しょうもない思考を止めて再度意識を映る視界に向けると、二人がしゅばばばば、と周りのみんなに名刺らしきものを渡しているところだった。
「何を隠そう……」
「私たち実は……」
「「探偵やってるの!!」」
……へぇー、プリキュアの名前だけじゃなくてちゃんと探偵としても活動してるんだな。
てか、前に小林さんが名探偵になりたいって言ってたのこういうことか。
マジで何で気付かなかったんだ俺。
「探偵!?」
「すごいじゃんみくる、なんで言ってくれなかったのー!?」
「どんな事件もはなまる解決!」
「キュアット探偵事務所に何でもお任せ!」
凄いなキミら、息ぴったりやないか。
「そしてそして、さらになんと私たちは!
名探偵プリキュ「ワァ──ー!!!」」
急に大声を出す小林さん。
ちなみに俺も大声を出すところだった。
びっっっくりした、普通に言うのかと思ったわ!?
てか小林さんが止めてなかったらそのまま言ってたろ!?
なんならほぼ止まってないし!
「プリキュアだってことは秘密だよ……!」
「そ、そうだった……!」
いや俺の位置だと丸聞こえなんだが???
寝たふりでもしといたほうがいいですかね??
すると、ここに居るみんなの耳にあまり馴染みのない音が聞こえてくる。
「ポチ! ポチ!」
「ん?」
「なんの音?」
なんか今Theプリキュアのマスコット枠みたいな声が……
いやな予感がしたため、小林さんと明智さんの顔を見る。
「あわわわわ……!」
「えっと、これは……!」
あからさまに慌ててるぅー。
ほんで思いっきり明智さんのカバン動いてるぅー。
プリキュアの横にいる妖精みたいなの、連れてきてたのか。
……まぁ、このくらいのお節介ならいいだろう。
困ってそうだしな。
「すまん、俺が変な音の着メロにしてたの忘れてた」
「「……え?」」
人だかりにそう声をかけると、二人のきょとんとした顔と周りのみんなの納得したような顔がこちらを向く。
「なんだぁ、ヒロお父さんの携帯か」
「お父さんってば、ちゃんとマナーモードにしとかないと授業中に鳴っちゃうと大変だよ?」
「悪い悪い。あとそこ、お父さん言うな」
お父さん。これがクラスの人からの俺の呼ばれ方である。
理由はよくわかっていないが、立ち振る舞いがおじさんなのかもしれない。
そんなに老けて見えるのかと凹みかけたこともあったが、実際に精神は中学生より全然老けているわけだから致し方なし。単純に合計するなら30を超えるわけだしな。
鋭い子もいるもんだ。
クラスの子たちも馬鹿にしようという意味で呼んでいるわけじゃないのは分かるから、俺も本気で嫌だとは感じていない。
ただ、初対面である明智さんがいる前でいきなりお父さん呼びはやめよう、多分わけわからんと思うから。
「ほら、次は教室移動なんだからそろそろ動かないと遅れるぞ」
「あ、そうだった!」
「さすがお父さん、ありがとな!」
「前半は無視かい」
「じゃあ、2人ともまた後で話そうね!」
そのタイミングで予鈴が鳴り、集まっていた人たちが離れていく。
「「た、助かった……!」」
ホッとしてる2人の横で、明智さんのカバンからぬいぐるみ? が顔を出す。
やっぱり、前世で見かけたマスコットだ。
確か名前は……ポチタンだったか?
さっきポチって言ってたし。
「やっぱり……」
「しーっ、だよ」
「ポチ〜♪」
カバンのポチタンに向かって話しかける2人。
やっぱりこの席だと丸聞こえなんだよな。
逆に俺でよかったのかもしれん。
自分も次の授業の準備をしながら思わず苦笑いを浮かべる。
これから賑やかになりそうだ。
必要な教科書やノートなどを持って席を立つ。
「さて、次の授業は理科室か」
「あっ」
皆に遅れるぞと注意しておいて自分が遅れては笑いものだ。
少し早めに向かうとしよう。
この校舎はだいぶ広いので、教室移動だけでも少し時間がかかる。
その間にちょっとでも少し考えを整理……
「ねえねえ!」
しようとすると、教室のドアに指をかけたタイミングで後ろから声が聞こえた。
反射的に声の方を向くと、声の主である明智さんと目が合う。
「さっきはありがとう! はなまる助かっちゃった!」
唐突のお礼と謎のはなまるに一瞬思考が固まる。
すぐにお礼はさっきのこと、はなまるは口癖のようなものだと気付き今度は全力で思考を回す。
今、ここで「どういたしまして」とお礼を受け取ってしまうと、さっきの行動を俺が意図的に助けようとしたものだと認めることになる。
そうなると、当然話が進めばどうしてあの場で俺の着メロだという嘘をついたかが疑問になる。
まだ俺自身も考えを整理できてないうちにうまく説明できる気がしないし、変に彼女たちから怪しまれるのは避けたい。
よって今ここでとるべき選択肢は……
「えっと、俺のことか? ありがとうって何がだ?」
とぼける。
少し雑な選択だが、彼女たちにはこれが最善だろう。
実際、いつも何かあればお礼を忘れない小林さんも今は後ろでこちらを見ながら迷っている。
なぜか。
「あれ? さっき助けてくれた……」
「さっき? 俺、なんかしたっけ?」
「それは……あ、えっと、うーんと……」
お、明智さんも気づいた。
そう。俺がこうやってとぼけると、彼女たちは話を進められない。
なぜなら、ポチタンのことを秘密にしたいから。
さっきのポチタンの声を自分の着メロだと思っている俺に対して話を進めるなら、どうして助かったかを説明することになる。
ポチタンの存在を伏せながらポチタンがバレずに済んだお礼を言うのは無理だろうからな。
それに先に気付いた小林さんはお礼を言えずにこちらを見ていたのだろう。
目の前の明智さんもどうしたらいいかわからなくなってあわあわしている。かわいい。
先に考えるタイプが小林さんで、直感で動くのが明智さんなんだな。
探偵のコンビとしてこれほどちょうどいい組み合わせはない。奇跡の二人って感じだ。
うん。考えはまだ整理できていないけど、彼女たちのことは応援したいと思う。
あんま力にはなれないだろうけど。
「まぁ、何か助かったことがあったなら良かったな。
他の子たちにも言ったけど、次の授業遅れないようするんだぞー」
「あの、閑鳴さん!」
明智さんが慌てているうちに話を打ち切ろうと思ったら、いつの間にか明智さんの隣に立っていた小林さんが話しかけてくる。
さて、次は何だろうか。
追撃を少しだけ警戒し、頭を回す準備をしたがどうやら違うようだ。
「ん、どうした?」
「もし良かったら一緒に次の教室に行きませんか? あんなのこと、もっとちゃんと紹介したいし、閑鳴さんのこともあんなに紹介したいので!」
「それ、はなまるいいかも!」
「でしょ! ね、どうですか?」
2人から期待の籠った眩しい顔を向けられて思わず怯みそうになる。
提案自体にはなんの問題もない。
むしろこうやって仲良くなろうと話しかけてくれるのは嬉しい限りだ。
だが、今の状態で彼女たちと話すと俺の方が何かボロを出してしまいそうで怖い。
せめて自分の中で彼女たち、そしてプリキュアに対してどう関わっていくかを決めてから話したい。
「俺もその提案にははなまる賛成したいところなんだが、今回はごめん。
今はちょっと……考え事しててな。
また次の機会でもいいか?」
「そ、そうですか……」
丁寧に断ったつもりだが、あからさまにしょんぼりしてしまう小林さん。
心なしか頭のアホ毛もへにゃってなってる気がする。
うぐ、さすがに心が痛い……だが許してくれ小林さん。
俺は今14年来の謎が解け、そして14年前の記憶をどうにかして思い出さなければいけないんだ。
すると、次は俺の言葉を聞いた明智さんが話を続ける。
「考え事? 何かあったの?」
「ああいや、何かあったって程の事……ではあるけど」
「あるんだ!?」
何なら俺にとってはとんでもない大事件ではあるけど。
ただ、深刻ではない。
別に俺が今考えを整理できなかったところで大した問題が起きるわけでもないだろうし。
単に今のごちゃごちゃした頭を少しでもすっきりさせたいだけなのだ。
深刻さで言えば小林さんをしょんぼりさせたことによるダメージの方が深刻。
「もし何か困ってるなら、聞かせてほしいな!
キュアット探偵事務所の探偵として力になるから!
ね、みくる!」
「ええ、もちろん!
ぜひ私たちに相談してください!
閑鳴さんにはお世話になりましたし!」
と思ったら、明智さんの言葉を聞いてすでに切り替えていつもの元気な顔に戻っていた。良かったー。
まったく小林さんをお世話した記憶は無いけど。
ふむ、内容が内容だから相談についても断ってしまうことになる。
そもそも困るってほどのことでもないからな。
だが、困ってるかもしれない人を見たらすぐに手を差し伸べようとするのはとても凄いことだ。
探偵としてと言っているが、きっと二人とも探偵になるずっと前から困ってる人を見たら助けてきたんだろう。
さすがはプリキュアになれる女の子、ってわけだ。
せっかくの誘いを断ってしまったことの申し訳なさと、彼女たちがあまりにも良い子であることに感心して、つい転生してから着いた悪い癖が顔を出す。
「ありがとな。今回のは時間が解決してくれるから大丈夫だ。
次に困ったことがあったら、その時は名探偵たちに頼るとするよ」
「「へ?」」
そう言いながら、両方の手を彼女たちの頭の上にそれぞれのせて、手を動かす。
髪型を変えてしまわないように、優しくゆっくり。
「……ほあ~♪」
「……はや~♪」
「…………はっ!」
偉いなー、すごいなーなんて思いながら数秒撫でたあたりで、二人の口から出る謎の声によってようやく自分が何をしたのかを理解する。
……やってしまった。
違うんです、決して変な意図があったわけではないんです。
ただ、転生してからというもの、子供の純粋なかわいい行動や褒めてあげたくなるような行動を見ると頭を撫でてしまうことが多かったのだ。
同じ目線の高さで見る子供って、思っている以上のことを考えていて、思っている以上のやさしさを持っていたから。
それを大人が見ていない時に、誰も褒めてあげないのがなんだかいやだったから。
特にこの世界は純粋で良い子たちが多かったから、幼稚園や小学校でこの癖が助長されてしまった。
中学生に上がってからはほぼ収まりかけてたのに。
それこそ、小林さんが転校してきた時に1回やってしまったくらいなのに。
ゆっくりと髪から手を放し、急いで手を引っ込める。
「あ……」
「じゃ、そういうことだから!
今日から明智さんも同じクラスだし、これからいくらでも話す機会はあるだろうし。
その時にまた改めて話そうなー! ほんと、すまんかった!」
「あの、閑鳴さーん!? ……行っちゃった」
少し強引だが、一方的に話を終わらせてその場を去る。
あの場にこれ以上居座るのはさすがに気まずい。
謝罪が雑になったのは許してほしい。
こんなちょっとの会話でボロが出るとは思っていなかった。
いや、考えてたのはこういうボロじゃないけど。
やっぱり、今は時間が必要だな。
******
「もー、いやだなんて言ってないのに……」
閑鳴さんが出ていった開きっぱなしのドアを見ながら呟く。
この前撫でてもらった時も閑鳴さんはああやって慌てて謝って、どっかに行っちゃったんだよね。
撫でるのも上手だし、もしかして無意識でやってるのかな?
3回目はこっちからお願いしちゃおうかなぁ……
「って、私たちもそろそろ行かないと本当に遅れちゃう。
ほら、あんなも……あんな?」
「……〜♪」
あんなの反応がないと思ったら、なんか撫でられたところを抑えながらすっごくにこにこしてぽやぽやしてる……!
「あんなってば、おーい!」
「……あれ? みくる?」
「もう、どうしたの?
体調が悪いって訳じゃなさそうだけど……」
「うん、全然平気だよ!
むしろ、いつもよりはなまる元気かも!
ほらみくる、早く行こー!」
「ちょっとあんな!?
理科室までの道わかるのー!?」
「あ、そうだった……!」
えへへ……と言って戻ってくるあんな。
まったく……。
でも、何となくこうなってる理由はわかる気がする。
「お父さんみたいだった?」
「え?」
「今のなでなでがお父さんみたいだった?」
「すごいみくる、なんでわかったの?」
「それはもちろん、私の推理で……!
って言いたいけど、本当は私も同じだからなの」
「みくるも?」
「うん! 初めて閑鳴さんに撫でられた時、暖かくて優しくて、お父さんみたいだなって思ったの!」
「わぁ……! 本当だ、私と一緒だね!
私も、なんだか胸がぽかぽかして、がんばったねって言われてるみたいで……
こっちに来てそんなに時間は経ってないはずなのに、なんだか懐かしくなっちゃった」
「……そっか」
この前、あんなは私がいるから平気だよって言ってくれたけど、それでも寂しいのは変わらないもんね。
「じゃあ、今度二人でもう一回お願いしますって言いに行っちゃう?」
「私、まだちゃんと話せてないのに大丈夫かな……?」
「確かに。先に二人が仲良くなってからじゃないとだね!」
「うん! 今度はちゃんと話せるといいなぁ~」
そう言えば、結局閑鳴さんの考え事って何だったんだろう?
時間が解決してくれるって言ってたし、大丈夫だといいな。
教科書やノートを持って、ポチタンとあんなと一緒に教室を出る。
「それじゃあ、今度こそ次の教室に行こっか!」
「うん!」
「ポチ!」
「ポチタンも一緒だよ~」
「でも、授業中も静かにね?」
「ポチ~♪」
読んでくださってありがとうございます。
2日連続で投稿されたのは、もともと1話目とこの話が本来一つだったからです。
さすがに1話は長すぎると思って分割にしたんですが、一話目くらい長くてもよかったなと今さらながらに後悔。
本来の投稿速度はおそらく早くても一週間に1話とかです。
許してください。
あと内容についても許してください、この指が勝手にやったんです。
読み辛かったり直してほしい場所があれば遠慮なく教えてください。
また、読むうえで知っておきたいことがある場合などでも聞いてもらえれば、応えられる内容なら答えます。
あわよくば感想もぜひ。とても喜びます。
まだ雀の涙程度のストックがあるので、明日も投稿したいと思います。
もし良ければ。