いきなり金持ち人生   作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない

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一章 25歳~26歳
第1話 誕生日〜9月 一等100億円?


 日々、思う。

 

 漫画喫茶で漫画を読み漁るよりは新品の物を買って読みたい。

 服はよくわからないけど、ブランドものとか着てみたい。

 居酒屋とかで大盛り上がりして、ここは俺のおごりだ、とか言ってみたい。

 世界の綺麗な景色は動画じゃなくて実物を見てみたい。

 今日で25歳になったことだし、アラサーとして大人な遊びをいろいろしたい。

 

 でも金がない。手取り給料から家賃やライフライン、奨学金返済などを引いていくともう数万円が残るのみ。NISAの積み立てとかいろいろやると自由に使える金がない。食費も節約を意識したものにしていて、とてもじゃないが遊び歩いたりできない。

 

 自分以外の社会人は逆にどうやってあんなに外食したりしているんだ? あんまり無駄遣いしているつもりもないのに金の余裕はないぞ。

 

 仕事が終わり、夏の暑さを感じながら帰路につき、週刊誌を立ち読むためにヒンヤリとしたコンビニに入ると、コピー機に掲示されている景気のいい数字が目に入ってきた。

 

 一等100億円? なんだそのバカげた数字はよ。

 

 スマホで調べると、海外のなんかのくじと合同で開催しているキャンペーンみたいだ。海外だと何百億円という当選金額もあるみたいで、日本でも段階的にそういうくじを増やしていこうという試みらしい。

 

 一口300円。どうせコンビニで立ち読みがてらなんか買おうと思っていたし、これにしよう。

 

 雑誌を読み終え、コピー機からプリントアウトされた紙を一枚持ってレジでくじを発券してもらった。

 

 300円で夢を買った、と言えば聞こえはいいが、こんなもの当たりっこない。陰謀論的になってしまうけど、当たる人がもともと決まってたりするんじゃないの? 年末の宝くじとかも機械制御でどれ当たるか決まってるとかいうし。

 

 財布にしまったくじのことを思い出したのは、当選発表日から一か月後のことだった。

 

 レシートの整理をしていたら、四つ折りにされたくじが財布からポロっと出てきたのだ。捨てる前に確認しておこうと、くじのサイトを開き、何気なく一等の番号を見ると、意外と番号が一緒だ。

 

 なんか結構一緒だなと思いながら見ていると、結構一緒どころか全く一緒だ。

 

 全く一緒ということはどういうことなんだ。一等と番号が一緒のくじが手元にある? ということは、このくじは一等のくじということになる。一等ってなんだ。100億円?

 

 え? 一等当選してる?

 

 慌ててしっかりと番号を確認すると本当に一等の番号と同じ番号が手元のくじに印字されている。

 

「え? え? え? まじ? ひゃ、100億円? ジョークサイト、じゃない。え、これどうしたらいいの」

 

 急いで調べると、高額当選の場合は銀行に直接行ったほうがいいみたいだ。このくじの場合は水歩銀行という全国的に有名な銀行で受け取れるっぽい。おいおいおい、どうしたらいいんだ。

 

 どうしたらこうしたらも受け取ればいいだろ。100億円? そんな大金をこの一か月ずっと財布に入れて持ち歩いていたの? 馬鹿なの? っていうかこれどうしよう。さっさと引き換えないと盗まれたら終わりなんだけど。

 

 その日の夜は心臓が爆発しそうになって眠れなかった。これが100万円とかだったら現実的にどうしようと悩むことができていたのかもしれない。100万円を1万回使ったら100億円? 27年間毎日100万円使ったら使いきる……あれ? 今25歳だから毎日100万円使ったら52歳で使い切っちゃう? その後には一日100万円生活に慣れ切った何のスキルもない52歳無職が誕生する? いやいやまて、一日50万円ならどうだ? 54年? 79歳? 独居老人……。

 

 何故悲観的な未来予想ばかりが生まれるんだ。まともに考えろ。一日で100万円とかどうやって使うんだ。毎日シャンパンタワーやったり月一で高級車買うような生活だぞそれ。今の生活レベルを向上させる方向で考えよう。

 

 まず、スーパーは高級志向のところにする。行ったことないから値段とかわからないけどリンゴ一個1000円とかするのか? そうとして毎日リンゴ一個食べたら月3万円。

 

 肉もグラム1万円とか? でも肉を毎日食うのは飽きそうだし、っていうか肉なら焼き肉行けばいいじゃん。結構食べても1万円とかでしょ。月に十回行ったら10万円。

 

 ほかの日も外食とかいろいろ考えても高級なところに行ったって平均したら一食1万円は超えないんじゃないか? 三食それで考えても月に90万円。ライフラインとスマホをどんだけ使っても月10万を超えることはないだろう。

 

 引っ越してめっちゃいい部屋に住む? 家賃ってどれくらいなんだろう。月100万円の家とかあるのかな。あったとしてこれで毎月200万円。

 

 年間2400万円。416年間この生活できる。そのころには441歳。骨は風化し肉は蛆虫に食われて脳も臓器も何もない。普通に死んでる。

 

 あれそう考えたら全然余裕だな。24億円で100年間その生活できる。後76億円は自由に使える。っていうかそれなら家買ったほうがよくないか? 一人で一軒家に住む寂しさを考えなければそうかもしれない。孤独死……。いや暗くなるな暗くなるな。

 

 そうだよな、結婚とか考えたい。彼女いない暦年齢だけど、どうにかなる。どうにかしたい。金持ってから自分に集まってくる女性に愛はあるのか? いやそうじゃない、金で自分を磨き上げて素敵な男になるべきだ。愛を疑いようがないくらいいい男になればいい。なれるかな。なりたいな。

 

 よし、やる気が出てきた。軽く筋トレとかやってたけどジムとか行ってバリバリ鍛えよう。そこでいい出会いとかあるかもしれないし、外に出ることはいいことだ。

 

 いろいろ考えているうちに、外で新聞配達の人のバイクの音が聞こえてきた。朝の四時だ。徹夜してしまったらしい。

 

 銀行が開くのは朝九時。あと五時間。今日は仕事だったが有給にした。俺の家庭の都合で急に休むことになったが、俺の家族は全員健康だ。じゃあなんの都合だったんだろう。これも合理的虚偽と言うやつだ。超法規的措置ってやつ多分。

 

 外も明るくなり、いよいよ目が冴えてきたのでシャワーを浴びて身だしなみを整えた。それでもまだ七時。当選金が受け取れる水歩銀行まで三十分くらいかかる。ちょっと早く到着したいから家を出るのは八時十五分くらい? あと一時間ちょっとで出発!? もうすぐじゃないか。

 

 改めて印鑑だのなんだのと確認をして、マスクとサングラスに帽子をかぶって家を出た。不審者スタイルだ。でも100億円持ってるなんて知られたらまともな生活を送るのが難しそうだから、こっそりするしかないのだ。

 

 電車でもカバンを死守しながら隅っこに体を寄せてこそこそしていると、目的の駅に到着し、銀行前まで何とかたどり着けた。

 

 水歩銀行東京本店。丸の内にでかでかとそびえたつビルにはいかつい守衛が出入り口に立って入る人を監視している。あそこで止められたりしないかな。不安。

 

 ビクビクと歩いていたせいで想定よりも到着が遅れていて、もうあと何分もしないうちに銀行の開始時間になる。心臓が飛び出そうだ。100億円が本当に手に入るのか? 難癖付けて没収されたりしない?

 

 こそこそ怯えていると、九時になった。守衛がいるドアを、スーツ姿の人や金持ちそうな服装の人たちが悠々と入って行く。よし、行くぞ。

 

 守衛にジロジロ見られたような気もしたが、特に止められることもなく普通に中に入れた。さて、中に入ったはいいけどどうしよう。正面には受付用のタッチパネルがあり、要件を選択して番号で待つみたいだ。

 

 くじ当選のカテゴリーは無かったので、どうしようかと悩んでいると行員が声をかけてくれた。

 

「お客様、本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 ガタイのいいスーツ姿の男性だ。ツーブロックでマッチョ、男として敗北感を抱かせてくる相手だった。

 

「あ、あのぉ、くじの、と、当選金を、受け取りにきましたぁ」

 

 

 

 くじの当選金を受け取りに行ってから二週間が経過した。銀行員からはなんかの投資とか資産運用がなんとかかんとかとごちゃごちゃといろいろなことを言われたが、いったん冷静になりたくて後で連絡するといって家に帰った。

 

 その場ですぐ現金をもらえたわけじゃなかった。そりゃあ100億円をすぐに用意できるはずもない。今日が振込日だ。当然会社は有給を使って休んだ。なんなら2日有給取ったから明日も休みだ。今日何かの不備で振り込まれなくても明日がある。だから俺は冷静だ。何が、だから、なのかわからないけど、俺が冷静沈着であるということは揺るがない。静かな湖畔の水面のように気持ちが凪いでいる。ラジオ体操とかしとこうかな。

 

 ドキドキしながら、朝の九時を迎えた。スマホのアプリから銀行口座を見る。

 

 そこには桁がわからないくらいゼロが並んでいる。

 

 10,000,000,000←これがいくらなのかパッと見で分かる人間がいるのか? すげえデカい数字ってことしかわからない。これが100億円。この数字が口座に表示されていた。

 

 あー、これ現実か? 夢? 2週間夢見てるみたいだ。

 

 もちろん昨日も徹夜していた俺はふらつく頭をグラグラさせながら外に出た。向かうは水歩銀行の支店。振り込まれた金額が真実か疑わしかったので現金をおろしに行くことにした。

 

 十数分歩いてATMの前に立つ。心臓が爆発して口から裏返って臓器が全部飛び出すんじゃないかと思う。操作を終えて、10万円を引き出す。

 

 10万円引き出した後の残高は9が沢山あった。多分99億9千9百90万円だったんだろう。手数料とかあったかもだから、ぴったりその金額じゃないかもしれないけど誤差だそんなもん。一桁減ったこともわからないくらいの大量の現金は俺に数字を数えるという技術を失伝させてしまった。

 

 この先の人生どうしよう。

 

 10万円を財布の中にしまいながら、悩んだ。

 

 当然、仕事とかやる気はもう無い。家庭の都合とかなんとか言って辞めるつもりだ。会社入ってから有給殆ど使ってなかったんで、有給消化考えると後2週間くらい会社行ったらもう終わりかな。引継ぎとかやらなきゃかもだけど、自分がやってる業務は他の人もやってるし、そこまで必要性ないかも。

 

 で、仕事やめてどうしよう。ダラダラしたいっていうのが今思ってることだけど、いずれそれも飽きるんじゃないか? そうなった時何する?

 

 日々、思っていたことを思い返す。

 

 新品の漫画を大人買いしようかな。本置くスペース無いから電子書籍かな。不思子・F・不二男大全集買おうかな。100巻超えで30万円くらいするんだよな。

 

 ブランドものの服買おうかな。でもただの白Tが何万もするの馬鹿らしくないか? ウニクロだったら数千円で白T買えるよな。っていうか服なんて全部ウニクロでいいまであるよな。ブランドものの服の良さがわからねえな。着たこと無いからだろうな多分。一回買うだけ買ってみる? でも俺の身の丈はウニクロな気がしてならない。高え靴は買ってみようかな。通販で普通の運動靴が2万円とかで売ってるの見たことあるんだよな。俺が普段履いてる5千円しないくらいの靴と何が違うんだろう。

 

 居酒屋で奢る、のは何か会社の飲み会で上司が二次会奢ってくれたりして、俺もそのうちやるのかなとか思ってたけど仕事辞めるしな……。いきなり居酒屋に行って奢って回るの新しい不審者なんじゃない? これはちょっと保留しよう。

 

 世界の綺麗な景色か。いいよね。でも治安とか怖いし、俺日本語しか話せないし、っていうか旅行先のホテルとかあんまりくつろげない。出張先のホテルも何か居心地の悪さを感じることがあるし、外食行くと30分〜1時間くらい拘束されるの普通にストレスなんだよな。飯食いながら動画とか見たい。そうなると基本的に旅行好きじゃないかも。

 

 やりたいと思っていたことの多くが、憧れていただけで実際にやりたいわけじゃなかった。

 

 金のない省エネな生活を続けていた結果、俺は引きこもり趣味の省エネ人間になってしまっていたのだった。

 

 結局、10万円を手に一般的なスーパーで豪遊をし、6千円を支払って荷物満載で家路についた。割引される前の惣菜や弁当を買ってしまった。これを豪遊と言わずして何という。しかもお高いフルーツまで買ってしまった。今から食べるのが楽しみだ。

 

 

 

 そんな俺が、何年か後には大企業の社長になっちゃうんだから、世の中ってわからないもんだよな。

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