「お待たせしました。ブルーベリータルトにミルフィーユ、チーズケーキとモンブラン。
それと、ホットティー4つです」
「わぁ~!」
「はなまるかわいい!」
それぞれが注文したお菓子を帆羽さんが持ってきてくれた。
どれもかわいくておいしそうだ。
「お菓子を食べて元気出してね!
あ、ヒロくんに言った新作もあとで持ってくるからね」
「はい、ありがとうございます」
結局、帆羽さんの俺の呼び方は閑鳴さんからヒロくんへと変わったらしい。
勘違いしてそうだから訂正しただけで、あんなとみくると同じように呼んでくれって意味ではなかったのだが。
どうやら帆羽さんは16歳で年上ではあるらしいから、好きに呼んでもらえばいいか。
「新作ってなんですか?」
「いつもよりお菓子の量が少なくて驚かれたから、モンブランともう一つ帆羽さんのおすすめを頼んだんだ。
そしたら、新作があるからぜひってさ。何かは俺もまだ知らん」
「へぇ~」
ま、あの人のお菓子ならなんだろうとおいしいだろう。
そこに関しては絶対の信頼がある。
「あ~む……んん~! すっごくおいひい~!」
「ミルフィーユも最高! 昔海外にいたときおばあちゃんと一緒によく食べてて、それで好きになったんだよね!」
「そうなんだ~!」
「萌絵さんはチーズケーキ、どうですか?」
「とっても美味しい……! それに、素敵なところね。
今度娘と来てみようかな。
プリホリにも一緒に行ったんです、探偵事務所を知ったのもその時に」
「そうだったんですね!」
みくるのお店で探偵事務所を知ってもらおうの方法はやはり少しずつ効果が出ているらしい。
やはり存在の認知は大切だな。
さて、俺もモンブランを食べるとするか。いただきます。
……あぁ、おいしい。口に入れた瞬間栗の香ばしさが広がって、クリームが舌に触れた瞬間上品な甘さが伝わってくる。やっぱりここのお菓子は最高だなぁ。
「ヒロさん、本当においしそうに食べますよね……」
「ね! 特に顔が笑ってるわけじゃないのに、なんだか全身から幸せなオーラが出てるみたい」
「本当にお菓子がお好きなんですね」
前に事務所でケーキを食べたときもそんなことを言われたな。
何か3人から見られてるけど、もうお菓子がおいしいのでなんでもよし。
「ふふ、なんだか久しぶり見れて嬉しい」
「あ、くれあさん!」
お皿の載ったトレイを持って戻って来た帆羽さん。見てたのは3人じゃなくて4人だった。俺は珍獣か何かか?
「これが私の作った新作。もしよかったら皆も食べて」
「マカロンだ」「かわいい~!」
「「あむ……ん~おいしい!」」
「……さすがだな」
みんなの前においてくれたお皿には、色とりどりのマカロン。
お店の商品だから当たり前かもだが、とてもきれいに焼き上がっている。
もちろん、味も食感も甘くてサクサクふわふわしていておいしい。
「俺のとはえらい違いだ」
「俺の? ヒロくんもマカロン作ったことあるの?」
「……あぁ、昔ちょっとな。いくつかお菓子を作ってみたけど、マカロンは特に難しくて。
不格好だし食感もいまいちでな。ちゃんとしたのを食べられて嬉しい」
「へぇーそうなんだ! なんだかちょっと意外かも?」
「自分でもそう思うよ。それに、すぐやめちゃったしな」
お菓子ならできるかもと思ったんだが、マカロンのように難しいものは失敗してしまったし、そのころにこのお店を知ったから作る必要もなくなった。
「おいしかったならよかったぁ。マカロンに限らず、メレンゲを使ったお菓子は難しいよね。
私も最初は苦労したなぁ」
「不格好で、食感もいまいち……」
「萌絵さん?」
ふと視線を移すと、そこには俺の言葉を聞いて何かを考えている萌絵さん。
「いえ、その……海外にいたときのことを思い出したんです。
母もよく、マカロンを買ってきてくれたんです。
でも、正直あまりおいしいとは思えなくて。形もなんだか歪でしたし」
「そう、ですか……」
「萌絵さん……?」
「……あの、文江さんのことについて教えてくれませんか?」
「え?」
「お母さんが実際にどんな人だったのか、萌絵さんはどう思っていたのかなって」
再び表情の曇る萌絵さんに対して、そう質問するあんな。
確かに、今までは画家として文江さんの絵画を調査していたからな。どんな人だったのかというのもきちんと知っておくべきだろう。
「母は、美とオシャレを愛した人でした。ファッションや食べ物、住む場所。
何もかも、すべてにこだわる人で」
「芸術家らしいですね」
「私もそういったものに触れて、その良さを知ることもできました。でも私は、そんなものよりも……
母は我が道を進み、好きなように生きた。一緒に調べていて、それが分かりました。
だから思うんです。母にとって最高の幸せとは、自分自身のことだろうって」
「自分自身……」「それが、最高の幸せ……?」
「違う」
「……え?」
寂しそうで、どこか諦めた表情をする萌絵さんに対して、否定の言葉が口を衝いて出る。
ダメだ。それは、それで終わるのは許せない。
親と子供の関係は、そんなに単純に終わらない。
「違うって……なんでわかるんですか。母に会ったこともないのに」
「……ごめんなさい。正確には、それはダメなことだって伝えたくて」
「ダメ?」
「……親の心子しらず、って言葉がありますよね」
「私が、そうだって言いたいんですか?」
「萌絵さんが、じゃない。この世の皆が皆そうなんですよ」
俺のなかで、こんなにも無駄な言葉はない。こんなにも思い上がった言葉はない。
だって、そんなの当たり前のことなんだから。
「親と子供っていうのは、世界で最も近い他人のことです。
どんなに近くても、他人なんです。だから、お互いが何を考えているかなんて全部わかるはずもない。言わなくてもすべてが伝わるなんてことは無いんです。たとえ、萌絵さんが文江さんにもっと自分のことを見てほしいと思っていたとしても、それが伝わらなかったように」
「なんでそれを……」
図星だったのか、目を見開く萌絵さん。
今までの反応を見て、薄々察してはいた。
萌絵さんは絵の謎が知りたかったんじゃなくて、絵を通して文江さんが何を考えていたのかを知りたかった。
だから、キュアット探偵事務所に依頼したはずだ。
「親と子供って、難しいですよね。
親は自分のことをどう思っているのか。自分は親のことをどう思いたいのか。
1番近くにいるはずなのに、伝わってこないし伝わらない。
まぁ、それがありがたいこともあるんですけど」
「……ヒロさん?」
いけない。脱線してしまったな。今そんなことはどうでもいいんだ。
ともかく、俺が許せなかったのはここだ。
「ダメだって言ったのは、伝わらなかったときに、こうだろうって決めつけてしまうことです。
文江さんの幸せは自分自身だったかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。
そこは、自分はもちろん、例え文江さんの子供であった萌絵さんにだってわからないことなんです」
頭の中にいる他人を、こうだろうで終わらせてしまうのはきっと、最悪の逃げだ。
楽で、ズルで、卑怯だ。
「知人の言葉を借りるなら、決めつけちゃダメ、ってことです。
それに、まだキュアット探偵事務所の調査は終わってませんから。な、2人とも」
「うん! もちろん!」
「おいしいお菓子も食べてますし、まだまだ時間はありますから!」
「皆さん……」
元気いっぱいの返事をするあんなとみくる。
しるくさんの言葉、すぐ使ってしまうな。それだけ大切なことだからだろうけど。
ありがとうしるくさん。
「説教臭いことを言ってしまってすみませんでした。要するに、あと少しキュアット探偵事務所に調査させてくれませんかってことです。どうですか?」
「……いえ、確かに言う通りだと思います。決めつけちゃダメですよね。
もし良ければ、引き続きお願いします」
良かった。これで子供が何言ってんだって怒らせて依頼を終わらせたら俺の助手人生も同時に終わりを迎えるところだった。さすがにもうちょっと頑張りたい。
少し、出しゃばりすぎたな。
「……あの、マカロン、少しで良いので召し上がってみてくれませんか?」
「? えぇ、少しだけなら……」
すると、傍でずっと考え込んでいた帆羽さんがそんなことを言う。
不思議な顔を浮かべながらも、目の前に置かれたマカロンを口に運ぶ萌絵さん。
途端、不思議そうにしていた顔が驚きに変わっていく。
「……! おいしい! どうして?」
「萌絵さんが食べていたマカロン、本当に買ったものだったんでしょうか?」
「え?」
「そうか、くれあさんとヒロくんのおかげでピンときた! きっとマカロンは、お母さんの手作りだったんだよ。だからヒロくんが失敗したみたいに、味や形がいまいちだったのかも!」
「そういえば、さっき俺の失敗したマカロンの話を聞いて思い出してましたね」
「で、でも、母が作っているところなんて一度も見たことないですし」
「この絵と同じですよ! 風景画ばかり描いていた文江さんの自画像だって、誰も見たことなんてなかった」
「うん、もしかしたら隠されている本当の姿があるのかも!」
みくるが見せる写真の絵を改めて眺める萌絵さん。
もし本当にマカロンが手作りなのだとしたら、少なくとも文江さんの幸せが自分自身だけだったとは思えない。
「萌絵さん、実際の絵を見せてもらえませんか?」
「写真だとわからないことが、謎を解く手がかりが見つかるかもしれません!」
「印刷されている絵と実際の絵って全然別物だからな。いい案だと思う」
「わかりました。お菓子を食べ終わったら、私の家に案内しますね」
「「はい!」」
やるべきことが見えてきたので、みんなで再びお菓子を食べ進める。
何か新しい手掛かりがあるといいな。
……マカロン超うめ―。
******
「どうぞ」
壁に縦に飾ってある絵を外して見せてくれる。
写真に写っていたものと同じだ。同じだが……
「んん~?」「写真と違う部分は特にないね」
「ないけど、萌絵さん? ちょっといいですか?」
「はい、なんですか?」
「萌絵さんって、絵の飾り方にこだわり方とかあるんですか?」
「? いえ、特にないですけど」
「え、じゃあなんでこの絵を縦に飾ってたんです?」
「え?」「え?」「「え?」」
俺の発言にみんなして?を浮かべてる。つられて?が浮かぶ。なぜ?
「だってこの絵、ソファーか何かに横になってる文江さんの自画像ですよね?」
「「「……え!?」」」
そう言うと、一斉に絵を見直すあんなとみくると萌絵さん。
今度は、横向きにして。
「本当だ、確かにそう見えるかも!」
「でも、文江さん靴を履いてますよ?」
「文江さん、海外に居たんだろ? 海外って家でも土足って聞くけど」
「た、確かに……!」
「え、もしかして俺絵の見方間違えてた? これって縦の絵なのか?」
「私たちは柱に寄りかかって立ってる文江さんの絵に見えてたけど……」
試しに絵を受け取って縦に持ってみる。
……確かにそう見えるわ。
「最初事務所で見たとき、俺だけ横に立ってたから完全に横向きの絵だと思って見てた」
「でも確かにヒロくんの言う通り、この絵の正しい向きって横なのかも!」
「靴を履いているのも海外だからで納得できます! 良く見たら、足の角度も立っているって感じじゃないかも?」
「そういえば、母はよくこの色のソファーで……あ!」
すると、何かを思い出した様子の萌絵さん。
「そうだ……母は。母はあの時……。忘れてた……!
母はこうやって、横になって私を眺めてた……!
一緒にマカロンを食べて、おいしくないねって笑い合って……!
あの頃を思い出しました! そっか、『最高の幸せ』ってあの瞬間のことだったのね……!
お母さん……!」
涙を流して部屋に飾ってある文江さんの写真を眺めている萌絵さんを見守る。
俺が勘違いというか見間違いをしていただけだったが、それがきっかけで謎が解けたなら、まぁ良かった。
やっぱり、決めつけずに調査を続けさせてもらって正解だった。
「さすがヒロさん……!」
「おい待て、今回ばかりはどう考えても違うから。ただの見間違いだから。
偶然最初見たときに横に立ってただけだから」
キラキラした顔でこちらを見るみくる。そんな尊敬の眼差しを向けられても困る。
視線が気まずくて目を逸らすと、そこには不思議な光が浮かんでいた。
「ポチ? ポ、ポチ~!」
「ポチタン?」
その光は、ふわふわと『最高の幸せ』に向かって飛んでいく。
ポチタンが反応したってことは……
「なにこれ?」
「もしかして、マコトジュエルか?」
「え!?」
「ポチ~♪」
やがて、その光は絵画と一つになるように溶け込んでいった。
「萌絵さんの想いとお母さんの想いが重なって、マコトジュエルが宿ったんだ!」
「マコトジュエルが宿る瞬間、初めて見たな」
「私たちも初めて見ました……!」
あんな風にどこかから湧いてきて宿るモノだったのか。
結局マコトジュエルって何なんだろうか?
そんなことを考えていると、不意にピンポーンというインターホンのチャイム音が鳴り響く。
反射で返事をしそうになったが、ここは萌絵さんの家だった。
「私、出てきますね」
萌絵さんが玄関の方へと向かう。
まぁ、謎は解けたことだし俺らもそろそろ……
「はーい……って、ちょっと!?」
「「え? あぁー!!」」
「……マジか」
突如、ガタンという誰かが転んだ音がした。
驚いて玄関の方を見ると、そこには驚いて尻もちをついたであろう萌絵さんと……
「ファントム宅配便でーす! マコトジュエルを回収しに来ましたー」
「ゴウエモン!」
「あなた、勝手に入るなんて……!」
「すぐ出ていくさ、その絵を奪ったらなぁ!」
そう言って、絵を持っているあんなとみくるにとびかかるゴウエモン。
「させない!」
「チッ……! 待ちやがれ!」
咄嗟に反応して躱した2人はゴウエモンの横をすり抜け、絵を持って外へ。
追いかけてゴウエモンも外へ出ていく。
俺もすぐに追いかけたいところだが、その前に。
「萌絵さん、大丈夫ですか? 怪我とかはないですか?」
「えぇ、平気です。ちょっと転んだだけで……あの、今のは?」
「怪盗団ファントムってやつらで、あの『最高の幸せ』を狙ってるんです」
「あの絵を……!?」
「大丈夫です。名探偵たちがちゃんと守ってくれるはずですから、萌絵さんはここで待っていてください!」
「は、はい! 分かりました」
転んでいた萌絵さんに手を貸して立たせる。大丈夫そうならよかった。
俺も2人を追いかけよう。
というか。ゴウエモン、また会ったけど……!
あいつ、本当に怪盗か?
今回の方法ってもう盗むってよりかはただの強奪じゃねえか?
変装よりは分かりやすくて助かるけどさ……!
読んでくださってありがとうございます。
本編10話はまだ少し続きます。次で終わるといいなぁという希望。
私は早く11話が書きたいのです。もちろんここら辺も書いていて楽しくはあるのですが、上手く文章にできている自信はないので、それなら展開くらいは面白くなりそうな11話を書きたい。『小説は面白い場面を書くためのその他の面白くない場面をどれだけ上手く書けるか』という先人の言葉を強く実感しております。
私はそこを投稿頻度というパワーで誤魔化すマン。
今は時間がある期間なので、今のうちに書けるだけ書いておきたいなと思います。
それと誤字報告をしてくださる方、ありがとうございます。毎回投稿する度に報告が来ていて恥ずかしい限りです。本当に申し訳ない。勢いで書くとこうなるので皆さんはぜひ気を付けてくださいね。
それではまた次のお話で。