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永遠と荒野の広がる世界。
乾いた風が吹き荒み、時折雲がかかる世界、『イジツ』。
今から七十年ほど前、彼らは来た。
『ユーハング』と称する彼らは、空から開いた『穴』を通じてこの世界にやって来た。
その日、新月の真夜中であるにもかかわらず一機の一式戦闘機二型が飛んでいた。
「大丈夫だ!頑張れ!」
「うぅっ…」
その機内でパイロットが後ろに座っていた男に呼びかけると、呼びかけられた彼は腹を押さえて顔を青色から段々と土気色に変わっていく。その腹は赤く滲んでいた。
「見えた!もうすぐだぞ!」
そこでパイロットはとても安堵した様子で夜であるにもかかわらず絶妙に明るい場所をみる。
そこは荒野の中に作られた空の駅を改修したものだが、滑走路が夜になると明るく照らされて着陸しやすいようにされているのが特徴的であった。
そしてその滑走路を確認して徐々に高度を落としていく。
「こちらビッグ3!急患だ!仲間が怪我をしている!」
無線機に向かって叫ぶと、返答があって誘導が行われる。
『了解した。そのままビッグ3は滑走路を通って施設の前に停止せよ』
「助かる!死にそうなんだ、急いでくれ!」
そこで機体は照らされた滑走路を通過して着陸をすると、誘導路を通って機体は空の駅の施設に到着する。その支柱に掲げられた風に煽られている旗には白い旗に赤い十字が染色されていた。
その滑走路脇の駐機場には数機の航空機が駐機しており、施設は灯りが灯されていた。
「よーし、こっちだ!」
そこで手を振って誘導を行うと、機体の横に一台のストレッチャーが用意される。
「気をつけろ」
「せーの!」
そして機体側面のハッチを開けて、中から人を担ぎ出す。
「うっ!!?」
そこで腹を怪我したその男を見て聞く。
「怪我の理由は?」
「空賊にやられた。撃たれた弾の破片が腹に当たっちまって…」
「なるほど…」
そこで赤く滲んだ腹の容態を確認し、診察を行なったその男は服を脱がせる。そしてその下の傷の状況を見て診た男は一瞬顔を顰めた。
「結構食い込んでいるな…よし、すぐに運ぶぞ」
男は言うと、ストレッチャーを動かして施設に入った。
「先生!急患です」
「ん?」
そこで話しかけたのは、白衣を纏った女性。彼女は先に患者として訪れていた初老の男の心音を確認した直後であった。彼女はストレッチャーに乗せられた男を確認すると次にそれを引っ張っていた男に聞いた。
「容態は?」
「心拍数は下がっています。腹部に金属片が食い込んでいます」
「OK、すぐに手術をするわよ」
ストレッチャーに乗せられた男を見て彼女は言うと、先に診察していた男を別の白衣を着た医者に任せ、自分は患者を前に彼女はすぐに手術台の上に載せると、部屋を閉じてメスを片手に握った。
「先生!頼む助けてくれ!俺の仲間なんだ…!」
「はいはーい、もう大丈夫よ。安心してちょうだい」
そこで興奮している様子の男を宥めるように彼女は微笑むと、そのまま奥の部屋に消えていった。
「ふむ…腹部銃創ね…」
「七ミリですか?」
「ええ、おそらくは」
そして痛む患者に麻酔を打ち、患者の情報を照らし合わせていく。
「輸血準備を。この患者は血液型がわかっているわ」
「分かりました」
医師である彼女の指示に従って男はテキパキと動いて患者の手術を始めた。
数時間後、顔色も安定し、息もおさまってきた状態を見て安堵した様子で彼女は手術室を出てくる。
「先生…」
「もう大丈夫。山場は超えたわ」
「っ!!」
そこでずっと手術室の前で座り込んでいた男の顔が晴れやかになる。
「ありがとうございます!先生…!!」
「ええ、それならよかったわ」
大泣きして直後にストレッチャーに乗せられて部屋から出てくる仲間を見て安堵した様子で見ていた。
「でも怪我は大きいわ。しばらくこっちで入院させないといけないわね」
「そ、そうか…」
そこで強張る男。彼はここの病院に入院をすると凄まじくボられることを聞いていたために、いったいいくら取られるのかと緊張してしまった。
「いくらなんだ?」
「まあそうね…」
彼女は患者を見ながら軽く持っていたメモ帳に鉛筆を握って金額を見せた。
「ざっとこんな感じ」
「おお…」
そこで金額を見て男は安堵した。思っていたような法外な金額でなく、支払いもできて安堵していた。
「今すぐ支払ったら安上がりで済むわよ?」
「おお!ちょっと待っててくれ!」
用心棒として働く彼は、そこで提示された金額を支払うと仲間の用心棒を預けて駐機場から飛び去っていった。
「やれやれ、用心棒というのは大忙しですね」
その様子を見ながら呟く男。
「仕方ないんじゃない?そういう仕事だし」
彼女はそう呟いた時、施設から一人が出て彼女を呼びかけた。
「アヤナ先生、呼び出しです」
「誰から?」
「契約者です。マダム・ルゥルゥからですよ」
「あらあら、太客さんからとはね」
彼女はそこですぐに施設に戻ると、荷物をまとめて併設された格納庫に駐機された白一色に塗装された零式輸送機二二甲型に乗り込むと、滑走路を離陸していく。
「今日の依頼内容は?」
「契約を結んでいる用心棒の一人が骨折をしたそうです」
「なるほど…コトブキの誰かな?」
その機内は患者を乗せて運べるように改造されており、単価に乗せた患者を移送できるように空飛ぶ救急車として特別に改造が施されていた。
彼女はこのイジツでは優れた医者として、とある友人の伝手で契約を交わした輸送商会の元に急行していた。
「場所は?」
「ラハマです。天候は十分綺麗ですよ」
そこで操縦席に座って外の景色を見るパイロットが話しかけると、視界の先に小さな町と、そこに停泊している飛行船の姿が確認できた。
「こちらケア・フォース1。ラハマ飛行場、応答願う」
無線機の電源をつけてパイロットは話しかけると、管制塔からの返答を確認して零式輸送機は大きく緩やかに旋回して主脚を伸ばすと着陸態勢に入る。
そして長い整備された滑走路に着陸をすると、ブレーキをかけてエンジンの出力も落として輸送機は着陸する。
白い機体に赤い十字が特徴的なその機体は、遠くに居ても目立つようにという意味合いが込められているという。
「よっと…」
そこで機体の扉を開けてアヤナは機体を降りると、そこで出迎えた一人の女性。
「すまないな。いきなり呼んで」
「いやいや、レオナの頼みなら問題ないわ」
赤髪に筋肉質な体躯の女性は降りてきたアヤナに申し訳なさそうにすると、彼女は片手に医療バッグを持って駐機場に降りた。
女性の名はレオナ。今回厄介になる組織の隊長を努めている人物で、アヤナとは数年来の知り合いであった。
「なにせ契約者のもとに駆けつけるのは私たちの仕事なものでね」
「相変わらず、金持ちには高額の医療費をふっかけているのか?」
「勿論〜♪」
アヤナはレオナに当たり前と言わんばかりに頷く。
「金はむしろ取れるところから取らないと、私の仕事は割に合わないのよ」
「そんなことをしているから巷で『銭ゲバ医師』なんて言われるんじゃないのか?」
「失礼な。私は誰もが認める神の手を持つ『リノウチの聖女』よ?」
心外だと言わんばかりにアヤナは不満げに頬を膨らせて飛行場を歩く。
「で、今回の患者は?」
「チカだ。足を骨折してしまってね」
「また無茶をした?」
「ああ、そんなところだ」
二人はそう話しながら駐機していた飛行船、『羽衣丸』に乗り込む。
「やあ、どうもどうも、アヤナ先生。ご無沙汰しています」
乗り込むと、手揉みをしながら出迎える男。この羽衣丸の副船長、サネアツである。
「どうも。ちょっとばかり失礼するわね」
「ええ、どうぞどうぞ。あっ、紅茶でも淹れましょうか?」
その提案にアヤナは微笑んで答える。
「ご丁寧にありがとう。でも今は患者の治療が先でね」
「あ、はい!どうぞ、こちらです」
サネアツはそこで意味を誤解せずにアヤナを船内に案内する。
「あのおチビちゃんの容態をまずは見ないとね」
「自分の病院は大丈夫なのか?」
レオナに聞かれたアヤナはサネアツに視線を送って彼を掃けさせて答える。
「ええ、何てたってうちが抱えている医者はまだ多いからね」
「また採用したのか?」
「ええ、目指すは不労所得だから」
船内を歩き、ある一室に到着をすると話を聞いていたレオナは呆れたため息をついた。
「はあ、呆れた守銭奴だな」
到底、彼女に与えられた二つなとは思えないほど汚れた純潔にレオナは苦笑すると、アヤナはドアを開けた。
「失礼するわ」
アヤナはそこでドアを開けると、部屋では大声が聞こえていた。
「ヤダヤダヤダ!入院なんてしたくない!」
そこでは足を固定されて雑に包帯が巻かれた少女がゴネていた。
「こらチカ、騒ぐんじゃない!」
すかさずレオナがその少女、チカを一喝すると彼女は叱られて一瞬固まった。
「ひぃっ!」
そして次にアヤナを見て顔を青くさせた。
「アヤナが来たんだ。これからここで診察をするぞ」
「いやだ!だってこの人注射する人じゃん!」
「あらあら、そんなに怖がらなくたっていいわよ?」
そう言いながら彼女はチカに近寄って落ち着かせる。
「安心して、今日は注射を打たないわよ」
「え?本当?!」
「本当よ」
そう言いチカを安心させると、振り返って彼女はレオナに言う。
「じゃあ診察を始めるわね」
「ああ、頼む」
「うう…本当に注射しないよね?」
「今は大丈夫よ」
アヤナはそこで寝転がっていたチカの足を確認する。
「うーん、レントゲン撮っていないから分かんないけど、この折れ方なら手術をして全治二ヶ月ってところかね」
「そうか」
骨折してからすぐに添木で固定されているのを見て診察を行うと、レオナは頷いてアヤナを見る。
「どうする?」
「言ってもチカは安静にできないだろう。だったら手術をして早めに治る方法にしてくれ」
レオナは彼女の性格を分かった上で冷静に判断した上で友人に答える。
「了解。じゃあこっちで手術をするから、終わったらラハマで療養させちゃって」
「分かった。頼む」
「えっ!?」
即答で頷いたレオナにチカはこの世の終わりのような顔をして顔を青くさせていた。
トンボ釣り
空母からの発着艦に失敗した艦上機や故障・燃料切れで海上に不時着した航空機と搭乗員を、駆逐艦や救難船が回収する作業を指す俗称。