「すみません、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「え?」
不自然に探偵事務所から離れていこうとするフラワーショップの店員さん──花森さんの肩を叩く。
危うく逃げられるところだった。
事務所から俺に続いてあんなとみくる、そしてポチタンを抱えたジェット先輩が出てくる。
言ってやれ、名探偵たち。
「ゴーグルを奪った犯人は」
「「あなたです!」」
2人がビシ!! っと花森さんを指さす。
「犯人? 僕が? 何のことです?」
「とぼけても無駄だよ!」
「ポーチが喋った! ってみんなが驚いてたのに……」
「あんただけは驚かなかったな」
そう、おかしかったのはそこだ。動いて喋るポーチを見て、普通の人が驚かないわけがない。
にもかかわらず、この人は驚かずに平然と冗談を言ってきた。
「私たち以外でポチタンのことを知っているのは!」
「怪盗団ファントムだけ!」
そこまで聞くと、花森さん……いや、ファントムは役者を称えるかのように大げさに手を叩く。
「素晴らしい! 美しい花のように、完璧な変装のままこの場を去ろうとしたのだがね!」
そう言うと、さっきまで確かに花森さんだった目の前の存在は瞬く間に姿を変える。
黒いシルクハットに黒いマントを身に着けた、ペールミントグリーンの長髪の青年。
驚いた。本当に声も背格好もまるで別人だ。見たらわかるレベルの変装じゃない。
こいつが前に聞いた……
「良く見抜いたね、ベイビー?」
「ニジー!!」
「ゴーグルを返せ!」
「残念だけど、それはできない」
……ん、少し離れた方がよさそうだな。
そしてベイビーと来たか。確かに男の怪盗ってキザったらしいイメージがあるな。
ゴウエモン? あれは今のところ怪盗か怪しいからノーカンで。
「嘘よ、覆え! 出でよ、ハンニンダー!」
前回のゴウエモン同様、ニジーがゴーグルに何かをすると、たちまちマントとゴーグルを身に着けたハンニンダーが出現する。
説明された今ならわかる。
奴らはモノに宿ったマコトジュエルを使ってハンニンダーを生みだしているわけか。
「シニアンのゴーグルが!!」
「ジェット先輩、危ないから俺らは一回離れよう」
「でも……!」
悔しそうにハンニンダーを見るジェット先輩。
安心しろ。だってここには、彼女たちがいるんだから。
「ジェット先輩、大丈夫だよ!」
「私たちが絶対、取り戻す!」
懐中時計を取り出す2人を横目に、ジェット先輩とポチタンを連れて近くの木陰へと避難する。
「オープン! ジュエルキュアウォッチ!!」
前回同様、あんなとみくるがプリキュアに変身していく。
「どんな謎でもはなまる解決!! 名探偵キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ!! 名探偵キュアミスティック!」
「「名探偵プリキュア!!」」
「私の答え、見せてあげる!」
これで俺が変身を見るのは2度目のはずだが、それでも変わらず感動してしまう。
綺麗で、かっこよくて、かわいい名探偵たちだ。
「ハンニンダー!!」
ハンニンダーと2人の戦闘が始まった。
ハンニンダーが目からビームを放って攻撃してくる。
……前のやつも飛び道具を使ってはいたが、攻撃方法が違うんだな。
「はぁぁぁぁ!!」
「ハンニン、ダー!!」
初撃のビームをジャンプで避けたミスティックが上空から攻撃を仕掛けようとする。
が、その瞬間ハンニンダーの周りに照準のようなものが浮かび、ミスティックのことを捉えた。
「っ!! くぅっ……!」
「ミスティック!!」
先ほどのビームが上空のミスティックを正確に撃ち抜く。
辛うじて腕でガードしたみたいだが……
「ハンニン、ダー!!」
「うわぁっ……!!」
その時間を使ってハンニンダーの横から回り込もうとしたアンサーだが、ミスティックの時と同様に照準のようなものが浮かび上がり、距離を取りながらアンサーをビームで撃つハンニンダー。
……あの照準、厄介だな。
「前後左右、どこから近づいてもロックオンされる。
君たちに勝ち目はないよ!」
ニジーがそう言うと、ハンニンダーが複数の照準を使い狙いを定め始める。
マジか、1度に1つである必要もないのかよ。
そして同時に何本ものビームを撃ってくるハンニンダー。
アンサーとミスティックは避けるのに精一杯で、防戦一方を強いられている。
その様子を見てほくそ笑むニジーが口を開く。
「たかが古いゴーグル一つに大げさだなぁ。
世の中にはモノがあふれてる、代わりのゴーグルを買えばいいだろう?」
は?
……ああ、よかったよかった。最初に出会った怪盗団ファントムがゴウエモンだったから、てっきりそんな悪いやつらじゃないんじゃ、なんて思っていたけど。
ちゃんと悪で安心したわ。
これなら遠慮なくってやつだな。
悔しそうにニジーを睨むジェット先輩を視界に映しながら思考を回す。
どうにかするべきはあの照準だ。距離を取りながらビームを撃っていたところを見ると、近接できれば2人なら倒すことができるはず。
……この前の桜のハンニンダーは、桜吹雪を使って攻撃をしていたはずだ。
つまり、ちゃんとハンニンダーに使ったモノに準じた攻撃をしているということ。
なら今回、照準を合わせるという役割を担っているのは……
確定ではないが、試してみる価値はある。
よし、そうと決まれば。
「ジェット先輩、ちょっと行ってくるわ」
「え? お、おい、ヒロ? どこに……!」
「ポチ……?」
木陰から出る。
大丈夫、戦いに行くわけじゃない。
それになぜだかわからないけど、いつもよりちょっとだけ体の調子がいいしな。
危なくなったら逃げるくらいはできるだろう。
目の先には、先ほどのニジーの言葉を聞いて怒りを見せるアンサーとミスティック。
「代わりなんてない!! それはただのゴーグルじゃない!
ジェット先輩にとって世界に一つしかない、大切なものだよ!!」
「みんなの笑顔を生みだす、たからものなんだから!!」
2人の言葉を聞いて、心が揺れ動く。
……本当にこの子たちは、どうしてこんなに高潔でこんなにかっこいいんだか。
「ああ、良く言った。その通りだ。
持ち主にとってかけがえがないから、マコトジュエルが宿るんだろ?」
「え!?」
「ヒロくん!? あ、危ないよ!」
突如後ろから話しかけられ、驚いてこちらを見る2人。
もちろん、危ないのは承知の上だが。
ニジーは……こちらを訝しんでいるだけで、特に動きはない。
ちょうどいいな。
「アンサーとミスティック、ちょっと耳貸してくれ」
「で、でも……!」
「すぐ終わる。言いたいこと言ったらちゃんと逃げるからさ」
「……わかりました!」
一瞬考えたが、すぐに話を聞こうとしてくれる2人。
いい子だ、判断が速いのは大切な事だからな。
「確定じゃないけど、おそらくハンニンダーがさっきからどこにいてもビームを狙い撃ちできるのはあのゴーグル部分の力だと思う。
だから、ハンニンダーのつけてるマントをゴーグルに被せることができればアイツの攻撃は止められるかもしれない。
そこまでの方法は、2人に任せっきりになっちゃうけど……って、どうした?」
話を終えると、そこにはポカンとした2つの顔が。
「……いえ、さすがヒロさんだなと思っていただけです」
「私たちはそろそろ慣れないとだね、ミスティック」
「ふふ、そうだね、アンサー」
「?」
顔を見合せて笑うアンサーとミスティック。
なんだ? よくわからん反応だが。
さすがも何も、俺は見てただけなんだから戦っている2人よりも考える時間も情報もあって当たり前だろうに。
今度は俺が困惑しているうちに、考えが固まったのかハンニンダーの方へ向きなおす2人。
「ありがとう、ヒロくん! なんとかなる気がしてきた……!」
「ヒロさんは危ないから、ちゃんと下がっててくださいね!」
「ああ、もちろん。頼んだぞ、名探偵たち」
「「うん!」」
まぁ、言いたいことは言えたしいいか。
ジャマにならないうちにさっさと離れよう。
「お前、急にあいつらのとこに行くなんて危ないだろ……!」
「ポチポチ!」
戻って早々ジェット先輩に叱られる俺。ポチタンもちょっと怒ってそう。
「悪い、危ないのは分かってたんだけどな。
さっきのニジーの言葉を聞いてちょっとイラっと来ちゃって、つい」
「ヒロ……」
人の大切なものを奪った張本人が、代わりを買えばいいって、それはないだろう。
結局最後はプリキュアに任せてしまうけど、アイツをぎゃふんと言わせたいからな。
すると、今まで静観していたニジーが動き出す。
「フン、作戦会議はもうおしまいかい?
さっき、このゴーグルを笑顔を生み出すたからもの、とか言っていたね。
であれば、ますます返せないね!」
「ううん、絶対に返してもらうんだから!
いっくよ~!!」
そう言って、思いきり足に力を籠め、遥か上空へ飛びあがるアンサー。
そのままハンニンダーへ向かって飛び込んでいくが、当然ハンニンダーも照準を合わせビームを撃ってくる。
「ハンニン、ダ! ダ! ダ!」
「よっ、と、ほっ!」
「ハン!」
うまくビームを躱しながら接近したアンサーだが、そこをハンニンダーが捕まえる。
身動きが出来なくなったアンサーに対して、ゆっくり照準を合わせるハンニンダー。
「ジ・エンド」
「そっちがね!」
勝ちを確信したニジーがそうつぶやくが、捕まっているアンサーの眼に敗北の色はまるで浮かんでいない。
なぜなら、名探偵は一人ではないからだ。
「やぁぁぁぁ!」
「ハン、ニン!? ダダダ!?」
アンサーが気を引いているうちに後ろに回っていたミスティックが、ハンニンダーのマントをつかんだまま上を飛び越え、ゴーグルをマントで覆い隠す。
突然のことに状況を把握できないハンニンダーが、慌てて掴んでいたアンサーを手放す。
そのチャンスを、アンサーが見逃すはずもない。
「アンサーアタック!!」
「ニンッ!?」
未だ自身のマントと格闘しているハンニンダーを自身の技で殴り飛ばすアンサー。
ビームを飛ばしてこなくなったところを見ると、どうやら当たりだったみたいだ。
奥で驚いているニジーの顔が見えて気分がいい。
「まさか、そんな方法が……!?」
「今だ!!」
「やっちゃえ、2人とも」
「「うん! オープン! プリキットミラールーペ!!」」
ハンニンダーはアンサーの攻撃でまだよろけている。
今なら前回のあの技を当てられるだろう。
「見て!」「感じて!」「「謎を解く!」」
「「これが! わたしたちの! アンサーだ!!
プリキュアフライングスペクトル!!」」
「「キュアっと解決!」」
「ハン、ニン、ダ~……」
2人の攻撃でハンニンダーが浄化されていく。
前回同様マコトジュエルをポチタンが吸収し、戦闘の痕は嘘のように元通りになっていき、妙に居心地のよかった雰囲気が元に戻っていく。
「ポチポチ、キュアキュア~♪」
「くっ……華麗にやられてしまった……
それに、やつがゴウエモンの言っていた……」
ニジーが煙幕を炊いた次の瞬間、もう姿は見えなくなっていた。
さすが怪盗、逃げ足は1流というわけだ。
……最後こっちを見てた気がしたが、気のせいか?
何はともあれ、これでようやくジェット先輩のもとにゴーグルが戻った。
ジェット先輩が頭にゴーグルを付け直す。
……うん、やっぱりこの姿がしっくりくるな。
「お前たち、その、ホントに……」
と、照れた様子でお礼を言おうとするジェット先輩。
こう見ると、なんだかすごい男の子って感じがしてかわいいな。
「お礼なんて、ねえ?」
「私たち、仲間でしょ?」
そういうみくるとあんな。うーん、眩しい。
尊い世界を眺めていると、探偵事務所の前の通りに1台の車が止まる。
「フラワーショップ花森です、遅れてすみません!!
車が急に動かなくなってしまって……!」
そう言って頭を下げているのは、先ほど見た姿まんまの花森さん。
声もそのまんまだ。
「ニジーの仕業だな」
「全然大丈夫でーす!!」
「お花、運ぶの手伝います!」
「俺も手伝ってくる。一気に持っていくから、ジェット先輩とポチタンは2階のドアを開けといてくれると助かる」
「おっけー」「ポチ!」
「それじゃ、あんなとみくるは一緒に運ぶの手伝ってくれ」
「「うん!」」
******
「ほれ、ヒロ」
「ん? ジェット先輩、なんだこれ?」
あの後、お店のレイアウトを決め、花や観葉植物を置いて、完成している商品をある程度並べている最中。
お店を開けることができる状態までもう少しという時に、ジェット先輩がとあるものを手渡してくる。
半透明の黒いガラスの容器の中に液体が入っている。これは……
「香水だ。最初に言ったのはヒロだろ?
だから、最初の試作品をヒロにやる」
「ほー、これが……ありがとな、ジェット先輩」
「いいよ、なんだかんだ商品を作るのは僕も楽しんでるからな。
また欲しくなったら言ってくれればいつでも作るぞ」
香水……転生前も含めて使ったことは無いから勝手は分からないが、いい匂いのするものは老若男女関係なく好きだと言ったのは自分だ。
ありがたくもらっておこう。
「それじゃ、僕は残ってる商品を仕上げるとするか!」
「商品はジェット先輩頼りだからな、頼んだ」
「ああ、天才の僕に任せとけ!」
気合いを入れ直した様子のジェット先輩が自身の工房へ戻っていく。
自分の手の中にある香水を持ち上げ、部屋の照明で透かしながら眺める。
ほんと、かわいい商品だな。
なんだか俺が持ってるのはちょっと違和感がある気もするけど。
まぁ、香水なら無理に自分に使う必要もないだろう。
これだけかわいい見た目ならインテリアとして置いてもいいし、体じゃなく家具やカーテンにつけるのも良いと聞いたことが……。
「わぁ、はなまるかわいい商品!」
「それって、もしかして香水ですか?」
そんなことを考えていると、ある程度商品を並べ終えて戻って来たあんなとみくるが俺の持っている香水に興味を示す。
「ああ、そうらしい。香水を提案したのは俺だからって、ジェット先輩が試作品をくれたんだ。
多分これから追加で作るんじゃないかな」
「なるほど……ねえねえヒロくん、試しに付けてみてよ!」
「え、俺が? 今?」
「もちろん! ヒロくんがジェット先輩からもらったんだし!」
「確かに! いいんじゃないですか?」
楽しそうな2人によってするすると話が進んでいく。
コスメショップを提案しただけあってやはりかわいいものには目がないらしい。
つい数秒前まで体以外にも使えるし、なんて考えていたはずなんだが……
「「ワクワク……!」」
「ワクワクって口に出すやつあんまいないだろ」
ツッコんでも変わらず向けられる期待の目。
……俺はどうも2人のこの目に弱い。
てか、なんで俺が香水をつけるのを期待するんだ……?
……まぁ、匂いの確認ってことで少しくらい付けてみるか。
カポ、と香水の蓋を開ける。
「えーっと、確か……」
体につける場合は手首やうなじにつけると良い……んだったか?
だいぶうろ覚えだが。
シュッシュッ、と先程挙げた2箇所に吹き付ける。
試しだからとりあえず少量だけ。
使い終わった香水をしまい、吹き付けた手首を鼻に近づけてみる、が……
……? なんだ? 特になんの匂いもしないけどな、この香水。
付ける量が少なかったんだろうか?
疑問符を浮かべていると、急に背中の左側が暖かくなり、微かな重量と柔らかさが伝わってくる。
香水を付けたうなじの辺りで不自然な風を感じる。
いや、これ、風じゃなくて……
「くんくん……わぁ、はなまるいい匂い!」
予想外の状況に体と思考が固まる。
その間に、背中の右側にも同じような感触が増える。
「私も私も! ……ほんとだ、なんだか落ち着く匂いだね!」
「わかる! なんかほっとするー!」
「でも、あんまり香水っぽくないかも?」
「そうかも、不思議な匂い〜!」
この子たち、マジか……!!
さらっととんでもないムーブをしながらきゃっきゃしている2人。
彼女たちのおでこをあたりを、できるだけ身動ぎをしないようにしながらペシっと叩く。
2人の口からあぅ、と可愛らしい声が漏れる。
「むー、何するんですか?」
「もうちょっと嗅ぎたいのにー!」
何するんですかじゃないが?
耳の近くで何やらわちゃわちゃ言っている2人。
後ろにいるから顔は見えないが、不満げなのは凄い伝わってくる。
さっき香水を付けて欲しがってたのはこういうことか……!
「あのなぁ、香水の匂いを嗅ぎたいんなら俺じゃなくて香水本体からでいいだろ。
それかせめて自分に付けてからとか。
なんでわざわざ俺につけたやつを嗅ぐんだ」
「「……はっ」」
確かに……! みたいな反応をしているあんなとみくる。
一応君たち名探偵なんだよね??
ついさっきファントムの変装をきれいに見抜いたはずだよね??
「あと、匂いを嗅ごうとした結果だから仕方ないとは思うが、距離が近い」
あとと言うかこれが一番の問題なんだけど。
「へ?」
「距離……?」
「「~~~っっ!!」」
現状を把握した瞬間、がばっと勢いよく背中から離れる2人。
ようやくクビにかかっていた鎌と鼻息が外れたので振り向いてみれば、そこにはリンゴもびっくりの真っ赤な顔が2つ。
良かった。一応恥じらいの概念はちゃんとあったみたいだ。
もし恥じらいがなければこれから数多のクラスメイト男子の脳みそが壊されるところだった。
「あのあのあの、今のは、えっとその……っ!」
「その、決して、くっつこうと思ってああなったわけではなくてですね……!」
真っ赤な顔のまま忙しなく体と口を動かすあんなとみくる。
……当然のような反応をしてたら注意の一つでもしてやろうかと思ったが、ここまで恥ずかしがられるとあんまり触れたらかわいそうな気がしてきたな。
恐らく、言った通り本当に香水の匂いを嗅ぐことばかり考えていたのだろう。
まぁ、それなら時間を置けばいいか。
「香水、まだ嗅ぎたいんだったらジェット先輩のところへ行ってきな。
言ってくれればいつでも作るって言ってたし、工房にいるはずだから」
「で、でも……!」
「残りの商品は俺が並べておくから、気にせず行ってこい。
んで、鏡を見て大丈夫だと思ったら戻ってこい」
「「……はい」」
さすがにこの状態のままはまずいとわかっているからか、未だに赤い顔を抑えながらドアを出て1階へ降りていく2人。
……うん、できるだけ早く忘れてあげるとしよう。
******
「うぅ……絶対まだ顔赤い……!」
確かな熱を放っている自分のほっぺたを手で抑えながら横を見ると、同じように真っ赤な顔を抑えているみくる。
そうだよね。だって、あんなにくっついて……それにあんなにがっしりしてて……~っ!
だ、だめだめ、忘れないと!!
ヒロくんだって私たちが落ち着くためにああ言ってくれたんだろうし!
気付けばジェット先輩の工房の前まで来てた。
こういう時こそ、あの落ち着く匂いを嗅いで冷静に……!
「お、あんなとみくる。ちょうどいいところに……って、なんか顔赤いぞ? 大丈夫か?」
「う、うん! 大丈夫だよ、ジェット先輩! ね、みくる!」
「え、ええ! 全然大丈夫!」
ジェット先輩が不思議そうな顔をしてる。
「えっと、ちょうどいいところにって言うのは? なにかあったの?」
すると、何かを思い出したジェット先輩。
「そうだ、ヒロって今どこにいる?」
「ヒロくんならお店のところに居ると思うけど、どうしたの?」
「いや、実はさっきヒロに香水だって言って渡したやつ、まだ匂い付ける前のものだったんだよ。
渡したかったのはこっちだ」
そう言って、さっきヒロくんが持ってたものと同じ香水を見せてくれるジェット先輩。
って、あれ?
「匂いを付ける前?」
みくるも私と同じところに反応してる。
「ああ、あっちに入ってるのはただの水だ。
だからヒロにこれを渡してほしいんだけど」
「でも、さっきヒロくんの香水を嗅いだ時はちゃんといい匂いがしたよ?」
「なに? そんなはずは……」
どういうことだろう?
「ジェット先輩、ちょっとその香水もらってもいい?」
「ああ、もちろん」
すると、みくるがジェット先輩から香水を受け取る。
香水の蓋を開けて、容器に鼻を近づけたみくるが驚いた顔をした。
「さっき嗅いだのと全然違う匂いだ!!」
「え、ほんと? 私にも嗅がせて!」
「ほら!」
「……本当だ、全然違う!」
香ってくる匂いは、さっきとは打って変わってとっても香水らしい、華やかないい匂い。
「匂いの種類は容器で分けてるから間違えないと思うんだけど、お前ら何の匂いを嗅いだんだ?」
「私たちが……」
「なんの匂いを嗅いだか……」
突然降ってきた謎に頭を悩ませる私とみくる。
せっかく探偵になったんだし、こういう小さな謎も見逃さずに頑張って解き明かしていかないと!
えっと、今回の謎を整理すると……
ヒロくんの持っていた香水を嗅いでみたくて、まずヒロくんに試しに付けてもらった。
それで、その、ヒロくんが体に付けた香水の匂いを嗅いだら、香水っぽくないけどとっても落ち着くいい匂いがした。
それでそれで、ジェット先輩のところに行ったらそれは匂いを付ける前のただの水だってことが分かって、実際の香水は全然違う華やかな香水らしい匂いだった。
ジェット先輩によると、匂いは容器によって分けてるから間違えて別の匂いを付けたりはしてないはず。
つまり、この謎の答えは……あれ。
たどり着いてしまった答えをちょっとずつ受け入れている最中に、私と同じように収まっていたはずの顔の熱が再び戻りかけているみくると目が合う。
「見えた……」
「これが……」
「「答えだ……~~っ」」
ぼふんと、自分の頭がショートした音が聞こえた気がした。
「お、おーい。お前ら、大丈夫か?
な、なんか二人とも頭から湯気出てるぞ!?」
うぅ……!
ごめんジェット先輩、私たちダメかも……
******
【おまけ】
あんなとみくる、遅いなぁ。
もうここにある商品は大体並べ終わったけど。
別にいつから開店すると決めているわけじゃないからいいんだが、そこまでダメージがでかかったんだろうか。
……そういえば、さっきの出来事のインパクトでスルーしかけたけど、結局この香水は何の匂いなんだ?
2人はいい匂いだと言っていたが、俺にはさっぱりわからなかった。
そんなことを考えていると、お店のドアが開く。
「お疲れ、ヒロ」
「お、ジェット先輩がちょうどいいところに。この香水って……」
「悪い、それまだ匂いを付けてなかったんだ。
ちゃんとした試作品はこっち」
そう言って同じ容器のものを渡してくれるジェット先輩。
「なんだ、匂い付けてなかったのか。どおりで……」
……ん? じゃあ2人の言ってたいい匂いってなんだ?
「てか、ジェット先輩。あの2人は?」
「なんか、あいつらはオーバーヒートしてショートしたからしばらく使い物にならない」
「???」
読んでくださってありがとうございます。
無事第8話分は終わったということで。
書きすぎてしまった気はしなくもないけど。
まさかの香水(?)を付けて褒められるのは閑鳴くんの方。
香水のシーンは私の指が勝手に暴れましたね。あとで叱っておきます。
もしかしたらツッコミどころがある人もいるかもしれませんが、ぜひ寛容な目で見ていただければと思います。
あと、この作品のお気に入り数が600を超えたみたいです。
初投稿なのであまりピンとは来ていませんが、とてつもなくありがたいことだということは分かる。
皆さんありがとうございます。
次回は第9話からですね。あのお方の登場です。
決めつけちゃダメ、ですね。
それではまた次のお話で。