藍色髪を短く纏めた少女、閃テラスは、クラスのハブかれ者である。テラスとしても、それで良いと認めている。他者と馴れ合うのは性に合わない。そう心から思ってからこその事だから、尚更余計に救いようがない。本人もそれを自覚している。
そんな彼女は『オカルト研究部』に所属している。テラスとしては帰宅部に直帰したかったのだが、この高校は部活に強制入部だった。だから、ため息混じりにでも部活に入るしかなかったのだ。
(家から1番近い高校に行ったのは間違いだったかな……でも、それ以外があまりに遠いし……)
最後の抵抗として、彼女は1番しがらみがない、人数が少なく、気楽そうですぐに帰れる部活を選んだ。オカ研に入っているのは所詮、その程度の理由である。
「おっすテラス!今日も相変わらずオーラ纏ってんな!」
テラスに声をかけてきたのは、同じオカ研に入っている同級生、虎杖悠仁。
「今日は強制集会でしょ?私はさっさと済ませて、家に帰りたいんだ。アンダスタン?」
「了解!佐々木先輩達呼んでくるから、ちょっと待っててくれ」
そう言って、虎杖は足をテキパキと動かしていく。それを見て、テラスは椅子に背を持たれつきながら、目を両手で覆い隠す。指の隙間から、天を仰ぐ。
「はぁ、面白く無い人生だなぁ……別にこの歳になって危険な事をしたいって訳じゃないけど、腕が鈍っちゃう」
「『閃拳』ってどんな技だっけ?まさかただの正拳突きじゃないよね?」
テラスがそう独りごちながら、ズンと空に拳を突く。そうして、アナログ時計がカチカチカチと動く音だけが暫くその場を支配した。
「テラス!佐々木先輩達連れてきたぞ!」
「おーけ。早いね。んで、今日は何やるんですか?」
テラスが先輩に向けて、あくまで丁寧にそう聞くと、佐々木先輩はじゃじゃーんと効果音が出そうなほどに、おもむろに一つの小さな箱を出した。
「今日はこの箱の中身を暴いちゃいたいと思いまーす!」
「……それの為だけに、強制集合にしたんですか?」
「そうだよー!」
「はぁ……いや、まあ、私も家に帰ってやることも今の時期は特にないし、付き合ってあげますけど……」
テラスも参加の意思表明をした。
_______
都市伝説として、密かに語りつがれている者が存在する。
その者は、曰く、女性の姿を模っていると、曰く、人助けをすると、曰く、ヒーローを名乗るとーーー
自身がダレなのか検討はつかない。それでも、今日の今日まで息を吸って、はいて。吸って、はいて。
だから、本能のまま従うのだ。ありし日の、『ーーと**』を背負って。動き出すのだ、きっと悲しむ人をなくす為に。
黄昏時、日が沈みそうで沈まない、そんな時間に、
「大丈夫?」
「……だ、だれ?」
「泣いていたようだから、誰かと逸れちゃったのかな?」
「う、うん。部活の遠征の帰りで、僕は足が遅いからって……置いてかれちゃった……帰り道も……わからない……」
「そっか……それじゃあ、私が連れて行ってあげるね」
しゃがみ込んで、目線を少年の位置に合わせた。
「え?」
「……帰りたい場所はどこかな?玄関の上がり
「よ、よくわからないけど、家に帰りたい!」
少年の言葉に、微笑みを返して、
「そっか、それじゃあね。『ヒーロー見参』」
そう言うと、優しげにバイバイと手を振った。
瞬間、少年の目の前が真っ白に染まったかと思ったら、そこにはいつも通りの家が、日常があった。
彼女は何事もなかったかのように、黄昏を歩んでいく。
今日も彼女は自身の答えを探し続ける。命の答えを、ぐちゃぐしゃに歪んでも、呪いだとしても、
電柱の上から、そんな光景を見ている一人の男がいた。白髪の男だった。黒い外套を羽織っているように見えるその外見は、機能美すら感じるほどに洗練されたデザインであった。
「んー、これは僕のでる幕かな?」
男はそう独り言を発して、片手で望遠鏡を作り、それを覗きこんでは、彼女をその特別な蒼眼で見つめる。
「特級裨益呪霊……大した肩書きだし、たまたま見つけたから見にきたけど、あれは……実際のところ呪いなんかじゃない……いや、呪いなんだけど……そうじゃない」
男は、自身の眼で漸く捉えられた事実を深く考える。
「『ーーや**』、ナニカに対するそれそのものだ。アレを祓うのは何か……マズイ気がするね」
「さて……この判断が福音を齎すか、それとも凶報を伝えるか……」
男は消える様に去っていた。
彼女は、藍色の髪を背中まで垂らし、鴉の濡れ羽色の様な墨黒のドレスをして、今日も黄昏時を歩き続ける。