「おかえり」
夏油は返事を特級裨益呪霊に返す。対して特級裨益呪霊は、『酷く疲れた』顔をしてから、
「ただいま」
そう言った。
テラスが帷に入った時、もう既に戦闘は始まっていた。巨大な木が実物質化しており、それは天を覆い隠していた。その規模感から即座に、
「こりゃあ特級呪霊の仕業かな。準一級が二人いるとはいえ、早めに行かないとまずそう……」
タッタッタとテラスが寺付近に近づいた時だった。藍色髪の女が現れた。
「ん?いや、殆ど輪郭しかみえないから呪霊なのはわかるんだけど、何お前?」
「やあ」
テラスはその者の姿を垣間見る。そして驚愕し、足がぶるりと震える。
「……ぉいおい……ど、どうなってるんだ?お前のその佇まい……」
テラスは見ただけでわかった。こいつは、闘神であると。それも、自分と比肩するレベルの。
「この戦いを……この約10分間を、1067兆9777億6555万3321回……何の数字だと思う?ぜんぶテメェを殺すために繰り返した数字だ」
「は、はは……じょ、冗談キツイって……」
「『私』はファントムトークは使わねえよ」
「そ、そんなの嘘だい!メイ見たもん!」
テラスは震える足に手でバチンと喝をいれ、立ち向かう。
「っ!ふぅ……なんて呼ばれてるか、名前を教えろ……」
「特級裨益呪霊ちゃんですっ!」
「ーーじゃ、さっさとやろうぜ」
「し、神闘、
「神闘、
「し、神闘、
「神闘、
「し、神闘、
「神闘、ーー」
特級裨益呪霊はテラスと対等以上に戦う。テラスはドン引きを通り越して、もはや怖いとすら思っている。
だから、
「あ、アイドルにストーカーがつくのはある種当然って言うか?ま、まあ、仕方ないって言うか?て、てへっ!って言うか?それにしても、お、お前の執着心どうなってんねん……」
自身をあえてアイドルとして飾るファントムトークで冷静を保つ。だが、特級裨益呪霊は、
「そう言えば、そうだな……私の年齢を言ってなかったな。私はーー
ーー200兆1477億3万歳。または200億3万歳」
「200兆……?チョウって、あの、万、億、『兆』の兆だよな?……はは……何だお前……」
そう、テラスは恐怖を堪えながら、
「……お前は何者だ?」
これ対して、特級裨益呪霊はテラスを真摯に見つめながら、
「お前を殺す恐怖の具現。1000兆回負けた者にして、1000兆1回目に挑む者……つまり、
ーーこの積み重ねでようやく『開いた』よ。『私』に器はないけれど、記憶はある……」
「っっ!!」
ヤバい!なにか、ヤバいのがくる!
テラスはそう感じ、速攻で仕留めにかかるがーー
「ーー『簡易神化プラチナム』」
「なに……それ……っ!」
テラスはその変身に、覇気に心から震える。
「ーーもしお前が負けたら、お前の同級生どころか、この世界の人間の『命』を陵辱する。全員の『命』を貶める」
「…………」
「やってみろ。『神の王』にして、『命の王』。センテラス」
「……はぁ、私は神の王はただの事実でも、命の王なんて名乗った覚えは……いや、あるな。本当、嫌になる」
『簡易神化プラチナム』により、特級呪霊相当以上の呪力が猛放出される。テラスはそれに気圧されながらも、大きく息を吸い込み、吐いて、深呼吸をしてから、キリッとした目で世界を睨みつける。
「ーー1撃だ。1撃で決める」
その言葉には、万感が積まれており、特級裨益呪霊は、ようやくここまで引き出せた……と内心、安堵する。だが、同時に、分かったことがある。分かっていたことだーー
ーー自身はこの勝負に負けると。
だからこそ、あえて、
「やってみろ。『本物』。偽物になんて負けんじゃねえ」
「どっちを応援してんのかねぇ……」
テラスはそう言いながらも、動いた。
そして、居合の構えを取り、抜いた。
「心神殺華・一閃」
勝負は一瞬だった。
その一閃に、音は鳴らなかった。音はとっくに置き去りにしていた。光が瞠目する。次元が悲鳴を上げる。天は揺るがされ、大地が震える。
テラスのその一撃は、全世界の全てより重かった……そう表現するのが相応しい。理解不能を超越する。だが、それが正しいという論理の破綻。それ引き起こす、神の技を超えた技。
「はは、さすが『本物』……お前は強すぎる……」
首を掻き切られ、断頭され、頭がコロコロと転がった。それをテラスは掴み、目線を合わせる。
「……お前、『命』を陵辱するだとか言ってたけど、嘘だろ」
「……どうしてそう思う?」
「多分、お前は私だから」
「はは、正解……はあげないよ。『私』はお前じゃない。正確に言えば、フラグメントを持っていない私は、『センテラス』を名乗る資格がない」
「……フラグメント?」
「例えば、仮定しよう。体を胴体と下半身で両断したとき、胴体を更に半分にしたときだ。それを無限に繰り返して、残った肉片は本人といえるのかな?脳を本人と仮定して、それを半分に切り続けた時、残った脳が本人と言えるのかな?それらはぜんぶ違う。フラグメントを持っている方が、宿っている方が本人さ」
「……」
「『私』には、それがなかった。あるのは、半端な200兆年と1277億3万年の記憶だった。逆にお前にあるのは、鍛え上げられた『フラグメント』と数多の地獄を経て作られた『器』と『200億3万年の記憶』」
「200兆年は半端とは言えないと思うが……」
「半端だよ。現に、1000兆回繰り返しても、一回も私に『私』は勝てなかった。本物のお前にな」
「……」
「ああ、終わろうかどうか迷うな……」
「……どういうことだ?」
「『私』は本来、お前と言うこの世界のイレギュラーを殺すために作られたんだ……と思う」
「現に今も、お前を殺せと本能がけたたましくざわめいている」
「……」
それに対し、テラスは沈黙する。特級裨益呪霊は、ふっと笑いながら、だがな、と付け足し、
「『私』は私が相手だろうと、理不尽な死……胸糞は許さない。だが、『私』からしたら、私は本物の私だから、他者とは違い、お前に凄惨なダメージを与えるぐらいはする……」
「……ああ、自分のことだからよくわかるよ。私は、私に対して厳しい」
「……でもね、殺しまではしないさ。直接蘇生させる手段があるなら話は別だったけどね」
「タイムリープは直接蘇生させるにはいらないの?」
「『私』の判断基準では入らなかった。それだけの話さ。まあでも、さっきは、『最悪本気で殺しちゃおうかな、どうしようかな』ぐらいだったからわからなかっただろう?実際、この『私』が私を殺す可能性だってあった」
「……」
「さぁ……センテラス。本物よ。お前はどう言う選択をとる?」
「……何って?」
「『私』を殺すかどうかだ。ここで『私』を殺したら、きっとお前は『クリア』する。この世界を掌握出来る。チカラも全て戻るかもしれない。もう一人の私……善道の自我を無視してな」
「……もう一人の私?善道?」
「黄昏時に現れる、私のもう一つの人格と言っても良いかもしれないが、それは正確に言うと違う。善道は『私』よりも、200兆年よりも、更に長い記憶を持っている。『夢』で幾つかみたからなんとなくわかる。勿論、アイツもフラグメントは持っていないがな」
「……それで?私にどうしろと?」
「アイツを救ってやってくれ。アイツは、ただこの世界で、『私』達の記憶を持たされているだけの……いや、『私』達の記憶どころか、実際の所、『軌跡』程度しか知らないだろうな……なのに、『私』達の『軌跡』のせいで、呪霊として、本来の『私』と同じくお前を殺すことが出来ず、『善を全うする奴隷』……ただの呪いが、『センテラス』の記憶を持ち、『人』としての責任と力を持ってしまった、そんな被害者だ……そんな奴を、救ってくれ……アイツから話を聞けば、もしかしたら、どうして私がこの世界にいるのか、『私』という存在が生まれたのかがわかるかもしれない」
「……」