時が止まったかのように思えた。
まだ夏だというのに部屋の気温が下がった、そんな気がした。
正直に言って、無常は薄々わかっていた。
彼女がどういった提案をしてくるかを。義眼に関してなのだとは会話の中で気づいていた。
だが。まさか。
(魔眼を扱えるようになる方法まで対価として差し出すとは…!?)
(いや、でも、まてよ?)
(そんな方法が存在するのか?)
(
(確か、第二次世界大戦中のドイツナチスが、沢山のユダヤ人の
(研究内容には、確か
(でも、俺に身内はもういない。遠縁はいるが、前のお葬式でさりげなく聞いたが、誰も
(不可能だ)
なら、一体どうやって?
そう、頭の中で色々と考えている無常に、さらに小日向は畳みかけた。
「私は、自分の『占見眼』に対して誓います。」
その一言は、無常の思考を止めるには程よい打撃だった。
(…今、こいつ誓った?)
誓い。宣誓。縛り。制約。成約。
言い方は違えど、要は
過去、誓った例として
健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いあったのだ。
だが、それは破られた。
原因は知らないが、破られた結果、男性の魔眼が潰れたのだ。
文字通り、完全に潰れるので二度と能力は使えないし、見る事だって出来ない。
命を失うまではいかないが、
そんな有り得ないものを見たかのような表情をしていた無常の顔を見た小日向はニコっと笑いながら言った。
「いや、だって。もし私が追い付かれて捕まった場合、魔眼が原因で捕まる訳じゃないですか?なら、
「………………まぁ」
納得は1mmもしていないが、とりあえず頷く事にした。
正直、無常はその解答を聞いて苛立っていた。
誓いを破れば、目は見えなくなる。彼女はその重さを知らないのだ。
憎い。憎らしい。
持っているコイツが。簡単に捨てようなどという行為に手を掛けようとするコイツが。
それに俺を巻き込むコイツが。憎らしかった。
コイツは今、誓ったのだ。
だが、コイツが誓っただけで、俺にはなんの意味もない。
普通、誓いは
だが。
「…それも、『占見眼』で見た結果か?」
「…はい。そうです。こういわないと、貴方は私を助けてくれないという結果がわかったので。」
そうだ。俺はこの誓いを無下に出来ない。
俺は、自分の目でいつか世界を見たい。いつか、自分が義眼を使って、
無常は憧れたのだ。
赤というものを見たい
青というものを見たい
美しいという事を知りたい
醜いという事を肌に感じたい。
世界の色を知りたいと。誰よりも
人より足りないから、より一層
誰だって特別にはなりたいものだ。
特に中高生なら誰だってそう思うだろう。
だが、彼の行動力は常軌を逸していた。
まず、残された遺産を全て株やFXに投資し、資金調達を行った。
最初の頃はよく吐いていた。眠れない日もあった。胃潰瘍になって入院していた日もあった。
だが、そろそろヤバいってなった時に転機は訪れた。
偶々彼が投資をしていた会社がSNSで大バズり。
その結果、株価はロケットのように跳ね上がり、なんとか資金を取り戻し、目標としていた研究費を調達する事に成功した。
そこからはトライ&エラーの繰り返しだ。だが、壁も大きかった。
眼に関するありとあらゆる研究は
そこまでの執念があって、ここまでやってきたのだ。
無常に小日向の誓いを無下にするという選択肢は、どこにもなかった。
「それでは、まず先に貴方が制作している義眼の完成方法について教えます。良いですか?」
「…わかった。載ってやるよクソッタレ。…金についてはその後でな。」
「具体的には、160万欲しいです。…2階の天井裏に置いてますよね?」
「…今、目で確認しただろ…はぁ~まじか。」
無常の肩が下がる。だが、これもまた研究の必要経費だと考えたら安いモノだと前向きに捉えて、彼女の話に耳を傾けた。