まことみらい学園、演劇部部室。
「改めまして、今日はよろしくお願いします。
家入しるくです。お名前、教えてください!」
あの後演劇部まで向かったところ、ちょうどしるくさんと演劇部の部員が撮影前のあいさつをしているところだった。
3人で邪魔にならないよう静かに窓からのぞき込む。
浅間さんは……変わらず緊張してそうだな。
多少時間はあっても緊張がほぐれることは無かったようだ。
他の部員たちも浅間さんほどではないとはいえ、緊張してるのが見て取れる。
あれだけ人気なのに加え、演劇部からしたらその道プロなわけだし。
「部長の大森です。家入さんとお会いできてとても嬉しいです……!」
「しるくでいいよ~! あなたは?」
「小藤です。衣装や小道具を担当していて……」
隣で心配そうな顔をして話すあんなとみくる。
「りえ、めちゃくちゃ緊張してるね」
「大丈夫かな……?」
「あのままだと歓迎会でやる劇にも影響出そうだな」
「そうだよね……」
「私たちで緊張をほぐしてあげられたら良かったんですけど」
「いや、仕方ないさ」
難しいだろうな。もちろんあんなたちが悪いわけじゃない。
こういうのって時間が空くと逆に緊張する人もいるし、他のことを考える余裕もなかったんだろう。
小藤さんのあいさつが終わり、次はいよいよ浅間さんの番。
「ありがとう! あなたは?」
「ぴゃい!! わ、わた、わたた、あのあの……!」
浅間さん壊れちゃったよ。
あれは苦労しそうだな。
すると、突然しるくさんが立ち上がる。
「……ふふ、みんなも立って!」
「「「え?」」」
言われた通り、椅子から立ち上がる演劇部の部員たち。
あと、しゃがんで覗き込んでいたあんなとみくるもなぜか立ち上がる。
「腕を伸ばしてー。反対も伸ばーす!」
体を動かし始めたしるくさんを真似して、みんなが両腕を伸ばす。
……だからなんであんなとみくるもやってるのよ。
通りがかりの女子生徒凄い不思議な目で見てるじゃん。
「優雅にターン! 最後に、スマイル~!」
「「「スマイル~」」」
「今のはしるく体操。緊張したときによくやってるの!」
心なしか、先ほどより緊張がほぐれた様子の部員たち。
このしるく体操もルーティンみたいなものなんだろう。
緊張しているときは体が固まりがちだから、軽くストレッチをするだけでも意外と落ち着くというのを聞いたことがある。
「しるくさんも緊張するんですか!?」
「もちろん。本番前はいつも足ががくがくするし、カメラの前に立つと頭が真っ白になっちゃう」
「へ~……!」
「そういう時は、こうやって体を動かすと緊張がほぐれるよ!
ちなみに今のがしるく体操第一で、第二、第三もある~!」
「「「……ふふっ、あはは!!」」」
ラジオ体操みたい! と、しるくさんの冗談で笑う部員のみんな。
「緊張するのは当たり前。一人じゃないからね!
一緒に頑張ろう!」
「「「はい!!」」」
……本当に、驚くべきコミュニケーション能力だ。
自分が理由で緊張してるであろう人たちをこんな短時間で笑顔にするのはなかなかできることじゃない。
空き教室でも思ったことだが、これだけ人気なのもなるべくしてなったということだろう。
あれで高校生ってマジかよ。
「あんなに緊張してたりえが笑ってる!」
「うん。しるくさん、すごいね……!」
部員たちの緊張がほぐれたところで、さっそく撮影を始めるようだ。
カメラなどの機材の配置を確認して、立ち位置を決める。
「カメラ、準備オッケーです!」
「ん、じゃあ撮影始めまーす!」
「撮影中は静かにね?」
「「はい……!」」
シーッというジェスチャーで優しく注意してくれるマネージャさんと、同じくジェスチャーで返事をするあんなとみくる。
見学自体は許してくれるみたいだ。優しい。
「本番! 3,2……」
ディレクターさんが合図をして、撮影が始まる。
どうやら番組冒頭で流す、どんな内容の劇をやるかという説明の部分らしい。
インタビューマイクを持ったしるくさんが大森さんと浅間さんへ質問する。
「今回は、どんな劇をやるんですか?」
「演目は、『シンデレラと中学生』です」
「どんな内容なの?」
「シンデレラと女子中学生の青春を描いた物語です」
へー、ただのシンデレラじゃないんだな。
確かに中学生の劇はこういう既存の作品を少し変えたものをやるイメージがある。
「お城の舞踏会へ行く日、魔法使いの間違いでシンデレラは1999年のマコトミライ市にタイムスリップしてしまいます」
いや魔法使い何してんねん。間違えすぎだろ。
てかまたタイムリーな内容だなぁ。
「シンデレラは出会った女子中学生と力を合わせて、舞踏会へ行こうと奮闘する。
そんな物語です!」
「面白そう~!」
キラキラした顔でテンションが上がっているしるくさん。
実際面白そうだ。聞いた感じ元のシンデレラとは全く違う内容になりそうだし。
「シンデレラなら、衣装はドレス?」
「はい! これを使います」
小藤さんが部室に飾ってある着古した様子のあるドレスをしるくさんに見せる。
「このドレスは、代々演劇部に引き継がれてきた衣装で、いろいろな劇に使ってきたんです。
飾りやパーツを付け替えて……良く見るとボロボロなんですけどね」
しるくさんは小藤さんの話を聞きながら、ドレスの所々にある解れや傷を眩しいものを見るような顔で眺めている。
「先輩たちの思いが詰まった、素敵なドレスだね」
「そうなんです!」
「今年もそのドレスを使えるのが嬉しくて……!」
「どんなアレンジにしようかな……!」
「そうだ! スカートにボリュームがあるとゴージャスに見えるから、下にパニエを履いたらどうかな?」
「いいですね、それ!」
「それでね! ほかには……」
その様子を笑顔で眺めているスタッフさんやマネージャー、そして俺ら。
尊い光景だなぁ。こういうのを見ると、どうしても親心的なものが働いてしまう。
劇、成功するといいな。
******
あの後。
撮影が一通り終わり、劇の本番まで休憩になったタイミング。
その時間を使って、俺とあんなとみくるはとあるところへ。
目の前のドアの張り紙に書いてあるのは『家入しるく様 控室』の文字。
「今がチャンスじゃない……?
サインもらいに行かない?」
「でも、休憩時間に迷惑かも……」
「あ、そっか……うーん、いつならいいんだろう?」
街中とかでも有名人を見かけたりすると、話しかけていいのか迷うよな。
こういう時に迷惑じゃないかなーって考えられるだけ立派なことだ。
悩んでいる二人を見て微笑ましい気持ちになりながら、特に迷いもなくドアをノックする。
「え、ちょ、ヒロさん!?」
「だ、大丈夫なの?」
「サイン、もらいたいんだろ? 平気だと思うぞ」
さっき話しただけでも十分にわかる。
しるくさんは休憩中だからと言って、サインをもらいに来たファンの子を邪険に扱うことは絶対にないだろう。むしろ喜んで対応してくれるタイプだと思う。
「でもでも、そんな急に」
「はーい、どなたで……あれ、ヒロくん!」
「どうも。さっきぶりですね、撮影お疲れ様です」
「うん! さっきぶりだね、ありがとう!
それと、あなたたちは……」
「「し、しるくさん!!」」
ノックに反応して普通に出てきてくれたしるくさんと、目の前にしるくさんが表れて背筋が伸びるあんなとみくる。
「……ふふ、確かに!」
「えっと、しるくさん?」
「ど、どうかしましたか?」
「?」
すると、しるくさんがあんなとみくるをじっくり見てうなずいている。
もちろん困惑する2人。どうしたんだろうか。
「ううん? 誰かさんが言ってた通り、2人ともとってもかわいいなって思って!」
「「……はうっ」」
しるくさんの言葉を聞いて、少し固まってからすごい速度で頬が赤くなる2人。
……掘り返しやがったな、この人。
「しるくさん、あんまり弄らないであげてくださいよ」
「えー? 本当のこと言っただけだもーん。
というか、この場合弄られてるのはこの2人ってことになるんだね」
「? そりゃまぁ、それこそ自分も本当のことしか言ってないですから」
「ひ、ヒロさん!?」「ひ、ヒロくん!?」
「あー、私よりよっぽど悪いんだー、ふふ」
「なんでそうなるんですか」
気付けば耳まで真っ赤になっている2人。
俺に言われたくらいで恥ずかしがるのだ。そりゃあ俳優のしるくさんに目の前でかわいいって言われたらこうなるのも仕方ないだろう。どう考えても悪いのは俺ではない。
って、こんな話をするためにここを訪ねたわけでもない。
そもそも用があるのは俺ではなく2人なのだ。
「その話はいったんおしまいです。
それより2人とも、しるくさんにお願いがあるんだろ?」
「うぅ……あ! そ、そうだった! 休憩中にすみません!」
「あのぉ……サインもらえませんか……?」
「もちろん、喜んで! ……なんだか、ヒロくんってお父さんみたいだね?」
しるくさんがそう言うと、クスっと笑うあんなとみくる。
「ふふ、やっぱりそうなんだ!」
「しるくさんまで……」
「? どういうこと?」
「ヒロさん、クラスでもみんなからお父さんって呼ばれているんです」
「そうなんだ! でも、仕方ないと思うよ?
今だって、子供のサインを頼みに来るお父さんそっくり!
話し方も、私ですらなんだか年上の人と話しているみたいだから」
そう言って笑いながら、サインを書くために机を出しているしるくさん。
鋭いのは勘弁してくれ……って思ったが、クラスでもそう思われている以上、悪いのは俺なんだろうな。
やっぱ戻すべきなのかねぇ。
「これにお願いします!」
2人が机を用意したしるくさんにプリキットブックを渡す。
「すごくかわいい手帳だね!」
「プリキットブックって言うんです」
「探偵をするときに使ってて」
「探偵?」
「はい!」「私たち、こういうものです!」
2人が前に教室で配っていた名刺をしるくさんに差し出す。
冷静に考えて女子中学生が名刺入れから名刺を出す光景凄いな。
「キュアット探偵事務所……探偵さんなの?」
「はい! 困った人を助けたくて!」
「笑顔になってもらえたら、嬉しいから!」
「素敵!」
本当にな。この子たち素敵だよな。
後ろでうんうん頷いていると、しるくさんの顔がこちらを向く。
「てことは、ヒロくんも探偵なの?」
「ああいえ、俺は」
「「私たちの助手です!」」
「なぜ被せる。まぁ、そういうことです」
まだなれてないから言ってくれて助かりはするが。
「探偵と助手……! とっても素敵!」
助手と聞いてさらに顔をキラキラさせるしるくさん。
しかし、なぜか2人は表情を曇らせてしまう。
「でも、依頼がなかなか来なくて……」
「やっぱり、私たちが中学生だからかな……」
……なにを言い出すかと思えば、そんなこと考えてたのか。
こういうことで悩むのは確かに中学生っぽいかもしれないけどな。
本人たちは真剣に悩んでいるんだろうけれど、なんだかかわいらしくて口角が上がってしまう。
大丈夫だ。
困っている人を助けたいという思いに、大人も子供もあるもんか。
誰かが誰かを支えるときに、子供も大人もあるもんか。
まだまだこれからだ。
言いたいことはいくつかあったけど、ここは彼女に任せるとしようか。
さっきのことを思えば、俺なんかよりよっぽどうまく励ましてくれるだろう。
「決めつけちゃ、ダメ!」
2人のおでこを指でツン、と押して俯いていた顔を上げさせるしるくさん。
「私ね? 今、高校に通いながら、芸能活動をしてるんだけど。
最初は事務所の社長や両親にすごく心配されてね。
仕事をやりながら高校へ行くのは難しい、って……」
それはそうだろうな。周りの大人たちの心配もよくわかる。
俺にはどんな日常か想像もつかないが、それでも仕事をしながら学校に通うのがとても大変なことだということくらいは想像に難くない。
「でも、私は両方やりたかったの!
大好きな仕事もやりたいし、高校で友達と過ごす時間も好きだから!
大変だけど、がんばってやってるよ」
この世界、眩しい人ばっかりだな。
こんな子が高校生な時点でそもそも大人も子供も関係ないだろもう。
「だから、あなたたちも探偵頑張ってほしいな。
ダメかもって、決めつけないで」
「決めつけちゃダメ、か……」
「諦めたら、事件も解決しないもんね!」
「その意気だよ!」
気付けば笑顔になっているあんなとみくる。
やっぱり、励ますのをしるくさんに任せたのは正解だったな。
というか、俳優の仕事で忙しくなかったら2人目の助手として来てほしい。
ダメ? ダメか。
******
演劇部が衣装のチェックをしたり、舞台として使う体育館の準備をみんなで手伝ったり。
そんなことをして、劇の本番まであともう少しと言うタイミング。
「ポチー!!」
「ポチタン!?」
廊下を3人で歩いていると急にポチタンが慌てて大声を出した。
それと同時に、廊下の向こうからも同じく大声を出して走ってくる人影が。
あれは、演劇部の小藤さん?
「誰かぁぁ~!!
誰かドレス知りませんかぁ~!!」
ドレス……ポチタンが反応したこのタイミングでってことは……
大慌ての小藤さんを一旦落ち着けて、一緒に演劇部の部室へ向かう。
すると、部室の中は何もかかっていないハンガーと、慌てて何かを探す演劇部部員やしるくさんの姿が。
「間違いなくここに掛けておいたのに……!」
「ドレスが消えたってこと!?」
やっぱりそういうことか。
「部室中探したけど……」
「どこにもないよ」
困った表情のしるくさんと大森さん。
「私が目を離したから……」
「え、そんなわけないだろ」
「え?」
目に涙を浮かべながらきょとんとした顔でこちらを見る小藤さん。
いやいや、そりゃそうだろう。
「なんで小藤さんのせいになる。無くなったのはドレスなんだろ?
勝手に動いちゃう赤子や動物じゃないんだ、目を離した間に無くなったってキミが悪いなんて誰も思わない」
「でもぉ……」
「それに、まだ本番まで時間はあるしな。ほら、こっち」
「う、あう」
持っているハンカチで小藤さんの涙を拭っていく。
これで泣くのはさすがにちょっと内罰的が過ぎるぞ、大丈夫かこの子。
お兄さん心配です。
「そうだよ、小藤さんのせいじゃないよ!」
「絶対どこかにあるはず!」
名探偵たちもこう言ってるしな。
「演劇部の皆さんは準備があるでしょ?
ドレス探しは私たちに任せて!」
「けど……」
「どんな事件もはなまる解決!」
「キュアット探偵事務所にお任せ!」
自信満々のあんなとみくる。
こういう時、こういう顔をしてくれる人が居るだけでも安心できる人は居るだろう。
「私にも、手伝わせて!」
「「え?」」
すると、名乗り出てきたのはしるくさん。
「しるくさんに、ご迷惑をかけるわけには……」
「迷惑じゃないよ。演劇部の仲間でしょ?」
「しるくさん……!」
感激した様子の演劇部員のみんな。
実際とてもかっこいい。
「みんなの想いが籠ったドレス、絶対に見つけたいの!」
「わかりました」
「一緒に探しましょう!」
「それじゃ、まずはいつも通りドレス付近にいた人たちから聞き込みしていくか」
「「「うん!」」」
まずは、最初にドレスがないことに気付いたであろう小藤さん。
もう涙は止まったみたいだ。よかった。
「ドレスがなくなったことに気付いたのはいつか?」
「「「うんうん」」」
真剣に聞くのはいいことだけど、三人も並んでると圧がすごいな。
俺は少し端へ避けておこう。
「ドレスをハンガーにかけた後、小道具を取りに外へ出たの。
戻るとドレスがなくなってて……」
「「「ふむふむ」」」
「ドレスから離れた時間はどれくらい?」
「五分くらい?」
なるほど、ドレスを盗むことが出来たのはその5分の間ってことか。
次は、部室の前の廊下にいた浅間さんと大森さん。
「私はずっと、ここで部長と発声練習をしてたよ?
その間通ったのは小藤さんだけ」
「部室に通じる道は……」
「この廊下だけだね」
「見渡しもいいし、2人に気付かれずに部室を出入りするのは無理そうだな」
「そうですね」
ということは、ドレスはまだ持ち出されていないのか?
あのボリュームのある衣装をバレずに……てのはさすがに考えにくい。
再度みんなで部室の中を覗き込む。
「部室にいたのは、カメラマン、ディレクター、しるくさんのマネージャーの3人だけだね」
「聞いてみよう」
「うん」
最初はカメラマンの人から。
「撮った映像のチェックをしてたけど?」
続いてディレクターの人。
「撮影の段取りの確認してたよ」
最後にマネージャーの人。
「仕事の電話をしていました」
……ふむ。特におかしなところはないか。
「三人とも仕事をしてて、ドレスがなくなったことに気付かなかったみたい」
「カメラマンは映像機器、ディレクターは台本、マネージャーは電話にそれぞれ集中してたわけだな」
まだこの情報だけじゃわからないな。
ドレスはまだ近くにあると思うんだが……
すると、浅間さんと大森さんがこちらへ走ってくる。
「本番開始まで、あと10分!」
まずいな、もうそんな時間か。
あと少し時間が欲しい。
「私に任せて!」
「任せてって、どうするんです?」
「劇が始まる時間を少し遅らせてもらって、その時間で私が新入生のみんなとお話しする。
だから、ドレスのことは探偵とその助手に任せたよ!」
こちらへウィンクをして体育館の方へ走っていくしるくさん。
本当に、今日は助けられっぱなしだな。
「しるくさんが時間稼ぎをしてくれているうちに、ドレスを見つけよう!」
「そうだな。それじゃ、ここは手分けしよう」
「「手分け?」」
せっかくだし、助手がいる利点を使わないとな。
「ああ。さっきの部室の状況的に、あんなボリュームのあるドレスが短時間でなくなったとすると考えられるのは2つだ。
1つは、みんなが探しても見つからないように部室のどこかに隠したか。
もう1つは、方法は分からないけどあの部室にいた3人のうちの誰かがまだ隠し持っているか」
「なるほど」「じゃあ手分けって言うのは……」
「今回も恐らくファントムの仕業だろうから、あんなとみくるは3人の方を追ってくれ。
俺はもう一度部室の中を探してみる。いいか?」
「「うん!!」」
「よし。それじゃ頼んだぞ、名探偵たち」
2人がディレクターたちが歩いていった方へ走り出す。
さて、それじゃ俺も部室の中を探してみるか。
あの人数で1度探したなら望み薄ではあるが、万が一ということもあるしな。
******
……やはり、見つからないか。
小道具が入っている箱をの中身を全部出したり、部屋の隅から隅まで探したはずだが、ドレスは見つからない。
すると、突如校内放送が流れる。
『お知らせします。ドレスが無事見つかりました』
今のは、理事長の声だ。
……ドレスが、見つかった?
引っ掛かりを覚える。
少なくとも、見つかったという言葉は正確じゃないはず。
ドレスが無くなった状況を考えると、少なくとも見つかる場所はこの部室以外にはありえない。
なら、あんなとみくるが取り返した?
いや、まだ手分けを初めてそこまで時間は経ってない。
今回も犯人は恐らくファントム。
なら犯人がわかったとしてもすぐには取り返せない。
ハンニンダーの抵抗があるはずだからだ。
つまり、今の放送は……
「犯人を炙り出すためか?」
その瞬間、周りの空間が覚えのある雰囲気へと塗り変わる。
「正解だったっぽいな……!」
最低限散らかしてしまった部室を片付けて、外へと向かう。
やはり、他の人はいない。この空間が展開されているということは、どこかで2人がハンニンダーと戦闘しているのだろう。
「……あっちか」
微かに聞こえた衝撃音を頼りに走り出す。
2人なら問題ないだろうが、それはそれとしてどこかで待ってるだけという訳にもいかない。
音的にちょうど校舎の反対側だからちょっと離れてるけど、普段以上に動く足のおかげで思っていたよりは早くたどり着いた。
最近はよく走るな。
「アンサーアタック!!」
しかし、やはり2人なら問題なかったようだ。
音がした場所へ辿り着いた時には、ちょうど回転していたドレス型のハンニンダーがアンサーに頭のてっぺんを殴られて動きを止められているところだった。
あれなら浄化技を当てることができるだろう。
……そういえば、前回学校にファントムが来た時は森亜るるかもいたが、今回はいないんだろうか。
なんとなく前回同様近くの校舎の屋上を見てみる。
「……誰?」
またもや人影が、と思い目を凝らすと、そこには何やら派手な格好と髪型をした女性。なにあれ、なんか両手にめっちゃ買い物袋持ってるんだけど。
すごいギャル……あ。
少し面食らった後、すぐに思い当たる。
ごめんしるくさん、決めつけちゃダメってのはよくわかるんだけど今回は許してくれ。
絶対あれがアゲセーヌだわ。
「「キュアっと解決!!」」
気付けば技を決め終わっていたアンサーとミスティック。
やられたハンニンダーを見て悔しそうに逃げていくアゲセーヌ。
にらめっこよりマシかもしれないがまた気を取られて見ていなかった……
ドレスを手にしている2人の所へ向かう。
「ドレス、無事取り返せたな」
「ヒロくん! うん、この通り!」
ドレスを広げて見せてくれるあんな。
「やっぱり、ファントムが隠し持ってました」
「そっか。でも、どうやって?」
手分けする時に隠し持ってるかもとは言ったが、その方法までは考えられなかったからな。
「怪盗団ファントムが変装してたのは番組のディレクターさんでした」
「あの人、凄くぶかぶかのズボンを履いてたでしょ?」
「……あぁ、たしかに言われてみればそうだな」
思い返してみれば、ディレクターはニッカポッカのようなサイズに余裕のあるズボンを履いていた。
ここでその話が出てくるってことは……
「アゲセーヌ……えっと、今回のファントムはそのズボンの下にドレスを来て隠してたんです」
「なるほどなぁ……そりゃあ思考の穴というかなんというか。2人ともよく気が付いたな」
俺だったら思考が固まって気付けたか怪しいな。男性がドレスを着るって思わないし、あのボリュームを服の下に着るって発想も出てこない。
そしてやっぱりあの子アゲセーヌなのね。
「私たちも、初めは隠すところなんてって思ってたんですけど」
「しるくさんの決めつけちゃダメって言葉のおかげで気付けたんだ!」
今日のMVPはあなたです、家入しるくさん。
……あぁ、そういうことか。
「それであの校内放送か」
「え?」
「理事長の声でドレスが見つかりましたーってやつ。
2人の仕業だろ?」
「すごい! どうしてわかったの?」
「今のドレスの隠し方を聞いてなんとなく。
たぶんあの校内放送をあの3人に聞かせて、ディレクターさんがズボンを確認したとか?」
「す、すごい……まんまその通りです」
少し違うけど似たような方法をとある作品で見たことがあるからわかっただけで別にすごかないけどな。
いわゆる『マヌケは見つかったようだな』を2人はしたわけだ。
「ま、それより早くドレスを届けてあげようか。
演劇部のみんなを安心させて、しるくさんにもお礼を言わないとな」
「「うん!!」」
******
『舞踏会、行けなかったね。王子様にも、会えなかった……』
『でも、私はあなたと会えたわ。毎日がキラキラしていた。
まるで、舞踏会みたいに!』
あの後。新入生歓迎会であることと、テレビの撮影があること。
あとはしるくさんがいるという理由もあってか、新入生以外は直接劇は見れなかった。
そこを自由にしてしまうと、いくらまことみらい学園の体育館といえども簡単にキャパオーバーしてしまうだろうからな。
が、その分テレビで劇自体も放送されたので、事務所のみんなでこうやって見ているというわけだ。
『私も、シンデレラと同じ気持ちです!
みんなと会えてよかったぁ……!』
テレビの向こうで演劇部員と泣きながら抱きしめ合うしるくさん。
……と。
「私もしるくさんと会えてよかったぁぅぅぅぅ……!」
「私も……!」
テレビの前でガン泣きしているみくる。ハンカチ一枚で受け止めるにはあまりにも無理がある涙の量である。
シンプルに感動している横のあんなとの差がすごい。
なんてことを考えていると、横からもズズッという鼻をすする音がする。
「ジェット先輩?」
「泣いてる?」
「泣いてるわけないだろ!!」
「ポチ~♪」
「うるさーい!!」
「別に泣いててもおかしなことないのに」
「だから泣いてない!」
俺も怒られてしまった。思いっきり目の端に涙浮かんでるのにそれは無理あるよジェット先輩。
泣いてるのがバレたくないのもなんだか男の子って感じがするな。
「しるくさん、また会いたいなぁ~!」
「いやムリだろ! あんな有名人と簡単に会えるわけ……!」
その瞬間、探偵事務所の入り口からある人影が入ってくる。
強く視界に映るのは、まだ記憶に新しいライトスカイブルーのきれいな長髪。
……そのサングラスと帽子、変装のつもりだとしたらあまりにも無意味だろうな。
「決めつけちゃ、ダメだよ!」
「しるくさん!?」
「え?」
「どうして!?」
「え!?」
「ポチ!」
びっくりしているあんなとみくるとジェット先輩。
と、急いで隠れるポチタン。偉い。あとでミルク用意してあげよう。
もちろん、俺も多少なりとも驚いている。どうしてここに?
「これを見て、ね?」
「ああ、なるほど」
しるくさんの手にあるのは、あんなとみくるの名刺。
「あの時の!」
「りえちゃんから、プリティ―ホリックのフレグランスがおススメって聞いたから来ちゃった!
見せてもらえるかな?」
すると、顔を真っ赤にしたジェット先輩が大慌てでたくさんの商品を取り出し始める。
「も、もちろんだ!!
他にもいろんなコスメがあるから、見てってくれ!!」
「おーおー、落ち着けジェット先輩。コスメ以外にもため込んだキャンディとか出てきてるから」
ジェット先輩でもきれいな人の前だとこうなったりするんだな。
一応222歳とは聞いたんだけど……ま、微笑ましいことだ。
「ヒロくんも、また会ったね! 助手だって聞いたから、もしかしたらいるかなーって思ったけど」
「ええ、数日ぶりですね、しるくさん。時間は大丈夫なんですか?」
「うん! あんまり長居はできないけど、ゆっくり商品を見るくらいの時間はあるよ!」
「それはよかった。可能な限りいてくれれば、みんな喜ぶのでぜひ」
「ふふっ、はーい! 分かったよ、ヒロお父さん!」
「……おーい」
確かに今のは自分でも少し思ったけどさ。
さすがにしるくさんにお父さん呼びされるのは違和感がすごい。
少し言い返したかったが、後ろでうずうずしている2人がかわいそうだからな。
今回は見逃すとしようか。
「「しるくさん! いらっしゃい!!」」
俺が横に避けた途端、しるくさんに抱き着くあんなとみくる。フレグランスなどのコスメを持って見せに行くジェット先輩。
笑顔があふれてて、見ているだけで幸せになれる時間だった。
読んでくださってありがとうございます。
驚異の一万字。誰ですかねこの調子なら次で第9話終わるかもとか言った人は。
終わらせましたけども。戦闘の描写はほとんどなかったのに……
次から大人しく3話をベースにした方がいいことを学びました。まだまだ試行錯誤の最中です。
試行錯誤と言えば、未だにこの作品に付けるタグが良くわかっていないのですよね。
今つけているものだとコメディタグとかは少し違和感ありますし、恋愛やハーレムといったタグは付けるべきなのか否か……もう少し話が進まないとでしょうかね。
もし何か意見があれば教えていただけると助かります。
なにはともあれこれで第9話はおしまいです。タイトルは書きながら思ったことを付けちゃいました。しるくさんがいるだけでなんかいろいろうまく行きそう。逆に貴様は何を持ちえないのだ家入しるく。
次は第10話ですね。多分くれあさんが出てくる……はず。
1話の進行具合にもよりますが。
どんな会話をしてくれるのやら。
感想や誤字報告もありがとうございます。いつも助かってます。
それではまた次のお話で。