではなく、次期当主として、そして何よりマヤの『正妻』としての誇りと度量に満ち溢れていた。

 

「これは『役割分担』です。珠世さんと私は、医術に長けていた。そこに鬼か人かの区別など関係なく、私たちはひたすらお館様の命、ひいては医療の発展のために尽力してきたのです」

しのぶは、決して目を逸らすことなく、毅然と言い放った。

 

「貴方たちが、その研ぎ澄まされた『刀』で命を救うように。私たちは、知識と『薬』で命を救う。……それだけのことです。何も、恥じることなどありませんわ」

 

その完璧な正論と、医者としての圧倒的な覚悟。

これには、日頃からいがみ合うことの多い実弥や伊黒でさえ、返す言葉を完全に失った。

 

沈黙の中、ジャラリと数珠の鳴る音が響いた。

岩柱・悲鳴嶼行冥が、両目から滝のような涙を流し、その巨体を折って深く、深く畳に額を擦り付けた。

 

「南無阿弥陀仏……。我らの刃が届かぬ病魔を、その手で斬り伏せてくださったのだな……。疑念を抱いた己の浅ましさ、恥じ入るばかりだ……。何という奇跡、何という恩か……っ!」

岩柱のその言葉を皮切りに。

義勇が、宇髄が、煉獄が。そして、伊黒も実弥も、すべての柱たちが、マヤと蝶屋敷の女性たち、そして縁側の珠世に向かって、一斉に深く頭を垂れた。

 

鬼殺隊の最高戦力たちが、医療という名の希望を前に、心からの敬意と感謝を示した瞬間であった。

 

***

 

「……さあ、重い話はここまでだ。顔を上げておくれ、私の可愛い子供たち」

耀哉が、これまでにないほど明るく、弾むような声で言った。

「今日はこれから、私の娘たちと、命の恩人である親友の晴れ舞台だ。お前たちにも、ぜひ同席して祝ってやってほしい」

 

その言葉を合図に、産屋敷邸の空気が一変した。

重苦しい軍議の場から、華やかで祝いの空気に満ちた祝言の場へと、屋敷の奥座敷が解放される。

 

金屏風が立てられた大広間。

その中央に、漆黒の紋付羽織袴に身を包んだマヤが、泰然自若として座している。

そして彼を取り囲むように、目も眩むような純白の『白無垢』に身を包んだ四人の花嫁が並んでいた。

 

正妻としての気品と美しさを極めた、胡蝶しのぶ。

優しさと慈愛に満ち、春の花のように微笑む、胡蝶カナエ。

隠しきれない豊満な胸元と、幸せいっぱいの桜餅色の頬を輝かせる、甘露寺蜜璃。

そして、鬼としての業を乗り越え、息を呑むほどに艶やかな大人の色香を放つ、珠世。

 

大正の時代における妻妾同居という形を取りながらも、その実態は四人が完全に平等な、愛に満ちた大家族の完成であった。

親族席には、美しい振袖を着せてもらったカナヲが、涙を浮かべながら嬉しそうに拍手を送っている。

 

「派手だ……! 派手すぎるぜマヤ!!」

末席で杯を干した宇髄天元が、バンバンと畳を叩いて大笑いした。

「俺と同じ妻四人だと!? しかもあの胡蝶姉妹に甘露寺、挙句の果てには鬼の女まで手懐けるとはな! おいマヤ、お前たちの子は、これからの鬼殺隊の未来を担うとんでもねぇ逸材になるに決まってる! 派手に子作りしろよォ!」

「うむ! 宇髄の言う通りだ! 素晴らしい血脈が生まれること間違いなしだな!」

煉獄も腕を組みながら、ボロボロと大号泣して叫んでいる。

「むううううっ! 師匠! そして姉弟子よ! 誠に、誠におめでたいっ!!」

 

「南無阿弥陀仏……美しい家族愛だ……」

悲鳴嶼も涙を流して念仏を唱え、義勇も小さく「……おめでとう」と呟いて杯に口をつける。実弥は「ちっ、俺には関係ねェ」とそっぽを向きながらも、出された祝い酒を美味そうに煽っていた。

 

だが、一人。

「…………ギリィィィィィィィィッ」

蛇柱・伊黒小芭内だけは、白無垢姿でマヤに寄り添い、「マヤさん、あーん♡」と甲斐甲斐しく料理を口に運ぶ蜜璃の姿を見て、血の涙を流さんばかりに歯ぎしりし、ヤケ酒を浴びるように飲んでいた。

 

「伊黒さん、お酒強いんですね! さすがですぅ!」

蜜璃の無邪気な一言が、さらに伊黒の心を抉る。

 

「……まぁ、賑やかでいいじゃねえか」

マヤは、四人の美しい妻たちに囲まれながら、運ばれてきた酒をグイッと煽った。

その左手の薬指には、しのぶと珠世とお揃いの、白銀のプラチナリングが鈍く光っている。

 

お館様とあまね、そして個性豊かな柱たちに見守られながら。

過酷な運命を乗り越えた男と四人の乙女たちは、大正の歴史の裏側で、かつてないほど華やかで、温かい祝福の宴の中心にいた。

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