「あいつらは……あそこか」
萌絵さんの家であるマンションの柵から下を覗き込みあんなとみくる、そしてそれを追いかけるゴウエモンを見つける。絵面がだいぶまずいぞゴウエモン。
全力で降り、なりふり構わず塀やらなにやらを乗り越えて2人が見えた噴水のある広場へ最短距離で向かう。上から見たときはまだ距離があったが、ゴウエモンが追い付くのは時間の問題だろう。
「っ、2人とも!」
「ヒロくん!」「ヒロさん!」
「おっと、助手もお出ましだな?」
茂みを突っ切って広場に出ると、そこにはゴウエモンと対峙する2人。やはり追いつかれてしまったか。『最高の幸せ』はまだみくるが持っているが……
「だが、ここまでだな! 逃げ切れないのは分かったろ?」
「だったら、オープン! プリキットミラールーペ!」
うん? なぜここでミラールーペを?
首を傾げていると、あんながミラールーぺを絵画にかざす。
「はなまるコピー! はい、ヒロくんも!」
「え、あ、おう」
受け取ったのは、2枚の『最高の幸せ』。
訳も分からず2人を見ると、それぞれ2枚ずつ、計6枚の絵画が。
「ミラールーペのコピー機能! どんなものでもそっくりそのまま増やせちゃう!」
「なぁっ!? なんだと!?」
思わずぎょっとするゴウエモン。ちなみに俺も驚いてる。
え、何それ知らん、こわ……
ジェット先輩ちょっとやりすぎよこれ。
まぁでも、これなら見ただけでは本物がどれかわからないだろう。持っていると受け取った2つはコピーだってなんとなくわかるけど、これを持って逃げればいいわけだ。
「これならどうだ!」
あんなの声で3人それぞれ別方向に逃げ始める。その瞬間、見覚えのある人影が視界の端に映る。
森亜るるか……!? あの子も来てたのか。追いかけてくる様子はないけど……!
ゴウエモンが居るとあの子も居ることが多いのか? 仲いいのかあの2人、意外でちょっとおもろいけど。あと、アイスが好物なのはもう確定でいいな! いつ見ても手にアイス持ってるし。
横目に見ながら走っていると、慌てていたゴウエモンが森亜るるかの言葉を聞いて落ち着きを取り戻す。そして、広場の中央にある噴水に以前見た桜吹雪の攻撃を打ち込んだ。すると大きく上がった水飛沫が、水弾として意志を持ってるかの如くこちらへ飛んでくる。
嫌な入れ知恵してくれるな……!
「そんなことできんのか……! 芸達者、だな!」
「お? やるなぁプリキュアの助手! だが……」
俺は絵を持ったままでもぎりぎり避けられるが、変身前のあんなとみくるではそうはいかない。
「きゃあ!」「みくる! ……うわぁ、っ!」
「2人とも!」
水弾に弾き飛ばされる2人。ただの水なので大きなダメージはないようだが、あんなが左手の絵画を庇ったのを見逃さなかったゴウエモンが『最高の幸せ』を持っていく。
「これが本物か、フン!」
「……ぁ、しまった!」
「このまま逃がすかよ……!」
持っていたコピーを手放し、ゴウエモンを追いかける。せっかく萌絵さんが絵の本当の姿に気付いたのに、それを取られてたまるか。
「ちょろいもんだ!」
「まだ終わってないぞ」
「おっと、助手の方か。お前さん、さっきも思ったがなかなかいい動きするじゃねえの?」
「あいにく健康優良児なもんでね、母親と父親には感謝だな。そっちこそ、一本歯下駄でよくそこまで動けるな」
そもそも先ほどの芸当の時点で当たり前だが、ファントムのやつらも普通の人間じゃないらしい。
俺ではまとも相手できないので、テキトーな軽口で時間を稼ぐ。
その時間で、あんなとみくるも追いついてくれた。
「慣れれば案外気にならないもんだぜ? っと、プリキュアたちも来ちまったか」
「その絵を返して!」
「ふっ、そいつはできねえ相談だな」
来るか。ここからは、名探偵たちに任せよう。
「嘘よ、覆え! 来やがれ、ハンニンダー!」
「ハンニンダー!」
ハンニンダーが出現したのを見て、あんなとみくるがジュエルキュアウォッチを取り出す。
「オープン! ジュエルキュアウォッチ!!
2人が変身している間に、距離を取りながらハンニンダーを観察する。
今回はキャンバス型のハンニンダーか。
「どんな謎でもはなまる解決!! 名探偵キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ!! 名探偵キュアミスティック!」
「「名探偵プリキュア!!」」
「私の答え、見せてあげます!」
プリキュアになった2人とハンニンダーが対峙する。
早速ハンニンダーがイーゼルの頂点部分からビームを発射する。
反応してなんとか身をかわす2人だが……
「ハンニンダー!」
「わぁ! ……え!?」
「ハンニンダー!」
「うわぁ! ……絵になった!?」
「……今回はそういう攻撃かよ」
躱したことでそこらにあったベンチや木にビームが当たると、それらが絵としてキャンバスに閉じ込められる。この前のゴーグルの時のようなロックオン機能はないが、今度は一度でも当たったら終わりの攻撃ということだろう。
「ハンニン、ダー!!」
「「わ! わぁっ!!」」
遮蔽物を活かしたり回避したりで、次々と放たれるビームを凌ぐアンサーとミスティック。そのたびに周りの木やゴミ箱、ベンチや車などが絵画へと変わっていく。
……遮蔽物、遮蔽物か。それなら……
そこら辺の地面や植え込みから、手ごろな大きさのものを拾う。
「こうなったら……ミスティック!」「うん!!」
顔を見合わせた2人が上空へ飛びあがり、ハンニンダーに向かって急降下を開始する。
良い判断だと思う。このまま防戦一方だと、どんどん周りの遮蔽物が絵になっていき、苦しくなるだろうからな。一気に接近して早めに終わらせるべきと考えたんだろう。
リスクはあるが……
「ハンニンダー!」
ハンニンダーが上空に向けてがむしゃらにビームを乱射し、弾幕を張る。あのままだと2人がビームを避けきれるかわからない。やるならここだな。
ゴウエモンには前回に引き続き力技で申し訳ないが、思いついたんだから仕方ない。
「おら、よっ!!」
さっき拾った複数の石ころを2人とハンニンダーの間に目掛けて全力で投げる。
すると、いくつかの投げた石ころが小さな絵になることでビームと相殺され、弾幕の密度が下がる。
「なぁっ!?」
「これならいける……!」「ヒロさん、ありがとうございます!」
「あとは任せた!」「「うん!」」
よし、予想通り成功してよかった。
2人がさっきビームを凌いでいた時、絵になってしまうとはいえ遮蔽が有効なのは分かったからな。おそらく対象を絵に変えることが目的のビームだから、攻撃力や貫通力はそこまで高くないのだろう。だから、その辺の石ころでも相殺できるんじゃないかと思った。
残ったビームをうまく躱して急降下を続けるアンサーとミスティック。
「萌絵さんのお母さんは、あの絵に最高の瞬間を残したかった!!」
「2人で過ごした時間が何よりの幸せだと伝えたくて、自画像を描いた!!」
「大切な絵なんだ!」「絶対に渡さない!」
そのまま飛び蹴りをハンニンダーに喰らわせる。
よろけはしたが、まだ決定打じゃないか……!
「だからこそ奪いがいがあるってもんよ! ハンニンダー!」
「ハンニン、ダー!!」
ゴウエモンの言葉で再び立ち直り、より出力を上げた特大のビームを放つ。渾身の一撃ということだろう。だが、それなら。
「ミスティックリフレクション!!」
上手い、ここぞというタイミングでミスティックが防御した。その間にアンサーが、ビームを放っていて隙だらけのハンニンダーへと接近する。
「私たちが、守るんだ!!」「はぁぁぁー!!」
「ハンニン、ダー……」
がら空きの本体にアンサーの拳がヒットし、大きく吹き飛ぶ。あれなら最後の浄化技を当てることができるだろう。名探偵たちの勝利だ。
そういえば、今回も最後まで森亜るるかは加勢してこなかったな。今回もどこかで……って、やっぱり居たし。
木の上から2人のことを見ていたようだ。もちろんアイスを食べながら。
……いや待て、さっき噴水のところで食べてたアイスと味違くね? え、もしかして違うアイス買ってきたの? 今の戦闘の間に? うそぉ。
困惑と戦慄の最中で視界が固まっていると、いつぞやの時のようにまた彼女と目が合う。
……俺、この前もアイスに驚いてたせいで目が合ったんじゃないっけ。
あ、今度はそっちから手振ってくれるのね。じゃあ、俺も。
……だから、何なんだこれ。
頭に?を浮かべているうちに、ここから離れていく森亜るるか。
「「キュアっと解決!」」「ポチポチ♪ キュアキュア♪」
「ほう? やるじゃねえか!」
『最高の幸せ』と周りの絵になったものが元に戻っていき、ゴウエモンも撤収していった。
とりあえず、一件落着ではあるか。
あの子のこと、マジでわからんなぁ。
アイスが異常に好きってことしかわからん。
今度見かけたらアイス買ってあげようかな。
******
「ありがとうございます……!」
萌絵さんが、『最高の幸せ』を抱きしめて喜ぶ。部屋の中で待っているようにと言ったのだが、じっとしていられずマンションの下にまで降りてきていたみたいだ。
「あ! お母さーん!!」
声の方を見れば、そこには萌絵さんに面影のある小さな女の子が手を振っている。
「あの子が娘さんですか?」
「ええ。私の、もう一つの宝物です」
「……そうですか」
我が子を見つめる萌絵さんの顔を見ると、そこには絵の中の文江さんと同じような表情が。
……なるほど、こりゃあ文江さんが大した画家だったわけだ。良く描けていたのが分かる。
「やっぱり、親子ってのは似るんですかね」
「え?」
「いえ、なんでも。さて、これで今度こそ依頼は完了だよな、2人とも」
「うん!」「萌絵さん、キュアット探偵事務所を頼ってくださってありがとうございました!」
「いえいえ、そんな!ありがとうはこちらのセリフですよ。改めて、謎を解いてくれて、絵を守ってくれて、ありがとうございました!」
そうして萌絵さんは、娘さんと手をつないでマンションの中に入っていった。
そんな親子の後ろ姿を、ぼーっと眺めているあんな。
「あんな。お母さんの得意料理って、なに?」
「え? ハンバーグ、だけど……」
「きっと、すぐに食べられるよ」「みくる……!」
「大丈夫、絶対にあんなを元の時代に戻してみせるから!」
「ポチ~♪」「……うん!!」
あんなに抱き着くポチタンと、笑い合う2人。眩しいなぁ。
……ハンバーグか。俺も作ってあげられたら良かったんだけどな。
ま、食べたいのはお母さんが作ったハンバーグだろうから、悔やんだって無駄か。
あんなも早くお母さんに会えるといいな。
******
依頼を終えて、みんなでプリティホリックのドアを開けたその瞬間。
「いらっしゃいませー!」
「「ん?」」「ポチ?」「お」
俺たちを迎えたのは、満面の笑みを浮かべたジェット先輩の元気な挨拶。
「な、ちが、これは……!」
「ジェット先輩、それだよそれ!」「もう一回やって見せて!」
「こ、断る!」
「そんなこと言わずに~!」「おねが~い!」「ポチポチ!」
「あーあー2人とも、そういう言い方すると……」
「もう二度とやるもんかぁ~!!」
ジェット先輩の大声が店中に響き渡る。ほら、言わんこっちゃない。
「どうどう、落ち着けジェット先輩」
「落ち着けるか! なんでこのタイミングで入ってくるのがお前らなんだ……!」
「さっきのあいさつ自体はめっちゃよかったから、お客さんには今度からさっきのでやってくれ。
ほらこれ、チュチュのお菓子買ってきたから」
「何!? ヒロ……! 僕の味方はお前だけだ!!」
「私たち、そんなひどいことしたかな……?」「うーん?」「ポチ?」
お菓子の入った箱を見てすぐに怒りが収まり、抱き着いてくるジェット先輩と不思議そうな顔を浮かべている2人とポチタン。
悪気はないのは分かるが、他人の見られたくない瞬間を見たときはたとえそれが良いことでもそっとしておくのが得策だぞ、あんな、みくる。
読んでくださってありがとうございます。
これにて本編第10話はおしまいですね。今回は内容も文章量も控えめだったかと思います。
こう言う話があってもいいでしょうということで。
今回も力技で2人を助ける閑鳴くんとそれで特に怒らないゴウエモンさんでした。さすがです。
ジェット先輩にお菓子買っていったらめっちゃ喜んでくれそうですよね。
さて、次は第11話です。いよいよですとも。
次の話ではどこまで進むか分かりませんが、私も書くのが楽しみです。うまく書けるといいなぁ。
内容的にも賛否が分かれそうなので、読んでくださる方に合うようだったらいいなと思います。
とか言って、上手く書けずに筆が止まる可能性もあるのであんまり変なこと言わない方がいいですね。ぜひ気軽に気長にお待ちくださいな。
それではまた次のお話で。