サニー号につき黙々と出港準備をする一味。
やがて船はミルキーウェイに乗り崩れ始めている島を後にしようとしていた。
操舵するジンベイ、その目からは大粒の涙が地面へと滴り落ちている。
ワノ国、そして最終章へと続く旅の中で、ゾロがどれほど麦わらの一味の「精神的支柱」であったかを、ジンベエは誰よりも理解していた。
「見事な最期じゃ、ロロノア。お前の繋いだこの命、断じて無駄にはせん……!」
ゾロの遺志を継ぎ、ルフィを絶対に守り抜くという海の侠客としての覚悟が、ジンベエの瞳に宿る。
崩れる島をじっと見つめるルフィとクルーたち。
ルフィは一言も発さない。ゾロが事切れた瞬間、ルフィは一歩も動けなかった。
ただ帽子を深く目深にかぶり直す。
固く握りしめた拳からは血が滴る、麦わらの一味の「最初の仲間」であり、常に隣で笑い、時に厳しく自分を支えてくれた相棒。
ルフィの心に開いた穴は、エースを失ったあの時よりも深く、そして暗い。
「……ゾロ」と、掠れた声で一度だけその名を呼んだルフィの目は、自分への怒りと悲しみであふれていた。
普段は「マリモ」と罵り合っていた最大のライバル。
サンジは、ゾロの体が崩れ落ちるのを誰よりも早く目撃していた。
「かっこつけやがって⋯」
いつかのスリラーバークの事を思い出していた。
震える手でタバコに火をつけようとするが、何度ライターを擦っても火がつかない。
ついにライターを地面に投げ捨てる。
「おい……お前、ルフィを海賊王にするんじゃなかったのかよ……」
男の約束を、己の命より優先した男への、怒りと、それ以上のクソ烈しい喪失感。サンジは静かに、しかし二度と消えない炎をその足に宿す。
ウソップの肩を借りながら、大粒の涙をボロボロと流して座り込んでしまうナミ。
かつてアーロンパークで、そしてスリラーバークで、どんな窮地でも「ゾロが起きていれば大丈夫」とどこかで信じていた。
一味の強さの象徴であり、最も頼れる「盾」だった男の死。
「嘘でしょう……? ゾロ」
航海士として、彼を世界の果てまで連れていけなかった後悔が、ナミの胸を締め付ける。
「おい! ゾロ! ゾロォォォォ!でて来いよ! 今度はお前を置いて行っちまうぞぉぉぉ!」
現実を受け入れらないウソップ。
かつて一度、一味を離れた自分を、厳しい言葉でありながらも誰よりも熱く迎えてくれたのがゾロだった。
エルバフの誇り高き戦士の姿を、ウソップはゾロの生き様に見ていた。
「お前が死んだら、俺は誰を目標に、勇敢なる海の戦士になればいいんだよ……!」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ウソップは叫び続ける。
「バカ野郎が……!! 派手に逝きやがって……!!」
溢れる涙を隠そうともせず、自慢のサイボーグの腕で顔を覆う。宝樹アダムで作ったサウザンド・サニー号の強靭さを、誰よりも信頼し、愛してくれた剣士。
フランキーは、ゾロのその熱い魂にふさわしい墓標をアダムで作ると誓った。
ブルックは「ヨホホ……ヨホホホ……」力なく笑おうとするが、その声は完全に震えている。
一度死を経験し、仲間の全滅を見届けたブルックにとって、ゾロの死は最も恐れていた「過去の悪夢」の再来だった。
「ゾロさん……あなたまで、私を置いていくのですか……。骨だけの私には、涙を流す目もありません……」
ブルックは静かに愛剣を引き抜き、鎮魂の曲を奏で始める。
その音色は、かつてないほど哀しく、重い。
その悲しい音色を聞くチョッパー
「俺が……俺がもっといい医者だったら……! どんな傷でも治せる医者になっていれば……!!」
自分の無力さを呪い、地べたに頭をこすりつけて大号泣するチョッパーの姿は、一味の悲しみをさらに深く引き摺り下ろす。
やがて島雲は跡形もなく崩れ去り外界の海へ姿を消していった。
外界には見たことのある島の近海。
その光景をいつも冷静なロビンが、目を見開いたまま完全にフリーズしている。
ゾロが自分たちを救うために見せた「鬼の目」の圧倒的な覚悟。
ロビンは、かつて自分がオハラで生き残って以来、これほどまでに誰かが自分を守るために命を投げ出した光景を、魂の底から恐れ、そして感謝していた。
「……ありがとう、ゾロ。でも、私たちはあなたを失って、どうやって笑えばいいの?」
その目からは、静かに、一筋の涙が頬を伝って落ちる。
「ルフィ、これを⋯」
ロビンはルフィに一切れのメモをわたしそのまま船内へ消えていく。
ルフィは無言でそのメモに目を通した⋯。