いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
宝くじが当たって暇を持て余していた時間はあんなに過ぎるのが遅かったのに、海老名を雇ったあたりから本当に時間が過ぎるのが早い。
七福グループを正式に発足したのがつい先日のように思えてしまう。それくらい大忙しだ。
投資は相変わらず適当にやってたらどんどん増えていくし、俺の知らないところで海老名と福路が大活躍して買収したりなんかいろいろやっている。
つい先日にはアニメ会社が傘下に加わり、この間の七福製造部も併せるとグループ全体で2000人を超えるようになった。一気に増え過ぎじゃない?
「今年度もどんどん買収を進めていくからもっと増えるぞ。業界的にも話題になってきてるみたいだしな」
「話題って? うちそんな話題になるようなことあった?」
海老名がパソコンをカタカタしながらそう言うので聞いてみると、共有チャットに外部サイトのリンクが貼られた。
「なんだって、えーっと、『四風動画は業界に新しい風を吹かせるのか』……? ここってこの間買収したところだよな?」
サイトの記事を読むと、なんでもアニメ業界の待遇とは思えないほどの高待遇を提示しており、一時は就職希望者で会社の回線がパンクしたとかしなかったとか言う話まであったらしい。
「なんだこの、業界慣習の破壊だの賃金相場の崩壊だの、早々に潰れることになるだのと言いたい放題の記事は」
「メディアにいちいちキレてても仕方ないだろ。それに、早々に潰れる“かも”って付いてるだろ?」
「いや断定してないからってオッケーとはならんだろ」
「永石さんに確認したけどこれくらいじゃ損害賠償とか取れないみたいだよ」
こっちはちゃんと税金納めてるのに国のインフラが足りてないんじゃないのか?
見ず知らずの誰かに批判されたことにムカムカしつつも、記事のコメント欄まで見に行くと、おおむね好評ということが分かった。
『俺の会社もこうならいいのに……』
『この高待遇を受けるだけの能力のある人しか採用してないんだろう』
『アニメーターで!? こんな職場ありえるのかよ』
多くの人は働きたくて働いてるわけじゃないだろうしな。生きるために働いてるんだから、労働時間短くて給料がいい仕事があったらうらやましいだろう。
「営業部の活動はわかった。それで、次の議題は?」
七福経営会議も大体いつも通りの発表が終わり、あとはなんか重大発表があると仄めかされていた議題が残った。
「二つある。一つは、去年話していた
「おお、おめでとう。あれすごいよね。まさかあのロボットアームが格ゲーできるほど賢いとは思わなかった」
「推奨用途以外の使用をするな……。量産に先駆けて、海老名ロボティクス新工場の設立を提案したい」
海老名が資料を表示すると、海老名ロボティクスの近所にある広大な空き地を丸々工場にしようという計画のようだ。
「今年着工? 俺詳しくないけどなんかいろんな許可とか必要なんじゃないのこういうの」
「もともと工場の増設計画自体は数年前から計画があり、資金がネックで止まってたんだ。申請や調整はもう終わってる。それと工事のために建設会社を買収するぞ」
いつも通りギラギラした目でそう言ったので、全部海老名の好きにしたらいいよと許可を出した。
「よし。それじゃあ進めていくぞ。
次に、喜多方エネルギーシステムから報告がある」
促すと、Web参加していた喜多方社長が発言をした。
「喜多方多聞です。かねてより研究開発を続けておりました、大容量小型バッテリーの開発に成功いたしました。福路君、資料の表示をお願いします」
映し出された資料を見ると、専門的ななんかの素材の名称だとか難しい理系っぽいことがたくさん書いてあり、読者の気持ちを考えろよと思ったが訳知り顔でなんとなく頷いていると、スライドが非常に簡単な内容になった。
「ええ、簡単に申し上げますと、このバッテリーは既存の同じサイズのバッテリーの20倍の容量があります。さらに、素材調達が容易な素材で作られている上に、充電が早いです」
「超スゲー。俺のスマホもずっと充電しなくて済む?」
「さすがにそこまで小型化するのは今後の課題です」
布袋の発言に真面目に答える喜多方さん。できないって言わないあたり、実現可能性があるのか。携帯ゲーム機に搭載できるくらいの小型化まで頑張ってほしい。
「補足しておくと、このバッテリーはEV車などに積載するように売り込む予定だ。世界的に売り込み、成功した場合にウチの製造規模では需要を満足できないと見込まれるので、パテント形式になる」
「喜多方さんが納得してるならそれでいいんじゃない?」
「製造までやるとなると研究の時間が減るからいやで~す」
マイク越しに朱鷺さんが喜多方さんを引っ叩く音が聞こえ、喜多方さんは謝罪後、言い直した。
「えぇ~、弊社の事業規模では需要分の製造は困難を極めるので、営業部の提案に賛成いたします」
「ちなみに、研究開発は順調ですか?」
なんとなく気になったので聞いてみると、ぺらぺらと喜多方さんが話し出す。
「七福君! 君のおかげでねえ! サクサクすすんでるよお! バッテリーが作り終わったんで次は研究途中だった核融合炉の実証機の製造をしているところなんだよねえ!」
「核融合炉って作っていいの?」
俺が疑問を口にすると、永石さんが答えてくれる。
「喜多方さん個人のツテで、数年前に国家機関から製造依頼を受けているそうです」
「大学時代の友達がオッケーだって~」
国がいいって言うんならそうなのかも。
ということで、今回は解散になった。
( ・ω・)( ・ω・)( ・ω・)
海老名が日本企業向けの合同コンペティション開催を知ったのは、ちょうどロボットアームの開発完了後すぐだった。
内容に目を通すと、海外企業も多数参加する大きめのもので、協賛金を払えば参加は容易だった。
海老名ロボティクス世界進出計画の第一歩が、こんなに近くに転がっていたのかと自分の幸運に感謝をし、その日のうちに参加を申請した。
そして開催日から数週間前に喜多方エネルギーシステムの小型大容量バッテリーの開発完了が知らされ、さらなる幸運に笑みが収まらなかった。
喜多方先輩はやはり天才だ。喜多方エネルギーシステムという資金が潤沢でない中でもなんとか理論だけは進めてきていたのだろう。七福の資金注入により、理論から実証まで一気に進んだのはそのためだ。
設備の工事などで実際に動けた期間は短期間だが、それでもこれほどの発明がされたのだ。今後の活躍を想像するだけでも恐ろしい。
海老名は自分の手に世界に通じる武器があるという自覚があった。
であれば、あとは自分の腕次第だ。幸いにも頼れる仲間がいる。
それに、失敗したところで七福は大したこと言わないというのも大きい。せいぜい、海老名も失敗するんだな、とか適当なことを言う程度だろう。
だからこそ思い切り動ける。博打のような行動も存分にとれる。
世界に覇を唱えんと、海老名は突き進むのだ。
そんなハキハキとした海老名とは裏腹に、ジメジメとした空気感で高揚している人たちもいた。慈嶋AIである。
「うふふ、最高だわ……、最高の発明だわ……」
慈嶋姫子が何枚ものモニターに埋め尽くされたデスクに向かって、キーボードを光速のタイピングで打ち込み続けていた。
「あのバッテリーがあれば、ついに夢の第一歩が……」
「夢だけど夢じゃなかった……」
「くくく……巨大ロボット……」
複数人が並行して設計図の書き込みを続けている。中には新しく採用された人員もいたが、彼らも無事に慈嶋AIの社風に染まってしまったようで、じっとりとした視線でPCに向かっていた。
「とはいえ、まずは中の人が必要よね……」
「であれば、こちらを」
慈嶋姫子のつぶやきを聞いてシュバッと共有を飛ばす社員が数名居り、ササっと確認をする。
「そうね……どれにしようかしら……」
悩んでいても仕方ないと思い、七福グループ経営共有チャットに次回開発品についてという質問を飛ばす。
すると、社長の七福仁からレスが付いた。
七福仁:全部並行して実施することは可能ですか?
慈嶋姫子:弊社に問題はございません
しかし、一つに絞るよりコストがかかりますがよろしいのですか?
七福仁:コストはかかっても問題ありません
一応海老名に確認してください
海老名寿男:問題なし
稟議書を上げといてください
七福仁:では、そういうことで
「神……」
職場環境が神過ぎる。
慈嶋姫子は人類の友人になれるロボットを作りたい。そのためにいつだって立ちふさがるものがたくさんあった。一番大きな問題ははお金。次には、ハードウェア。
ソフトウェアたるAIを作り上げることができるが、ロボットの体、ハードウェアを作ることは門外漢だった。
だがそれも、海老名ロボティクスをはじめとした七福製造部に依頼を投げれば形にしてもらえるだけではなく、喜多方エネルギーシステムによって稼働時間さえ解決した。
「核融合炉をエネルギー源とした永続稼働するロボを作るのよ……」
「アンドロイドと結婚……」
「イケメン執事ロボ獣人……」
「くくく、合体機構……」
新しいオフィスはおしゃれでキラキラしているはずなのに、どこかじっとりとしている慈嶋AIは今日も十六時の定時になると残業したい気持ちを抑えて退勤するのだった。