いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
第13話 七福グループ結成! 顔合わせは波乱の予感
年末の忘年会で四次会まで行ってしまった結果、翌日に頭痛とゲロのダブルパンチで、二度とこんなに飲むかと覚悟を決めたのに、大晦日の飲み会でまたそれくらい飲み、新年の飲み会でもそれくらい飲んで、新年早々に俺たちはグロッキーだった。学生の時の気分で酒を飲むもんじゃない。俺は学習能力があるので脳に刻み付けた。この傷は酒を飲むと癒えてしまうという欠点があるが、次は多分大丈夫だろう。
「え゛ーっと、今日は、午前中に経営会議か」
海老名と和解後、すぐに経営会議を開いて、グループ内で就業条件は統一する方向で動くことは共有した。買収企業がウチより就業条件がいいということでもなければ統一されるだろう。
まだ正月ボケが抜けていないうえに、カラオケで歌いすぎた挙句に酒とゲロでのどを焼いたので今日はあんまりしゃべらないようにしようと決意し、会議室に向かった。
「新年あけましておめでとうございます。七福ホールディングス経営会議、スタートー!」
布袋の元気な声で始まった会議は、特に大きな波風が立つわけもなく、今後の予定の共有がメインだった。
「買収先企業が七福と顔合わせしたがってる。ウチの就業条件を適用するという話もあわせて聞きたいそうだ」
海老名からの報告も特に疑問は無い。というか逆に今まで顔合わせしなかったことの方がおかしいんじゃないか?
「なんで今まで顔合わせしなかったの?」
「いや七福に会わせると買収に頷いてもらえなさそうな気がして」
なんだぁ、てめぇ?
と、騒ぎそうになったが今日の俺は寡黙な男。ぐっとこらえた。事実、買収に成功しているだけに文句が言いづらいというのもある。
「まあいい、それで、顔合わせはいつする? 個別にやるの?」
「異論はないようだな。自覚が芽生えてうれしい。グループ会社になるんだし、同じ話を何度もするのも大変だろう。まとめて面談する予定だ」
机の下で海老名に向かって靴を飛ばした。
「社長がパワハラだ!」
「営業部にパワハラという言葉は無いのだ。社内ルールにさっき決めた!」
「……グループ企業に向けた説明会兼顔合わせは来週開催予定です。Webもつなぎますので皆さんも参加ください」
騒ぐ俺と海老名を無視して福路が話を閉めた。
その他に議題は無いかと聞くと、経理の大黒さんから話があるみたいだった。
「お疲れ様です。これからどんどん忙しくなってくるとは思いますが、領収書清算を忘れないようにしてほしい、というのが一つ。もう一つは、グループ企業になるにあたり、法務部を立ち上げることを考えてみませんかというご提案です」
「法務部、ですか」
大黒さん曰く、今回の買収先企業のAI、エネルギー、ロボティクスと七福エンターテイメントで、それぞれ法的な手続きが必要になることが想定されるらしい。福路が補足資料を見せて説明してくれたが、特許だとか著作権だとかその他にもいろいろとあるらしい。
福路じゃなくて大黒さんからの提案なんだなと不思議に思っていると、その説明もあった。
「私の知り合いで、弁護士をやっている永石という人間がいます。彼を法務部に雇えないかと考えています」
「大黒さんの紹介なら信用できると思います」
そうだそうだと布袋も言っている。
そんなわけで永石さんも説明会兼顔合わせに同席してもらうこととし、今回の会議は解散となった。
( ・ω・)( ・ω・)( ・ω・)
「それでは、七福グループ説明会を開催させていただきます」
海老名がマイクを手にそう宣言すると、パチパチというまばらな拍手が会場に響いた。
ここは七福ビル大会議室。最大で50人は入れるこの部屋に、今いるのは10人ピッタリ。俺、海老名、布袋、福路、大黒さんの5人と、弁護士の永石さん、海老名ロボティクスから海老名の親父、慈嶋AIから社長の慈嶋さん、喜多方エネルギーシステムから社長の喜多方さんと、秘書で妻の喜多方さんの5人。
「最初に、代表の七福よりご挨拶がございます」
海老名にマイクを渡され、席を立つ。
「ご紹介いただきました、代表の七福仁です。七福ホールディングスの社長と、七福エンターテイメントの社長を兼任しております」
あれ、これ以上何言えばいいの? 海老名をチラッと見ると、やつは俺の状況を察したようで手早く次のプログラムへと進行してくれた。頭が良くて助かるぜ。
「ありがとうございます。では続きまして、海老名ロボティクス社長、海老名
海老名の親父がゆっくりと立ち上がる。
「ご紹介にあずかりました、海老名ロボティクス社長の海老名寿彦です。本日は七福グループの説明会ということで、ぜひ詳しくお話をお聞かせいただければと存じます。よろしくお願いします」
海老名の親父は浅黒く日焼けした肌に、黒々とした髭を生やした筋肉ムキムキの身長2mのおっさんだ。デカすぎる。小学生の時デカすぎて壁が居るのかと思ったし、強制的に肩車されて高すぎて泣いたこともある。頭が上がらない人物だ。
「続きまして、慈嶋AI社長、
「慈嶋AI社長の慈嶋です……。七福グループにいち早く貢献できるよう、死に物狂いで頑張ります……」
慈嶋さんは自分たちと変わらないくらいの年齢の女性だ。キレイ系の女性なのだと思うが、それ以上に非常に不健康そうだった。クマがすごく、髪もどこかパサついている。見た目に無頓着というわけではなく、体からあふれ出る疲労感が彼女を曇らせているみたいな感じだ。
「ありがとうございます。続けて、喜多方エネルギーシステム社長の
「ご紹介いただきました多聞です。海老名君に研究開発費について聞かせてほしくて今日は来ましアイタッァ」
「弊社社長が申し訳ありません」
猫背で天パ頭の多聞さんとキッチリとした委員長気質の朱鷺さんの喜多方夫婦だ。
多聞さんは確か海老名の大学の先輩で、当時から天才だと話題になっていた人物だという。本人はそのまま研究を続けたかったみたいだが、家業を継ぐことになり断念。今は自社で研究開発を続けているらしい。何の研究してるんだこの人。
朱鷺さんは真面目が服着て歩いているって感じの女性だ。背筋は常に直線だし、ブレない。化粧っけは無いが、可愛い系の顔つきだと思う。険しい表情なのでちょっと怖い。多聞さんはどうやってこの人と結婚したんだ。っていうか彼女ってどうやって作るんだ。教えてほしい。
「最後に、弁護士の
「永石です。本日はよろしくお願いします」
大黒さんの紹介で今日来てもらった永石さんは、にこやかな顔とよく通る声をした初老の男性で、ふくよかな見た目をしていた。大黒さんの知り合いって話だけど、趣味仲間とかなのかな。ゴルフとかやってそう。
「では、皆様のご紹介が終わりましたので、続けて七福グループの就業条件のご説明をさせていただきます」
ゴルフかぁ、ゴルフもなんか金持ちの趣味っぽくていいよな。ヤーっ! とか言うんだよな確か。あとはパワーっ3とか打数で面をクリアしてくんだっけ。なんとなく聞きかじった知識がある。やったことないし、物は試しでやってみてもいいかも。ゴルフコンペとか言う親睦会もあるって聞くよね。何するかわからないけど楽しそうかも。
俺がぼんやりと思考を巡らせている間に海老名が説明を終えたようで、質疑応答の時間になっていた。
最初に海老名の親父が質問する。口から雷でも吐きそうな勢いだ。
「グループ基準で人件費を設定するとそれだけで会社がつぶれるように思えるが、赤字分はどうカバーする?」
「赤字分は問題ありません。グループ内の別部門でカバーします。また、我々の試算ではこの人件費のままでも数年で黒字化が可能であると出ています」
「試算だと? 何を元にそんなことが言える?」
「海老名ロボティクスの製造力と、慈嶋AIの制御力、喜多方エネルギーシステムの技術力を総合的に見た結果、三企業が協力体制になれば問題は無いという試算です」
海老名が自分の親父に牙をむきながらそう宣言した。海老名の親父は口角が耳まで裂けそうなほどの笑顔で海老名と向き合っている。まるで肉に食いつくライオンみたいだ。怖えよこの人やっぱり。
「フン、一先ずはわかった、ウチからは以上」
「フン、ありがとうございます。では続けて、慈嶋様」
へんにゃりとして手を挙げた慈嶋さんが混乱した様子で言葉を発する。
「ええっと、勤怠の、フレックス制月120時間というのはどういう……?」
「年間休日130日で、一日あたり六時間の就業を想定しております。平日日数×六時間が月の就業時間となりますので、120時間は目安です。また、残業時間と相殺して休暇も可能です。基本的には九時出社、十六時退社になります」
「は、はぁ……それでは、業務が回らないのでは……」
「業務が過多にならないよう、設備投資と人材登用でカバーいたします」
「なるほど? なるほど……」
首をかしげながら慈嶋さんの質問は終わったようだった。AI開発って大変そうだし、人足らないのかな。海老名が見つけてきた会社なんだし大丈夫だとは思うけど、サポートが必要そうならできるだけ助けに入ったほうがいいかもしれない。俺が助けになるって言ったら金しかないんだけど。
自分の能力の低さにちょっとへこんでいると、次は多聞さんが手を挙げていた。
「設備投資の話なんですが、研究開発費含めていくらまで投資していただけますか?」
「いくら必要な想定でいますか?」
海老名が聞き返すと、多聞さんはうーんと少し考えて、十億円と言った。朱鷺さんがそんな多聞さんを小突き、訂正の言葉を出す前に俺は言った。
「問題ありません。必要ならいくらでも言ってください」
「ホント!? じゃあ必要になったら言います!」
朱鷺さんに結局引っ叩かれた多聞さんを横目に、永石さんが質問する。
「手厚い就業条件ですが、人員の整理などは今後、実施予定ですか?」
その言葉に三人の社長が固まり、少し険しい表情でこちらを見る。
俺に目配せをする海老名に小さく頷いた。
「その予定はありません」
キリっとした表情でそう言うと、フッと力が抜けたような空気感があった。
「それでは、質疑応答を終了いたします。この後は、食事会の予定ですので、ぜひご参加ください」
飯の場で、俺と海老名と布袋はテンションがぶちあがっていた海老名の親父からヘッドロックを食らい、泡を吹いて気絶したのだった。
いやなんで立派に育って……、みたいなセリフの後に来るのがヘッドロックなんだよ。怖えよ海老名の親父。体育会系すぎる。
ムキムキの大胸筋に脳を圧迫されながら、せめて同じことを女性にしてもらえたら天国だったかもしれないと思った。