〜特級裨益呪霊〜 黄昏の福音 作:楓舞星
「この反転術式って私も使えるようにならないんですかね?」
「たぶん無理。才能ゲーだから。五条から聞いてるけど、君って特級呪霊を相手にしても呪いが見えないんでしょ?才能ないとかそう言うレベルじゃない」
「そうですか……自分に才能がないのはわかってましたけど……」
これがあれば、いざと言うときの保険が効く。なにより、戦闘での負傷を治せると言うのはとても素晴らしい。テラスは、そう思いながらも、家入に反転術式で治してもらった部位のチェックをする。
「虎杖はどうですか?」
「多分死んでんじゃない?」
「うーん、私の予想だと大丈夫なので、あと少しだけ、解剖するのは後にしないと……あの、解剖途中の全裸の虎杖が突然起き上がる……みたいなことになりかねない気がするんですよねぇ」
「ふーん、まあ、先の理由を聞いたら一理はあるな。それじゃあ、あと一日だけは腐らないだろうから待ってーー」
隣の部屋から虎杖の声が聞こえた。死体が安置されている部屋だ。
「おっ、起きたね」
「やるねぇ、新人ちゃん。予想的中じゃん」
「伊達に長いこと生きてませんから」
そう言いながらも、テラスと家入は隣の部屋に入った。
そこでは、虎杖と五条が感動の再会をしていた。
「やあ虎杖、おはよう……って、速く服を着なさい!もうひん剥かれてるとは思わなんだ!」
「ああ、テラス……ありがとな!!」
テラスと虎杖は再会を喜んだ。
_______
「さて、テラスはこれからどうするつもりだい?」
虎杖の蘇生が無事に終わり、再会を楽しんだ後、私と五条は今後について話し合う。
「特に決まってないので、適当に任務をこなしながら経験を積んでいこうかなと」
「そうかい、それじゃあ京都姉妹校交流会に参加しなさい」
「京都姉妹校交流会?なんですか、それ」
テラスは頭上にハテナを浮かべる。
「高専が東京の他に京都にもあるのは知ってるよね?」
「あ、そんなのあったんですか」
「あるんだよ。それで、そことの交流試合があるのさ」
試合……今回の少年院の事件から、虎杖は恐らく巻き込まれ体質と思われる……だから、
「試合ですか……なんか死人が出そうな予感がしますね」
「大丈夫……なはず。僕が近くで見てるからね」
「ごじょせんが見てくれるなら安心ですね。それでは、私も参加するって流れで」
「ん、了解!」
_______
「こんちはーっす」
テラスは休憩中の、ポニーテールの女性と、伏黒に挨拶をする。
「あ?誰だテメェ」
「真希さん。新しい一年です」
真希と呼ばれた女性は納得した様で、
「ああ、名前は確か……」
「センテラスです。先輩は禪院真希さん……でしたっけ」
「おうテラス……と言うか、お前呪力はどうした?呪力を殆ど感じないんだが」
「あー、私、呪力を使えない才能ナシなようで……」
「……呪いは、呪霊は見えるのか?』
「全く。ちんぷんかんぷんのさっぱりぴーまんっす」
「……私が言えた事じゃないが、おい伏黒!どうしてこんな奴が高専入ってんだよ!」
「武道に優れてるんですよ」
「はぁ!?武道に優れてるぅ?」
「ええ」
「私んことバカにしてる?」
「いいえ。信じられないことに、ただの武術だけで特級呪霊を倒してます」
「特級呪霊を?ふーん……それは面白そうじゃねえか……」
真希は信じられない様な表情をしながらも、テラスを見定めていく。
「それじゃあよ。私から一本取ることも不可能ではないってこった」
そう言って、真希は矛を捨て無手になり訓練場へとテラスを誘った。
訓練場では釘崎と銀髪の青年、狗巻棘が戦っていた。パンダがそれを見ていた。伏黒も見にきた様だ。
「さて、それじゃあ始めるか。先に言っとくけど、伏黒の言葉を私は信用している……その上で、お前の存在を信用していない」
「どっちなんですか」
「どっちも心にあるってこった。伏黒の言葉を信じてるから全力で私は応戦するし、お前の存在を信じてないから、若干手加減しようとも思っている」
「いや、だからどっちなんですか」
テラスの疑問には答えず、真希は構えをとった。
「……はぁ」
両者、10メートルほど空けて、構えを取った。静寂がその場を支配する。いつのまにか、釘崎や狗巻、パンダも静かになってその戦闘の開始を待っいた。
始まりの合図はない。
しかし、先に動いたのは真希の方だった。
天与呪縛のフィジカルギフテッドにて、禪院真希の速度は人外の領域に達している。
それに対するのは、『人間』、センテラス。
真希の詰めに対して、テラスも距離を殺そうと動くが、
「遅え!」
真希の目からみると、何もかもが遅かった。動きの動作ひとつひとつが、やはり『人間』であることを物語っていた。
だが、距離は至近距離。1メートル未満。その中での殴り合いにおいて、真希は瞠目することになる。
初手に突き刺したのは当然真希だった。俊敏性において、先手をとるのはやはりフィジカルギフテッド。
戦闘では、先手を取ることは重要である。一手のみで決まる可能性のある『現闘』なら、結局の所、身体能力が高いやつが技術を無視して勝つのが当たり前。
身体能力の高さというのは相手よりも、全てにおいて有利をとれる代物である。なのにも関わらず、
先手の真希の攻撃をテラスは片手で綺麗に逸らした。その逸らしには音はなく、自身の攻撃を逸らされたと言う感覚すら、真希にはなかった。
それに内心驚愕しながらも、テラスに逸らされた腕の反動を使った回し蹴りを決行する。瞬時の判断に於いて、真希には自信があった。そして、それはテラスの読み通りであると言う点を除けば、完璧な一手。
だから、それは行動という意味ではまさしく正しかったのだが……
「残念」
テラスはその破壊力のある回し蹴りを、下半身を使って上体を下げながら避けると、同時に、そのまま至近距離の真希に向けて放つのは、
「閃拳」
「ぐっふ!」
腹に直撃した閃拳は、それでも試合が続行可能な程には威力を手加減されており……それを、真希も感じていた。だから、腹を押さえながらも、真希は……
「テメェ……まさか手加減したわけじゃ、ねえだろうな……」
「そっちも手加減してるじゃないですか。回し蹴り、もっと速く出来ましたよね?」
「……ま、わかるわな」
そう言い、両者は更に格闘戦を繰り広げていく。その際に、真希が思ったのは……
(深い……なんなんだ、この感じは……)
相手は、自分よりも、最低でも恐らく6倍以上は身体能力で劣る相手。先手も確実に取れる。自身の判断に間違いはない。
なのに、
(か、勝てない……まるで海を飲み干せと言われている様な……っ!)
何をしても自身が勝てないと言う道しか見えてこなかった。それに動揺し、真希の武は乱れる。いつのまにか、真希にはもう、手加減と言う言葉はなかった。当たれば致命傷は免れぬだろう攻撃をテラスにしてしまっている。脳裏では、何をやっているだと思いながらも、しかし、心内ではこれで良いと思ってしまう矛盾。
「それでいい」
「……は?」
「全力を出し、死力を尽くし、私を殺しかかる勢いでこいーー
ーーその先で、私は待っている」
その言葉に、真希は全て吹っ切れた。手加減という無粋なモノに惑わされるのはもうやめだ。
暴風の様な手足がテラスに突き刺さる中、それでもテラスは、全てを完璧に捌ききり、カウンターを仕込んでいく。
幾度目かの仰け反り、真希は思う。
(あー、こりゃ勝てねえわ)
自身が負けず嫌いという自覚はある。だが、それとこれとはまるで話が違う。
なまじセンスがあるから理解できた。
まるで、知らない国の札束の大山を見せられている気分。それに対し、自身はただ手持ちにある財布から取り出した千円札と数個の小銭しか無いような……そんな侘しい心持ち。
しかも、
「おいテラス……お前、どれだけ本気だ?」
「120%ですけど?」
「違えな。お前にはもっと、隠されたチカラがある」
「……それを知って、どうしようと?」
「私に魅せてくれ。お前が目指した武の極みを」
「……」
「先輩命令だ」
「はぁ……」
それに対して、テラスは、この世界の人たち目が良すぎる……と呟いてから、再度ため息をつき、
「仕方ないですね
ーー1回だけですよ」
ーーーテラスの雰囲気が変わったーーー
「神闘、心象急破の型」
「っ!」
「深淵閃風」
掴めないリズムに乗らされて、まるで自身の身体を支配されたように感じた。そうして、深淵閃風で、一瞬、地から離され宙に浮く真希は、あまりにおかしな現象を通じて笑い、逆に言い返した。
「ーーそれでいい」
「龍閃崩拳」
スパァン!と音が鳴り、真希の意識は暗転した。
「真希!大丈夫か!」
試合が終わったのを確認し、パンダが出てくる。
「致命傷は明確に避けたし、それどころか内臓も全部避けた一撃だから、すぐ起き上がれると思うよ」
「……ゲホッ、その通りだな」
真希は起き上がり、そして、感じ取ったことを伝えた。
「お前の武はよくわかった。凄い圧力だった……」
「褒めても何も出ないっすよー。それにしても、先輩も大変な道を歩んだんですね」
「……わかるのか?」
「武をかえしたら大体わかる……と言ったらスピリチュアルに過ぎますか?」
「はは、そうだな。その通りだ……」
そう言い、真希は砂埃をパッパと払ってから、
「敢えて聞こう、テラス……お前、何者だ?」
「私?私はーー
ーー神様だよっ!」
てへっと、そう、お茶目に返した。