〜特級裨益呪霊〜 黄昏の福音 作:楓舞星
テラスが五条の顔面を蹴り上げようとハイキックを繰り出すが、五条はクイッと顎を上げて避ける。だが、テラスも避けられる前提で動いていた為、スムーズに次の行動へと移行した。
「逆気閃拳」
キックの足を戻しながら、片足を軸として、テラスはその言葉と共に、飛び出すように拳を突き出す。
呪力で身体能力を極大までに強化している五条に、パシッとその拳を受け止められた時だった。
(重い!!!!!)
拳が余りに重かった。そこに詰まっているのは、きっと積み重ね。
五条はその眼で、その正拳突きの型を見た。あまりに、綺麗だと感じ、それを、もっと完璧な形で見てみたいとすら思った。
「雅だ」
五条はつい口にする。
「そんなこと言ってる場合ですか?」
「なに……?ぐっ!」
テラスはこの初手で、自身の、もはや現闘では五条との身体能力差を埋めれないことを確認すると、ダーティプレイに手を染める。
「逆気閃拳はいわゆるスタン系の技、相手にぐるぐるバット1万回させたみたいに、気を滅茶苦茶に乱すことで、三半規管をぐちゃぐちゃにさせたような感覚にさせる」
そして、同時に、
「神闘、
神闘を使い始める。ここからは、文字通り次元の違う戦いになる。
天統震羅の型は、増やし方がほぼ無限通りある有界の数を増やして、その数が多い方が有利とする……そんな型である。意味不明だ。だが、そんな意味不明な型だからこそ、この極大な身体能力の差を埋める足掛かりとなる。
「閃拳!」
「っ!」
スタン状態からなんとか復帰した五条は、その重たすぎる拳、閃拳を気合いで回避し、初めて、神闘を用いる相手と接敵する。
「……わからん殺し……してあげるっ♡」
そうして、テラスは五条に神闘を用いて戦闘をする。初見の印象としては、テラスが負けるのが必至なこの戦い。本来なら勝負にならないだろう。だが、テラスには無数の、神闘というナイフを持っている。
(神闘、天統震羅の型……まるで戦闘ではなく、将棋でもしてるみたいだ……もしもこれを将棋とした場合、テラスは10枚落ちと言っても良い……だが、これは戦闘で……間違いなく、明確に僕の方が有利なーー)
五条は神闘を理解しようとするが、
「無駄だよ。神闘は、現闘よりも遥かに途方もなく、無限に続く道……私ですら、よくわかってない。きっとこれからも、わからない」
五条は神闘を理解するのを放棄し、現闘……いつも通りの自分を押し付け、勝負をしようとする。だが、
ーーそれがテラスの目的だった。
「神闘、虚実挟雑の型」
それは、宿儺にも使った技、
「それは……なんなんだい?」
「虚に見えて実、実に見えて虚、そのどちらかと思わせておいて、実はそれ以外……さあ、答えはどこにあるかな?」
「意味がよくわからないな……」
五条の声に対して、テラスはにっこりしながら、
「そう言うもんさ」
神闘の土俵で出来た無数の隙をテラスは見逃さない。
「神速閃拳」
「深淵閃風」
「龍閃崩拳っ!」
スパコン!と人体と人体からの衝突音では、決して鳴ってはならないような音が訓練場に鳴り響く。
「ぐっ!重いね、テラスの拳は!!!」
徐々に、五条もヒートアップしてくる。テラスは、それについていく。いや、もう既に向こう側にいる。
そうして、両者は
結果ーー皮肉にも、五条はテラスに指一本触れられず、試合は終結した。
_______
深夜、虎杖とテラスを返した五条はついほくそ笑んでしまう。五条はベンチに座り、目隠しをぐりぐりと弄りながら呟く。
「今年の一年は豊作だな……」
十種影法術を術式として持つ伏黒恵。
「彼らはいずれ、僕と並ぶ術師になる……」
人外の膂力と、宿儺の器を併せ持つ虎杖悠仁。
「彼女は格闘能力の一点だけで言えば、今でも僕より格段に上だ」
圧倒的な格闘能力と、殺傷力を誇るセンテラス。
一度、悠仁と共に研修の途中に、どうして普段は非力なのに、固い呪霊の装甲を貫いて『中心』にたどり着けるのか、そして『中心』の切り刻み方というのが気になって聞いたことがある。そうすると、彼女は、
「それは、その、体にある魂?核?みたいな物をばばばーっと相手の『気』を通して切り込むんですよ……わかります?」
「「ぜんっぜんわからない」」
そして、もっとも象徴的なエピソードとして……
「まさか、この僕が対面戦闘で『負ける』なんてね。ははっ、笑っちゃうね」
五条はあの対面を思い出す。『神闘』と呼ばれる物を用いるテラスは、自身と互角以上に渡り合った。テラスはただの『人間』で、自身は『呪術師』として呪力で身体能力を強化していたのにも関わらず。
恐らく、『試合』ではなく、『殺し合い』をすれば、五条にテラスが負ける事は恐らくないだろう。だが、そんなの、慰めにはならない。
……こんな気持ちになるのは、何年振りだろうと五条は振り返る。
「……あれは、そうか夏油との、いつかの勝負以来だったか……」
振り返った先にあるのは青い春だった。そのことに、五条は少し自嘲しながら、
「……さて、今年の一年はどう言う風な仕上がりになるか、楽しみです!」
そう言い、目隠しを弄るのをやめて、ベンチから立った。
_______
「折角東京に来たのに、こんなイモくさい奴らと一緒なんて!ああーー!!私ってつくづく環境に恵まれないのね!」
それに対し、虎杖は、
「んなこと言うな」
伏黒は、
「お前の方が田舎出身だろ」
テラスは、
「私ってイモくさい……?」
「いや、そこの女はまだマシだけど、お前ら二人はさっさと消えなさい」
「そうだぜ、消えろぶっ飛ばされんうちにな」
「……ほんとテラス、お前、そう言うの好きだよな……」
「まあ病気みたいなモンだからね。それこそ何百億年経っても治らない病気よ」
「とりあえず、さっさといくぞ」
そうしてたどり着いたのは、古い石造りの小さなビルだった。
五条も来た様で、虎杖に屠坐魔という呪具をプレゼントした。
「ん?私は?」
「君はコレ」
「……包丁……?」
「100均で買ってきた」
「………………えーっと、私、死ぬかも知れない戦場に今から赴くんですけど……」
「いや、君はどう考えても死なないっしょ。じゃあ、頑張ってねー」
「…………あのバカ目隠しが」
と言う感じで、腹いせ混じりにこの小さなビルの掃討、呪霊討伐を完了した。