いつだか長くなるのはゴウエモン回だけだと言いましたね。
あれは嘘じゃ。
俺が名探偵プリキュアである小林さんと明智さんの助手となった次の日。
朝ご飯であるカロリーメイトをかじりながら、昨日のことを思い返す。
俺の家と事務所がご近所さんであることが判明したあの後、今日はいろいろありすぎたということでひとまず解散となったため、俺はまだ探偵事務所に足を踏み入れていない。
助手として頑張るなら事務所が近いのはありがたいことなんだが、今まで全然気が付かなかった。
小林さん曰く、事務所自体は前からここにあったらしいが……
学校にはいつも違う道を通るし、俺はあまり外に出る方ではない。
出たとしても図書館かチュチュというパティスリーぐらいなもので、事務所が見える道を通ることがほとんどなかったみたいだ。
……そういえば、最近チュチュに行ってないな。
まぁ最近と言っても、1週間前には行ったはずだけど。
あそこのお菓子はどれもめっちゃ美味しいからなぁ。
俺は甘党だから足繫く通っているのだ。
今日は休みだし、チュチュに行くのもいいかもしれな……い?
そんなことを考えながら、食べ終わったカロリーメイトの袋をゴミ箱に捨てた瞬間、不意にピンポーンという音が家に響く。
珍しいこともあるもんだ。
家のインターホンが鳴ることなんてめったにないんだが。
両親……だったら鍵を使って入ってくるだろうし、連絡も特に来てない。
この時代はインターネット通販とかもほぼないし。
怪しい勧誘とかだろうか。
「はーい、どちら様ですか、って」
「ポチー!!」
「うわ、びっくりした。ポチタン? なんでここに……てか何その恰好、かわいいな」
「ポチポチ~♪」
ドアを開けた瞬間に飛び込んでくるのは、どこか見え覚えのあるひらひらの衣装を身にまとった天使、じゃなくてポチタン。
くるくる目の前で回っていたポチタンが俺の頭の上に乗ると、次に視界に映るのは当然……
「わ、ほんとに閑鳴さんの家だ!」
「おはようございます、閑鳴さん!」
こちらは逆に見慣れない、私服姿の小林さんと明智さん。
どうやら怪しい勧誘ではなく、ご近所さんの訪問だったようだ。
「おはよう、小林さんに明智さん。どうかしたのか?」
「おはよ! ねえねえ閑鳴さん、今日ってこれから時間あるかな?」
「? 今日は特に予定ないけど……」
チュチュにはいつでも行けるしな。
そう言うと、ぱぁ……! と顔を輝かせる2人。
「やった……! それじゃあ、閑鳴さん!」
「私たちと一緒にお店やろ!!」
「……はい?」
前言撤回させていただきます。
正しくは、ご近所さんからの怪しい勧誘みたいです。
******
「と、言うわけで……!」
場所はキュアット探偵事務所内。
目の前にいるのは小林さんに明智さん、そしてゴーグルと白衣を身に着けた呆れ顔の金髪の少年。
そして頭の上のポチタン。
「実際に男の子を呼んできました!」
「いえーい!」「ポチー!」
「急にどこかへ飛び出したと思ったら……」
「待て待て待て、何がというわけなんだ」
訳も分からず事務所へ連れてこられて、恐ろしく謎な状況が始まった。
どこから聞くべきなんだ……?
「お前が閑鳴ヒロだな?」
困惑していると、金髪の少年がこちらへ話しかけてくる。
もちろん、俺はこの子を知っている。
見るからに有能そうな、発明家の格好をした少年。
「僕はジェット、天才発明家のジェットだ!」
胸を張った状態で自己紹介をしてくれた。
そう、ジェット……くん? さん?
少年の見た目をしているが、実際は妖精だったはずだ。
というか、そういう自信満々な感じなのね。とてもいいと思います。
「あんな達からいろいろ話は聞いた。
まずは、お礼を言わせてくれ。
昨日は2人を助けてくれてありがとな」
そう言って頭を下げてくる。
え、その感じで生意気な子供ってわけじゃないのかよ。
めっちゃしっかりしてるじゃん。
「いや、俺は別に……」
「それはそれとしてだ!
助手の話については僕はまだ認めてないぞ!!」
びしっ、とこちらを指さすジェットさん。
……ふむ。
そりゃそうだ。(納得)
「もージェット先輩、昨日あれだけ閑鳴さんは大丈夫だって言ったのに」
「あのなぁ。あんなが学校に行って1日目でプリキュアとポチタンのことがバレて、その上バレた相手を助手にしますって言われて、はいそうですかってなるほど僕は楽観的じゃない」
「「う……」」
そりゃそうだ。(二回目)
至極真っ当すぎる考え。
2人も普通じゃない自覚はあるのかばつの悪そうな顔をしている。
結局引き受けたのは俺なんだから、2人がそんな顔しなくても。
「そうですけど、でもー……」
「ストップ。どう考えてもジェットさんの言ってることが正しいからな。
それにジェットさんも意地悪で言ってるわけじゃないのは2人もわかるだろ?」
「もちろんそれはわかってるよ!」
「それにこれは俺が……って、ジェットさん、どうした?」
庇護しようとしてくれる2人を抑えていると、視界に入るのは驚いた顔をしているジェットさん。
なんか変なことをしただろうか。
「いや……僕はてっきりあんなとみくるみたいなのがもう一人増えるのかと思ってたが、お前はそうじゃないんだな」
「ちょっと、ジェット先輩!?」
「それってどういう意味ー!!」
「お前らが子供だって意味だよ」
むー! とご立腹な様子の小林さんと明智さん。
うーむ、非常に反応しづらい内容。
14歳にしては2人ともしっかりしてる方だとは思うんだがな。
ここに居るのが俺と見た目通りの年齢ではなさそうなジェットさんだから。
「ジェットさん」
「ん、なんだ?」
「さっきの通り、ジェットさんの言ってることは正しいと思う。
でも、俺も生半可な気持ちで助手になろうとしたわけじゃないんだ」
「まぁ、僕も別にお前がダメだって言ってるわけじゃないからな……」
「だから、様子見と最終判断をお願いできないか?」
「様子見と最終判断?」
要するに、材料が足りていないんだ。信用するにしても疑うにしても。
それに、助手になるということはキュアット探偵事務所のチームの一員になるということ。
先にチームの一員であったジェットさんに認められないまま一員になるのは俺も嫌だからな。
「すぐに信用してほしいなんて言わない。
ある程度の期間、俺のことを観察してもらいたいんだ。
それで、もし俺のことを信用できなかったら、その時はおとなしくただの同級生に戻る」
「閑鳴さん!?」
「……お前はそれでいいのか?」
「ん? 全然全くこれっぽっちもよくない。絶対に嫌だ」
真顔で情けないことを言う俺。
ガクッ、とずっこけるジェットさん。
「な、なんだそれ……」
「だって俺を認めてくれた2人に申し訳ないし、俺も2人を近くで応援したいからな。
この話はなかったことにしたくない。俺は2人の助手になりたい。
だから、ジェットさんにも認めてもらえるよう精一杯頑張るよ」
「……そうか」
俺の言葉を聞いて、俯いて少し考えるジェットさん。
そして、顔を上げると同時に手を差し出してくる。
「もういい」
「え?」
「この場で認めてやるって言ってるんだよ」
「ジェット先輩……! いいの?」
「ああ」
「なんで急に……」
今度は俺がずっこけそうになった。
これから認めてもらえるように……とか柄にもなく意気込んでたんだが。
「あんなとみくるの話を聞いてたら悪い奴じゃないことくらいわかる。
それに今の会話でも、お前がテキトーに引き受けたわけじゃないのは伝わった。
だから、認めてやる」
ん、と改めて手を差し出すジェットさん。
本当に、ここの人たちは……
眩しすぎて暖かすぎて、一周回って毒かもしれない。
俺が浄化されて消し飛んだらどうしてくれるんだ。
差し出された小さな手を握り返す。
「これからよろしくお願いします。ジェット先輩……って、呼んでも良いのか?」
「ああ。キュアット探偵事務所にようこそ、ヒロ」
「これで今度こそ、閑鳴さんもキュアット探偵事務所の一員ですね!」
「ポチー!」
握手を終えた俺とジェット先輩を見て、大人しく聞いていた2人とポチタンが寄ってくる。
……よし、ここに居るみんなのためにも、これから頑張るか。
「んじゃ、僕は試作品を作って来るから、その間にどんな商品が欲しいかヒロたちで考えておけよ~」
そう言うと、奥の部屋へ入っていくジェット先輩。
試作品? 商品?
「なぁ、ジェット先輩の言ってたのって……」
「ねえねえ閑鳴さん! 私も閑鳴さんのこと、ヒロくんって呼んでもいいかな?」
「え?」
「あ、あんな?」
急な話に驚く俺と小林さん。
唐突にどうしたんだ?
「ジェット先輩がそう呼んでたからいいなーって!
もう事務所の一員なんだし、そもそも私たち同い年だし!
ね、いいでしょ?」
ああ、そういうことね。ジェット先輩、確かにヒロって呼んでくれてたな。
今までヒロの後ろにはなぜか大抵お父さんがくっついてたから、新鮮だ。
……正直、悪い気はしない。
「もちろん、好きに呼んでくれていいよ」
「やった! じゃあ、ヒロくんって呼ぶね!」
「え、いいんですか?」
今度は俺の方を見て驚いた顔をする小林さん。
いやなぜ驚く。
「? 逆になんでダメだと思ったんだ?」
「いえ、閑鳴さんってみんなからお父さんって呼ばれてますし、実際なんだか大人っぽいですし……」
「……もしかして、その敬語も同じ理由?」
「はい、そうです」
まじかよ。
こんな所にお父さん呼びの弊害があるとは。
……いや、これは仕方ないか。
考えてみれば、小林さんだって転校生だった訳だし。
徐々にお父さん呼びが定着していくのを見ていたほかのクラスメイトはともかく、転校してきたら周りからお父さんと呼ばれてる生徒がいたら他人行儀になるのも当たり前か。
すぐに距離感を詰めてきた明智さんが凄いんだろう。
「当たり前だけど、俺は自分からお父さんを名乗ったことはないし、同級生だし。
だから小林さんも呼び方は任せる、敬語も必要ない」
「なんだ、そうだったんですね?」
少し驚いた様子の小林さん。
敬語がそんな理由だったとは……
「最初はてっきり嫌われてるもんだと思ってたけど」
「え!? ど、どうしてそうなるんですか!?」
「だって、ほかのクラスメイトには男子相手でも普通なのに俺にはずっと敬語だったから」
嫌われてるは言い過ぎたが、壁はあるなぁとは思っていた。
もちろん、今はそういうわけじゃないのは分かるから全然いいけどな。
「まぁ好きにしてくれたらいいよ、今さら無理に変えなくてもいいと思うし」
「うーん、そうですね。私はもう敬語に慣れちゃったので、話し方はそのままで!
でも、呼び方はヒロさんにしてもいいですか?」
「もちろん」
俺もなんだか小林さんは敬語がしっくりくるし、名前を呼んでくれるだけでも十分嬉しいことだ。
「それじゃあ、小林さんも明智さんも改めてよろしくな」
「ヒロくんは?」
「え?」
「確かに! ヒロさんは、私たちの呼び方を変えてくれないんですか?」
「いや、俺は別にこのままでも」
「ダメ! 変えるの!」
「あ、はい」
圧がすごいよ明智さん。距離感を詰めるとかじゃなくてほぼタックルだよこれ。
小林さんも圧こそ出てないものの、こっちをじーっと見てくる。
……まぁ、呼ぶならあんなさんとみくるさんか?
「ちなみに私のことはあんなね! さん付けもなし!」
「え」
「あんながそうするなら私もみくるでお願いします!」
「え」
まさかの名前呼び捨て指定。マジですか。
嫌なわけではもちろんないのだが、今思えば転生してからは人のことを名前で呼ぶことは少なかったからな。単純に慣れていない。
……とは言え、こうも期待に満ちた目で2人から見られているこの状況で拒否するなんて俺には無理だ。
「わかったよ。あんなと、みくるな」
「わぁ……! うん、改めてよろしくね、ヒロくん!」
「なんだか、少し恥ずかしいですね……えへへ」
呼び方ひとつでどうしてそんな嬉しそうな顔をしているのかはわからん……って言おうとしたが、俺もついさっき嬉しいって思ったばっかりだったな。
本当に、昨日今日でずいぶん関係が変わったものだ。
「……そういえばだいぶ話がそれちゃったけど、結局ジェット先輩の言ってたことは何だったんだ?」
「ジェット先輩の言ってたこと?」
「なんか試作品を作るとか、新しい商品がどうとか」
「あ、そうだった! 忘れてた……!」
「てか、結局なんで俺を事務所に連れてきたのかも聞けてないしな」
多分ジェット先輩と合わせるために呼んだ感じじゃなさそうだったし。
お店をやろう! というなかなか聞かない勧誘一つで連れてこられただけなのだ。
「実はね、この事務所の二階の空き部屋でコスメショップをやろうって話になったんだ!」
「それでヒロさんも一緒にお店をどうするか考えてほしいなって思って、呼んだんです」
「ほー、なるほどな」
事務所の空き部屋でコスメショップをやると。
……ん??
「……コスメショップって言った?」
「? はい、言いました」
「……ふむ」
「ヒロくん? どうしたの?」
「いや……」
俺、考えられることあるかな?
読んでくださってありがとうございます。
前回、次は本編の第8話からとか言ったのにまだ本編が始まってすらいない現状。
どうやらこの作品にテンポの良さなどはないみたいです。
というわけで、今回はジェット先輩との初対面と3人の呼び方が変わったという回でした。
みくるの話し方をどうするかだいぶ悩んだんですが、なんだか敬語のみくるがすごいしっくり来てしまったので続行です。タメ口の方がよかった方もいるとは思いますが、お許しを。
また、投稿頻度が自分の想像より高いのですが、多分そのうち大人しくなっていくと思います。
もともとは1週間に1話出せれば御の字かな、と思っていたのですが、なんだか1話書き終えるたびに「自分、ちゃんと続き書けるのか……?」という不安に襲われて結局書いてしまうのですよね。
書き始めたら楽しいんですが。
まぁ読んでくださる方々からすれば知らねーよって話ですね。
これからもぜひ気が向いたら読んでいただければと思います。
気軽に楽しんでね。
それではまた次のお話で。