腕を組みながら無常仮寝と歩く小日向の心臓はネズミのように早く、ゾウのように高鳴っていた。
無常の前では、なんともない。怖くない。みたいな雰囲気を出していたが、彼女の中には年相応の少女だった。
怖い。
家に帰って、両親に会いたい。
寝て起きたら、実は夢でしたなんて事はないだろうかと何度も思った。
だが、彼女は逃げられなかった。
一月前からこの事態を察知していたのに、この事態を避けられなかったのだ。
全てを知る権利がある彼女にとって、逃れられない運命ほど、怖いモノは彼女にはなかった。
そんな恐怖を抱えていた小日向に無常は問いかけた。
後数十歩で接敵する敵を前に。
「確認なんだが、一応言葉にして貰いたい。もう一つの情報は、君が完全に逃げられると判断したら教えて貰えるんだな?」
「…ええ、私と一緒に行動をして、あるタイミングで貴方に教えるわ。」
無常がこくりと頷く。
彼女は知識では知っていても、実際に目で見てもなれなかった。
彼は目が見えないが、その卓越した五感によって完全に集中すれば約半径700mの範囲を3D画像で見たかのように把握できる、らしい。
だが、小日向が予め魔眼で知った知識だとしても、彼ほど異常な能力を持つ
全盲なのに、健常者よりも目が見える。
アノフタルモスなのに、
だが、彼自信はそれを自覚していなかった。
そう、彼はこれが普通だと思っているのだ。
知人や友人に話しても彼に言われる事は、「一個の感覚が消えたら、他の五感が冴えるって本当なんだ。」だ。
そうやって今まで勘違いして生きてきたお陰で、小日向は無常に助けてもらう事ができた。
だからこそ、小日向は無常にまだ言うつもりはなかった。
彼が自身の魔眼の真の能力を知った時、その刃は確実に自分に向くのだから。
無常の白杖が地面を叩く音をしなくなった時だった。
物陰から4人の武装状態の外国人が出てきた。
その中のリーダーらしき人物が口を開いた。
「…投降しろ、小日向歌恋。なんのつもりかはわからないが、隣の奴はどういうつもりだ?人質のつもりなら、意味がないぞ?時期にお前の両親もこちらで確保出来る。…この意味、わかるよな?」
「…残念だけど、これは人質じゃないし。それに、もしお前らが私の家族にこれ以上何かしようって言うのであれば覚悟をしておけ。お前達は仲介業者からの人材派遣で雇われた傭兵かもしれんが、素性だけなら既にわかっているよ、アントニー・
B・ジョンソン。」
小日向は一息置いて、話を続けた。
「私と彼だけに手を出すだけならば、まだ許すよ。お前達の友人、家族、大切なものには手を出さない。3歳のエイミーちゃん、可愛いじゃないか。君がキングストンに用意したセーフティハウスで愛しの妻と一緒にいるのが私の目には見える…。ここはお互いにフェアに行かないか?私が捕まっても、逃げても家族には手を出さないし、解放する。反対に、私が逃げ切ってもお前達の大事なモノには手を出さない。これでどうだ?」
「…じゃあ誓えよ。俺らも誓うからさ。」
「何に誓うんだ?アッラーか?イエス様か?魔眼もないお前達が誓ったって世界は応えてくれない。」
「…金さ。金は絶対だ。だから条件として、今回の報酬の倍出してくれるんだったら、お前についてもいい。それが俺ら、守銭奴の傭兵「
アントニー・B・ジョンソンの疑問は、無常と小日向を確信へと導いた。
小日向の魔眼、『占見眼』は人類に判明している事だったなんでもわかる異能。だが、今回の件はその理由や誰が追っているかはわからなかった。わかったのは、実際に追ってきている人物たちの詳細な情報についてのみ。
小日向からしてみれば気持ちの悪い感覚だった。
いつも容易くわかる情報が全くわからない。だが、いまこの瞬間、ほんの少しだけわかった。
無常と小日向の頭の中でピースの一つが埋まる。
(現場に出る傭兵アントニー・B・ジョンソンが小日向の魔眼の能力を知らないのはおかしい。自分の仕事で命が掛かっているものであれば、依頼内容の詳細を仕事前に調べようとするはず。)
(だが、それでも知らないのには、調査不足なのか、それを黙認するほどの報酬があるからか。)
(そして、それほどのお金を払っても外部の傭兵に頼るって事は、『占見眼』への対策って事は明白。)
(今回の作戦理由がわからないのは、彼ら自身も誰に雇われているのか知らないから。)
(そして、知っている人間はなんらかの方法でこちらにバレないようにしている。)
(そんな手段は数少ない、はずだ。)
2人の脳内CPUが答えをはじき出すまでにかかった脳内時間は0.01秒。
結論はこうだった。
((相手に、情報を隠匿する類の
必要な情報はもらえた。もう彼らは必要ない。
「さあね。それじゃあお願い。」
小日向への返事は一つの行動だった。
その瞬間、瞬きをする暇もなかった。
まず、無常が四人の間合いに入り、
屠った訳じゃない。急所と言っても気絶する箇所を選んだ訳だが、それでも重さ
その瞬間だった。
無常は自身の勘に任せて頭を下げた瞬間、頭上に何かが通り過ぎた。
「えっ!?」
「
「
その言葉を聞いた瞬間、二人は打ってきた方から遮蔽物となる場所に身を隠す。
元々の予定では、彼らは徒歩で強行突破を行い、空港まで進んでいく予定だった。
だが、これでは変更せざるを得ない。
「サブプランとかあるのか?」
「ある!…え、でも、いけるの…?」
小日向の仮面が剝がれていく。
先ほどまで、現職の傭兵相手に景気よく喋っていた態度はどこかへ行っていた。
彼女の演技は、もう立て直せなくなっていた。
「しっかりしろよ。お前が頼りなんだぜ?こんな所で降りる予定なんてないぞ。」
「…わかっている。…よし、わかった。それじゃあサブプランは行動しながら説明するね?いい?」
「オッケー!わかった。」