アノフタルモスの魔眼使い   作:木原 無二

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お久しぶりです。それではどうぞ。


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班を2つに分け、B班を指揮していた佐々木暁は無常仮寝の自宅から800m(875ヤード)離れた所でギターケースを背負いながらバイクを走らせていた。

その後続には2台の黒のワゴン車がバイクの後を追うように走っていた。

佐々木がインカムに付いているマイクで指示を出す。

 

「B班α(アルファ)、先ほど説明した内容を踏まえて、今の状況を部下たちに説明しろ。」

『はい、状況出します。』

 

スピーカーから聞こえる激しい風の音と佐々木の声が聞こえる車内にいる武装状態の男達の手元にある液晶画面に白黒の映像が流れた。

無常の家の内部状況だった。

彼らは特殊な魔眼を使用してみている訳ではない。

人類は魔眼と向き合っていく内に、自らの科学技術を更に成長させていった。

戦争だけが科学技術を進歩させるのではない。ヒトの醜い感情が、それを更に先鋭化させていくのだ。

 

略称、STTRSS

通称、ストレスと呼ばれる。隠秘学術院(ディダスカリア)が次世代型透過画像処理技術によって作られたこの兵器は、イスラエルの軍用画像処理企業が作成したXaver 1000の先を行くモノであった。

簡単に言えば、熱源対策をされた部屋や、衛星が使えない状況でも、壁に道具を設置せずに遠隔から内部の状況が見える。そんな機械だ。

そして、最大の特徴は3D化されたデータをリアルタイムで取得出来るという点だ。

この兵器は、今では隠秘学術院(ディダスカリア)から民間の企業に技術提供によって世界中で作られている。

 

「我々の目的対象である今回の魔眼所有者(能力者)は少し前に民家に立てこもった。民家には対象以外に青年が一人民家にいる。STTRSSから送られた映像データの状況から見て、会話内容まではわからないが長い間話している事がわかった。今回の作戦は目的対象を生きたまま捕獲する事であり、本作戦において、この青年が邪魔になる場合によっては各(・)々(・)の(・)判(・)断(・)で動くこと。また、その青年は生まれつき眼球が無いため、魔眼所有者(能力者)かどうかは疑わなくて良い…。今回B班となった我々は、自宅周辺にいるA班が目的対象を逃がした場合の補助的な役割を担う。質問は?」

 

回答は沈黙だった。

残酷な作戦に声が出ない訳ではない。

彼らはプロ。つまり問題なし(ノープロブレム)と言う訳だ。

 

バイクと車が止まる。佐々木があらかじめ伝えた場所に着いたからだ。

場所は、地理的に土地が高く、無常の家が良く見える場所であった。

上から見る、という理由もあるのだが、実際にはもう一つ重要な意味がこの場所にはある。それは、この場所が高速道路の一角。つまり、空港に向かうために高速道路がここなのだ。

通行者に邪魔にならないように、車とバイクを止め、担いでいたギターケースを下ろす。

(小日向歌恋が一週間前にパスポートを取得していたという事なので、恐らく海外に逃げる気なのだろう。…もし、逃がした時の対応として、一応高速道路を張らせてもらう訳だが…)

海外にも組織は存在する。なんなら、日本国内よりも海外の方が影響力が大きいのだ。

佐々木には小日向歌恋の行動理由が理解できなかったが、今捕まえてしまえば些細な事だと捉え、考える事を先送りにした。

 

車内のタブレット端末の映像では、玄関から出ようとする二人の姿があった。

目的対象は、盲目である青年の腕を組み、案内するかのように横を同じ幅で歩きだした。二人とも、リュックサックを持っており、3D化されたデータで荷物を見たが、武器の類は持っていなかった。

 

そして遂に、目的対象と腕を組んで白杖を持った青年が玄関から出てきた。

 

画面の映像も白黒から、現在の状況が映ったカメラ映像へと変わる。

玄関から出た2人組は、そのまま右方向へと向かって歩き始めた。

 

その方向には隊員が4名待機していた。

このまま行けば、その4人に捕まるだろう。

 

そんな光景を佐々木はギターケースに入れたタブレットではなく、たった数十秒で組み上げた狙撃中のスコープ越しに見ていた。

(やっぱり、実際に見ないとね。)

映像越しだと、やはりどうしてもコンマ数秒遅れてしまう。狙撃手である佐々木にとってそれは致命的であった。

殺し合いの世界では、そのコンマ数秒で大きく変わる。

生き残れば勝ちである世界で、先手後手というのはとても重要な事である。そう佐々木は認識していた。ましてや、こんな頭がおかしくなりそうな(魔眼なんてものがある)世界なのだから。

 

佐々木はスコープを除きながら、引き金に指を置く。

銃の名前は豊和M1500。

ボルトアクション方式で動くこの銃は全長、約1118㎜。銃身は610㎜。

相談数は5発。300ウィンチェスター・マグナムを弾丸に使用したこの銃の射程距離は無常の家を捉えていた。

 

左手小指を口元に近づけ、口に含んだ後、小指についていた唾液を左頬にべっとりと擦り付けた。佐々木の風を読む時の癖だったのだ。

 

(…風速4.8mといった所か)

 

佐々木はいつも、これで風速を測っていた。下手な機械に頼るよりも、彼にとって肌の感覚は最高の計測器だったのだ。

 

スコープをターゲットの後頭部に向ける。

撃つわけじゃない。生け捕りだし、そんな事は出来ないのだが。

だが最悪、足や手など命に関わらない場所ならば問題はないと、作戦立案時に『エメラルド』から聞いていた。もし重要な血管に当たっても、すぐに隊員が保護する訳だし、魔眼保全機関(エイワス)は高度な医療技術を持っている。問題はなかった。

 

後頭部から、対象の足へとゆっくりと狙いを変えていく。

流石に、青年の方に近い足にはしなかった。

邪魔な人物は消しても構わないと上から異(・)例(・)の指示を貰ってはいるが、佐々木にはその気は全くなかった。

それどころか、彼に同情していた。目が見えないのに、こんな危なっかしい魔眼所有者(能力者)に巻き込まれて可哀そうだと。そんな青年を態々怪我をさせる気は全くなかった。

 

そんな考えをしていると、ついに小日向歌恋達が車から出てきた隊員達と合流した。

佐々木はいつでも撃てる体制でいた。

 

まばたきをした、その一瞬であった。

佐々木の部下4人が、地面へと倒れこんだのを、佐々木は見たのだった。

 

 

 

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