「佐々木指揮官、コードネーム『エメラルド』より入電です。」
そこには自然光は存在しなかった。
まず、窓がない。だが、その代わりに至る所に沢山のモニターがあった。
どこかの景色を映しているものもあれば、グラフや数字のようなデータが載っている画面も存在した。
そんな中、部屋の中で勇逸真っ黒な画面があった。
そのモニター横に付けられたスピーカから声が聞こえる。
『もうすでに、只今作戦開始から1時間が経過した!進捗状況を報告しろ!佐々木指揮官!』
男性特有の低い声だが、明らかに変声機で作られた声だった。
その声に対し、応答する者がいた。
「失礼ですが、作戦時に通信で名前を喋られるのはやめて貰っても構わないでしょうか、『エメラルド』。相手は偉人クラスの
暗い室内なのに、何故か黒いサングラスに同色の革靴のスーツ姿、アップバングショートの髪をしたその男がいた。
佐々木暁。
佐々木指揮官と呼ばれたその男は、今回とある少女を
『…わかった。名前を言った事を謝罪しよう、指揮官殿。それで、進捗の方を。』
「はい。ターゲットは民家にその家の住人と一緒に家の中に入りました。ただいま、家の周り半径150mから取り囲んでいます。取り囲んでいる車種の系統もそれぞれ別のモノにしており、今の所は民間人からの警察への通報はありません。指揮系統も問題なく、全隊員無線機による連絡網が維持されています。」
彼らは軍隊、ではない。
元々はどこかの国で軍人や傭兵をやっていた経歴の持ち主ばかりだが、軍隊ではなかった。
自衛隊上がりの佐々木も
だと認識していたが、厳密には違う。
故に
だが、今回の作戦は違った。
「ですが、只今の時間帯は通勤時であり、包囲網内にも沢山の民間人がいます。ですので、9時半まで待機の命令を下しております。」
「…本来なら既に終わっているはず作戦に対し、さらに1時間以上費やせと?それが貴官の意見なのか?」
「はい、待つしかありません。」
今回の作戦内容は対象“小日向歌恋”を誘拐し、拘束。そして、ハグルマ第2研究所への護送が今回の作戦内容だった。
だが、それは当初の動きで既に瓦解していた。
作戦段階として、まず『占見眼』の魔眼を所持している事が判明した小日向歌恋に対して『
原因はとある少女が作った
故に、上層部は“早朝の誰もいない時間帯に家に突撃し、確保”という方針に踏み切った。
実際に、観測型演算機『
だが、作戦は失敗した。
(クソッタレな計算機のせいで、俺の評価が…!!)
佐々木は内心、
俺の部下は。たかが14歳の餓鬼を捕まえる事すら出来ないのかと。
最初はそう、思っていた。
だが、彼女の逃げ方を見てそんな考えは消え去った。
彼女が足を一歩前に出せば、大の軍人あがりの大人3人が地面に突っ伏した。
別に異能が起こったわけじゃない。
彼女が石を投げたら、軍用の防弾性の車3台が潰れた。
別に異能が起こったわけじゃない。
だが、わかった。今までの
(あれは、収容しなければ、ならない…!)
それが、『収容』だ。
魔眼には所謂ランクが存在する。
万国共通として、色で分けられており、緑、黄、赤、そして虹色だ。
分類方法はその危険性だ。
どれだけ人に対して危険なのか。
どれだけ社会に対して危険なのか。
どれだけ国家に対して危険なのか。
緑は問題なし。黄は使い方次第。
赤は危険。行動次第で即収容or刑務所だ。
そして、虹は通称アンリミテッドと呼ばれ、“規格外”と呼ばれる。危険とかそういうのは考えない。なにせ、
その考えであれば、間違いなく小日向歌恋の『占見眼』は虹だ。
なにせ、あの観測型演算機『
故に、佐々木はわかっていた。動かなければならない。だが、動こうにも動けないこの状況は彼女の策の結果なのだと。
『…本作戦は、日本警察に手を貸してもらう事は絶対に出来ない。…なぜ、早朝のタイミングで捕獲出来なかったのか、報告を。場合によっては貴官の降格も考える。』
「…お言葉を返すようですが、偉人クラスの
『…ならば、本作戦を君に指揮させた理由は分かっているだろう?』
佐々木は民家が映ったモニターを一瞥した。
何故、小日向歌恋がこの家に入ったのかがわからなかった。
この家に住んでいる人は一人で、しかも高校生。なんなら、生まれつき眼球がなく、隠れた
(何を考えている…小日向歌恋)
またこれも策なのか。
あの少女は常人では歩もうとは思わない脱出路を一人で開拓し、
佐々木はこれ以上遅れを取る事は
(これ以上の失態はまずい。…やはり、私自身が出るしかないか。)
『現場での指揮も引き続き、君に任せるとしよう。…
「はい、相手はこれまでの逃走で体力を減らしています。私の魔眼による
気のせいかもだが、画面の向こう側の人物が笑った気がした。
佐々木の顔も歪んでいた。
自分の力で格上の
『では、こちらからは以上だ。幸運を祈る。』
『エメラルド』との通信が切れた作戦通信室に静寂が戻った。
あるのは、機械的な作動音だけ。
そして、佐々木はその静寂を、切った。
「出るぞ。班を2つに分ける。ついてこい。」
佐々木がサングラスを取る。
その