〜特級裨益呪霊〜 黄昏の福音   作:楓舞星

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7話:センテラスvs宿儺(5本) ①

「はぁ……しんどー、ありゃ盗めねえわ」

 

 テラスはなんとか安堵の息をして、その場に倒れこむ。包丁はもう柄しか残っていない。テラスは無用の長物となったそれを投げ捨て、伏黒が釘崎を助けられたかを確認する為に立ち上がり、指を回収しようとする。

 

 そうして、この場は幕を閉じる……はずであったが、

 

「っ!」

 

 テラスが気づいたのは宿儺の指の気配。それの気配を何処からか感じたのだ。そして、猛接近してくるそれを、前にしてどうにか構える。

 

 結界を突き破って出てきたのは、カブトムシ然とした、甲虫の様な呪霊だった。その中心からは宿儺の指の気配がする。気配の強さからして、特級だろう。

 

「えーっと、不味いっすね……」

 

 どう考えても殴りが効かなそうな相手である。包丁もないので、殺すことは、祓うことは出来ない。

 

 普通にどうしようか全力で頭を回転させていると、

 

「おい!テラス、大丈夫か!」

 

 血反吐を吐きながらも、呪力砲で吹っ飛ばされた虎杖が参戦復帰した。その目元には、どこか泣いた跡があった。

 

「おっす、あの白い昆虫倒したら次は多分黒い昆虫が出てきた。私、呪霊見えないからわからないけど、多分黒だよね?黒って300種類以上あるんやで」

 

「んなこと言ってる場合か!……屠坐魔を渡す……だから、ここから離れろ」

 

「何する気?」

 

「宿儺と入れ替わる」

 

「おけ。そう長話している時間もないみたいだしね」

 

 巧遅は拙速に如かず……ということだろう。テラスは屠坐魔を預かってから、急いでその場から離れた。

 

「宿儺、入れ替わーー」

 

 虎杖がそう言い、宿儺と変わろうとした時だった。呪霊が勢いよくタックルをした。先のことで特級呪霊の速さは虎杖も理解していた。なのにも関わらず、それよりも速かった。まるで誰かに、急に強化されたように……思考外の現象を経て、虎杖は気絶し、宿儺に席を譲った。

 

 そうして、虎杖の体には墨が塗られ、青年から、史上最強の呪いへと姿を変貌させる。宿儺は問いかけた。

 

「おいお前……もしや、羂索の差金か?」

 

「ぎょぎょ、よ」

 

 呪霊の言っていることは勿論理解出来なかった宿儺であったが、その呪霊は腹を自ら裂き、そうして指を献上した。

 

「ほう、おそらくは呪霊操術……中々見どころのある術式を選んだな」

 

 宿儺はそう言うと、地面に置いてある指と、献上された指、二本を取り込んだ。そうして、宿儺は計五本の指分の出力、呪力を持つこととなる。

 

 そうした宿儺はニヤリと笑った。

 

「まずはテラス……あの不届き者に罰を与えねばな」

 

 宿儺はその場から消えた。

 

 _______

 

「伏黒!崎崎コンビ大丈夫か!?」

 

「誰が崎崎コンビじゃごらぁ!」

 

「こっちは大丈夫だ……それにしても、まさか本当にあの呪霊を祓ったのか?」

 

「まあこっちには殿下の100均包丁があったからね」 

 

「……」

 

 テラスは100均包丁を寄越した五条のことを内心ボコボコにしながらも、そう発言する。それに、伏黒はなんとも言えない表情をする。

 

 そうして、テラスは説明した。特級呪霊を倒したこと、新たに特級呪霊が現れたこと、宿儺に代わった虎杖が今は抑えていること。

 

 説明をしながらも、伏黒たちは、無事に外に出ることができた。岡崎を伊地知に任せてから、伏黒は、今度は虎杖の様子を確認しようと再び中に入ろうとする。

 

 その時だった。

 

「お前は……小僧か。貴様には興味がない……いや、貴様も見所のある術式を持っておったな。魅せてみろと、言いたい所だがまあ良い」

 

「っ!宿儺っ!」

 

「そう、幽霊でもみた様な顔をせんでもよいではないか……」

 

 少年院から、体に穴が、自身の心臓を抜き取った宿儺が出てきたのだ。

 

「何が目的?」

 

 テラスは冷静に聞く。

 

「なに、お前屈服させ、少し慰み物として使ってやろうと思ってな。光栄に思うがいい」

 

「きゃー、宿儺さんのえっちー」

 

「言ってる場合か!来るぞ!」

 

 

 

「解」

 

 

 

「狙いがワンパターンなんだよぉ!!」

 

 テラスはギリっと奥歯を噛み締めながら、またもやギリギリのスウェイで宿儺の斬撃を躱わす。だが、今度は宿儺の方から突っ込んでくる。

 

 テラスは守りに入りながらの戦いになる。

 

「伏黒!釘崎!アンタらは逃げな!」

 

「何を言ってる!?」

 

「私が突っ走っていって逃げるなんてありえない!」

 

「『逃げろ!!』」

 

「「っ!」」

 

 伏黒は困惑で、釘崎はプライドを持って応答する。だが、テラスからしたらここにいても今の両者では返り討ちにあうだけだと判断した。それに何か宿儺は隠し玉を持っているだろう。それを発動されたら守りきれないかもしれない。だから、一声を浴びせる。それは、神の号令。

 

 そうしている間にも、宿儺のテラスの脇腹を狙った攻撃に対して、テラスは滑らかな、水のような対応で逸らしていく。

 

 常にテラスが一歩進んだ戦いになっている。まるで、未来でも予知されているようだと、宿儺は戦いながら感じた。そのことに、宿儺は興奮気味に聞く。

 

「なんだ、貴様のその戦い方は!まるで理外の理を司る、現世ではない、天上の理!」

 

「二つだけ、私が使っている神闘……トリックを教えてあげようか。一つは離利滅裂(りりめつれつ)の型……簡単に言えば、相手の懐に入って仕舞えばこっちのもの……って言う型。てか、現闘と神闘の違いがわかるなんて戦闘通だね。余程才能があるみたい」

 

 そうして、呟くようにテラスは言う。

 

「現闘っていうのは現世の戦い方のこと、神闘っていうのは、まあ簡単に言えば、この世界ではない世界での戦いのこと……アンタは凄いよ。そんな概念を知らずに、現闘をかなりいい精度で収めてる」

 

 テラスは宿儺の格闘を評価しながらも、更に自身の縛りを重ねていく。

 

「二つ目に、神闘、累卵窮鼠(るいらんきゅうそ)の型……これまた簡単に言えば、自身が危ない時、つまり深淵を覗き込む時、深淵はこちらを覗くようにチャンスが回ってくる……って型」

 

「よくわからんなぁ!!」

 

「わからないのが当然なんだよ。私もぶっちゃけ、よくわかってないし……ただ、少し理解していて、 『繰り返した』から、使える」

 

 宿儺はその言葉に、何処か巨大な重みを感じた。

 

 今思えばそうだ。テラスの拳には、才能を感じない拳だった。なのに、今こうして圧倒的身体能力さで力押ししていると言うのに、究極の柔よく剛を制すと言わんばかりに力を押し殺されている。

 

 そんな才能のなさも、そのトリック……神闘と呼ばれている物なのかと思ったが、おそらく違う。そう理性ではない、最強としての誇りが気づいていた。

 

 つまり、テラスは、どうやったかはわからないが途方もない時間を積み上げ、才能のなさを棚上げせず、究極の武を磨いてきた超人と言う事だ。

 

 それに気づいた時、宿儺の行動は一つに決定づけられていた。だったら、自身も魅せるしかないだろう。これは、そんな武の、技の、積み重ねの交換会だ。

 

「領域展開ーー」

 

「っ!」

 

「ーー伏魔御厨子」

 

 空間がひび割れ、そこから新たな空間が現れ、現実を侵食する。暗く喰らって、現実を犯すのは宿儺の領域、伏魔御厨子。

 

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