いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
四月一日。これはワタヌキと言っただけ。4月1日。今日は七福グループ結成当日。
顔合わせ直後から各企業は設備投資でガンガン大忙しで、今もなお忙しそうではあるが、正式な発足ということで今回はわざわざ全員集まってもらった。親睦会という名の飲み会だ。今日はホテルも確保してあるので明日も含めてゆっくりしてほしい。ホテル確保っていうかホテル貸し切りだった。
総勢300人ちょっとが一堂に会して、その前で緊張しながらなんか話したけど校長先生の気分だった。あんなにみんなの前に立って話すのは、そりゃあちょっと長話したくなるかもと少し思った。
相変わらず三国志の武将みたいな海老名ロボティクスの人たちに絡まれつつ、各企業に挨拶に行くだけでめちゃくちゃ大変だった。そのせいでほとんど飯食えてない。
大盛り上がりの発足記念パーティーも終わり、七福グループは回り始めた。
買収先企業の連携や、新規受注開拓など大忙しみたいだが、基本そちらは海老名と福路が頑張って回している。また、その他にもいくつかの企業を新しく買収する動きを取っているみたいだ。
こいつらちゃんと休んでるのか? 心配して聞いてみたが、前職よりよっぽど楽だと言っていて、勤労に果ては無いのだと深淵に飲まれた気分になった。
俺はというと、相変わらず投資部門でなんとなく投資をしながら、七福エンターテイメントの方を頑張っていた。
「やっぱりPVある方がいいなこれ」
「ええ~? でもやっぱりそこより曲自体を楽しんでほしいっていうか~」
布袋がなんかしゃらくせえことを言ってきたので無視して話をする。
「俺は海老名と言い争って、結果だけ見ると俺の大勝利だったが、海老名の言うことにも一理あると思ったんだよな」
「ひょ?」
「つまりはコストの話だ。海老名たちの方は数年くらいで黒字化のめどが立っているらしい。
七福エンターテイメントはどうなんだ? 布袋、俺はお前がミュージシャンになれると信じているが、ここ数日お前は仕事しているのか?」
「な、なにおう! 俺も頑張って今インプットしている時期なんだ!」
ぽよっと下腹を揺らしながら布袋がそう言った。ポテチとコーラをキメながら映画をダラダラと日中から見ていた男は正月太り続けていたのだった。
「まずは痩せろ! 俺と一緒にトレーニングだ!」
「ピギィ! あ、あんまりだぁ……」
ブーブーと文句を言う布袋に宣言した。
「なお、これで改善しないようなら、海老名ロボティクスブートキャンプに行ってもらうことになる」
「さあ走ろうぜ七福!」
ということで、布袋をビシバシとしながら、今後のことを考える。
マジでミュージシャンってどうやったらなれるんだ? なんかでかい会場とかでコンサートやったらミュージシャンなのかな。ミュージシャンだからでかい会場でコンサート出来るのか。
うーん、考えても分からない……。ミュージシャンの生い立ちみたいなのを参考にしてみよう。
そんな感じで最近話題の人たちを調べると、なんか最近はバズることで知名度を上げて、レーベルと契約することでプロになるとのこと。レーベル?
レーベルについて調べてみてからよく考えると、布袋の今の状態はインディーズレーベルに所属している状態、と言っていいんじゃないのか? 七福エンターテイメント所属ってことはそう言うことになるんだと思う。うちはレーベルと言っていいのかどうかわからないけど、どっかに所属してたらインディーズってことでいいんじゃないか。つまりこいつは今、ミュージシャンと言っても過言ではない状態なのだ。
あれ、じゃあでかい会場でコンサートしてもいいんじゃね?
そう思って汗だくの布袋に提案したら拒否された。
「なんで?」
「ゼヒー、ヒー、バカ、お前。お前バカ。フヒー、今の状態で、チケット売ったってって誰が、買うってんだよバカ、フー」
「そうだな、ライブの前に痩せないと……」
「ちげーよ、そういうことじゃない」
息が整った布袋が俺にこんこんと説明する。
「じゃあ何だってんだ。要するに知名度が足りないってか」
「そうなる」
「お前がコツコツと路上ライブで積み上げたファンはどうなんだ?」
「都内のいろんな場所で路上はやってたけど、いまいち実態がわからん。よく見るなって人はいるけど」
「そういうのってSNSのフォロワーとかでわかるんじゃないの?」
「いや、なんかSNSとか何やるかわからなくてやってないんだよね」
俺は倒れている布袋の顔に薄いタオルを乗せ、その上から水をぶちまけた。
「ぶぼごばぁっ! し、死ぬわ! シャレになってない!」
「お前の現状認識の甘さがシャレになってねぇーんだよ!」
俺は聞きかじった知識でこんこんと布袋に説明をした。
最近はバズった方がいいっぽい。そもそも動画サイトの動線もSNSを使わないと厳しい。っていうかもう近頃なんかほとんどバズらなきゃ注目もしてもらえない。そのうえで継続的にバズったり、そのたびに固定客を捕まえる必要がある。
「わかったかぁっ! この原始人!」
「そんなん言うならお前もSNSやれやぁ!」
「いや俺は別にミュージシャンじゃないし……」
「じゃあ会社のSNS担当! 決まり! 俺だけやりたくない!」
ゴネる布袋に押し切られて、俺は七福エンターテイメントSNS担当となってしまった。
「なんだ、このつぶやくとか言うのは何をしたらいいのだ……」
「りぷら……? ふぁぼ……? この機能はいったい……?」
原始人二人でウホウホとスマホを片手に脳を悩ますのだった……。
そんなこんなで、四月から心機一転し、布袋のバズ計画作戦がスタートした。
そしてゴールデンウィークが終わることには頓挫してしまっていた。
「フォロワーとか言うの、全然増えないな……」
俺の方はなんとなく作った企業アカウントなのでどうでもいいが、メインの布袋のアカウントが増えないのが不思議でならない。
「やっぱりまずは見てもらうのが一番なんじゃない?」
経営会議で海老名がそう言っていた。
「ってなるとPV……?」
「七福はPVにこだわりがあるけど、どんなの撮りたいの?」
布袋が作曲しながら聞いてきた。
「そりゃあれじゃない? プールみたいなところで飛んだり跳ねたりして水しぶきまき散らしながら演奏するとか、水上の五芒星のステージで歌うとか……」
「発想が平成」
「じゃあ何がいいってんだよ」
文句を言うと、布袋がふふんと笑いながら動画を見せてきた。
「やはり最近の流行はアニメーションでござる」
ニンニンとそう言う布袋とは裏腹に、俺はなるほどと納得した。
そうだ、簡単なことだったんだ。
「そもそもなんでど素人の俺が頭を悩ませなきゃいけないんだ。プロに任せようプロに」
「ん?」
「アニメ会社に布袋の曲を送り付けて、がっちり合うアニメPVを作ってもらおう」
そう思って、海老名に言ったところ。
「ああ、そろそろそういうの欲しいなって福路と話がついて、ちょうど今日、制作会社に依頼出しておいたぞ」
「とんでもねえ男と同じ会社にいるぜ俺ら」
「ね」
「あとお前らが作りたいのはPVじゃなくてMVなんじゃねーのか?」
( ・ω・)( ・ω・)( ・ω・)
「え? なんだって?」
「いや、俺も混乱してるんだけど、四分弱の曲のアニメMVを、1億円でっていう依頼が入った」
社長兼営業の
そんな会社に1億円? きな臭い。
「スケジュールとクオリティの指定は?」
「スケジュールは半年目安で応相談。クオリティは予算が許す限りでって……」
「なんだそりゃ? フリーハンドで1億円の案件? どこの金持ちがそんな発注したんだ」
北上はつい口からそんな言葉が出た。
「七福エンターテイメントってところ」
「聞いたことねえな……」
「去年にできたばかりだって。所属してるミュージシャンのMVを作ってほしいって」
「あれか? Vtuberってやつか? でもあれも今やだいぶレッドオーシャンじゃないか?」
「依頼内容的には、曲に合うような内容のショートアニメを作る感じだ。世界観とかキャラクターとかも全部お任せらしい。制限っていう制限はグロとかそういうのは無しでってくらいだ」
ますますわからん。
横で話を聞いていた
「北上サン、いいンじゃねーっスか? きっと、スゲエ気前がいいエンジェルクライアントなんスよ」
「うーん、大型案件だし、受けないって手は無いのはその通りか……」
「とりあえず、その曲ってのを聞いてみません?」
ということで、無言ながらこちらをちらちらと見てきていた
「いい曲だな……」
「歌もウマいっス」
「こ、これは……!」
「……」
パッションのある良い曲だった。これにアニメーションをつけるなら……と脳で考えていることに気が付き、苦笑した。作りたくなっちまってる。
「桐生社長、もう一度確認するが、クライアントの作品に対する要求は、曲に合うようなアニメーションってだけなんだな?」
「ああその通りだ。懸念事項として、期間が半年だって話だから、スケジュール的には問題は無いが、怖いのはリテイクって言われること。緩い条件だからこそ、思ったのと違うって言われると厳しい」
そこは確かに怖いな。だが、今までやってきた下請け業務よりやりがいがありそうだ。
「そんなの言わせないくらいのやつを作ってやろうぜ」
北上が覚悟を決めて笑うと、合わせるように全員がこぶしを突き上げた。
七福エンターテイメントの、布袋の名が世間に知れ渡るまであと半年……。